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Imitation/L∞P  作者: ヴィラノ・エンヴィオ
セネルティエ留学編 夏休み
354/377

12-24

「本当にごめん、今までもずっとこうだったからそのままにしちゃってた」


生徒会室に訪問したロキとカミーリャに、最初は何事かと構えたプラムだったが、タウアの事情を聞いて、自分が失念していたことを詫びた。確かに今までもこうだったというなら突然それを適応できない者を連れてきたカミーリャ側の責任であろう。


「ですがプラム様、タウアに対し特別措置を取れば、他の生徒がいろいろ言ってくる原因にもなり得ます」

「それはそうだけど、タウア君きつそうだったもの」

「こちらの年間行事はあらかじめカミーリャ様にお渡ししてあります。不参加ないし何らかの方策を練るだけの時間はある程度はあったかと思われます」


この時ばかりはアテナが正しいだろうな、とカミーリャも思った。確かにそんな紙貰った。ロキが口を開く。


「……俺が言えたクチではないですが、これだけ立て続けにいろいろなことが起こっている以上、カミーリャ君を責めるのはいかがなものかな。それにアテナ嬢、帝国貴族からすれば、まともに対応をしなかったことをセネルティエ王国側の非として論い、プラム殿下の裁量不足と噂をするぐらい訳ないことだ。カミーリャ君の家は辺境伯。皇族に限りなく親しく接する家であることを念頭に置いたうえで対応しなければ、カミーリャ君がその気が無くても、帝国の中央貴族に利用されかねないよ。例えば、アヴソルートとかね」


アテナがこれまでの慣例を守りたいのは分かるが、まずはこれまでの慣例とカミーリャの立場、水面下でリガルディアとガントルヴァがバチバチやっている(事実上の冷戦)状態であること、セネルティエはあくまでもリガルディアの側についてしまっていることを考えなければならない。


アヴソルート、と具体例を出したことでアテナの表情が険しいものになった。帝国を警戒するなら、皇室以外にこの家を警戒しなければならない、と噂される貴族がいる。それが、アヴソルート公爵家という貴族家だった。


「えっと、すみません……」

「本当は、帝国側が急に君を捻じ込んだため今年の年間行事を確認することが遅れたのだとか、これまでの慣例に則っているのなら離れられないタウアのような者を従者として連れてくること自体がおかしいとか、それを止めなかった親御さん如何なものですかとか、いろいろと言えることはあるけどね」

「うっ……申し訳ありません……」


恐縮するカミーリャに対し、ロキは肩をすくめる。間違ったことは言っていない。今ならロキにもわかる、もともと1年以上前から留学の話をしていたのはリガルディアであって、そこに乗っかってきたのがファーファリア。ただしファーファリアは学年をずらしての対応が見られる。もともと技術協定を結ぶ予定で先に技術者を多く輩出する家同士で友達にでもなれればというささやかな期待とともに送られてきたのがオートとパルディなのだろう。よってパルディの母国シルヴィニアもまあ対応は可能だったろう。


本当に問題なのは、ガントルヴァなのである。帝国の依頼をセネルティエが断るなんてできっこないのだ。そこに放り込まれたのがしかも中央の情勢に疎いとはいえ辺境伯という破格の家格を持つ少年。最も信頼がおけるという事と、同年代の使用人ということでタウアを選んだようだが、本来ならばそれは止められてしかるべきものだったはずだ。止めなかったことに意味があると考えた方が良い。


「まあ、でも今回は、セネルティエ王国の対応力を見せていただこうじゃないか。きっとタウアと君を同じ班にするとか、2つの班での行動を認めるとか、1つの班の人数を増やすとか、いろいろやり方とこじつけ方はあるからね、何か考えてくれるでしょ」

「……」


カミーリャの少し潤んだ瞳がプラムに向けられた。顔が良い、なんて感想が浮かんだプラムだが、タウアは鬼の腕を完全に制御下に置いているわけではないことと、カルやロキがベヘモス戦の際タウアを一切気遣わなかったことから、鬼の腕による侵蝕は以前より進んでいる可能性があるな、という考えに至ったところで、1人で考えてはだめだという結論を一旦出した。


