12-29
先日落雷でパソコンが逝ったので投稿が遅れました……。
「やっ!」
ナージャがフォレストボアに切り掛かる。フォレストボアに限らず、ボア系の魔物は良く敵を見て回避行動をとるため、できれば後方からの攻撃を仕掛けたいところなのだが、なかなか難しい所だ。
フォレストボア3頭はカルたちが敵対行動をとると同時に臨戦態勢に入り、突撃を敢行した。そのまま離脱しようとしたフォレストボアの前にアキレスが回り込んで吠えると、フォレストボアはナージャを狙い始める。カルとカミーリャはそんなフォレストボアの後方側面からとびかかり、脳天を一撃。
ナージャはフォレストボアが頭を振って牙に引っ掛けようとしてくるのを避けながら鼻や口元に切り傷を付けていく。ガツッ、ガツッと地面を掻いたフォレストボアがナージャに突進すると、ナージャは後方に飛び退いた直後、重心を右にずらし、バスタードソードを斜に構えてそのまま前進する。
プギィイイイイイ、と鳴き声が森に響く。ドッ、と重く鈍い音がして、フォレストボアが倒れた。構えを解いたナージャはフォレストボアに近付いていく。
「それじゃ、ばいばい」
ナージャはフォレストボアの首を切った。
「しっかり血抜きしたいですね」
「もう肉にすることしか考えてねえ」
「ごはんは大事ですから!」
呆れたようにアキレスが息を吐き、ロキはサンダーソニアを抱えて樹から降りてくる。カミーリャとカルも仕留めたフォレストボアの首を切っている所だった。
「血抜き上手く行くかな」
「フォレストボアはワイルドボアより臭みはねえぞ」
「まあ木の実と根っこばっかり食べてるだろうしな」
毛皮と牙を回収して肉は食用にする。3頭分の処理をロキとナージャが始めると、アキレス他4人は暇になる。辺りを見回して、くりっとした瞳がこちらを見ていることにカミーリャが気付く。
「?」
がさがさ、と小さく茂みを揺らして、顔を出したのはフォレストボアの子供らしきウリ坊だった。
抱え上げてみると、特に暴れもせず、「むー!」と鳴く。フォレストボアってこんな鳴き方するっけ、と記憶を辿るがそんな鳴き方は初めて聞いた。毛が長く、ボア系にしては珍しく柔らかな毛だ。少し赤いだろうか。
「カミーリャ、どうした?」
「アキレス君」
カミーリャが何か拾ったことに気付いたアキレスが寄ってくる。これ、とカミーリャが見せると、アキレスはぎょっとする。
「アレスの赤猪じゃねえか」
「アレスの赤猪?」
「軍神アレスの御使いって言われてる、加護持ち。精霊寄りの猪」
カミーリャは抱き上げたウリ坊を撫でて、呟いた。
「この子の、親って……」
「……考えないようにしようぜ」
「フォレストボアからも生まれるんですね……!?」
「ボア系のやつがアレスの加護を貰ったらこうなるから……」
「……」
考えてみれば、人型であるだけで、ロキやセトはれっきとした魔物の人刃族である。他の魔物が加護を貰ったっておかしくはないのだろう。アレス神は軍神であるから、必ずしも名前を貸し出さなければ加護を与えられないというわけではないのだろう。
「加護にもいろいろあるんですね」
「まあ、猪はアレスの聖獣だからな。余計加護を受けやすかったんじゃないか?」
アキレスの言葉になるほど、と納得したカミーリャはとりあえず赤ウリ坊をそっと地面に置いた。そのままロキたちの方へ踵を返したカミーリャにアキレスは思わず声を掛ける。
「待て待て待て、置いて行くのか!」
「むぎぃー!」
「えっ、自然に返した方が良いのかなと……」
「やめたげてよぉ!! アレスの加護持ちの猪とかどう対応したらいいんだよ討伐対象だよ殺処分待ったなしだわ!!」
「むいぃ」
さっきから足元で鳴き声が聞こえるのだが?
