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Imitation/L∞P  作者: ヴィラノ・エンヴィオ
セネルティエ王国留学編 2学期
373/377

13-10

ちょっと遅くなりました……。

プラムはアレスから渡された報告書に目を通して息を吐いた。自分が知らないところで起きていた、公爵令息と公爵令嬢の精霊との約束事に、今踏み込もうとしている。


「2学期始まったばかりなのに、こんなの」

「……とうとうアレスが腰を上げたようですね」

「アテナ、本当にいいの? 貴女も関わっているんでしょう?」

「はい、けれど、もう加護に振り回されるほど軟弱ではないつもりです」


アレスからの報告書によると、元々シェネスティ公爵家の令息女、つまりアレスとアテナは加護等級が高く、加護に振り回されがちな子供であったのだという。これに関しては、すぐにシェネスティ公爵に確認が取れたのでおかしい所はない。


そして、どうやら、アレスよりもアテナの方が加護に振り回されていたのだという。アテナ女神はそもそも気に入った者とそうでない者の差がかなり激しい女神だ。幼かったアテナはそのギャップを抱えてパンク寸前になっていた。それをアレスが庇った。負荷の肩代わりだという。


その時の傷が、アレスの著しく低下した視力なのだ。軍神の加護持ちは総じて目が良いことが多い。ロキが言うには、ロキの祖父であるテウタテスも、弟であるトールも、戦乙女の加護持ちであるリガルディア王国第2妃ブリュンヒルデも、母スクルドもかなり視力が良い。祖父、母、弟が視力が良いからと言ってロキは特段視力が良いというわけでもないので、軍神の加護によるブーストがかかっていると考えるべきだという。


「じゃあ、アレスの準備が整い次第、アレスの視力の回復のための儀式を行う、ってことでいいわね?」

「はい」


アテナが少し浮かない顔をしたのは、アレスからの報告書にロキの名があったからだろう。また彼に借りを作った、と、アテナの加護はそこを拒絶しているらしかった。


2学期が始まって、およそ3週間が経った。何とかプラムが公務やら学園内の事やらの対応を終えて、ようやく一息吐いたタイミング。ロキへの清算もこれからだというのに、と思わなくはないのだけれど、プラムとしては、正直ロキへの話は後回しにしたいところだ。だって、カルのサポートをしているロキが、悪役令嬢の役を完全に降りれたとは思えないからである。ゲームにおける令嬢ロキは正直まともな事しか言っていないので、悪役令嬢らしくは無いのだ、物言いがきついだけで。


「アレスを焚き付けてもらえただけでも十分すぎるんだけれど、多分ロキはもっと協力してくれると思う」

「どうして――いえ、そうですね、その分我が国が不利になると言えます」

「ロキは、交渉にそこを使ってくることはないわ、多分」

「……良心に付け込んでくる、と」

「そんな言い方しなくても……まあ、でも否定はできないわ」


プラムは自分が感じているロキについての所感をアテナに伝える。アテナは加護の影響で恐らくだがロキを正面から見ることができないのだろう。ロキは恐らくそこも織り込み済みでアテナに接しているのだとプラムは思っている。何となくアテナを弄べるのもなかなか居ないと思っていたので、外国の公爵令息にあっさり弄ばれた事に驚いたものだ。



儀式に丁度良い日程を合わせるのに少々手間取っている間に、2学期最初のテストが終わった。日本の高校みたいなシステム、とは転生者が口を揃えて言うが、成績の上下が分かりやすいのでサロンの部屋分けをテストの結果を基準にしているだけである。短いスパンでは成績の上下があまりないことが多いので、大体1学期の間に振られていたサロンのままの者が圧倒的多数なのだが。


ロキたちもサロンの変動は特になかったが、合宿以来、ナージャがロキとよく話すようになった。ナージャはこのセネルティエ王国の民ではあるが、自分たちの王という位置付けはグレイスタリタスの方だというから、ロキはセネルティエ王家が本当にギリギリの状態だったのだと改めて確認することができた。


「いやあ、アレス様が軍神の眼を取り戻してくだされば、実家に引き籠っちゃってる家族も多少は動きやすくなると思うんです」

「ああ、狂戦士族はアレス神の影響を受けるんだね」

「はい、傭兵や雑兵が多いですからね。アテナ女神のお眼鏡にかなう超理性的な指揮官様なんていないんで」


ナージャは別にアテナ女神を扱き下ろしているのではない。事実を言っているだけだ。雑兵の方が圧倒的に多いから、結果的に扱き下ろしているように聞こえるだけで。


セネルティエ国内の転生者やループを覚えている者というのは、正直教会関係者と学生、一部の大人に限定されているようだ。学生と言えど数は少ない。ならばサロンに呼んじまえ、となるのは必然で。大人は一旦置いておく。


