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Imitation/L∞P  作者: ヴィラノ・エンヴィオ
セネルティエ留学編 夏休み
355/376

12-25

2日後、生徒会長からの連絡として集会、及びプリント配布と新聞部の学内新聞号外で、今年の夏合宿の班決め要綱が発表された。


基本的な方針としては、これまで通り、班の内部で上下関係ができないようにふるまうように、という条件である。他に、最低3クラスから人を引っ張ってくること、4人以上6人以内で班を組むことの条件はそのまま適用されることになった。


そして、主従が一緒にいる場合、何らかの事情で離れることができない場合は、2つの班に分かれたうえで2班協力して合宿に挑む、対等な扱いをした上で1つの班に収まるなどの対応を取るように、という割と漠然とした内容の指示が下ったのである。


さらに、今回は班内部での行動もポイント付与するという発表があり、上流貴族には特に厳しい採点条件となってきた。


班員決めからポイント付加対象となったことで、具体例を入れたうえで各々の判断に任せるというぶん投げ式の採点になったため、上流貴族は身の回りのことを普段しない分できない者が多いこともあって、恐らく班内の協力的行動であるとか、協調性であるとかの部分でのポイント付加が見込めないため、最初にしっかり稼いでおく必要がありそうだ。


しかし今回は、連絡が遅くなったこともあり、生徒会が企画した立食パーティできっかけを作る形式になった。パーティが開かれるのであれば、ロキにとっては独壇場である。ロキが班員候補として見ているのはひとまずカルとアキレス、サンダーソニアもしくはイナンナだ。この4人中3人がいれば班構成の条件は満たせる上に、リガルディアの貴族がリガルディアの王子を守ることができる。


「ロキ、どうするよ」

「セト?」


ひとまず、と言ったところだろうか。話し合いとも呼べないような状態で、セトがロキに話しかけてきた。セトの態度は話を聞くとか話し合おうという姿勢ではなく、ロキが言うであろうこともなんとなくわかっていて話しかけてきたようだ。


「分かっているくせに、何を聞きに来たのさ?」

「いや、方針とか? お前が都合のいい方針があるなら合わせるぞ?」


セトは、主従の話を聞いて、セネルティエの合宿が単なる魔物狩りの合宿とは異なることを理解したようだ。ロキは少し考える。


「……んー、そうだな、できるだけセネルティエの下流貴族と平民とのパイプ役を頼みたい。オートは、あれは多分俺たちが居なくても何とかできるだろうからいいや」

「うわ、ロキがオートを見捨てたんだが」

「見捨ててねーわ。あいつもあれでフュンフだ。命を懸けるとこ以外でなら死なんだろ。……多分」


セトとロキは気安く話すことができる。いつからだったかは忘れたけれども。

セトはロキの方針の確認ができたためか早速準備を始めるようだ。


オートに関しては、少々性癖に問題がある為ロキが大丈夫と明言するのは良くないと思ったのかもしれない。


「ロキってオートのことだけは断言しないよな」

「俺あいつ扱いにくい」

「あ、これ本音かな?」


普段はあまりいないのだが、現在はちらちらと教員らの使い魔を見ることができる。ばっちり監視体制が築かれているようだ。ロキは魔物から好意的に見られやすいので、なるべく使い魔たちと目を合わせることは避ける。


「俺がカル殿下と組めたら、追って指示を出すことになるだろうな。まあ、お前人が良いから友達はもうできてんだろ? 別のクラスの子誘って組んでていいぞ」

「まじでオートはどうすんだ?」

「オートは研究仲間ができたみたいだからね、パーティのバランスは置いておくとして友達と組んでいいだろ。ゼロは今回放置」

「ゼロ爆発しないといいな」

「ほんとにな」



言葉を交わしながら学生食堂へと向かう。もうすでに合宿班決めの火蓋は切って落とされている。とはいえ実感が湧いていない者もいることだろう。

学食に入ってすぐに目を引いたのが取り囲まれているカルだったので、ロキとセトは顔を見合わせた。


「カル殿下、お昼御一緒できませんか?」

「ここはぜひ私たちと!」

「カル殿下、私たちとはどうでしょう?」


これは助けてやらねばならないのだろうなとセトがぼんやりと考えた時、ロキは自然な動作で真っ直ぐカルの許へと向かっていた。銀糸が揺れ、カルの視界に宝石の瞳が映りこむ。


