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Imitation/L∞P  作者: ヴィラノ・エンヴィオ
幼少期編
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1-6

2021/05/30 加筆修正いたしました。大幅に内容に変更が入っており、現在次の話と繋がっておりません。お気を付けください。

フレイとスカジとロキに、ブルーバイオレットの髪の弟ができた。名前はトール。アリアの予測通り、トール神の加護持ちが生まれたのだ。


フレイは、この先もきっと、ロキのあの顔を忘れることはないだろう――あの、アリアが戻ってきて、弟が生まれたと言った後の。


『母子ともに、健康です』


トールの誕生を喜んでいたらしいロキの動きが止まって、声も無く泣いていたのを。アリアが何か言って抱き上げて漸く、大声を上げて泣き出したのを。


母親が死ぬことを予感でもしていたような、あの表情を、きっとフレイは、忘れない。



メルヴァーチ侯爵家。スクルドの実家であり、水と氷の魔術を扱うのが得意な家系である。現当主はスクルドの弟であるゼオン・メルヴァーチという。

アーノルドが出張から戻って来て最初の一言は「スクルド、ありがとう」だったのだが、加護持ちとわかって、「またか!」と言っていたのが印象的であった。自分は加護を持っていないのに子供たちが加護持ちしかいないのが不安なのだろう。


さて、連続で出張に出かけまくっていた原因は長期休暇をもぎ取る為だったらしいアーノルドだが、今回は妻の実家へ行くとあって、入念な準備を行っている。2歳になったロキはアーノルドから帝国土産に可愛らしいペンダントを貰った。古物屋で買ったらしいが、アンティークの小さなネックレスだ。安物だと分かっていたが、御守りの効果がついていたから、というアーノルドに、ちょっと嬉しかったロキである。


スクルドがトールに掛かりきりになっている間、フレイがロキの面倒を見ていた。フレイが読んでいる本をロキが覗き込んできたのが始まりだったのだが、それ以来フレイはロキと一緒に本を読むのが日課になっている。ロキ曰く、普通の子供も本を読めると思っていそうで怖いと。後々実際にロキがこのフレイの認識を正す羽目になるのだが、今はそんなことは露知らず、兄妹で本を楽しんでいた。


メルヴァーチ家の領地は王都から見て南東にあり、本来ならば熱帯に近い気候をしている緯度に存在するのだが――アヴリオスにおいては気候を決定付けるものは緯度やら自転やら回帰線やら気流やら気圧やらといったモノだけではなく、マナの属性が関係する。空気中の一部の属性マナの含有量によって気温の上下が起きるのだ。具体的に言うと、火属性のマナが多いと暑くなり、水属性や氷属性のマナが多いと寒くなる。水属性のマナは湿度には関係しない。そしてメルヴァーチ領は氷のマナが多く、寒い土地である。


トールが生まれてはや1ヶ月、猛暑というか夏ど真ん中の七の月。避暑地としてもよく選ばれるメルヴァーチ領へと、フォンブラウ一家は出発した。


父親が長く自分たちと過ごしてくれることが珍しいせいか、フレイとスカジはアーノルドと同じ馬車に乗りたがったし、メティスはプルトスがやたらロキを嫌っていることを理由に、プルトスともに邸宅に残ることを決めた。


馬車は全部で2つあり、1つにアーノルドとスクルド、スクルド付きの侍女サシャ、フレイ、スカジ、ロキ、トールの7人が乗る。かなり大型の馬車だが、いざとなったらアーノルドは外に出て戦わなければならないから、といって窓際に陣取っていた。もう1つの馬車はメルヴァーチ家への土産物を乗せている。


ロキはサシャに抱えられている。騒ぐフレイとスカジを落ち着けるために抱き上げる羽目になったアーノルドと、トールをしっかり抱きかかえてそんなアーノルドを見て笑っているスクルド、この姿を見ているだけで、アーノルドが子供慣れしていないのが丸分かりだ。だからと言って無暗に怒鳴ることも無いのが、アーノルドの寛容さを表しているようだと、ロキは思う。


「転移陣に乗ります」

「ああ」


窓の外から騎士の声がした。リガルディア王国の王都は特殊な造りをしているため、転移魔法陣での移動が必須となる。ロキは、フォンブラウ家の屋敷から何故遠くの景色が見えるのか不思議に思っていたのだが――その理由は、転移陣を抜けて振り返ったら分かった。


「サシャ、ロキちゃんに王都を見せてあげて」

「畏まりました」


ロキが落ちないようにしっかり掴んで、サシャがロキに王都が見えるように持ち直す。ロキは王都を見上げてぽかん、と動きを止めた。


「ロキちゃん、王都はどう?」


ちょん、とロキの頬をつついてみる。【念話(テル)】でロキに呼びかけてやると、ロキは興奮した様子でスクルドに聞き返してきた。


(あの山のような塔が王都なのですか!?)

