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Imitation/L∞P  作者: ヴィラノ・エンヴィオ
初等部編
47/377

2-10

2022/01/11 加筆修正しました。

2023/03/14 加筆修正しました。

「――まあ、簡潔にまとめてしまえば、ロキ様の魔力回路は一旦竜人に焼き払ってもらう以外に絡まりを解く方法がなかったってことです」


シドはフォンブラウに仕える従者であると自己紹介をして、デスカルに投げられた役割をこなすべく、ロキの現状と打開策を伝える。事情説明を受けたソルたちは絶句した。


「八方塞がりが過ぎる」

「同意します」


ロキの置かれている状況は、晶獄病を治さなければならないが、その為には浮草病をどうにかしなければならず、浮草病を治すには上位竜の力を借りるほかないといったところ。ロキの抱えている障害をどうにかするために成長を待ち、漸く実行に移せるかどうかといった微妙なラインのところ、上位竜バルフレトが動いた。


ソルはシドに質問をぶつける。


「ねえ、さっきの碇って何?」

「今ロキ様とゼロが向かってる場所は、オルガント――上位世界と他の世界の狭間です。そこからもう一度もと居た世界に戻ってくるためには、今のロキ様の魔力量じゃ足りないんで、(アンカー)目印(マーカー)が必要なんですよ。戻ってくるための場所の固定ですね」


とりあえず初等部で習うような魔法でないのは分かった。魔術なわけはないだろう。そもそも人間以外が魔術を使うのは確認されていない。どれだけ人間に理解を示す精霊や上位者であったとしても、使えるのは魔法だ。基本的には構成及び威力や使用魔力量で大体の基準が決められている魔法と魔術の区分だが、魔法で魂に干渉するとなれば、干渉される側の魂の保有する魔力量がそれなりの量が無ければ消し飛ぶであろうことは自明。


「ロキが戻ってくるために必要だったのが、血統的に近めの子……」

「ついでに仲良しだとなおよい、ってギリギリで整った条件を使うんだな……」

「しくじったらロキ様は半精霊になります」


死んでしまうわけではありませんが。そう言ってシドは息を吐き出した。既にシドともゼロとも顔を合わせていたカル、ロゼ、ヴァルノス、ソルはシドに詰め寄る。


「いくらなんでもロキ様大変過ぎない?」

「それは俺も思ってます」

「上位竜が動くことは皆知っていたのか?」

「知ってたらこんな動きにはなってませんね。バルフレトが先に動いちゃった感じです」

「アーノルド閣下への伝達は?」

「風精霊が動いてます」

「私たちに何かできないの?」

「怒りの目印を目立たせることはできます。皆さんの魔力をお借りしますよ」


そもそも何でこんなことになったんだよ、のレインの一言で、シドはロキたちがレインに詳細な事情を打ち明けていないことを知った。身近な人ほど守りたがるロキの性格を、恐らくシドはここにいる誰よりよく理解していた。


「ループの事ロキ様から聞いてませんか?」

「詳細は聞いて無いからな」

「嘘だろぉぉ……」


あの面倒な話をどこからどう伝えたものかと悩むシドに、カルが一喝する。


「お前が知っている範囲でいい、教えろ。ガキだと思って侮るなよ、半精霊!」


事情を齧っている、だけなら、本当はきっともっと知りたかったのだ。ロキを守るための方策は周りが講じないと、ロキは自分の事は放置するから。

カルがちゃんとシドは金目であると理解していたことに気付いたシドがにやりと笑った。


「啖呵切ったな王子サマ? 今回は良い性格してんじゃん」


シドが僅かながらカルに恨み言の類をぶつけたことにロゼが目を見張る。ロゼの認識よりも、実はもっとヤバい事実がそこにあったのではないかという不安が過った。


「ループって、何度も同じようなこと繰り返すアレ?」

「ええ、まさしく! 俺はまだ2回目っスけど、ロキ様なんてもう……何百回も、それ以上やってます」


レインの問いにシドが答える。レインはヒュッと空気を喉に詰まらせたような音を立てた。レインの認識以上の何かがあったらしい。瞑目した後顔を上げてソルが口を開いた。


「あんたがそれを知っている理由は?」

「その説明は面倒なんで、簡潔に言うとパラレルワールドを一度全部観測してから転生してます! っつったら伝わる?」

「私は分かった」

「僕はわからない」


後で詳しく説明します、とシドは言いつつ、レインの周りに魔法陣を書いていく。シドにとって今大事なのは自分の事情とロキの事情を正確に理解させることではなく、とりあえずロキがすごいことになっていることが伝わればいいようだ。ロゼをちらと見てから視線を魔法陣に戻す。


「シド、そのループって、もしかして乙女ゲーム含んでる?」

「ばっちり含んでますよ。あ、安心してください。バカタレなのはそこのオウジサマだけなんで」

「どういう意味だ!」


要するに乙女ゲーム仕様で頭が良いはずのオウジサマが婚約者をほっぽってヒロインに恋するとかそういう意味であろうことが予測されたので、そのことをロゼがカルに伝えるとカルが膝から崩れ落ちた。


