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Imitation/L∞P  作者: ヴィラノ・エンヴィオ
初等部編
42/376

2-5

まただいぶ話が変わっております。


2021/11/09 加筆修正しました。

レイン・メルヴァーチ。青い髪とサファイアの瞳を持つ少年である。

メルヴァーチ侯爵家は、リガルディア王都から見て南東に位置する領地を治め、武力と氷魔術に秀でる名家だ。


「レイン」

「……」


授業が終わり、レインは帰る支度を終えて席を立ったところだった。レインは1組であるから、隣の教室は2組だ。2組側の出入り口から、見知った銀髪がのぞいていた。


「どうしたんだよ、ロキ」

「もう体調は平気なのか」

「そんなヤワに見える?」

「いや」

「そういうことだよ」


1組の生徒たちが驚いている。1組のレイン・メルヴァーチと2組のロキ・フォンブラウは仲が悪いともっぱらの噂だったからだ。


「え、あの2人って仲いいの?」

「嫌い合ってるって話では??」

「???」


嫌い合っていたら体調の心配をしたりはしないだろうという勝手な考えからくるものではあるが、理解できないらしい者が何名も見受けられた。ロキもレインも特にそれを気にすることなく、当然のように並んで教室を出ていった。


「……え?」

「どこ行くんだろう!?」

「追っかけてみる?」

「嫌ですわはしたない」


1組は1組で仲が良いようで何よりである。



ロキとレインは従兄弟である。ロキから見れば母方の、レインから見れば父方の。

レインは入学直前に王都に来たこともあって、あまり王都の気候に慣れていないらしく、ロキよりも体調を崩しやすい。ロキはそれに気付いたので、たまにレインの様子を見に来ていた。


1組にはレオン・クローディ公爵令息がいる為、そこまで表面上に出ていないだけで、侯爵家以下の家ではそれぞれ派閥争いのようなものが勃発している。入学後1ヶ月でこれなのだから、今後はもっと激化するだろう。レインはそれを止めたりまとめたりに奔走している、優秀な次期侯爵なのである。


レインは、家でやたらロキの話ばかり聞くため、少々ロキに反感を持っていたようなのだが、ロキがお構いなしにレインに構う様になってほだされたようだ。ロキが袖をまくった時、怪我の跡が大量に残った身体を見てレインは仰天した。ついつついたら、そこから、レインの両親がロキを心配する理由が判明したのと、ロキが理解を得られた手応えを得たためか、甘味屋に連れていかれたことで仲良くなった。


「あんまり無理はするなよ。氷属性ってただでさえ火精霊に弱いんだろ?」

「そうだけどね、無表情で心配するのやめてくれない?」

「無表情はデフォルトですぅー、毒しか吐かんのかおめーは」


軽口を言い合いながら2人はロータリーに向かった。今日は2人でケーキを食べに行こうと話していたのである。レインが保健室に居たのでロキはかなり心配していたが、レインはといえばあまりにクラスメイト達の喧嘩が煩わしくて逃げてきただけだったそうで、頭痛はあったが熱は無く、今は平気とのことだった。


リガルディア王国には、6つの公爵家が存在する。正確には、1つの大公家、5つの公爵家だ。ロキ達の学年は、このうち3つの公爵家の息女が所属している。ロキのフォンブラウ家、ロゼのロッティ家、レオンのクローディ家、それぞれ大きな家ではあるが、公爵階級は基本的に王家に付き従い、家臣として振舞うのが常である。派閥争いの頭に立ってくれるような家ではない。


そのため、基本的に派閥争いは侯爵家以下が行うことになる。侯爵家よりもなまじ権力は公爵家が上なので、公爵の願いを実行するのは侯爵ということになる。侯爵家も7家しかないので、基本はそれぞれの公爵家と大公家、そして王家とそれぞれ後ろ盾が異なる場合が多い。というより、侯爵家はそうやって派閥争いを行っている。


伯爵家になるともう二桁を超える数の家があるので、自分の家に都合の良い公爵を選んで、そのサポートを行っている侯爵家と関係を持っているような状態である。子爵、男爵もこれに倣うが、騎士爵は当代貴族であるため基本的に派閥争いには参加しない。