「カル、一人でいるのはだめだって言ったろ」

「ロキ」


ふい、と大振りに腕を動かすことで周囲の視線も引いて見せたロキは、動かなくなった貴族子弟をすり抜けてカルの手を取ると、するりと人混みを抜けてセトの所へ戻ってきた。


「セト、適当に席取りを。あ」

「ん」


セトにカルを押し付けて、視界に入ったタウアの方へと向かう。すぐ後ろには、思った通りカミーリャがいた。


「カミーリャ君」

「ロキ君? どうしたんだい?」

「いやあ、周囲から狙われっぱなしで息を吐く暇も無い。お昼だけでも一緒にどうだい?」

「ああ、ありがたい申し出だ。お言葉に甘えさせていただくよ」


爽やかな笑みを浮かべて、カミーリャはセトとカルがいる席まで歩いて行った。ロキが適当に注文をしようとカウンターへ向かうのに、タウアがついてくる。


「ロキ様」

「なんだい、タウア」

「ゼロは?」

「亜人に人気だ。今回の班決め、俺とゼロは分かれる」

「!」


タウアはほぼほぼロキの傍にいるゼロが今いないことに疑問を抱いたらしい。ロキは自分たちの決定をタウアに伝えた。


「それで、いいのですか?」

「カミーリャと君を誘うつもりだ。6人班にして、他の3人を違うクラスから選べばいいと思っているよ」

「……」


願ったり叶ったりではあるのだろう。タウアはそれでも少し不安そうだった。

2人で5人分の注文を済ませて席に向かうと、カルとカミーリャが婚約者について話していた。カルは学んだらしい、婚約者と仲の良い令息に声を掛けてくる令嬢はほとんどいないと。実際のところ、余程の胆力があるか、空気が読めないかでなければなかなかこの空気感で婚約者の話をされながら自分の売り込みができる娘はいない。


「ふむ、薄紫の髪の令嬢か。珍しいな」

「ええ、金属製の装飾品が似合うのです。殿下はご令嬢に髪飾りを贈られたことはございますか?」

「ある、が、贈ったご令嬢の髪がウェーブがきついことも鑑みるべきだったと後悔したな。色は合っていたんだが」

「そういう時は、幅の広い布製の装飾品でもいいかもしれませんね」


カミーリャもちゃんと婚約者の自慢ができる人のようだ。近くへと戻ったロキは静かに席に着く。


「あ、おかえりなさい、ロキ君」

「ただいま。適当に注文してきたけれど、良かったよね?」

「ああ」


タウアは紅茶のセットを借りに行っている。セトはロキが戻ってきたのでタウアの手伝いに席を立った。


「カル、誰かと組みたいという希望はあるかい?」

「お前かセトだな。他は、お前が選ぶだろうと思っていたが」

「俺もそのつもりだった」

「俺に聞く意味は?」


カルの返答にくく、とロキが肩を揺らして笑う。タウアが紅茶を淹れてそれぞれの前に配膳した。


「ロキの考えは?」

「カル、俺、カミーリャ、アキレス、サンダーソニア嬢かイナンナ嬢、タウアの6人だな。上から下まで入ってるし、タウアとカミーリャを引き離すことも無い」

「それフローラ嬢はどうなる」

「気にするな」


フローラのことまで気にし始めたら何も言えなくなってしまう。ロキたちに口答えしてくるほど愚かでもないだろうとは思っているので、そこまで気にする必要性をロキは感じない。もしかするとこじれるかもしれないけれども。


「フローラ嬢はアキレスと同じクラスだからな、どっちかというと違うクラスのサンダーソニア嬢の方が良い」

「ああ、それは確かに。まあそうでなければ、レディを1人紅一点にすることも無いか」


ロキが言ったメンバーはカルとアキレス、ロキとカミーリャとタウアがそれぞれ同じクラスなのである。こうなると違うクラスに所属しているサンダーソニアが都合がいいのは事実であろう。


「……」


紅茶を準備し終えたタウアが不安そうにロキとカルの話を聞いている。カミーリャは少し悩んでいるが、カルとロキの班に入ったときと、それ以外で自分がメンバーを集めたときの勘定をしているのだろう。


「でも確かに、女子1人はちょっと考えるべきだったな。せめて2人にするか」

「そうなると抜くのはアキレスか」

「そうなるな。アキレスも動きやすくなるだろう。まあ、あの2人に捕まっていなければの話だが」


正確には、フローラに捕まり、アキレスがサンダーソニアを捕まえて3人所帯になっている状態に陥っていなければ、の話だ。そうなったらアキレスは諦めて、イナンナとサンダーソニアを誘うことになるだろう。


ゼロが注文した食事を受け取りにカウンターへ向かった。周囲を見渡せば、それぞれの班の組み合わせはぼんやりと固まってきているようで、十分な人手を集められた班はその班で食事を始めているようだ。


彼らを狙う他の班の人間たちが見ているのを横目に、ゼロが戻って来て配膳していく。補助に回ったタウアは、自分がどう動けばいいのかをずっと考えているようだった。


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