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Imitation/L∞P  作者: ヴィラノ・エンヴィオ
初等部編
44/375

2-7

2021/12/01 加筆修正しました。

2023/03/03 加筆修正しました。

2024/08/23 誤字修正しました。

「では、魔術訓練を始めます」

「「「よろしくお願いします」」」


地球で言うところの5時間目にあたる時間で、ロキたちは第2訓練場に来ていた。

第2訓練場はそこそこの広さのある場所であり、魔術防御壁と魔力障壁の組み込まれた、一番安全と言われている訓練場である。もともと訓練場は魔力障壁を複数枚展開することで外部、内部両方からの攻撃に対応しているもので、初等部と中等部が合同で使用している。高等部は別で所有しているため初等部生と高等部生が訓練場で会うことはまずない。


「今日の訓練内容は何ですか?」

「はい、今日はロキ君が作り出した魔力結晶を砕いてもらいます」

「今度はどの先生ですか」

「ヘンドラ教授です」


割った魔力結晶をサンプルとして教員に渡す許可をアーノルドからもぎ取ったのはレイヴンだった。今回はヘンドラという教員の手に渡るらしい。

中等部、高等部の教授だよと説明を受けると1組の面々は首を傾げる。大体、ロキが作った魔力結晶ってなんだ。レインはロキを見やる。詳細は聞いていないらしい。ロキはそういえばレインの前で魔力結晶を出したことは無かったと思い返した。


「俺が魔力結晶を出すから、割って俺のところまで来てくれ」

「そんなことでいいの?」

「そんなこととか言ってると後悔するぞ」


ロキがクスッと笑い、手の平に魔力結晶を生成する。タンザナイトのような結晶が浮いていた。


「こんな感じで結晶を生成して、これで皆を攻撃する。上手く避けるようにしてくれ。俺の周りにも沢山結晶ができるから、それを割って、俺に触ったら、皆の勝ち。触れられずにいられれば俺の勝ち。俺は(キング)、敵の首級を挙げよ!」

「何か勝ち負けに関係するの?」

「菓子が貰える」


レイヴンが菓子を準備するのを手伝っているアビゲイルが見える。ロキはじゃあね、と言って皆から離れていった。


「え、と、つまり?」

「ロキ君をつかまえたらぼくらがお菓子をもらって、つかまえられなかったらロキ君がお菓子をもらうんだ」


1組の生徒たちは理解しきれなかったらしく2組の生徒たちに尋ね直している。2組の生徒たちは何度も答えて1組と認識を合わせた。


「とりあえず、フォンブラウの作った結晶を割ればいいんだよね?」

「うん」

「おれたちには魔力結晶飛ばしてくるからなあいつ」

「実戦じゃん」


まだ1組は実戦なんてほとんどしていないのはアビゲイルの性格からわかっているので、レイヴンも無理強いはしていないのだが、アビゲイル曰く、どうせやるんだったら実戦を見せた方がいいとのことである。精霊学専門のレイヴンよりは、魔術学専門のアビゲイルの方が教える内容を選ぶのは上手いだろうと考えて、そのまま敢行した。


「実戦はまだやったことないよ!」

「やって見せるから」

「よーし、はじめるぞー」


カルの掛け声で2組の生徒たちが構える。1組の生徒たちも倣って構え始めた。ロキがこちらを見やって、手をすっと掲げ、パチン、と指を鳴らす。ロキの周辺にタンザナイト色の結晶が浮かび始める。ロキの身体から薄ら伸びる魔力の糸に、魔力を視認できる生徒たちは目を見張った。ロキの身体を包むように、ロキの足元を中心にクリスタル状に伸びていく結晶に見惚れる生徒たちをソルが叱責する。


「ほら、早くしないと! 時間経つとロキの結晶大きくなるから」


ソルは丈の長いスカートを履いていたが、そのまま全力疾走でロキに向かっていった。ロゼとヴァルノスは近くに生えてきた結晶を拳で叩き割る。ロキはどうやら足元を結晶で覆う気でいるらしい。


