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Imitation/L∞P  作者: ヴィラノ・エンヴィオ
セネルティエ留学編 夏休み
356/377

12-26

タウアはずっと考えていた。自分は本当に主の傍にいていいのかと。それは、今に始まったことではないのだが、今回の合宿における班決めで特に考えなくてはならないことになっていた。


ロキの話では、恐らく班決めの時にも各自にポイントが振り当てられるはずとのこと。自分がリーダーになった時にはその者たちを集めることのできる情報網と人脈と手腕が問われているという事なのだろう。カミーリャはこの国に来て3ヶ月余りが経過しているが、それでもクラスの者たちと、その親戚や仲良しの者が他クラスに居ないとなかなかクラスの外に人脈を広げるのが難しい。


寧ろロキがゼロにすら人脈形成を命じていることを知って焦りが生まれた。ゼロとタウアの置かれた状態はかなり似ている。ゼロはイミットとはいえ平民である。竜をあえて特別視しないセネルティエではなおさら、リガルディア本国では持っていたであろう伯爵待遇が受けられなくなっているため、より平民としての扱われ方に拍車がかかっているはずだ。しかしロキが上流階級同士の繋がりに限らず、貴族社会全体を見て人脈を広げているのは見ていればわかる。


カミーリャの傍に控えているのが基本のタウアだが、最近はゼロと共に行動することも珍しくはなくなってきた。触れ合うのは平民や騎士爵、男爵といった平民及び下流貴族である。とはいえ実はロキが何か言っているらしく、ソルとナタリア、セトからの援護が入ることもしばしば。ロキがカミーリャとタウアを気に入っているんだろう、とはソルの言であった。


「……ゼロ」

「どうした」


ロキたちが解散してから、タウアはゼロに声を掛けた。


「……お前は、主と離れても、平気なのか」

「平気ではない」


即答だった。ゼロがロキを慕っているというか慕いすぎているのは既にリガルディアの貴族子弟の半数以上が知っていることだが、タウアの目から見てもやはりそうなのだ。

ゼロはロキ中心の生活を、それこそ今日まで8年ほど続けてきた。これに加えて主に対する心酔が混じればどうなるかはわかるというもの。


タウアもカミーリャへの心酔はあるが、ゼロはもっと根本的な所から桁違いに全身全霊を以てロキを肯定していた。見ていると恐ろしくもなる。


「なら何故、ロキ様に同じ班に入れるよう願わなかった?」

「ロキはそれを俺に望まなかった。俺の望みはロキの役に立つことだ。ならば、ロキが望むものを手に入れてくればいい」


それが、人脈だったという事なのだろう。ゼロの目は真っ直ぐだった。

人脈を築くのにも努力と才能は必要だ。タウアは目を細めた。


「それは、お前は得意なのか」

「いや、得意ではない。……だが、こんな俺が築いたものでも、ロキは必要ならば使うだろう。主が使えるものを増やすのも、従者の為すべきことだと思っている」


ロキに対する絶対的な信頼が見え隠れする。ゼロのそんな様子はタウアにとってはある意味理想的なものだっただろう。ゼロはタウアが何に悩んでいるのか分かっているようで、口を開いた。


「お前は、どうしたいんだ」

「主の役に立ちたい」

「具体的には」

「戦ったり、情報を集めたり。いろいろとできる方が良い」


タウアの言葉にゼロは少し悩む。


「……かつて、俺もお前と同じことを思っていた」

「そうなのか」

「ああ」


ゼロはタウアを誘って中庭へ出ることにした。聞かれて困る話でもないが、別に目立つ場所でする話でもない。

最近プラム王女が考案したというガラス瓶の水筒を食堂でレンタルし、冷たい果汁を入れてもらって、中庭へ向かった。


「……かつての俺は、人間、ひいては人刃について、何も知らなかった。理解していたのは、人間と竜の仲が悪いことくらいだ」


ベンチに腰掛けたゼロは口を開いた。タウアの知識は、これよりは発展している。ゼロの今の様子を見るととてもではないが信じがたいほど、人間と離れて暮らしていたことが伺えた。


「今は、違うんだろう?」

「ああ。ガルー……執事長に直接指導を受けた。6年間修行」


徹底的に叩き直された、とゼロは呟いた。いくつだった、と問えば、6から11の間、とゼロが答える。幼い頃にイミットとしての振る舞いを叩き直され、その後ロキの使用人として働き始めたという事なのだろう。


