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Imitation/L∞P  作者: ヴィラノ・エンヴィオ
セネルティエ留学編 夏休み
358/377

12-28

合宿当日、ナージャがアキレス、サンダーソニアと行動をしているのを見て、周囲はナージャがロキたちの班に所属したことを理解しただろう。全員が同じタイミングで出発するのではなく、戦闘能力が高い、索敵能力が高いなど、初期ポイント振り分けによる基準が存在しており、ポイントが高い班程後半に出発することになる。ロキたちの班は最後に出発することになっていた。


「流石に初期ポイントが高すぎましたか」

「まあ、留学生半分入ってるしな」

「それだけじゃないと思いますけれど……」


順にロキ、アキレス、サンダーソニアの台詞である。ロキ達の班の初期ポイントは50ポイントくらいだと思うとロキは言う。カル、ロキ、カミーリャ、アキレスは戦闘能力が高い事に加えて、ロキとアキレスは加護持ちである。サンダーソニアとナージャの2人は、戦闘時の連携はほぼ取れないに等しいのでその点は考慮されているかもしれない。


「しかし、何で俺を班長にしたんだよ」


アキレスが怠そうにロキに問う。ロキはにこりと笑った。


「カルの指示は大雑把すぎるし、俺の指示はかなり細かくて正直淑女からは不評だからね。カミーリャは魔力防御ができないので司令塔には向かないし。ナージャ嬢は狂戦士なので論外。サンダーソニア嬢が司令塔に向くならお前が司令塔に任命すればいい」

「……向かねえ、というか自分の身が守れねえのに司令塔やらせられるか! 結局俺だけなの!?」

「そういう事だよ。他国の王族公爵なんざそうそう命令できるもんじゃないぞ、楽しめ」

「無茶振りが過ぎるんだよおめーはよォ!!」


アキレスが髪をかきむしる。ロキはこの状況を存分に楽しんでいるようだ。リーダー職から解放されたことで他の班員たちが伸び伸びと羽を伸ばしているのが手に取るようにわかって、アキレスは息を吐いた。


確かに、カミーリャに関しては特に、そつなく目立たず功績を積んで信頼度を上げたい立場だというのは少し考えればわかる。カルは竜の基準で物を考える。ロキは竜の基準を人間に落とし込むために頭を回し過ぎてウザい、というのをオブラートに包んだ物言いだったのだろう。ナージャはロキの言う通り、一族揃って狂戦士。サンダーソニアは攻撃魔術はほとんど威力が無く、探知に極端にステータスが寄っている。


納得の懸念事項満載で苦笑いが浮かんだ。


「アキレス班、出発していいぞー」

「へ、はーい」


ネメシスの声がかかると同時に、アキレスは合宿用の荷物を持ち上げた。荷物を持ち歩くのはカミーリャとアキレスだけだ。他は自分のアイテムボックスの容量がそれなりにあるメンバーしかいないらしい。アキレスは好きで荷物を出しているだけなので、アイテムボックスがほとんど使えないのは現状カミーリャのみである。



合宿の為に解放されているのは、列強第16席『不朽の(アンデッド)探究者(サーチャー)』アルティの本拠地近くの森である。アルティは比較的大人しい列強であり、元々血気盛んな魔人ではあるが、魔術師タイプであることもあって、研究のため拠点に引き籠っていることが多い。そのため、人間からすると、エングライア並みに無害な列強である。いや、エングライアは実害がある場合があるので、寧ろアルティの方が無害かもしれない。


セネルティエ王国内部では通称西の森と呼ばれるアルティの拠点近くのこの森は、あまり面倒な魔物が出ないことで有名な場所である。森の危険度は冒険者ギルドの基準でDランク相当だ。これは、強くてもCランクの魔物もほとんど出ないことを表すものだ。セネルティエでは初等部と中等部はこの森でしか合宿を行わない。


