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Imitation/L∞P  作者: ヴィラノ・エンヴィオ
セネルティエ留学編 夏休み
351/377

12-21

この話にはグロテスクな表現が含まれます。ご注意ください。

エリスが連絡をしてくる頃には、ロキがメモを用意し、オートもノートを準備していた。使用人ではあるが呼ばれたラックゼートも顔を出し、情報共有をしておいた方がいいと考えられたメンバーをカルが集めていたので、エリスからロゼとヴァルノス、そしてルナも参加することになったことを伝えられた時点で、なかなか人数の多い話し合いになっている。これに加えて横でエリオが聞いているようで赤い色がリンクストーンに混じっていた。


「では、今回は話し合いのメインが転生者になる可能性が高いことと、ひとまず時間の短縮をしたいことから、面倒な敬語は排除する。話し合いを始める」

『はい。ではまず、議題について教えていただけますか? 兵器についてで私に聞いて来たってことは、私を指定したのロキ様ですよね?』

「ああ」


ロキの言葉に即座に応じたエリスは、流石高校卒業後の人生を多少なりとも歩んできた転生者だといえるだろう。すべての敬語が抜けないのはこの際気にしない。ロキは少し悩んで、リンクストーンの向こう側に伝わりやすい言葉を選ぶ。


「実は本日、魔道具によって俺に対し、過去のループのロキからの干渉があった。ここのロキ・フォンブラウが“慟哭騎士”を名乗ったため、以降この世界線を慟哭騎士ルートと呼ぶことにする。本題は、この慟哭騎士ルートにおいて、リガルディア王国は、ガントルヴァ帝国に対し敗戦しており、その際使用された武器が核爆弾である可能性が高いことから、詳細な核兵器についての情報を得たいと思案したことによるものだ」

『核兵器!?』

『核兵器開発まで技術すっとぶの?』

『……』


ロキの説明を聞いたエリス、ロゼ、ヴァルノスの反応は三者三様であった。核兵器が出てきたことに驚いた様子のエリスと、核兵器を作り上げるだけの技術力があっただろうかという方向に試案を始めたロゼ、何も言わないヴァルノス。ロキ的にはヴァルノスの反応が一番末恐ろしい。最もこの中で科学に近いのは錬金術師であるヴァルノスだからだ。


「……慟哭騎士の話によれば、補給拠点になっていた街に向けて投下され、爆発した後に残ったのは俺と父・アーノルドのみだったそうだ。街に居たことがはっきりとわかっていたのはルナで、遺体の一部すら残っていなかったようだ。慟哭騎士はロード・カルマと組んでたようだから、それで探し損ねたなんてことはないと思っている。あとは、ルーリー山脈が消し飛んでいたりもしていたので、戦争が起きていたのは間違いないと思う」


ロキの言葉にルナが口を開いた。


『ロキ、ロキ自身がその当時の遺体の状況とかを見たわけではないんだよね?』

「ああ。だが、嘘ではないだろうよ。保管された遺体は見て来た。……それに、ただの爆発が効かないはずのソルが焼かれて死んでいたのも気になる。両腕と頭部だけが残っていて、特に頭部の損傷が酷かったな」

『魔力的なもの?』

「可能性が高いから、父上たちにも検証してもらえるよう働きかけてみる」

『分かりました』


ルナは考え込む。カル達には核というものがどれほど恐るべきものなのかがいまいちわからない。ロキに遺体の状態を聞いたということは特徴が出るものなのだろうが。


『であれば、一度検証してみなければ詳しいことは分からないんじゃないかしら?』

「ロゼの言う通りだが、ソキサニス公を動かす材料が欲しい。今の時期だと帝国とバチバチやってるはずだからな」


『イミドラ』における知識によって帝国側の動向を多少知っているロキの言葉であるため、ロゼはなるほど、と納得したように引き下がる。


『じゃあ、ロキ様。一応核兵器の構造についての説明でいいですかね?』

「ああ、頼む。せめて俺がきちんと理解できれば説明はできる」

『分かりました!』


エリスが簡単に核兵器についての概要を話し始め、ロキがメモを取る。大まかにロキが知っている通りの情報をエリスも述べたが、カルを震撼させたのはその後遺症についてだった。


「……放射線、か……」

『こればっかりは実際に放射線について実験しないと何とも言えないですけど、耐えられるのは間違いなくフォンブラウだけだと思います。フォンブラウって火に対しての耐性が高いんでしたよね?』

「そもそもがかなり頑強だからな。ただ頑強なだけならば、ロギア公が生存していないのは気になる」


核兵器は特に、光線、爆風、爆縮と放射能の4つ大きな波がある兵器であると理解していい。光線で皮膚を焼かれ、爆風に吹き飛ばされ、爆縮で身体を引き摺られ、放射能で後遺症が出る。水が汚染され、生物が棲めなくなる。


「ねえロキ、どれかだけならば公爵たちは耐えられそうだよね?」

「うん、可能性は高いよ。そもそも王家は光線で内臓まで焼かれるようなことも無いだろうし、爆風で身体が吹き飛ばされるのはゴルフェインも耐えられるだろう。今のゴルフェイン公爵家より猛者揃いのはずのファルツォーネ侯爵家の生存者がいなかったのもちょっとね」