「俺より茶を淹れるのも、髪を結うのも上手い奴がいる。俺がそいつに敵うのは、戦闘以外にない」

「!」


それでも今回連れてこられたのがゼロであるということは、大きな意味があったのだろう。ゼロは、ロキを信じている。


「お前の主は、お前にどうなってほしいと思っているんだろうな」

「……」


タウアは瞑目した。そういえば聞いたことはなかったな、と。

いや、聞いても、主は、キョウシロウは優しいから、きっと、お前のなりたいものになればいい、と言ってくれるだろう。


少し、考える。


「……」


ゼロは何も言わない。それが少し、ありがたかった。



「――え?」


タウアが班を抜けるという選択をしたことを、責める者は居ないだろう。ロキがいる場所で、カミーリャに、カミーリャと離れる選択をしたことを告げれば、カミーリャは一瞬呆けて、それからすぐにふわりと笑みを浮かべた。


「そうか。お前の決定なら、俺は何も言わない。頑張って」

「はい」


ロキはそれを聞いた後、静かにその場を離れて行く。ロキはきっと、タウアがカミーリャと一緒にいようがいまいが関係なかったのだろう。タウアは、主のために動くと決めている。ロキは時折遠くを見ていることがあるので、それにカミーリャを巻き込まれないように見張っていなければならない。けれどそれは、近くにいるだけでは阻止できない。


(ロキ・フォンブラウは、現実に足が着いていないように見えることがある)


しかしそれをロキにぶつけるわけにはいかないのだ。たとえ本当にそうだったとしても、ロキがもしかしたらそれを悪いことだと言わなかったとしても、本当は悪い事なのだ。タウアは平民である。帝国の人間で、辺境伯の令息付きの従者であるとはいえ、リガルディア王国の公爵令息の不興を買ったら生きていられる保証はない。


なら、タウアはカミーリャが巻き込まれるかもしれない大事をいち早く察知したい。解決のために先陣を切りたい。カミーリャの手足は自分だ。


(ロキ・フォンブラウが関わると、大事が起きる。ならば、少しでも主の役に立てるように……?)


全部をロキのせいにするような思考に何かの統制された感覚を覚える。

ずきりと鬼の腕の付け根が痛んだ。


「?」


痛んだ辺りを押さえても、特に何も起きなかった。

カミーリャがそっとタウアを撫でる。痛みを堪えていると思われたのだろう。


「大丈夫か?」

「はい、大丈夫です」

「……えっと、どこの班に入るんだ?」

「ゼロに相談をしています」

「そうか」


それなら安心だね、とカミーリャは笑った。タウアは恐らくゼロの班に入ることになるだろう。イミットは複数集まると安心しきって他者を受け入れ辛くなる。ゼロは敢えてタウアを入れて他の種族の者たちと組む気だろう。


ロキ様はどこに行ったんですか、とカミーリャに問えば、彼はアキレス君とサンダーソニア嬢の所に行ったよ、と返ってきた。当初の予定通りのメンバーで挑むのかもしれない。タウアは、自分は本当にどうでもよかったんだろうなと思いながらも、他国の貴族が少し気を向けてくれただけでも相当周りに気を配っていることの表れであることを知っているから、何も言わない。


ロキに不満を持つような思考統制の印象を、タウアはカミーリャに伝えなかった。



教室の隅で、ずっと悩んでいる少女を見やる。その少女の能力をタウアは少し知っている。ゼロが誘おうとしていた少女だ。タウアとポジションが被っていることと、ゼロが動き辛いことから、彼女は班員候補から外された。


「……アストレイ嬢」

「はいっ!?」


少女は驚いて顔を上げた。暗い縹色の髪には白いメッシュが入っている。赤い瞳が日光を浴びてきらと光った。


「班は、決まったか」

「うう……」


へにょ、と力なくうなだれた少女に、タウアは自分が感じたことを言う。


「声を、かけてみるべきだ。動かなければ、どうしようもない」


自分の意見をひとまず言ってみなければ、だめだと。自分も動けたからこそ言えるのだなとは、ようやく気付いた事実であったけれども。


「組みたいと思った人に、声をかければいいと思う」

「頑張ります……」


タウアはこちらに来て誰とも繋がりなどなかった。ゼロが良くしてくれた。誰かに気をかけるのは、自分にもできる。少ししか彼女とは直接話したことなどなかったが、彼女にはこれで伝わる気がした。


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