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Imitation/L∞P  作者: ヴィラノ・エンヴィオ
セネルティエ王国留学編 2学期
367/377

13-4

「とうとうゾンビが出たわよ」


皆に話したいことがあるから昼はサロンに集まって、というプラムの言葉に集まったカル達は、いつまでも報告を始めないプラムに、報告の内容をおおよそ予測していた。食事を終えてからでなければできない報告だと考えたら、内容はおのずと限られてくる。


プラムの言葉にロキとカルは肩をすくめ、カミーリャは瞑目した。想定されていたこととはいえ、実際に被害が出ると心苦しいのは致し方ない。カミーリャは自分がやった事の重大さを改めて考えていたが、ロキに軽く背中を叩かれて顔を上げた。


「?」

「カミーリャ。苦しむのは勝手だけれど。帝国がセネルティエを押し潰そうと出張って来てたのは間違いないと思う。カミーリャは止めを刺しちまっただけさ」

「……それはそれで、いけないことでは……?」


ロキの言葉は尤もで、プラムからしたってカミーリャがやったのは引き金を引くことだけだったように思う。一学生にどうにかできる規模の問題ではなく、カミーリャは自国の人間を護ろうとしただけで、その結果リガルディアの留学生(ロキ)が怪我をしてしまった。


ロキは自分が怪我をしたことすら交渉のカードにすることができるのだろう。けれどカミーリャには、自分の所為で友達が怪我をしたという事実だけで手いっぱいになっていて、どうすることも出来ないのだ。


アルティが倒れたことによって引き起こされると予想されていたゾンビ騒動ではあるが、ピオニー先王らの予想よりも規模が大きくなりがちみたい、とプラムは言った。


ロキはアルティの居たエリアの調査を行いたいとセネルティエ王家に奏上し、許可されたという。


「ロキ様が提案してくれた、アルティの別荘の調査なんだけれど、私も行くことにしたの。何もしない訳にもいかないし、ガントルヴァが何か仕掛けて来るなら、先に準備しておかないと」


国境付近でガントルヴァが何かしていたことは、一般生徒に公開されている情報ではないけれども、貴族連中ならとっくに知っている。カミーリャの立場が弱くなってしまうことも、帝国側は分かってやっているんだと理解されてもおかしくない。つまり、カミーリャは切り捨てられた。


「……本当は、カミーリャにも来てほしかったんだけれど……」

「……帝国の貴族が国境付近に接触することは、セネルティエ国内の貴族が黙っていない、でしょう?」

「ご……うん。これはもうしょうがないわ、分かってくださいな」


ごめんが口を突いて出そうになったプラムは、何とか飲み込んで言葉を紡いだ。生徒会長たるプラムからすれば、留学生であるカミーリャがいじめられるわけにはいかないのだ。感情を抑えきれない子供が居るところでのミスで、大人の交渉カードを減らしたくはない。


「しかし、カミーリャの持つ帝国に関する知識でしか判別できないこともあるかもしれませんよね」

「でも、カメラなんてないから写真撮ったりもできないし、スケッチする?」


プラムの言葉に、カルがロキを見やる。


「ロキ、お前“カメラ”とかいうのは作っていただろ?」

「出番が来ちゃいましたね」

「えっ、カメラ作ったの!?」


ロキが虚空から大ぶりなカメラを取り出す。一眼レフタイプのカメラであり、最も小型化されたそれ。ロキがテーブルにカメラを置いて、プラムが恐る恐る手を伸ばした。


「……これ、一眼レフよね?」

「前世の知識にあった造形と、光の屈折と反射の知識で作ったものだよ。ドワーフの力を借りたものだから、お高いがね」


一眼レフの方が綺麗に映るようだったから、わざわざデジカメを作ろうとは思わなかった、とロキは笑う。しかし、持ち運べるだけで十分だった。


「フィルムなの?」

「いいや、フィルムをまだ作れていないんだ。魔石のプレートを利用するようにしているから、5回撮影ごとにプレートの入れ替えが必要だ」


それだけでも十分すぎるくらいだわ、とプラムは嬉しそうに笑う。この技術をロキ個人が持っていることの方が問題かもしれない点については触らないでいた。


「カミーリャには、撮ってきた写真を見てもらう感じかな?」

「基本的にはそうですね」


カミーリャには手伝ってもらう約束を取り付けて、とりあえず今回の会議は終わり、とプラムは言って席を立つ。生徒会の仕事は多岐に渡るのだ。王族としての仕事もしながらの生徒会運営であるため、プラムはそれなりに有能な王女であることが伺える。