「なん、なんなんだそれは! その俺は馬鹿なのか!? リガルディア王国で王家が結婚しても国内の貴族のバランスが崩れない貴族なんて公爵家しかないのに!」

「恋は人を変えると言いますわ」

「ゲームプレイヤーとしては素敵だと思うけど、貴族としてはそんな王家ついていきたくないわー」

「ソル、はっきり言いすぎ」


生まれが男爵家であるが故か、はたまた特殊な土地であるためか――ソル・セーリスの言葉がやたらとカルに突き刺さったのは、後の彼曰く、良い釘だったとのことである。


「ちなみにその時のロキ様は女」

「ロキが殿下の婚約者になってるのか」

「正解です」


レインが理解したように呟けば、シドが肯定した。


「こわ……それアーノルド卿に俺が殺されるだけでは??」

「いんや、俺が知ってる限り、今回が一番旦那様はロキ様のこと可愛がってますよ」

「まあ、あのアーノルド閣下がいてロキが国外追放とか娼館送りとかギロチンとか頸晒しとか、絶対ないわよね」

「ジークフリート陛下もロキのこと気に入ってらっしゃいますのに、今世でそんなことできるはずもありませんわね」


カルがはたと顔を上げる。シドがレインを目印として術式を組み終わったらしく、淡くレインの足元の魔法陣が光り始めた。


「……まさか、俺が見ている夢って、その先なのか?」

「夢ですか」

「ああ、可能性はありますわね」


カルはロゼに夢の話をしたらしく、ロゼから肯定が返ってきた。内容を聞きたがったソルやレインに対して、戦場の夢を見ること、自分を庇って立つ2人の男女の話をする。


「へー。カル殿下を庇う男女ねえ……」

「男の方は、たぶん190近いと思う。女性の方も、170くらいはあるんじゃなかろうか」

「根拠は?」

「俺の目線が180ぐらいのところにあった」

「何でそれが分かるのかいまいち不明だけど?」

「そりゃ、たぶんループの影響ですよ。俺以外の皆は基本的にα世界線からβ世界線に移るんじゃなくて、全員β世界線の人間で、何百何千何万回とループしてるんです」

「ちょっと経験が残ってる感じ?」

「そうですね。世界丸ごとリレ〇ズ的な」

「「「うわぁ」」」


正しく事態を理解した転生令嬢たちがひきつった表情になった。あとできちんと聞かねばならないと悟ったカルに対し、レインが小声で言った。


「殿下、実は自分も戦場の夢を見ます。ただ、自分は自分を庇って亡くなる人をひどく愛おしく思っているのです。夢の中だと殿下に啖呵を切ったこともございます」

「よし、今度是非その話を聞こうじゃないか」


案外近くに同士がいたものだと思いながら、カルはシドに今後のロキのことを問う。


「この後ロキはどうなる?」

「たぶん、魔力回路が全部焼き払われて赤ん坊も同然の状態ですね。ロキ様の魔力回路は閉鎖型に育つんで、魔力回路が勝手に伸び始める前に、魔力回路をある程度先に引いてやって、回路を通して使う魔力の扱い方を教えて、魔力を扱えるようにしてやって、魔術を使えるようにします」

「そこで初めてロキはスタートラインに立つのね」

「はい」


ソルの言葉をシドは肯定した。

ロキはそれまで守られなければならなかったのだろう。そしてこれからも、もう少しだけ、守られる。


今までが、守られていてくれる期間が、ロキは短すぎた。


シドのその呟きを拾ったカルが目を見開いた。


「まさか」

「夢のことは、気にしなさんな。ロキは守られることに慣れてないだけっス。守ることには慣れてるけど」


シドの言葉を聞いて、金目ってやっぱりいろいろ知ってるのかな、などと、カルは思う。


「おーい、無事かい!?」


レイヴンの声がした。

ソルたちは廊下の方を見る。


「レイヴン先生!」

「やあ、無事そうだね。……その半精霊は?」

「ロキ様の従者、シドと申します」

「……なぜここに」


レイヴンの目が細められる。


「極焔竜バルフレトがロキ様に接触しました。破壊神サッタレッカが介入。柱にゼロ・クラッフォン、碇としてメタリカの俺を、目印としてレイン・メルヴァーチを指定しました」

「……わかった。君たちはここから動かなくていい。ロキ君をよろしくね」


精霊魔法を専門としているレイヴンは、シドの言葉だけで事情を大体理解したのか、踵を返した。


「先生、精霊魔法使うよね。皆メタリカってだけで通じるの?」

「メタリカってのは土属性の中でも金属、鉱物を表す精霊だ。バルフレトは神様に近いし、ゼロってやつは特殊な家だし」

「イミットだものね」

「つかお前らってイミットって通じるのか?」

「おう」


この騒動が終わったらすぐ俺は戻るから、とシドは言って目を閉じた。これ以上この場での説明は期待できそうにない。ソルたちは小さく嘆息した。


ここまで読んでいただきありがとうございます。

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