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Imitation/L∞P  作者: ヴィラノ・エンヴィオ
セネルティエ王国留学編 2学期
370/376

13-7

ロキが目を覚ました時には、セトナとラックゼートが準備を終えていた。自分たちに必要な物を取り揃えて、ロキにはアーノルドに報告をあげておいてくれと告げられる。ロキは慌ててアーノルドに報告を上げた。気になることが多すぎてすっかりすっぽかしていた。


『――アルティの別荘の調査か』

「はい。報告が遅れて申し訳ありません」

『……そうだな。もう少し早めにあげてくれると良い。今回は私はそちらには居ないからな』


アーノルドにリンクストーンで報告をあげたロキを、アーノルドは優しく諭した。基本的に報告をしてくれるので問題はないのだが、もう少し早く教えてほしい、のだ。ロキを守れなくなってしまうから。何より今回は、アルティの領域に立ち入るということで使用人側から先に報告が上がっていたものの、アーノルドはその場に居ないので支援できることには限りがある。


最近割とよくセネルティエに顔を出しているアーノルドだが、いつでも転移が使えるわけではない。先日のベヘモスの様なことが今後まったくないとも限らないので、アーノルドの動きは制限されている。最近はアーノルドの部下の方がよく外国を飛び回っているようだ。


ロキはアルティについて簡単に資料をあたって事前情報を集め始めた。アーノルドにもアルティについて尋ねてみることにする。


「因みにですが父上、アルティについて御存知のことは何かありませんか? 調査前に事前情報が欲しくて」

『ふむ……上位者で風の魔力を扱う区分に属していることくらいしか知らんな』

「……アルティってリッチって呼ばれてる割には顔ちゃんとありましたよ」

『精霊ってアンデッド化するものなのか……?』


謎が謎を呼んだだけだった。死んだ者が肉体の滅びを待たずして起き上がってきたものがアンデッドであるので、上位者という生身の肉体を持ち得ないものがアンデッド化すること自体がおかしいのだが、かけて加えてアルティは風の上位者であるので、特異な例なのは間違いない。風は現象だ。腐らない。


上位者自体がよく分かっていないことが多いので、ここで首を捻っても無駄かもしれない。ロキは少しアーノルドと近況の報告以外の私的なことまで話して、図書館へ向かった。



アルティの別荘調査へ行く事前準備と称してカミーリャとロキが図書館で本を読んでいる。アルティに関する資料を集めている中で、文書として残っている記録には、アルティが現れたのがおおよそ4000年ほど前であること、列強に加えられたのが2500年ほど前であることが記されていた。上位者であった彼の肉体が死を迎えたタイミングがそこだったのではないかという、上位者としてのアルティに関する考察が載った本もあって、興味深くロキとカミーリャは読み込んだ。


「アルティって、どんな上位者だったんでしょうか」

「さて。魔法使いだったという話は他の列強から聞いたことがあるけれど、デスカルに聞いても教えてくれなかったしなぁ」

「デスカルさんとは別にアヴリオスの世界樹と約束があるから干渉できない、でしたっけ」

「そう」


随分と福利厚生の成ったシステムだと思う。ロキが大きく腕を伸ばして伸びをすると、カミーリャもぐっと伸びをした。2人の身体からゴキ、とちょっとあれな音がする。


「……人刃も肩がこるんですね」

「久しぶりにこんなひでぇ音出た」


ふは、と笑い合ってもうひと調べしよう、と2人は次の本を手に取る。本当に知りたいのは、口伝で伝わってきていたアルティとアンデッドの関係性について。口伝ではアルティがアンデッドを抑え込んでいるという話であり、事実としてアルティが消えてからすぐにアンデッドの被害件数が増え始めたのでまったく関係がなかったとは考えにくい。


カミーリャの罪悪感はここ数日特に増えているアンデッドの被害件数の報告でかなり煽られているので、ロキとしてはカミーリャに手伝ってもらってその罪悪感を少しでも減らしてやりたかった。というか、ここまでカミーリャが責任を感じる必要性をロキは感じないのだが、そこはカミーリャの性格だと割り切ってのことだ。


帝国の兵隊が他国で何かこそこそとやっていて良いとはやはり思わないし、カミーリャはその辺り真っ直ぐすぎたのだろうし、対応したあの帝国兵に扮した神官もまた真面目で真っ直ぐな人たちだったのだろう。


そう。

ロキたちが、というかあの場に居て“帝国兵”と相対してしまった子供たちが、ある程度正確にアルティの立ち位置を理解していたことが、拗れの原因なのだ。水源近くにアンデッドが居たら普通に考えれば討伐隊の1つや2つ組まれて当然だろう。ドラゴンゾンビに対し討伐浄化依頼がリガルディアで出るのと何ら変わりはしない。


(今思うと、コウキの兄君の動きが鈍かったのも、アルティが抑えていたせいかもしれない)


アンデッドというのはある程度時間が経過していればいつ目覚めてもおかしくないので、50年ほど眠っていたらしいあのドラゴンゾンビは本当に、発見されてから討伐されるまでが迅速過ぎたというか、被害がほぼない状態で浄化されたことが何より暴れていなかった証拠でもある。ロキたちが早々に事を進めるべきだと考えたのは間違いではないし、おかしなことでもなんでもない。ただ、ドラゴンゾンビの動きがあまりにも大人しすぎただけだ。