「そういや、ロキ。何でフローラ嬢じゃなくてナージャ嬢入れたんだ?」


出発して5分ほど歩いたところで、アキレスはロキに問いかけた。この班を構築したのは紛れもなくロキである。


「仲間割れ起こされても困るからだよ。フローラ嬢がサンダーソニア嬢と仲が悪いのはお前をめぐっての事であるし、両者攻撃魔術はほとんど使えないだろ? となると起きるのは足の引っ張り合いだ。そこに割く余力は俺にはないし、お前だってカルとカミーリャ巻き込みたくないだろ?」

「ふむ」


ヒーラーがいない、とパッと見思われているこの班は、実際はロキが光以外の治癒魔術が使えることに加えて、カルも多少光属性の回復魔術が使えるため、回復の手は足りているのだ。まして班員の1人は、急所以外は無敵のアキレスである。


回復特化が居てもいいかもしれないが、彼女がアキレスと共に来なかった時点で、別の班に所属していた可能性が高い。


「得点の方式を改めて確認しとくか」

「それが良いかもしれないね」


アキレスの言葉に答えたのはサンダーソニアだった。

セネルティエの学生だけならば毎年あっているので少なくとも今回で3回目の合宿に来ているのだが、この班は半分が留学生であるため、改めて得点方法を確認することにする。


一度立ち止まって、安全を確認した後に、ロキに結界を張ってもらい、サンダーソニアが探知で近辺に魔物がいないことを確かめてから集合した。


「カル、ロキ、カミーリャのために改めて合宿における得点方法について説明しとくぞ」

「ああ」

「頼む」

「ありがとうございます」


普段から敬語で話していることが多いカミーリャの敬語はもう癖なのだろう。ロキが普段よりも口調が荒く聞こえるのは、普段敬語で隠しているということの表れかもしれない。


「まず、合宿期間は3泊4日、最終日の正午までに出発地点に戻るのがゴールだ。ポイントは拾得物で加算されていく。薬草、魔物の素材、鉱石、何でもアリ。薬草なんかに絞ってた班のやつらは事前に薬草の不足分とか、価格の確認とかの下準備もして合宿に臨む」

「この班の場合、戦闘がメインになるかなということで、事前の拾得物の価格についての下調べ等は行っていません」


注意すべき点としては、ごくごく稀にだが、アルティの元から湧いてくるゾンビに遭った場合――逃げるように言われている。ゾンビは基本的にうまくダメージが通らないので子供が戦うことを推奨されない魔物の代表格でもある。


「ロキは何か下調べはしたのか?」

「一応してきたけど、薬草狙いでもないから、必要性は感じなかったな」


カルの問いにロキが答える。サンダーソニアが調べていないと言ったことに、ロキならそれでも調べているだろうというカルの勘が働いたのかもしれない。カミーリャが口を開く。


「ロキ君と一緒に見てきましたが、魔物の素材だとやっぱり肉が一番消費量は多いですし、でも合宿中に持っておくのもあれなので、食料にした方が良いかもしれません」

「調味料は持ってきましたよ!」


ナージャが胡椒や塩の小瓶を取り出した。合宿中の食糧調達は自分たちでしなければならない。一応野菜類は持ち込み可なのだが、アイテムボックスを占領するので持ってくる生徒は少ない。


「とりあえず魔物を狩りながら進むってことでいい?」

「なら素材回収は俺に任せてほしい」

「じゃあ私素材剥ぎ手伝います」


今回ロキは支援に徹するつもりらしい。前衛が多い以上はマルチ型の者が支援に回るのは別に悪いことではない。


「んじゃ、戦闘位置の確認でもするか?」

「確認って言っても前と後ろの話でしょ?」

「まあなあ」


前衛しかできないのがカミーリャとアキレスとナージャ、前衛で魔術も撃てるが目立つのがカル、魔術師だが前衛も出来るのがロキ、攻撃ができず探知のみがサンダーソニアである。