「もう始まってるぞー」

「えっこれどうしたら……!?」

「うわ足の裏痛い」

「うわっ」


足元が魔力結晶で持ち上がったらしく背中から結晶に倒れ込む子供も出て来た。ロキは魔術を使っているわけではないのにこれだけ翻弄されることにレインは驚いた。


「レイン」

「レオン」


1組所属の公爵令息――レオンがレインに声を掛けてきた。


「魔力結晶は一応物理で破壊できるらしいけれど、魔力を帯びてるから熱かったり冷たかったりするみたいだ」

「そのうち魔術を使わなきゃいけなくなりそうだね」

「どうもそうらしい」


レインとレオンがロキを見据える。奥ではセトがロキの周りの結晶を叩き割り、青緑の髪の少年が足元に生えてきた大きめの結晶を手折っていた。


「慣れていると判断されると魔力結晶を飛ばしてくるようになりますから、お気を付けて!」

「ご忠告ありがとう」


ロゼの言葉にレオンが返すと、ロゼが手に魔力を集め始めた。ロゼの魔力量は少ないので、放つよりも纏った方が効率が良い。レインはそれを見て両手足に魔力を纏わせた。


弾き飛ばされてきたのか、ソルがレインの横に降り立つ。


「ロキは私たちの魔力の流れを感知はできるけど視認はできないんです。下手な小細工が得意なくせにその長所を自分で潰してるの」

「な、ん……!?」


レインは驚いた。レインが知っている情報よりロキの状況ヤバくないか? と思ったのは恐らくレインの間違いではないのだ。


「だからこれは治すまでの時間稼ぎです。あのバカの近くに大精霊クラスのが2体いるでしょ」


レインはソルの指先を追う。ソルが示したところには、黒髪の少女と、若草色の髪の女性が舞い踊っていた。かなり強力な精霊だ。ソルたちには見えている精霊が、ロキには見えない。それはロキを馬鹿にする生徒が出てくるのと同時に、ロキに精霊が見えていたらどうなっていたのかという想像を掻き立てる材料でもある。


「ああ……闇精霊と風精霊か」

「あの子たち。ロキは視認できないだけで感知してるみたい。こないだ無意識にだろうけど闇精霊の魔法を借りてたから」


ソルは簡潔にロキの現状を話す。と、ソルを囲むように青い魔力結晶が出現した。


「あらやだ」


ソルは一気に前方に加速した。追ってくる青い結晶を振り切る。

直後、ソルを追うように結晶から氷が伸びた。


「!?」

「流石ロキの魔力ね!」


属性の性質を纏ったマナは属性を表す事象へと変化する。

左右に結晶を振り切るように走るソルを見ながら、レインも後を追う様に走り出した。ソルとやることは同じだ。ロキの結晶を割る。進む。恐らく、ロゼが先ほど言ったように、慣れていると思ったら直接結晶をぶつけてくるくらいのことはするのだろう。レインは知っている、少なくともロキは、言われっぱなしでいられるほど大人しい性格ではない。


現に今。


「うぉ!」

「あっつ!!」


「きゃあ!」

「冷たっ」


一度目の攻撃は割とロキの近くまで到達できたと思しき1組の生徒たちにロキが魔力結晶をぶつけていた。魔力結晶として固めたものから漏れ出る程度で属性をはっきり感じられるのは珍しい。その内魔力結晶と氷に閉じ込められる生徒が出て来た。


「うわああああ!?」

「閉じ込められても死んだりしねえよ、ほっとけ!」

「内側の方が硬いから待ってろ! 攻撃すんなよ!」


体温が下がるので氷は早急に割らねばならないとレイヴンから教えられている2組の生徒たちは、火属性を扱える生徒たちが率先して氷を割り始める。閉じ込められた側も、大人しく待っていると下手をすれば体温が奪われかねないので打開策を探らねばならないのだが、閉じ込められたことでパニックになって、それどころではなくなっていた。


