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Imitation/L∞P  作者: ヴィラノ・エンヴィオ
セネルティエ王国留学編 2学期
377/377

13-14

Xで更新のお知らせをすることにしました。よろしくお願いします。

シェネスティ公爵家の一室で、アレスは儀式の準備に勤しむ。両親には大まかな状況を伝えており、絶句されたのが記憶に新しい。


『馬鹿野郎、御両親にぐらいは言っとけ!』


今回の協力者となっているメンバーは、夏休み直前から随分と皆精力的に動き回っている。モードレッドの言葉に気圧されて両親に伝えたが、そうでなかったらどちらにせよアテナから伝えられていたのが想像できた。何で言わなかったんだとか言われるよりは、先に自分から伝えた方がやりやすいのも理解できる。


過去に子供だけで勝手に感情精霊と取引をしていたことを知ったシェネスティ公爵の憤然たる表情や、アレスはよく見えなかったが雰囲気で分かった、とても怒っていた。怒れる父を前にしたアテナはアレスよりも委縮していた気がする。しかしそれも長くは続かず、アレス自身が思っていた以上に相当無茶をしていたのだと理解できるくらいには、心配された。


因みに、母親は話の途中で倒れた。貴族女性がショックを受けたときに倒れるのは割とあることだが、アレスは流石に自分の母親が倒れるとは思っておらず、一瞬狼狽えたのは致し方ない。


「……」


漸く納得のいくところまでまとめあがった手順に、これでいいか、と独り言ちる。

かつてやった儀式は随分と、甘いものだった。転生者であるプラムやロキ、ソルは語らなかったが、感情精霊は基本的にあまり人間に友好的とは言えないらしい。何なら願いを叶えるために代償を払うのが当然だという。だが感情精霊、黒陣営だと、願いを叶える代わりに、採れるものを採れるだけ採っていくタイプも存在するという。アレスが願ったのは、神の加護に関するものだった。それを、アレスの軍神の眼だけで済ませてくれたというのは、それなりに相手の感情精霊も情がありそうな気がするのである。


良く視えるはずのアレス神の加護持ちである息子の眼が悪いことを、両親とて疑わなかったわけでは無かったろうに、今の今までアレスとアテナに揺さ振りをかけることもなく養ってくれていたのは、純粋に家族の情によるもの、だったのかもしれない。


セネルティエ王国の学校初等部は、アレスに苦い思い出を残している。


アレス神の加護を持っている、ということで、アレスは小さい頃から加護を上手く扱えるようにという訓練が課されていた。アテナも同じような訓練をやってはいたが、アレスの方が圧倒的に厳しいものだった。


何故か?


単純な話。

アレス神は暴力的な神だと伝わっているからだ。


加護持ちへダウングレードしているとはいえ、神の圧倒的な力を揮われてはたまったものではない。だから、加護持ちに倫理を身につけさせ、力の制御を教え、一般の人類を傷つけないように教育される。軍神の類は特にその傾向が強い。


アレス神の在り様を正しく伝えるのは今や、列強ぐらいなものだろう。

アテナ女神とアレス神は裏表だ。アテナ女神が知略も技量も勝るというなら、アレス神とはいったい何だったのか。


それは、戦場に蔓延る異常なまでの狂乱と恐慌だ。


似たようなことを司っていると言えば、セト神が有名だろう。セト神はあの神の所属するグループの中では戦争関係のものすべてを司っているけれども。戦に全力投球状態のユグドラシル派やドルイド派は軍神とか戦神とか呼ばれる神が多すぎる。