「カミーリャ君。一旦考えてみますから、少しだけ時間をくださる?」

「っ、はい、それは、是非に」


ロキは用事は終わったと言わんばかりに踵を返した。プラムが用件を受け取るまでがロキの目的だったのだろう。


「忙しい中ありがとうございました。では、失礼いたします」

「よろしくお願いします。失礼いたします」


ロキとカミーリャが去っていくのを見送って、プラムは執務机に伸びた。


「……アテナ、毎年班って何人だっけ」

「4人から6人です」

「同じクラスの人ばかりになってはいけないんだったよね?」

「必ず3クラス以上のクラスから人を集めてこないといけませんね」


プラムはまとまり次第新聞と掲示板への掲載をするから準備だけしておいて、と言って、今回の合宿のルートを改めて確認するために席を立った。



「ロキ君、ありがとう」


ロキはひとまずカフェにカミーリャを連れ出した。プラムがどうするかはすぐに答えが出るだろうから、ロキもどう班を組むかを考えなければならない。ロキはカルと組むことができない可能性があるが、対等に扱うくらいはできるので、恐らく改めて発表されるであろう班の条件を考えつつ、注文したチーズケーキを口に運んだ。


「こちらこそ、自分の考えをまとめる時間も必要だと改めて思ったね」


ロキの言葉にふふ、と笑ったカミーリャは、レモンのタルトを口に運んで目を見開く。おいしいですね、と目を細めたカミーリャに、ロキも小さく頷いて返す。レースカーテンから差し込む光がアイスティーの半透明な影を落とし、ロキがぶち込んだ正方形の氷がからりと音を立てた。


「ロキ君は、どうするんですか。誰かと組むなら」

「そうだな。第1候補はアキレスかなぁ。あとは、俺がカルと組めば皆安心すると思うから、その辺かな」

「4クラス中3クラス以上の人が入っていなければならないそうですよ。カル殿下とアキレス君は同じクラスでしたよね?」

「あー、ならサンダーソニア嬢か、イナンナ嬢を取れればいいかな?」

「うわー、俺の知り合いもそこらに散ってるんですけれども」


はは、と互いに笑みを浮かべる。ロキは、カミーリャの交流を邪魔するつもりはないけれども、カミーリャの家がどんな立場にあるのかくらいは調べた。その結果として、彼はカルかロキを交渉相手に選ぶだろうなとあたりがついていた。恐らく今回の合宿でもカルかロキを狙ってくる可能性は高い。


(自然体だから、カルに任せていると上手く丸め込まれそうだ)


カミーリャの肩肘を張った態度でないその姿には好感を覚えるが、カルの前でその調子でいられると、カルが交渉を断り切れなくなりそうだ。竜は基本大らかだからこそ、人間の整理整頓したつもりで枝葉の節が残った話には混乱しやすい。


「カミーリャ君」

「はい」

「もしよければ、部屋ででも貴方のお話はお伺いしますよ。いつもタイミングを伺っておられる」

「……」


わざとらしくかしこまった口調のロキの言葉にカミーリャは苦笑を浮かべた。


「……これ以上の隠し立ては、無理そうですね」

「人間観察は得意なつもりだよ」

「ふふ」


しっとりした舌ざわりのチーズケーキを口に運び、アイスティーのグラスを傾けた。カミーリャの狙いは何となくわかっている。辺境伯に彼の父を任じたのは誰だったかなと思い返しつつグラスを置いた。


「まあ、あとはそうだな、気が向いたらカミーリャ君を誘うのも考えとくよ」

「定員は6人でしたよね」

「そうだね。タウア君次第かな」

「……分かりました。話してみます」


カミーリャもレモンのタルトを食べ終えて、アイスティーを飲む。黒い髪に光が反射して、艶やかだ。


「腕、が、胸あたりまで進んでいました」

「……おや」


少々要領を得ないカミーリャの言葉にロキをは目を丸くした。そうか、鬼の腕の侵蝕は進んでいたのか。ロキは目を伏せた。


「俺には、何もしてやれません」

「彼が耐えられるのは、君がいるからだろう。何もしてやれてないなんてことはないさ」


カミーリャの言葉にロキは返す。事実だろう。タウアがカミーリャに心酔しているのも多分、カミーリャ以外に支えがないからだ。

帝国の人間に恩を売る、なんてことを考えないわけではないが、学生なんだからそんなことは放っておいても問題ないはずだ。ロキは自分を君付けで気安く呼んでくれる目の前の少年に最大の礼を尽くそうと思った。


チーズケーキを食べ終えアイスティーを飲み干せば、口の中にチーズケーキの甘さがふわりと広がる。アイスティーのグラスの氷が再びからりと音を立てた。


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