「軍神の眼の取り戻し方って具体的にどうするんですか?」


という至極当然の、ソルから出た疑問に、アレスとアテナは言葉を詰まらせた。


「……正直、魔術師の助けが無いと上手く行く保証がない」

「そもそも生徒(子供)だけでやっていいものなんですかね?」

「そこに関してはむしろ、同世代の者しか術者として入れないから、生徒(子供)だけでやることになるな」


幾つかの制限がある中に、年齢制限があった、とアレスが言う。対象、この場合アレスとアテナだが、2人の年齢から3歳差までが術者として認められる。つまり、12歳から18歳までの術者でなければいけない。そうでなければ、精霊が認めない。


「精霊が認める術者の条件の1つが年齢が近い事が挙がってる。感情精霊だから、当然かもしれないけどな」

「貴様らの友情を試してやろう、ってやつか」


感情精霊というのは地球でいうところの天使とか悪魔と呼ばれるものに相当する上位者たちである。等価交換を謳う契約内容は魅力的だが、その精霊の性格によっては、感情をいいように操られて気が付いたら人格が破綻していたとか、そんな恐ろしい噂も伝わる精霊だ。


「てことは、術者は友達限定か」

「ああ」

「アレス、確認するが、感情精霊の名前は?」

「……俺はあいつの名前を知らない」


ロキは小さく息を吐いた。アレスが今の今まで軍神の眼を後回しにし続けた理由は恐らくこれだとすぐわかったからである。感情精霊はたくさんいる。名前が特定できていないのに呼び出すことなどできるはずもない。


「それでどうやって呼ぶ気だったんだい?」

「俺の前に現れた姿を元に探してはきた。合ってるかどうかはわからない」


アレスはロキに答える。とはいえ、何らかの確信はあるのだろう、とロキは思った。ならばそれに従おう、とロキが笑って言うと、アレスは目を見張って、そして小さく笑みを浮かべた。


「どの柱だ」

「マルファス」

「ほう。ハルファスの可能性は?」

「あり得る。でもマルファスなら真摯に答えてくれるはずだろ?」


アレスは賭けに出た。ロキは笑みを深める。


「そういう博打、嫌いじゃないぜ」

「流石賭け事の神の加護持ちは言う事が違う」


ロキはアレスの言葉に気を悪くすることはなかった。

マルファスなら下手を打って死ぬ、なんてこともあるまい。生贄を欲することが多い感情精霊に、子供が用意できる贄など限られている。直接聞け、などと恐ろしいことをロキがアレスに告げるまであと10分。



ソロモン72柱の魔神、と聞けば、地球からの転生者はある程度反応を示すらしい。実際ロキも反応できるし、ソルも、ヴァルノスも、エリスもハンジも反応できるものではあった。


感情精霊と呼ばれる精霊たちは、実は誕生日の守護精霊として名を連ねている。1日ごとにいるというより、1日の午前と午後に割り当てられており、該当の時間に生誕したものを守護する、ということであるらしい。なので実は探せば同じ誕生日の人間がいるように、同じ守護精霊の者も居るものだ。


感情精霊は誰かだけに肩入れすることは少ないという。ロキにベリアルがひっついているのは案外珍しいことなのかもしれない。


アレスが感情精霊をある程度追えたのは、外見に関する記述が多く残っているためだろう。ロキのベリアルなどは珍しく人型を取っている黒い感情精霊である。感情精霊には白と黒の2つの陣営があることが知られていた。転生者ならおおよそ予想がつくが、言わずもがな白が天使で黒が悪魔である。


黒の陣営は全体的に人型の者が少なく、人型でも身体の一部が鳥や獣になっていることが多く、動物や鳥の見分けがつかなければ相手が何者であるのかを判断するの自体が難しくなってしまう。アレスは軍神の加護持ちであったために多少見分けがつきやすかったのかもしれない。


「とはいえ、アレスの手伝いをするにしても、準備物の手伝いぐらいしかできないんですよねえ」

「こういうのは協力するって態度の方が大事かもしれないわよ?」

「そういうものですかねえ」


ナージャとソルが言葉を交わしていた。マルファスという感情精霊については、多少情報源になりうる知り合いがいるとロキは言い、ちょっとその人に話を聞いてみるといって一旦離脱している。


マルファスという柱を呼び出し、願いを叶えてもらうのに贄を用いてはいけない。そこさえ守れば、どうにかなる。


問題は、本当にマルファスなのかという一点である。そこを自分たちが心配してもどうしようもないので、皆で手伝って、アレスの瞳が無事に戻ってくることを願うばかりだ。万が一、マルファスではなかった場合、それでも本当にマルファスが来たならば問題はない、とロキはアレスの案をそのまま受け入れた。


ならば、それに従うだけである。

今現在、この場でロキ以上に天使とか悪魔とかいうものに詳しいものが自分でないのは間違いなかったのだから。ソルとナージャは振り分けられた支度の準備に取り掛かった。

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