素材剥ぎをナージャが手伝えるということは、戦う以外脳が無いと言えるのはアキレスだけになった。カミーリャは魔力が使えないのでちょっと置いておく。


「ナージャは狂化(バーサク)使わないで戦ってくれ。俺らじゃ合わせられねえ」

「分かりました」

「カミーリャと俺で基本は立ち回る。討ち漏らしはカルにやってもらう。ロキは後ろから魔術で獲物を狙ってくれ」

「分かりました」

「分かった」

「了解」


各々で動いた方がやり易いチーム構成というのはこういうものを言うのだろう。


「アキレス、あまり消耗が嫌なら俺とサンダーソニア嬢で掃討するが、どうする」

「いや、それは良いわ。とりあえず全員が何ができるのか知りたい」

「分かった」


ひとまずそれぞれができることをやるために、お互いにできることを見せておく必要があった。魔物がいる方へサンダーソニアの探知で進んでいくと、ロキが魔物を特定した。


「フォレストボアだね」

「種類までわかるの?」

「そのかわり範囲はあまり広くできないよ。サンダーソニア嬢の探知範囲、2キロくらいあるだろ?」

「300メートル先で種類が分かれば対応できるって」


サンダーソニアの言葉にロキはふっと笑みを浮かべた。褒められて嬉しい、という事だろう。


「フォレストボア、正面3体のみ、距離残り100!」

「フォレストボアなら、サンダーソニアは上に居ろ。カミーリャ、ナージャ、カルでやってくれるか」

「はい」

「分かりました!」

「1頭仕留めればいいんだな?」


サンダーソニアを抱えてロキが樹の枝に飛び上がる。3人がそれぞれ細身のバスタードソードを構えた。合宿の際に使用できる武器は、基本的には自分で用意せねばならないが、持っていない場合は学校からの貸し出しを受けることができる。


カルのバスタードソードはリガルディアで作ったもので、装飾が驚くほどに少ない。実用性重視のリガルディアらしい武骨な作りである。カミーリャのバスタードソードは帝国のものらしく、工房の刻印と椿のレリーフで装飾されたものだ。ナージャのバスタードソードは学校の貸与品で、シンプルだが血抜きの溝を両面に2本ずつ彫って軽量化も目指されたものとなっていた。


フォレストボアのドドドドドッ、という足音が聞こえてくる。ワイルドボアに比べて小柄だが小回りが利く魔物であり、木に激突するとか、そんなへまはしない。それと、ワイルドボアに比べて牙が大きいため、前衛は突き上げられないように注意が必要だ。


「結構デカいな」


アキレスの言葉にですね、と返したのはナージャのみで、カルとカミーリャは驚いたように目を見開く。


「これで大きいのか??」

「ワイルドボアより小さい……」


前方に何かがいることに気が付いたフォレストボアが少しスピードを落とした。とはいえその体躯はおよそ5メートル。ワイルドボアは大きいものだと10メートルに達するのでカミーリャの言葉は正しいだろうが、カルは完全に魔物のサイズ感に対する基準が狂っている。


「カル、リガルディアの魔物は他の地域のものよりも強靭且つ巨躯を誇るものが多い。リガルディアのフォレストボアが7メートル前後がザラとはいえ5メートルは十分デカいぞ」

「そうか、リガルディアが異常なのか……! 魔力や筋力の基準だけではなかったのだな」


ロキが樹の上から口を出したことで多少冷静になったらしいカルは、フォレストボアに対してバスタードソードを構える。後方または側面からの攻撃が基本となる。


「サポートしなくて大丈夫?」

「アキレスがなんと言うか、だな」


木の上に居るロキとサンダーソニアにも気付いている素振りのあるフォレストボア。アキレスはその様子を見て、サンダーソニアに声を掛ける。


「ソニア、索敵をしてくれ」

「索敵でいいの?」

「ああ」


ロキへの指示なし。ロキは構えを解いて完全に樹の枝に腰掛けた。


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