2組の生徒たちはタンザナイトカラーの結晶を足場にして避けるなどの対処を行っており、氷に捕まった生徒はいなかった。


粉々に砕かれた魔力結晶はまだキラキラと煌いており、レインは魔力で氷の粒を作り出し、ダミーとして混ぜる。ロキと目が合った。気付かれたのは分かった。


ロキの魔力はひどく澄んでいる。透明な氷のようで、ヒビひとつ無い、内包物(インクルージョン)も無い水晶のようで。


(――こんなやつが、悪人なわけがないんだ)


漠然とそう思った。


セトとカルがソルと同じようにロキの周りで結晶を砕いている。白金の髪の生徒がたまに結晶に触れると割れるのではなく結晶そのものが崩壊しているので、魔力の解体を行っているのであろう。名前は確か、バルドルといったか。青緑の髪の生徒と黄緑の髪の生徒は魔力結晶を砕いて退けてを繰り返している。


砕いても砕いても生えてくるロキの魔力結晶を見て、レインはだんだん気分が悪くなってきた。どれだけ魔力量があったらこんなことになるのか。レインも訓練の一環で何度か魔力が空っぽになるまで結晶を作ったことがあるが、大体魔力量が多いといわれる侯爵家生まれのレインでも自分の身体のサイズの10倍が限界だった。


(――こんな化け物が苦しむ、晶獄病)


レインは想像した。どれほど苦しいのだろうか。

母たちがロキを案じるのは仕方がないことではなかったのか。浮草病も持っていると聞く。


しかし特に晶獄病は病例も少なくないが対応は難しい。生まれてこの方形成され続けてきた魔力回路をどうやって短くすればいいというのだろうか。


「おらあッ!!」


セトが黒い魔力――闇属性の魔力で腕を強化し、風の魔力と混ぜて石をボロボロのさざれに変えていく。


「どう、だッ」

「――」


ロキの姿はすっかり結晶に覆われていたが、セトがぶち抜いた部分だけぽっかりと開いて、ロキの姿が見えた。


「まだ粗い」

「ぐおぁっ!」


赤い魔石が炎を発し、セトの鳩尾付近にまともに入る。衝撃を受けたセトが吹き飛んだ。直後に躍り出たカルが右手の人差し指をロキに向け、親指は上を向けて構える。光属性の魔力を集束させ、撃ち出したが、ロキの真横を掠めただけだった。


「惜しい」

「チッ」


王子殿下、舌打ちするのはどうなのと言いたくもなるが、仕方がない。

カルの魔力は光。髪の色が分かりやすいというのはその辺も読まれやすいということになる。ロキはカルの視線と指先からどのあたりに飛んで来るかを読んで身体をずらしたのだろう。


「くそ、いつもより壁の数が多い!」

「1組の止まってるやつら邪魔!!」

「私たち1組の子たちの結晶破壊してくるね!」

「頼む!」


子供たちの大声が飛び交って、クラス内で別れて作業することに決まった。ソルとセト、カル、ロゼ、レインが攻撃に回る。他の生徒の大半が1組の生徒を救助に向かった。1組の生徒にはまだ早かったかもしれない。