「それじゃ、皆さんはゆっくり休まれてくださいね!」



カミーリャについてきたアレスの加護を受けたウリ坊は、セトのコウやロキのフェンとじゃれていた。コウを乗せて走ったり、コウに乗ってみたり、自由な様子が見て取れる。


セネルティエ王立学校中等部の魔物舎は、リガルディア王立学園の魔物舎よりもはるかに小さく、ほとんど大型の魔物が居なかった。

フェンが最大サイズだったことにロキは最初に見た時驚いたものである。


「……それで、ロキ君。話って、何でしょうか」

「今日のプラム殿下の話についてね、もう少し話を詰めておこうかなと思って」


魔物舎近くに設置されているベンチに腰かけて、ロキは伸びをする。カミーリャもそっと横に座った。今の自分にできることなど何もないと思うんだけど、と呟くと、ロキはふっと笑う。


「基本的に、直接見るのが一番いいけれど、それができないって時は、魔術で見れるようにするのが一番いいだろ? 幸い、俺にはそれができるだけの魔力がある」


カミーリャにはロキがどうしてそこまでしようとするのかが分からない。


「ロキ君はどうしてそこまでするんですか?」

「……ああ、俺が、君の知識を借りたいと思っているからだよ。何もなければそれでよし、何かあったら、カミーリャが見ていれば分かったはずのものが、カミーリャが居なかったからわからなかった、じゃ、笑えないからな」


ループが絡んでいるときの言い方だ、とカミーリャは直感的に思った。ロキも言語化が難しいが、何かがあって、カミーリャに見てほしい、けど政治的にそれが難しい、みたいな状況だという理解をする。


「それで、具体的にはどうするんですか?」


こういう時は、詳しく理由をつついても確固たる理由は出てこない。カミーリャは先を促した。


「カミーリャに俺の視覚を共有するんだ。その状態で、リンクストーンか、念話で、見つけたものを教えてもらおうと思っているよ。そうすれば、カミーリャは国境に行かなくてもよくなるし、最悪プラム殿下に情報を売れるからな」

「あくどいなぁ」

「俺ですから」


ロキの言葉にカミーリャは苦笑する。実際にできるのか、と問えば、その調整をこれからやりたいんだよね、とロキが言う。カミーリャは二つ返事で受けた。


カミーリャは魔力が少ないので、ロキが魔力を弄りまわしても抵抗はできない。だからこそ、ロキはカミーリャにひとつひとつ意思確認をしながら、カミーリャの魔力と自分の魔力の同調を行っていく。


「……ンっ……」

「苦しい?」

「……ちょっ、と……冷たい……」


自分にもちゃんと魔力あるんだな、なんて思いながら、カミーリャは自分が持たない氷属性を持っているロキの魔力の同調を受ける。ロキが全力でカミーリャに合わせに来てくれているので、カミーリャが抵抗さえしなければあとはどうとでもなる。互いの手を握って、魔力の循環と受け渡しを行う。


「……基本的な部分はやって来てたんですね」

「……、はい、ん……」


カミーリャの身体はあまり魔力を動かすのに向いていない。魔術として扱える魔力量が少ないことからもその傾向はわかるので、ロキも休みを入れながらの作業だった。

カミーリャが魔力での抵抗を抑えてくれたため、一作業ごとに小休憩を挟んでいくと、じきにカミーリャの身体の方が慣れてきたのか、荒くなりがちだった呼吸は落ち着いて行く。


「……ふぅ……」

「終わったよ」

「うまく、いったかな?」

「ああ、ちょっとやってみようか」


ロキがカミーリャの手を放し、互いに正面に向き直った。カミーリャが目を閉じると、ロキの視界が流れ込んできて、自分より少しずれた視点で正面を見ている。ゆっくりと視界が動き、自分の姿を横から見ているらしいことが分かった。自分の視界に自分が映るのもまた新鮮である。


「面白いですね、これ」

「そう?」

「あ、これ聴覚も共有できたりします?」

「できるだろうけれど、負担が大きいぞ」

「そこは、ちゃんと役に立たせてくださいよ」

「……分かった」


リアルタイムでの会話は確かにできた方が良いのだ。どうせ消費するのはロキの魔力なので、カミーリャの負担は疲労だけだ。ソファかベッドに横になった状態でつなごうと思ったロキだった。


「切るぞ」

「はい」


一旦リンクを切断する。2人ともベンチの背もたれにもたれかかって、呼吸を整える。


「……結構疲れますね」

「あんまり長時間は繋げられないかもしれないな」

「そうですね。でも、調査の時はしっかりお手伝いしますからね」


ここまでお膳立てされたのだ、カミーリャだってここで引くわけにはいかない。ロキの方は、自分の魔力をカミーリャに合わせたためか、疲労の色が目に見えた。本来魔力同調は、お互いの中間地点で行うものなので、全部合わせてもらったカミーリャとしては、すごくありがたいと同時に、これだけ合わせてもらったのだから役に立たなければというある種のプレッシャーも抱える。


「カミーリャ」

「! はいっ」

「気負うなよ? お願いしてるのはこっちなんだから」


色々見透かされている気がしたカミーリャだった。


「わかったよ」


はにかむカミーリャと笑みを浮かべているロキを見て、フェンとアレスの猪がほっこりしていたとか何とか。


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