オートの言葉にロキは頷く。するとソルが口を挟んできた。


「でも核兵器って爆縮が一番ヤバいって聞いたけど?」

「直前の状態が小さいものが爆発によって一瞬で体積が何百倍にも膨らんでいる状態だからね。膨らむってことは熱があるということ。その熱が放出されたら次はどうなると思う、オート」

「熱で膨張したものは冷却されると縮小するよ! 間違いなく空気でも縮むね! しかも膨らむ力より強いんじゃないっけ? ばくしゅくってもしかしてそれで吸い込む力で生き物の身体が物理的に持っていかれるってことかな?」

「その通りだよ」


オートは現象を理解したようだが、セトは身体が持っていかれる、の方にビビッてひぇ、と蚊のような声を上げた。


「人刃って放射能に耐性あるんスかね?」

「というか皆髪の毛残ってたし逆にルナのはなかったしよく考えたらあの時残ってたのはほぼ人刃か竜のだったな。オート、お前何かそういう耐性があるのか?」

「ないよ! 強いて言うなら母様が水属性だよ!」


これはしっかりデスカルやループを覚えている者たちに話を聞いて情報を集めなければならないなとロキは改めて思った。


「しかし、こうして情報を集めるだけでどうにか対策が打てるものでもないのだろう? なあ、ロキ」

「まあな。正直、今回はカルに核兵器の威力を知ってもらうことが優先事項だ。俺たちの時代にはもうそれを写した写真も見せてもらえないほど規制されていたから、上手く伝えるのはちょっと難しいんだが」

「写真ってあれか、景色を絵のように焼き付けてたあれか」

「ああ」


カルは今回の話し合いの肝が自分だと分かると、どんな状態になるのかの説明をロキに求めようとする。ロキは先に、自分が実物を見た経験はないことを伝え、そのうえで情報共有をすることにした。


「ちょっとカルに見せてくる」

『記憶の共有ですか?』

「ああ」

『いってらっしゃい』


ここで転生者以外のメンバーには、ロキが何故レストルーム近くの空間にロキがカルを連れて行ったのかが想像がつかない。

ロキとカルは手を繋いで額をこつんと付き合わせた。ロキが持つ闇属性の特徴として、相手の思念や記憶やらに干渉することができるが、光属性に対してはその限りではない。光属性のものに対してはロキは直接触れる必要があるのだ。


「見せるぞ」

「ああ」


ロキが知っているものと言えば、再現人形とか、モノクロの写真に色を付けたものとか、そういうものだけれど、今のロキはその限りではない。


「……??」


カルの困惑した表情を眺めながら、ロキは魔道具の中で、慟哭騎士から拾ってきた情報を整理して並べていく。慟哭騎士との接触によって、ロキに記憶のように連続した情報として譲渡された記録。ロキ自身は前回以前の周回の記憶は持っていない。しかし、こうして譲渡された記録は記憶のように頭の片隅に残る。これから先きっと、ロキはこの記録を理性でもって抑え込むことになるだろう。


爆弾で消し飛んだ者たち。消し飛ばないまでも皮膚が焼け爛れてゾンビのように両腕を前に突き出して歩く者たち。そしてその後だろうか、曇った空から竜が落ちるさま。ぶくぶくに膨らむ誰かの腕。ロキ自身の腕は綺麗なもので、被爆したはずの人刃の遺体はほとんど変化が見られず、アーノルドやジークフリートも平然としている。


その中で、もはや原形の分からないほどにぐちゃぐちゃになってしまったエリスの顔があった。ああこれがエリスだったんだ、とロキも思った。抜けた髪でミサンガを作ったのはエリスの兄イザークで、こちらも被爆の影響が大きかったが、火属性だったおかげかエリス程見るに堪えない姿ではなかった。


エリスは光属性で、回復や治癒に特化しているから、死ねないのだ。長らく死ぬことができなかったのだ。けれど確実に放射能で身体は蝕まれていく。エリスの回復(ヒール)は本人の持つ回復、治癒能力の底上げという形で行われているようで、故に設計図が傷付いた細胞は戻らず崩壊していくのだろう。


エリスの崩れた顔をロキが眺めている。手足を釣り上げて、できるだけ接地面積が減るように体勢を維持しているエリスは、皮膚がすべてなくなっていた。あの白い肌の下はこうも赤いんだと、変な感想を覚えた。


ロキが何か言って、ヘルが横に現れた。ロキはそっとエリスののどに刀を突き立てる。力の抜けた腕がベッドにべちゃりと落ちた。


「っ、」


カルが吐き気を覚えたようでロキの額から額を離してそのままレストルームへと向かった。ロキは、特に何とも思わない。擦り切れてしまったのだろうか。


「……まだお前は何か感じれるんだなあ」


ロキの呟きが虚空を切る。

それまで無言を貫いていたラックゼートが、ロキの頭を撫でて、ぬるくなった紅茶を淹れ直してくれた。


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