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Imitation/L∞P  作者: ヴィラノ・エンヴィオ
幼少期編
36/377

1-35

大幅な変更を加えることにいたしました。ここまで読んでくださっていた方々、誠に申し訳ございません。


2021/10/15 改稿しました。

2023/03/01 改稿しました。

雨が降る。

これをロキは霧雨と言った。


サァサァと表現するのがふさわしい、靄の掛かったような雨。まだそれは冷たくて、冬から春への移り変わりを感じさせた。


「よし、だいぶ回路なしで魔法発動させるのに慣れてきたな」

「……ッ、」

「疲れたか」

「……、ああ」


デスカルの前でゼェハァと荒い息を吐いているロキは、現在竜人魔法の習得のために本来人間がやらないことを訓練している。

故にその身体にかかる負担は並大抵のものではなかった。


(――しかし、ここまで習得が早いと怖いな)


デスカルはそんなことを考える。


この魔法の習得に費やしている時間はたった半年足らずのはずで、なのにもう慣れが出てきているというのは、デスカルにとっては異常以外の何物でもなかった。


もしかすると、今までのループの中で何度か竜人魔法に触れたことでもあったのだろうか。

しかしそうだったとしてもこの身体が使えるようになるタイミングが遅すぎる。つまり、やはり彼は竜人魔法に触れたのは今回が初めてであるはずで。


そもそも、本来竜人魔法なぞ使うのは神子くらいなものなのだ。神子にとっては、自分の魔力回路を全て叩き潰しかねないほどの魔力を一気に放出するため、一度使えば死ぬ、自滅と変わらない。


その前段階である“喪失”を使っただけで死ぬ者が多いのにどうやったら資料が出てくるというのか。


「ロキ、お前ちょっと頑張りすぎじゃね?」

「……そう、ですかね」

「ゆっくり休んでるか?」

「はい……」


その表情はあまり読めないが、揺らいだ魔力にデスカルは目を細めた。


「条件反射かその返事は? 言っとくが俺よりもっとお前のこと分かってる奴らも沢山いる。お前眠れてないな?」

「……ッ」


微かにロキの表情が暗くなった。

言うなというようにデスカルを睨むロキに、デスカルは小さく息を吐いた。


「何故眠れていないのか言ってみろ」

「……悪夢って程じゃないが、夢を見る」


それだけだとロキは言う。

本当に夢を見ているだけなのだろう。

つまり。


「“黒”が干渉してるか……ん?」


デスカルはまさかと思い、ロキを引き寄せる。


「……?」

「……ッ」


デスカルの表情が一気に険しくなったのを見て、ロキも何事かあったらしいと察したのかされるがままになる。降りている髪をかき上げられて、額をくっつけられる。風属性であると宣言したデスカルの額はひんやりしていた。