レインが踏み込み、脚部に魔力を集中する。ロキの周囲を覆う結晶をスタンピングで破砕すると、すぐ横に驚いた表情のロキの顔があった。


「相談や愚痴のひとつでもあってよかったと、僕は思うけどな」

「……解決しないじゃんか」

「子供にできることなんてたかが知れてるから、ね!」


脚部の魔力を解除し、肩から腕部全体の強化を行う。レインとロキの間に結晶が聳え立つ。レインはそのまま肩から結晶にぶつかった。


「硬い!」

「お前には結晶飛ばしても良さそうだな」


反動で身体が浮いたレインを囲むように赤い魔石と青い魔力結晶が配される。ロキが指をパチンと鳴らすと、レインに向かって結晶が飛んできた。


「うっ!」

「メルヴァーチ様、下がって!」


ソルの鋭い声が飛んで来る。レインは足元に氷を作り出してそれを蹴り、大きく飛び退いた。


「【ファイアバレット】!」

「【ファイアボール】!」

「【ウィンドエッジ】!」


声の主たちは詠唱を終わらせていたのだろう、魔術をロキに向かって撃ち始めている。レインの横を掠めて飛んで行った魔術は、それぞれソル、ロゼ、セトが放ったものらしかった。結晶に中てる分にはロキは全く避けないので、ソルたちも魔術で結晶を割ることに決めたらしい。レインもそれに倣うことにする。


「虚空を割くは凍てつく刃、軟きを刻み、硬きを砕け。【フロストエッジ】」


透明な氷が結晶に中ると、結晶が砕けた。


結晶から脱出できた生徒たちも魔力をぶつけたり学びたての魔術でロキの結晶を削っていく。大半の生徒が魔力結晶を削る方に回ったためか、ロキの周りの結晶がどんどん剝がれていった。


「――もう少しだ!」


カルの声に一層魔術がロキに注がれる。最後の結晶が割れて、ロキのガードが無くなった。


「よしっ!!」

「あと一発!」


2組の生徒が踏み込もうとする。ここまで削り切ったのは珍しいと、レインは後で聞いた。

ロキが、にぃ、と笑みを深める。次の瞬間、ズン、と空気が一気に重たくなった。背筋を冷たい汗が流れる。数人の令嬢が気絶した。


「え……何?」


悪寒に襲われたのはレインだけではなかった。ソルが冷や汗をかいている。ロゼは膝を着いている。レインは周囲を見渡して、魔力量が現状既に多い生徒だけが立っているような気がした。


ロキの周囲に結晶が再び出現する。ロキは自然と漏出する魔力を結晶に変えていただけだったことにレインは気付いた。


「いつもより調子良さそうだなロキのやつ」

「ああ、だが、かなり既に魔力を持って行かれているぞ」

「令嬢たち下げて、レオン前出れるか」

「お、俺既に膝笑ってるんだけどっ……!」


ロキの魔力放出がこれまでとは思っていなかった。カルもセトも経験済みのようで平然としているのが恨めしい。ソルとロゼは何とか近くまでやってきた。


「伯爵家以上の魔力の器が無いと難しそうだわ」

「ロゼもソル嬢も腰が抜けたか」

「ロキ絶対狙って氷の魔力発してるでしょあれ! 氷苦手な子が多いの分かっててやってるわ絶対!」


ロゼもソルも口を利く元気はまだあるようだ。レインはそういえば何だか周辺気温が下がったなと、今更ながらに思う。ロキの母親であるスクルドの出身はメルヴァーチ侯爵家であり、メルヴァーチは氷を得意とする家柄だ。しかもロキに加護を与えているロキ神は霜の巨人であり、ロキが氷を得意としていることは想定されるべきだった。