公爵家は自分たちの立場よりも王家を守ろうとする脳筋の集団と考えた方がいい。その補助的な立ち位置に来るのが侯爵家や伯爵家であり、レインのメルヴァーチ家は侯爵家である。この世代のメルヴァーチは、三女が嫁入りしたフォンブラウの補助に収まっていた。


レインは、今の両親の話を聞いている限りロキの補助に回ることになりそうだった。ロキもフォンブラウの跡取り候補であるため文句はないが、違和感を覚えている。


「……なあ、ロキ」

「ん?」

「お前、フォンブラウ家を継ぐのか?」

「は? 継嗣はフレイ兄上だと決まっているさ。俺は冒険者になりたい」


あっさりと次期公爵という重要なポジションを投げ捨てるロキに、レインは、「やっぱりなあ」と思うのだ。


「うん、ロキは公爵に向かない」

「だろ?」


難しいことは考えたくないし、興味のあるものだけ見ていたいのだ。

やってきた馬車はフォンブラウ家のもので、アンドルフが御者に収まっていた。


「アンドルフ、予定通り行けそうだ」

「承知いたしました。レイン様、体調が悪くなったらすぐに言ってくださいね」

「わかった」


フォンブラウ家の馬車はどう作っているのやら、揺れが非常に少ない。単純に座席を釣るタイプの馬車であるだけなのだが、ロキ的には金属産出の多い所でサスペンション式にできないかなと構想中である。こう、ロキの身体は三半規管が非常に丈夫なのだが、レインは逆に馬車酔いしやすかった。メルヴァーチ家の馬車で酔うのだから馬車になど乗れない。フォンブラウの馬車はレインも酔わないので、ロキと一緒に乗ることが多くなってきた。


向かい合って座らず、同じ側の座席に座って2人はくっついていることが多い。レインがロキの隣で眠ってしまったのが始まりなのだが、それ以来ロキは気に入っているようで、くっついて座るようになった。レインは恥ずかしいようなのだが、ロキはお構いなしである。


「……そういえば、今日」

「ん」

「シスカ家の奴、どうしたんだ」

「あまりに俺に突っかかってくるので、ファウルぎりぎりでボールを奪ってやった」

「お前が悪いんじゃん」

「知ってる」


ロキはくすっと笑った。レインは知っている、ロキはよほどのことが無いとそんな実力行使みたいなことはしない。つまり、ケビン・シスカはロキが実力行使に出たくなる何かをしてしまったということだろう。


「……ほどほどにしろよ」

「わかった」


レインのいうことは案外素直に聞いてくれるロキだった。


ごとごとと音を立てながら馬車が石畳をゆったりとしたペースで走っていく。空が青かった。鳥が飛んでいる。馬車の窓から覗く王都は、白亜の壁に赤い屋根で景観が統一されて美しい。


アンドルフが御者席を降りた音がした。扉が開く。


「ロキ様、レイン様、到着しました」

「わかった」

「ありがとう」

「あまり遅くならないように、お気を付け下さいませ」

「ああ」

「わかってる」


まだ幼い2人だが、馬車での移動にも慣れたものだ。レインが無事に馬車に乗れるようになってよかったとは、ゾラ――レインの母の言葉だったか。


行き先は小綺麗なカフェ、アンドルフの行きつけの店だ。

王都の店巡りをしたいと言ったロキに応えて、獄炎騎士団もメイドたちもアーノルドやスクルドも、行きつけの店や、穴場などをリストアップした。週に1度か2度、どこかへ出かけていることになるが、そこへ至るまでの道のりも楽しいのだとロキは言う。