「何かあるのか……?」

「何でこんなことに気付かなかったのかね。昨日の夢は?」

「……入学式」

「……そうきたか……」


悪趣味なやつだ、とデスカルは独り言ちた。


「……なあ、デスカル」

「ん?」

「その、“黒”って、何なんだ」

「……」


黒、は。

デスカルは目を閉じ、それでも言った方がよかろうと小さく口を開いた。


「お前のことだよ、ロキ」


「“白”って呼ばれてるロキの話くらいなら知っているだろ」


それは、ずいぶんと昔の御話。

かつて、世界のためか、友のためか、はたまた。そして世界を裏切った1人の少年がいた。

彼の名はロキ。


黒髪と蒼い瞳に、白い服を纏った存在。

髪の色を変えようとも、服だけはいつも白。


故に彼は、“白きロキ”と呼ばれるようになった。


「でもそれは、“白”だ」

「ああ、だから“黒”がいる」


それがお前だよ。


デスカルの言葉がすぐには頭に入ってこず、ロキは表情を歪めた。


「意味が、分からない」

「ああ、わからなくていい。分かったら大事だ」


デスカルはそう言って、少しだけ、語った。


「この世界には色で呼び分けられる神格がいくつか存在している。オーディンは赤と青、トールは黄色と紫。ロキは白と黒。お前の身近にいる奴らならこんなところか」


「その名に応じて持つ役割がある。オーディンならば民を導き、トールならば戦場で猛威を振るい、ロキならばどこかで裏切る」


「誰もロキの力を使わせたくなどない。けれど5000年ほど前に現れた白きロキはその役目を全うして死んだ。国を裏切って、友達を裏切って、世界を救った」


「ロキが再び現れたのは、3000年前。神々が本格的に消え始めた頃。その時のロキは一度も大きな裏切りごとは起こしてない」


「同世代にオーディンもトールもいない時はロキは何もしないのさ」


裏切られた国はオーディンか。

裏切られた友はトールか。


デスカルの言葉が腑に落ちる自分が居る。

ロキは微かに震えた。

知っている、ロキは知っている、涼が知っている。


ロキの世代には、トールもオーディンも存在しているということを。


「例えお前が国を、友を、裏切っても、皆お前を責めたりはしないだろう」


「“黒”はそうだったよ」


“黒”を知らないロキに“黒”の話を出されても困るだけだ。

ロキは一旦“黒”を、別の世界線のロキとして考えることにする。ループの同じ世界線で考えるから頭が痛いのだ。


「そして恐らく今、“黒”はお前につきっきりで補助をしている。お前がやたら夢を見るのもそのせいだろう。そしてそれは恐らく俺たちへのメッセージだ」

「……デスカルたちへの?」

「ああ。――お前、今その身体に魂が2つ入ってるんだよ」


デスカルの言葉にロキは首を傾げた。身体に魂が2つ入っている。つまり?

ロキはぞっとする。かつて抱いた不安がぶり返すなんて思わなかった。プルトスに自分の存在を委ねたあの瞬間を思い出して、身震いした。


「ロキ、お前が考えているようなタイプのものじゃない。そこは安心しろ、お前が存在することがおかしいとか言ってるわけじゃないから」


デスカルはロキが不安がっていることを正確に見抜いた。


「まったく同一のモノだ。……世界線の違うものが一緒くたにされてる感じ。お前は青紫に見える、宝石で言ったらそうだな、ラズベリルからタンザナイトに変わるような色だ。その中に、あるんだよ、アメジストみたいなキラキラした何か別のものが。そりゃ魔力回路のこんがらがるわな。縦糸だけだったところに横糸入れられて絡んじまってんだ」


デスカルは全部解けたと言って息を思いきり吐いた。


「もうやれることは一つしかねえわ」

「上位の焔で焼く、ってか」

「察しがよくて助かる」


デスカルは早速算段を組み始める。当時者たるロキは置いてけぼりを喰らってそこに佇むだけだ。


「……待ってくれ」

「ん?」

「焼く場合、もう一人ってどうなるんだ? 今の話から行くとそいつまで焼かれちまわないか」

「ああ、当然だ。白い糸玉に混じったオフホワイトの糸探すようなもんだよ。お前の負担が大きくなるだけだ」


ロキは胸に手を当てる。

デスカルの言葉をそのままの意味で受け取ると、中にあるもう1つの魂の生存は諦めろと言われている。それは、それではだめだと、なんとなくそう思ったのだ。


デスカルは的確にロキの意図を組んでいた。

ロキはきっと、中にいるその誰かを助けたいと言うだろう。

それはお前自身を削るだけだとデスカルは告げてやった。


「……それでも」

「……はあ。言葉っ足らずなのはロキの宿命かなんかかよ」


ちゃんと意を酌める俺に感謝しな!