「でも流石に、気温が一気に下がりすぎています。これはちょっと、」


レインが話しているのが聞こえたのか、レイヴンとアビゲイルが近付いてきた。吐く息が白い。


「カル殿下、ちょっとロキ君の調子が良すぎるので、私たちが出ても?」

「レイヴン先生、アビゲイル先生」


カルは素直に頷いた。手を挙げてロキに合図を送る。


「ロキ! 俺たちの負けだ! レイヴン先生に替わるぞ!」

「わかりましたー」


ロキからの返答にカルは小さく頷くと、火属性の生徒を中心にグループを作るように指示を出す。下がった体温を上げるために白湯の準備も必要だろう。


「……では、ロキ君の魔力結晶の割り方を、アビゲイル先生にもお伝えしておきますね」

「私もやらなきゃいけませんか……? どう見ても加護持ち特有の魔力が器から漏れてる状態だと思うのですが」

「いえ、ロキ君は器に制限がかかっています。久しぶりのフォンブラウの宝玉ですから、大事に大事にしないと」

「特殊個体ですか……」


やれやれとアビゲイルは杖を構える。レイヴンは小さく息を吸って、両腕に魔力を纏わせた。


「魔力結晶を破壊すればいいんですよね?」

「はい。ただ、ロキ君は今日は調子が良いので、もう少し魔力を発散しないと拙いでしょうね。生成した結晶を片っ端から割ります。あとはロキ君自身に、魔力結晶を魔晶石にまで精製してもらう方法がありますが……」

「精製は時間がかかるので発散には向きませんね。分かりました」


アビゲイルは杖とは逆の手に小さな金槌を持つ。

レイヴンが魔力を腕や脚に纏わせた。これは彼の得意な魔力の活用法である。レイヴン、彼はそこまで魔力量が多くない。

平民出身なのだから当然だが。


「左半分は私がやりますので、右半分をお願いします」

「分かりました」


レイヴンはゆっくりと歩き出し、ロキに声を掛ける。


「ロキ君、私とアビゲイル先生が叩き割ります。中心に居て」

「はい」


レイヴンは肩に魔力を集中させる。彼はそこまで体格がいいわけでもないし、魔力が高いわけでもない。だから、肩でぶつかる。レインがやったのと、同じ原理。


「闇の精よ、我が身に砕けぬ強靭さを! 【魔力障壁(マギカ・フラクタル)】」


黒と紫の靄がレイヴンを包み、肩の部分に肩当状のモノが出現する。それでもって、レイヴンはロキの魔力結晶を横から粉砕した。砕け散った結晶がガチャガチャと重たい音を響かせながら床に落ちていく。反対側を小さな金槌で掘削していくアビゲイルの姿が見えた。


生徒たちは少し遠くに離れているが、その周りを包まんとするように結晶が形成されつつある。それはちゃんと壊さなければ、皆が危ない。


「さ、ロキ君」

「はい」


レイヴンはロキが魔力を魔力結晶としてその周辺に転がしていくのを見ていた。生徒たちの方に結晶が形成されていることに気付いたのはその後で、あれ壊さなきゃな、と呟く。ロキが小さく、俺がやります、と呟くように言った。


「――砕けろ」


ロキの瞳が一瞬翠に輝いた。



レイン・メルヴァーチはロキ・フォンブラウの同い年の従兄弟である。2歳の時が初対面だったらしいが、生憎とほとんど覚えていない。ただ何となく、レインはロキの事が気に入らないと感じることがあった。ロキに嫌がらせの類を仕掛けたことはほとんどないが、ロキに何かあるとレインの父・ゼオンはフォンブラウに出向いていた。転移門を設置しているとはいえしょっちゅう父親を取られるのは面白くなかったことは覚えている。


姉と弟はほとんど気にした様子がなかった。レインは次の侯爵になる予定なので、ゼオンから直接仕事の手ほどきを受けている。だからこそ、ゼオンから優しくされているロキの事が羨ましかったのかもしれない。


ロキが戻って来て、アビゲイルの魔術で生徒たちが暖められている間、ロキはレインの横に腰を下ろしていた。その瞳が薄っすら翠がかったラズベリルになっていることに気付いて、ああなるほどな、と、レインは思った。


(――やっぱりフォンブラウの子)


フォンブラウの色。

そう云われる色は確かに、存在する。


ロキは指先で魔晶石の生成を始めているが、その表情は少し暗い。どこからどう見ても皆に迷惑をかけたので気にしている表情にしか見えないが、気にしていないと取り繕う気だろうか。レインはロキが気にしいであることにもう気付いている。