(……いや、逆だ)


コウキ・ルディナが、ゲームでハズレの攻略対象として出現していたことの理由にロキは思い至った。

アルティの手を離れたから、兄が大暴れをかましたのではないか。アルティが抑えられたのは、コウキの兄までであり、ドラゴンゾンビになってしまったコウキまで手が回らなかったのではないか。


コウキ・ルディナ自体は『イミラブ』に登場するハズレの攻略対象であるという。攻略イベントを一定のところまで進めて好感度をカンストさせると、問答無用でバッドエンドになる仕様だった、らしい。らしいというのは、ロキがソルやルナから聞きかじった情報であるためだ。


ロキはあまりゲーム知識をあてにしていない。ロキ自身にあるゲーム知識からは早々にズレたからだ。他のゲーム知識に照らしたところで変化が起こっているのは確実だろう。だから、参考程度だ。このタイミングで何かが起こる、という情報は、あって悪いことはない。


実際その情報があって先手を打てたのがコウキ・ルディナの件だったといえるだろう。アンデッドモンスターという点をすっかり見過ごしていたが、アルティや、下手をしたらオシリス・サジェスタにも繋がりが出てくる可能性がある。ロキはアーノルドにこの気付きを報告しておこう、と頭の片隅にメモして一旦追いやった。


アルティが魔人族と呼ばれる、人型且つ翼と角と尾を持つ亜人属と同じ姿をしていることが分かったところで、ゼロとタウアが切り上げるように言ってきた。どうやらロキとカミーリャは閉館時間ぎりぎりまで調べ物をしていたらしい。いつの間にか暗くなってしまった窓の外を見やって、ロキとカミーリャは顔を見合わせた。


「時間が経つのは早いね」

「そうだね。興味深い本も多かったし」


2人が多言語にある程度知識を持っているからこその台詞なのだが、この場にはそれを突っ込む者はおらず、ただゼロとタウアが、互いの主の自慢をし合っているのみであった。


司書らしき教員が本の最終整理をしているのを横目に、図書館を後にする。アルティはリッチという区分なので、吸血鬼の国にあまり資料としては残っていなかった、というのが実情だろう。


風の上位者扱いではあるものの、他の属性を扱えるのはあの時にも見た。アンデッドとアルティの関係に直接言及しているものは見当たらなかった。口伝でのみ伝わっている所を見ると、文書化厳禁系の口伝伝承の類なのかもしれない。


「伝承だとすると、厄介だなぁ」

「ガントルヴァに突き付ける資料がない、という事ですか?」

「ああ。君の前で言うのもちょっととは思うけれど、父上が使える資料に纏めるまでに、ちょっと時間がかかっちゃうよね」


自分たちの興味もさることながら、アーノルドのための資料を作ろうとしているロキに、カミーリャは苦笑を浮かべた。


要はちょっと研究を進めてからでないと政治的な利用は難しいよねと、ロキは言っているのだ。利用できるものだとちゃんと認識していることも含めて、カミーリャとしては頭の痛い所だった。


(――父さんの足引っ張っちゃったらどうしよう)


カミーリャが恐れていたことが起き始めている。カミーリャの父親は、二羽の獲物を追っている状態だ。どちらかが生き残れば最高だけれども。


ぐっと手を握り締めたカミーリャに気付いて、ロキが口を開く。


「古い諺、知ってるかい?」

「……ある程度は」


せーの、とどちらからともなく息を合わせた。


「一石二鳥」

「二兎を追うものは一兎も得ず」

「「……」」


ロキがふにゃ、と笑う。


「カミーリャ、不安なんだね?」

「……はい。むしろロキ君が、父が両方掴める可能性を言及してくれたことの方に驚いてます……」

「まあ、仮にも帝国からすればリガルディアは仮想敵国らしいじゃないか。そう思うのも仕方がないかもね」


ゼロとタウアは何も言わずに2人の会話を聞き流している。違う国の者同士を同じ寮室にしているのも問題はあると思うが、魔物は色々と扱いが雑なところはある。ロキもカミーリャも文句はない。


そういえばレポート課題出てたねと、部屋に戻ったカミーリャが言うと、ロキが固まった。どうやらほったらかしていたらしい。珍しいこともあるものだねと告げれば、別の事で頭がいっぱいだったんだよ、といっそ開き直った。


「提出どうするんだい?」

「潔く手を付けていないと言うべきかな」

「それはそれでどうなんだろうね」

「……今から書くかぁ」


徹夜にはならないだろうけど、と言いつつロキはレポート課題に取り組むための準備を始める。ゼロは何度か言っていたようだが、悉くロキに無視されていたらしい。他のことに集中しているときは仕方ないと言いつつもゼロ自身は同じ課題をとっくに終わらせているのを見て、ロキはもうちょっと強く言ってくれたって良かったんだぜとロキは泣き言を言った。


結局ロキは真夜中にレポート課題を書き上げたらしい。ロキの恐るべき執筆速度と、なんだかんだ妥協してレポートを書ける頭の柔軟さによるところが大きいだろう。ロキ自身は、レポート課題は結局のところ授業について基本を学んだところに付属知識をくっつけていくだけだと述べる。そんな口で簡単に言われたって実行できるかどうかはまた別なのである、とゼロがぼやいているのをタウアは聞いていた。


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