そっと2人が足元を見ると、付いて来る気満々の赤いウリ坊が目をウルウルさせて2人を見上げている。アキレスとカミーリャは顔を見合わせた。
「……連れて行きますか?」
「どう考えてもこれ人語解ってるからなぁ……」
カミーリャが撫でると、赤いウリ坊はカミーリャについていくことを決定したようで、撫でる手に擦り寄っていく。アレスの加護持ち同士は敵対しやすいため、公爵令息アレスのいる国内で飼うのは難しかろう。致し方なしとアキレスが苦笑した。
ロキとナージャが手早く血抜きを済ませ、毛皮と牙を取り除いた白い巨体を近くのしっかりした樹に釣り上げている。
「クレーンが欲しい」
「ロキ様なんで解体知ってるの???」
「前世の祖父が猟友会に所属していたんだ。よく獲ってくるから、解体用で車庫に釣り上げクレーンがあった」
「金持ちだ!」
「元準公務員?」
アキレスやカミーリャには何を言っているかさっぱりわからないのだが、どうやらナージャも前世持ちだったらしいことが分かる。クレーン代わりにフォレストボアを持ち上げさせられているカルはちょっと大変そうである。
「ロキ、結構楽だがこれもかなり重いぞ!」
「こんな巨体なら血を抜いても400キロくらいあるだろうな」
「学生の身で滑車の原理を利用しているとはいえそれを持ち上げれるカルってやっぱり竜なんだなって思います」
「とりあえず褒められているんだよな?」
「そうだな」
ロキが地面に氷の板を張って、熱湯を準備する。腹を裂いて、胸骨付近に切れ込みを入れる。
「カル、一度下ろしてくれ」
「む」
氷の上に下ろす。ナージャが前足を掴んで仰向けに広げると、ロキは胸骨を思い切り手の腹で押し込んで外す。そこから手をかけて肋骨を開く。べきべきべきとすさまじい音がした。ロキは開いた腹から腸を取り出して処理しながらアキレスに言う。
「ここまでならアキレスも出来るか」
「モツまで出しときゃいいのか?」
「頼むぞ」
「おう」
アキレスが残り2頭のうち1頭の処理を始める。
「カミーリャ、ナージャの解体を手伝ってくれ」
「っ、はい!」
ロキはカルが引っ張っていたロープを何か巨大な鎹のようなもので押さえ、カルにもナージャの方の解体の手伝いを頼む。
ロキは単独で猪の肉を切り分け始めた。
「結構、重い……!」
「手早くやっちゃいますね!」
「俺はどうすれば良いですか」
「最初はカルの手伝いをお願いします。下ろしたら足を押さえてください」
「分かりました」
それぞれが分担して解体を進めていくと、解体は大体2時間ほどで終わった。
「これって早い方なんですか?」
「かなり早い方だな」
「そうなのか」
「200キロもあったら大体解体には慣れている人でも2時間くらいかかる。学生だけでよく2時間で終わったもんだ」
達成感に包まれつつ、肉はロキのアイテムボックスに放り込んで、もう少し森の奥へ行くことを決めた一行は、再び歩き始めた。
♢
一方その頃、教員たちはというと。
「今年は大変だな」
「そうですね」
ネメシスと2組の担当教員が話していると、新人の教員が尋ねてくる。
「そうなんですか?」
「ああ、何と言っても、今年は留学生がいるからな」
「確かに、リガルディアの子たち恐ろしく強かったですけど」
新人は話が通じていないようだ。ネメシスはくすっと笑って小さく頷いた。
「ガキどもいつも通りのやり方じゃリガルディアの狩りの速度にはついていけないからな。獲物を発見するのも、索敵も、戦闘も解体も、そんじょそこらの冒険者よりかなり手早く行うからな。初めて見た時はかなりびっくりするぞ。なんつっても公爵直々に行うこともある」
「見たことあるんですか??」
「ある。あの時は、まだロキの父親がこんなちっちゃい時だったな」
ぎょっとする新人に、当時のロキの父――アーノルドの身長を示して見せる。大体150くらいを差しているので当時のアーノルドは恐らく中等部位だっただろう。
「こいつも今じゃ180越えの巨漢だからなあ」
「フォンブラウ公爵とお知り合いだったんですね」
「あー、あいつのいた魔術学派がなあ。エルフの系譜を組んでるというか、俺も一応研究仲間みたいなもんでな。表立っては仲悪いことになってるがな」
「ああ、ミティル学派ですか」
ロキは父の話を聞くのが好きなのでネメシスが話せば多分食いついてくるが、話すのはもう少し先になるだろう。ネメシスは生徒たちの消えた森の方を眺めつつ、ホットココアを一口飲んだ。