戦における狂気を受け入れている派閥と受け入れていない派閥で、その扱い方が異なるのは想像の範疇だが、アレス神ほど嫌われているのもそう多くはない。


そして、その嫌われている神であるアレス神の加護持ちということで、ほぼ無条件に爪弾きにされたのが、アレス・シェネスティという少年だったわけだ。


ロキの哀れみは、嫌われ者の神の()加護持ち()へ向けられたものだった――。


アレスとアテナは今回プラムとカルをはじめとした協力者を家に呼んでいる。今は応接間に通して待ってもらっている状態だ。



「……まさかシェネスティ公爵家に来ることになるとはな」

「俺まで入れてもらえるなんて、いやぁ、シェネスティ公爵閣下も心が広いですねぇ」


カルとロキは応接間で用意された紅茶を飲んでいた。アレスとアテナが準備を終えるまで、プラムやエドワード、ブライアン、モードレッドたちと待機である。


「今まで、育ててくれたんだ。ロキ神くらい受け入れられるってことだろ……」


アレスの言葉にモードレッドとランスロットが苦笑する。モードレッドもランスロットも人によってはあまりいい顔をされない加護持ちである為だろう。


加護持ちには、人に良いだけの加護と、良いだけでは無い加護とがある。ガウェインやトリスタンなどは、良い面が強調される。リガルディアにいるバルドルなども良い面が語り継がれている加護だ。人に害をなさず、恵みや安寧を齎す加護が良い加護とされていることが多い。


一方、モードレッドもランスロットも、ロキ神も、アレス神も、良い面と悪い面両面がある加護だ。良い面だけの強調されている加護よりはリターンも大きいのだが、何分ハイリスクハイリターンというやつが多いので、リターンよりもリスクの方に注目されてしまっているのが実情だ。


「まぁ、親ですから」

「ロキの親父さんたちも、最初からロキに優しかった?」

「ああ、優しかったよ。とても、良い人たちだ」


ロキは口元に笑みを浮かべた。まるで他人のような口ぶりだが、転生者であるロキには、アーノルドとスクルドには前世の両親という比較対象が存在する。


そう。


本来比べる対象がいないはずの親というある意味絶対的な存在が、絶対ではないのだ。まして、ロキの場合は世界回帰の記憶もところどころ思い出している節がある。親に比較対象がいるというのは親にとっては大きな不利となるのだ。


「……まあ、親も人間……つーか、生き物だしね、完璧な親なんていないと思ってるから余計そう思うのかも」

「あー、ロキってそういや転生者だったな」


かつては大いに隠し通さんとした事実だが、最早今では特に隠す素振りすらなくなってきた。ロキは転生者であることを隠すよりは、公爵家の人間を狙う不届き物をしょっ引いた方が早いと思い始めたので、特に隠さなくなっただけである。リガルディア人が狙ってくるならまだしも、他国の民ではゼロの護衛を突破するのは難しく、ロキ自身も決して弱くはないので、不意打ちでロキを連れ去るにも状態異常も効かないロキをどうこうする方が難しい。


勿論、アーノルドがそれを推し進めているわけではなく、あくまで黙認しているにすぎないが。


閑話休題。


「ま、アレスの加護は割とわかりやすいからね。あれこれと難しいことを考えるよりも、大事にしてる方がリターンも大きそうだし。普通の人なら打算とか関係なく子供育てる気がするけど」

「……そんなもんなのか?」

「そんなもんだよ。じゃなきゃ、子供なんて育ててらんないでしょ。言っちゃあれだけど、小さき命は脆いもの。注意しなきゃいけないことも多くて面倒臭いったらありゃしないよ?」


ロキがこう言いつつも小さい子をよく撫でているのはギャラハッドを撫でるロキを見ているものだから、ランスロットは、ロキの持つ客観的な印象を言っているにすぎない、と判断する。紅茶を飲み干したモードレッドも口を開く。


「ま、結構バカ扱いされるけどな、俺たちの加護ってば結構悪意には敏感なんだぜ?」

「それは……そうだけども」

「親父さん達に悪意を感じてないなら、お前的には大丈夫ってことだろ」

「……」


そういうもんか、と小さくアレスが呟く。そういうもんだ、とロキとランスロットは同調した。


「……んじゃ、この後、付き合ってくれ」

「おう」

「ああ」

「わかった」


何がじゃあなのかはさっぱりわからないが、とりあえずアレスがいよいよマルファスの召喚に挑むらしい。ならばロキ達はそれに協力するだけだ。当初の予定通り。


ロキはウェンティに連絡を入れる。リンクストーンの向こうが騒がしいので、また宴会でもやってるらしい、とロキは呟いていた。


『おっけーロキ君、ハルファスがトレイスに応えたよ! そっちも頑張ってね!!』

「ありがとうウェンティ、トレイス先輩にお礼伝えといて」

『りょうかーい!』


そしてアレスは準備した部屋へ入っていく。合流したアテナと共に。

ロキにできる力添えはここまで。あとは、セネルティエ王国内部の問題なのだから。


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