レインはロキの背中を擦ってやる。多分、今一番フォローが必要なのは、ロキだ。


「ロキ」

「レイン?」


ロキがレインに向けた視線は、レインを甘味屋やカフェに引き摺って行くいつもの強さはなかった。


「……抱えすぎるなよ?」

「……大丈夫だ」


少しそっけない返事。表情に出ていたことを悟ったロキは表情を繕ってしまった。

ほらな、やっぱりだ。


父ゼオンも、分かっていたからレインよりもロキを優先していたのだと思った。やっぱり両親がレインの事よりも甥であるはずのロキを気にしていたのは、ただ事ではなかったんだ。


転生者だけが罹る病、浮草病。晶獄病も大変だが命に直接かかわりやすいのは浮草病の方だ。転生者が前世の記憶を引き摺って新しい今世に定着していないことで引き起こされる病。

原因が、本人だけの所為な訳はない。育つ環境の影響も多大にあるはずだった。


きっとゼオンは、そこをどうにかしようとしたのだ。レインたちを置き去りにしてまで。本当の意味で置き去りになっていたのはレインだけのようだけれども。


「……父上は頑張ってた。僕には何も言ってくれなかったけれど、お前のためだったんだろ」

「……ゼオン叔父上には本当にお世話になっているよ。浮草病の治療にあたったことがあるんだって。父上はあまり家に居ないから、母上と、プルトス兄上、フレイ兄上と、スカジ姉上と、使用人の皆への指導役で来てくださっていたんだ」


――お前がそれ言うのかよ。


怒りを、感じた気がした。


けれどロキは苦笑を浮かべていた。怒ってなど居ない。今、なんて言ったんだ? 何かを飲み込んだような?


――……ゼオン叔父上には、俺よりレインたちとの時間を大切にしてくださいと言ったんだが。


「そっか。それならそうと言って欲しかったかも」

「そこはゼオン叔父上なりの考えがあっての事だと思う」


――ふざけんなよ! 僕から父上との時間を奪っておいて何様のつもりだよ!!


幻視、幻聴。レインはそれらを無視した。ロキが飲んだ言葉を暴く必要を感じないからだ。


「……なら、いいかな。それよりロキ、お前思ったより危なっかしいね?」

「そうか?」

「僕の仕事が増える」

「フレイ兄上じゃなくて俺に付く気か?」

「少なくとも卒業まではね」


代わりにレインは、自分が感じたロキの欲しがっているものを、自分の手から上げることにする。あげられるものでよかったとも思う。


「ロキはもっとロキ神の加護のメリットも考えていいと思う。悪い所ばっかり見てるじゃない」

「そうかもな」


転生者の特徴の1つだ。持っている知識に引きずられ、足が着かないまま。


「しょーがないな」

「よろしくな」

「よろしくしてやるよ」


本当は、頼らせなかったのはレインなのだろう。

ロキに個人的な感情をぶつける機会をうかがうばかりで、ロキが絡んでくるたびにそれを受け取りながらロキが時折零す前世の話題に食いついていたのはレインだ。本当はもっとちゃんとロキに向き合わなければいけなかったのに。


言いくるめてしまおう。

巻き込む道を決断しておきながら肝心な部分には皆を立ち入らせようとしないらしいこの不器用の鑑を蔵から引きずり出してしまおう。


「子供の内は人に頼りまくっていいと思うよ」

「……自分で自分の首を絞めているとは、分かっちゃいるんだがな」

「案外、そういう変な癖みたいなものを抜くために病気にされてたりして」

「……ありそうだな」


笑ってやればロキはそうかもしれない、と言ってふわりと微笑んだ。


ああ、なんだ。

そんな表情、できるんだな。


人間離れしたいとこの柔らかい部分を――人間味を感じた気がしたレインだった。



ソル「ロキの微笑みを見た……だと」

レイン「そんなにおかしいのか?」

ソル「希少すぎてやばい」

カル「お、俺はまだなのに、くそ、いとこなんてアドバンテージのせいか!」

ロキ・レイン「「いやむしろ距離離れすぎてて詰めるの容易かっただけでは」」


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