「そうよ、あの巨大な塔が王都」

(バベルの塔かよ……)


ロキの言葉は尤もである。山をそのまま都市にしましたと言わんばかりの巨大な塔状の都市が、馬車の背後にそびえ立っていた。


「……ロキ、王都は王城を頂点として、貴族街、商人街、平民街、貧困街に階層が分かれている。我々が住んでいるのは貴族街だ」


アーノルドの言葉にロキが首をアーノルドへ向ける。王都の構造についての情報をくれた、と理解したロキは改めて王都を見上げる。地上何百メートル、では済みそうにないのがなんとも言えないところである。それともこの辺りは海抜マイナス地点なのだろうか。


「王都は平民街の一部と貧困街が地下にございます。正確には、外輪、今ロキ様たちのおわすこの場所よりも低い位置に存在しています」


サシャの言葉にどうやら視界に収まり切れていない地下があることを悟ったロキは、少しブルった。いや、リガルディアの王都デカすぎるだろう、と。ゲームの中でガントルヴァ帝国の帝都が水の都と言われるほど平面的で水に近しい都市であったことを考えると、とんでもない山岳都市である。


すげえ、と思いつつもサシャがそっとロキを下ろしてくれたタイミングでフレイがロキに構いたがり始め、アーノルドがサシャに眠たそうなスカジをパスしてロキを受け取った。


この時までは、特におかしいことはなかったように、ロキは思う。フレイに撫で回されてロキは疲れたけれども、アーノルドが時々撫でてくれるものだから、それだけで嬉しくなるという不思議な感覚を覚えながらの旅路だった。


今回の旅程に、ロキ付きの侍女アリアは付いてこなかった。正確には、本邸の守りが手薄になるのもよろしくないということで、戦闘ができるアリアが残されたというのが理由としては大きい。ガルーも残ってはいるが、リウムベルはスクルドとスカジとロキのためについてきているし、フォンブラウ家が保有する私営騎士団である獄炎騎士団も半数ほどを旅程の警護に回していた。


「……少し騒がしいな」

「そうね」

「少し見てくる」

「お願いね、アーノルド。今回予知はないみたい」

「分かった」


アーノルドの言葉にスクルドが返す。フレイがロキを抱えてアーノルドを見上げた。アーノルドはフレイの頭を軽く撫でて、馬車から出て行く。そのまま警護についている騎士たちの輪に加わったようだ。


長時間の念話はよくないと既に念話が切れていたロキは、詳しいことをスクルドに聞くことはできなかったのだが、何となく、周りの騎士たちがピリピリしていることだけは感じ取って、フレイに抱き着いた。フレイはロキが不安がっていると分かったのか、「だいじょうぶだ。父上なら何とかしてくれる」と返してロキを抱きしめ直し、背中を軽く叩いてやっていた。



メルヴァーチへの旅程は3日間の予定だった。割とゆっくり移動したとしても、転移陣を何度か利用するため、そこまで長時間の移動にはならない。割と無口なサシャにスクルドが話題を振ることはなく、寧ろ2人とも馬車の外の事に気を配ってばかり。スカジがいつの間にやら眠ったことだけが救いかもしれない。


宿で、ずっと見られている気がする、というスクルドの言葉をロキは聴いた。しかしスクルドもアーノルドもロキに念話を繋いできてくれることも無く、ロキも、2人が忙しいならばと特に主張もしなかった。


そして、3日目、メルヴァーチ領まであと少しというところで、それはやってきた。


「ブラッドサイスです!」

「耐熱系の魔物か。舐めたことをしてくれる!」

「ブラッドサイスは1体です! 赤目!」

「術者を探せ!」


馬車の外が騒がしくなっていた。ロキは馬車での移動が予想以上に疲れとして溜まっていたらしく眠っていたようだ。騎士たちの声で跳び起きた。緊迫した表情のサシャと、目を細めて窓の外を鋭く睨んでいるスクルド、窓から遠ざけられてぶすくれているスカジ、スカジの手を握って不安そうな目を窓の外に向けているフレイ。ロキは、自分たちが置かれた状況が予想以上にヤバいことに気付いた。


「行け!」

「御武運を!」


アーノルドと御者の声がして、馬車がいきなり速度を上げた。ガタンッと大きく車体は揺れ、ガツガツガツガツ、とすさまじい音を鳴らしながら何かが追いかけてくる気配がし始める。ロキは何となく状況を理解して、「……ぴえん」と呟いた。


「どうやら、魔物に襲われているみたいよ、ロキちゃん」

「あぅあーぁぅ!」


どうすんのさ!

ロキは珍しく念話を使ってくれないままのスクルドを見やった。


ここまで読んでいただきありがとうございます。

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