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Imitation/L∞P  作者: ヴィラノ・エンヴィオ
セネルティエ王国留学編 2学期
376/377

13-13

感情精霊というものは、正確な数は把握されていないが、いくつかのグループ分けが存在している。その中で最も有名なのが、白陣営と黒陣営。その次くらいに有名なのが、ゴエティア学派である。


それ以外にも分け方自体はあるのだが、彼らを7つに分類するグループ分けは、魔大陸に在る国家において、一般的ではない。


アテナはロキの言った言葉の理解よりも先に、ロキがアレスのためにやろうとしていることの理解に努めた方がいいと判断した。プラムも、ロキにはやろうとしていることの説明をあらためて求めることになった。


「……とりあえず、アレスのざっくりした作戦というか、あの5段階フェーズをそれぞれ進行しないといけないのよね?」

「そうだね。まあ、口で言うほど簡単ではないし、アレスからアテナ嬢へ負荷の移し替えをするときには事実上アテナ嬢は動けないんじゃないかな。あとは、アレス自身がどこまで想定してるかによるし」

「ですよね」


プラムはそんなもんだよねと苦笑する。

ロキがやってくれたのはひとまず、アレスが全く考えていなかった部分なのは間違いないので、この後がアレスが考えていた内容に沿うことになるのだ。


「次やるのって?」

「次はマルファスを召喚して交渉だね」

「交渉かぁ」


アレスには厳しそう、とプラムが呟く。アテナは否定できないのか言葉に詰まっていた。


「そこはアテナ嬢がやったら?」

「私がやってもいいのか?」

「アレスよりはマシな結果になると思うけど……俺が間に割って入るより、軍神の加護持ちが進めた方がいいと思うよ」

「……そうか」


アテナは考え込む。ロキは口は回るが、マルファスに対して交渉を優位に状況を持っていくには少し仕込みに動きすぎている、というのがロキ自身の自己評価だった。


「アテナ嬢、マルファスへの対応は任せるよ。プラムも、サポートしてあげて」

「うん、と言いたいけれど、どうしたらいいのか全然わからないよ。マルファスへの対策は、贄をあげないこと?」

「そうだね」


それぐらいの情報しか手に入らなかった、というのが正しい。プラムは途中からマルファスの対策用の資料を集めていたようだ。プラムが集めることができた資料にロキはざっくりと目を通す。


何も捧げてはならない。


マルファスについて注意書きされているのはこれだけだ。

実際のところ、地球では天使や悪魔と呼ばれていたはずの者たちは、感情精霊と呼ばれ、天使が持っていた代償のない特殊環境下で発動する能力と、悪魔が持っていた代償を支払っての莫大な益を齎す能力は、平均的になっているといっていい。天使は代償が必要になった代わりに特殊環境の条件がなくなり、悪魔は代償が軽くなっている。代償を必要としていないタイプの悪魔はより能力の規模が大きくなったり、応用が利く能力に拡張されていたりするのだ。


マルファスは、代償がないタイプ、ではなく、代償を捧げないことが条件付けられているタイプであり、代償を捧げなくてもよいタイプとは別のカテゴリである。代償を捧げなくてもよいタイプは代償を捧げることで一時的に爆発的な力を貸してくれるが、代書を捧げないことが条件付けられているタイプは代償を捧げると能力を使ってくれなくなる。


「……何も捧げないなんて、できる?」

「できるよ。アモンなんかも代償を払わなくても大丈夫なタイプらしいけど、ベリアル曰く、こっちが払う代償じゃない部分で代償を得てるだけだってさ」

「そうなの?」

「うん、だからマルファスもそのタイプなんじゃないかな。あとは、単に代償を払えば何でもしてくれると思うなよ! 俺は他の悪魔と違うぜ! 的な?」

「ぷっ!」


ロキの言い回しにプラムは吹き出してしまう。本当にそうだったとしたら、随分目立ちそうだ。アテナはロキの言い回しに少し呆れた様子だったが、割と思い詰めていたプラムが笑ったのでよしとしたらしかった。