デスカルはそう言い切って、これからの予定を口にした。


「まずは、その子の切り離しからだな。受け皿はアーノルドがなんとかするだろう」


「切り離しの段階はお前にかなり負担がかかるうえに、今後はその子を傷つけないように、魔法も魔術も最低限以上使ってはいけなくなる。お前にはこれから魔力の結晶化を教えるから、体内には絶対生成するなよ」


「学校では基本的にしっかり体力を使うように動くこと。そして魔力も結晶化して外に出す。そうすれば多少は回復にかかりきりになってアメジストの子を傷付けることも無いし、晶獄病の症状も出ない。切り離せば今お前が寝不足みたいになってるのもなくなる」


さあ、次の予定が決まったな。

デスカルはそう言って、とうとうその名を口にした。


「あとはお前に任せるぞ、ドルバロム」


ドルバロム、とは、闇精霊の名である。

この世界において右に出る者はないほど強力な精霊の名だった。


ロキは理解した。

ドルバロムは、上位の者だったのだと。

それならば、この世界でという括りで見れば当たり前のように強い。


リオ、と呼んでいたものがそこに姿を現し、にこりとロキに笑いかけた。


「やあやあ。というわけで、今までの訓練とは別で、今度から君の魔法の補助には俺が入るよ。よろしくね、ロキ」

「……ああ、よろしくな、リオ」


がっちん。

金属音がした。


「……?」

「あは♪」

「……これ、隷属契約?」

「そうだね!」

「ち、親父いいいいいいいいいいッ!!!!」


ロキの絶叫が庭に木霊した。アーノルドがすっ飛んでくる。分かり切っていたことだ。

デスカルはリオ、もといドルバロムのやり方に末恐ろしいものを感じる。この方法を案として出したのはデスカルだが、採用したのはドルバロムの方だった。ドルバロムの種族は人間の心というものを理解し得ない。そのはずなのだ。


「どうした、ロキ!?」

「分かんない! よくわからんけどこいつと隷属契約しちゃった!」

「何がどうしてそうなった!!」


簡潔な説明だけではアーノルドも分からなかったらしい。


「デスカルもつくづく相手を嵌めるのに慣れてるよねー」

「俺が何年人間と関わって来たと思ってる? ガキ一人誘導するくらいわけねえよ」


特にこんな分かりやすい子はな。


ロキは小さなその音を拾った。


「ドルバロムと呼んでもリオと呼んでも契約ルートだったんだな、くそ!」

「ドルバロムって素直に呼べば対等な契約だったんだけどねー」

「この契約取り消せえええええ!」


隷属契約なんて望んじゃいない!

ロキの言葉にアーノルドとデスカルが目を細めた。


「ほら、そういうことすぐ言う」

「思っている事実を口に出して何が悪い!?」


――ロキ、今の君の表情がどうなっているか分かっているかい。


「隷属契約を望まれている事実を、ちゃんと認識したほうがいいぜ、ロキ」


――たかが精霊のために、日常に何も関わってこない奴のために、そこまで激昂できる君は間違いなく、“黒”になる。


自分に関わる者を遠ざけようとするように、ロキの表情には困惑と焦燥と、涙目のオプションがついていて、たかが契約精霊にそんな表情をするなよ、と言ってやりたくなるのだ。


隷属契約は、本来精霊の自由を縛る契約であり、精霊側から申し出ることはほとんど無いに等しい。精霊が献身することで、契約を無理矢理切ってきたロキに近付く。そうすることでしか、もう精霊たちはロキに見てもらえないから。


シドしかいないと嘆いていた繋がりを新たに得る方法を上手く探し出したデスカルに、アーノルドは舌を巻いた。ロキはドルバロムに契約のし直しを要求しているが、ドルバロムは応じる気配がない。隷属契約は隷属させている側がある程度魔力を使えば強制破棄も可能なのだが、わざわざ隷属してくれている存在にそんな無駄なことをする者はほとんどいないし、今のロキは魔力をあまり使わないよう釘を刺されたばかりで、ドルバロムの意思をどうにかしようとしているのが伺えた。


とはいえ、もうすぐ始まる学園に、これで大手を振って上位者が付いていくことができる。デスカルが現時点で施せる最高の切り札を切った。後はなるようになるさと、デスカルはソファに沈み込んだ。


「あ、ロキ、魔力使えば使うだけ魔力量増えると思うからちょっとずつ上限伸ばせよ。結晶を作るのも怠らないこと、すぐわかるからな」

「思ったよりハードじゃねーか!」

この話にて1章は終了となります。1章登場人物を纏めたら投稿します。2章からは不定期更新になるので気長にお待ちください。


ここまで読んでいただきありがとうございます。

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