「ここはミルクティーとフルーツタルトが美味しゅうございます」

「やった」

「じゃあ、行ってくる」


馬車を停めるようなスペースはここにはないが、近くにパーキングが作られているので、ロキとレインが店に入るのを見届けて、アンドルフはパーキングへ向かった。


「……駐車場があるのすごく不思議」

「そうなのか?」

「ああ、俺的にはめちゃくちゃ不思議」


駐車場(パーキング)は正確には馬を休ませたり手入れをしたりできる簡易的な場所が供えられた広場であり、馬車を引いている馬の交代や乗り換えなんかも出来る場所である。元は噴水広場だったと聞くが、水場あるし丁度ええやん、と上流貴族の誰かが自領で似たようなことをやって、王都に逆輸入されてきたものだという。


からんからん、とドアベルが鳴って、マスターらしきすらっと背の高いカイゼル髭の男が現れる。


「いらっしゃいませ」

「2人、窓際の席をお願いします」

「畏まりました」


穴場の1つらしく、あまり客はいない。内装がウォルナットと漆喰の壁でシンプルに仕上げられており、照明も魔石を使ったデザイン性の高いもの、出窓に掛けられたカーテンのレースは繊細に緻密に編みこまれていて美しく、客がいないことで静かな雰囲気とマッチしている。ひっそりと、ゆっくりと、朝からコーヒーを飲みながら、新聞を読む男性でもいれば、良く似合っているのではなかろうか。


「シンプルだな」

「こんないい雰囲気の店があったなんて。素敵だ」

「ありがとうございます」


席に案内してくれたマスターが手書きのメニューを置いて行った。可愛らしくデザインされているページがあるので、奥方か娘かがデザインしたものではなかろうか。マスター本人はシンプルなものを好む性格のような気がした。


「写真みたいな絵だな」

「シャシン?」

「風景とか、目で見えるものを、紙に写したもののことだ。実物を見ているように見えるって意味で使った」

「???」

「わからなくてもいい。絵が上手だって話だからさ」

「なるほど」


つやつやのフルーツが描かれたイラスト、チーズケーキも美味しそうで、アンドルフのおすすめはミルクティーとフルーツタルトだったけれど、どちらも食べてみたくなった。


「俺チーズケーキ頼むから半分こしよう」

「わかった」


アイスティーがメニューにあったので、ロキはこれを頼むことにする。


「マスター、注文良いですか」

「畏まりました」


料理を作っているのはウェイトレスのようだ。少し年齢が高いことから、奥方であろうことが伺える。

マスターにアイスティーとミルクティー、フルーツタルトとチーズケーキを注文して、2人は顔をほころばせながら待っていた。



「んん、美味しい」

「これは、母上に教えたい」


2人で舌鼓を打つ。とてもいい。

見目の良い子供が、ゲストルームを使うことなく、一般客のように普通にテーブルで食べているのが珍しいのか、中間層の平民らしきものたちがロキとレインの方を見ていたが、2人は特に気にすることなくフルーツタルトとチーズケーキを完食した。


「紅茶って、冷えても美味しいんだ」

「透明で綺麗だし、上手く急冷されてるんだな」


レイン、ロキの台詞だが、レインはロキの台詞に首を傾げた。


「急冷しないといけないの?」

「濁るんだとさ。あと、これアールグレイっぽくて好き」

「あーるぐれいってなに」

「前の話」


転生前の話だよとロキが告げれば、レインは少し口を尖らせた。ロキはレインには自分が転生者であることを早々に伝えた。そうしなければならない気がしたからだ。


レインは紅茶が好きなようで、ぽろっとロキがフレーバーティーの名称を零すと反応する。ロキが口走ったアールグレイもそうだが、他にはイングリッシュブレックファストとか、プリンスオブウェールズとか、こう、地球の地名が付いている紅茶にかなり興味を示していた。

耳慣れないからだろう、リガルディアにはイングリッシュもウェールズも無いので。


香りが近いので、恐らく今回アイスティーになっているのは、アールグレイに近いものだとロキは判断した。アールグレイ自体はフレーバーティーなので、マスターのブレンドなのだろう。フォンブラウの茶葉で作ってみるのもいいかもしれないと思いながら、精算を済ませ、2人は外に出た。


待っていたアンドルフと共にパーキングへと向かい、2人はそれぞれの王都邸宅に送り届けられたのだった。


ここまで読んでいただきありがとうございます。

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