儀式に丁度良い日にちの設定に関して、エドワードとブライアン、マーレがアレスとともに資料を調べてあれこれ調整していたらしい。時間があるのは基本週末になるので、週末で、あまり遠くない日で、アレスとアテナの予定をこじ開けられる日を作る。その日がマルファスの召喚日だ。


アレスとアテナは公爵家の子弟であるばかりか、既に軍に顔を出していることもあり、同じく公爵令息のエドワードよりも忙しい立場にある。エドワードはそれが分かっていたから、公務で引き受けられるものは引き受けることとし、ブライアンに手伝わせながら、アレスの状況と解決に向けて動いていることについて提案書の形で書いた。提案書にした方がいいと言ったのはロキだが、その意図を正確に汲んだのはエドワードだ。


「アレス、調整が終わったよ」

「おう、ありがとうな、エド」

「ん」


やるべきことを終わらせて、しておいた方がいいこともやっておく。実に理想的だ。

エドワードとブライアンの頑張りのおかげで、アレスが対応しなければならない案件も極力出てこないようにした。そもそも対応できませんと先に奏上しておいたので、あとは宰相と国王が何とかするだろう。


子供にできるのはここまでだ。

これでもまだ何かアレスに投げてくるのだとしたら、それはアレスの眼を元に戻したくない何者かの陰謀を疑うレベルである。


「あと必要なものは、と」

「消費アイテムだけだね。でも蜜蝋を指定してあるの、結構いやらしいよね」

「まあ、そうだな」


召喚の為の部屋には魔法陣を描く。東西南北とその間に赤い蝋燭を3本ずつ長さの異なるもの、合計24本。魔法陣に描く五芒星の頂点に白い蜜蝋を1本ずつ、計5本。赤い蝋燭は蜜蝋に赤い色素を混ぜて作るものなので、合計29本の蜜蝋が必要、というわけだ。


必要なアイテム類の書き出しと、資料集めと、やることはたくさんあった。アレスの大まかすぎる指示の内容を聞き出したり詰めたりしたロキ、カル、エドワードはもっと感謝されてもいいかもしれない。あれこれと必要なものを揃えるために走っていったランスロットやガウェインを悪く言うつもりは、プラムたちにもない。皆をちゃんと労わってあげたいな、と口にしたプラムを、優しい人だと言いこそすれ、罵る者は誰もいないだろう。


「……アレス、実際のところ、どうだい、こんなに皆が動いてくれたことについて、感想ある?」

「……」


エドワードの問いにアレスは、これは感想あるかというより感想求められてるな、と察した。普段のアレスならスルーするが、今回は言っておこう、と思うのだ。流石に。言わないのはそれこそ流石に失礼というもの。


「……正直、結構意外に思ってるぜ。こんなに必死になってくれるなんてな」

「……どうしてお前は、そんなに卑屈なんだ……」


エドワードから飛んできたのは、若干の呆れを含んだ言葉だった。アレスは知っている。エドワードはアレスの卑屈を否定し続けることに疲れたのだと。それでも、悪者扱いされる神の加護を持っているのは、肩身が狭いのだ。


ロキみたいに、表向きだけでも堂々と振舞えれば、まだ良いのだけれども。

アレスには、ちょっとそれは難しかった。


「アレス神の加護を忌避する理由がないって、ずっと前に言ったの、もう忘れた?」

「……嫌う理由がないってことが、理解できねーんだって、言ったよな。ないことの証明ができねーから、俺はあるって思ってるしかねえ。少なくともそうすれば、お前らに裏切られても、ブチギレてお前らをぶっ殺すなんてことが起きにくいと思う」

「……」


エドワードは小さく息を吐いた。信じてくれない理由が守るためだとは、とんでもない男だ。ふざけるなと思い続けている。お前のその態度が後々の裏切りの種になることには理解が及ばないのか。エドワードはいろいろと言いたいのを堪えた。


「……この、わからず屋」

「はぁ?」


エドワードはひとまず準備に終始することにする。アレスの怪訝な表情は、相変わらず目が合わない。もうじき、この濁った青い瞳に光が戻る。


エドワードは、プラムでさえも知らない、まだ目が見えていた頃のアレスに思いを馳せた。

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