表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Imitation/L∞P  作者: ヴィラノ・エンヴィオ
幼少期編
35/376

1-34

2021/10/12 改稿しました。

フォンブラウ領の屋敷に違和感のある護衛が居たなとロキが口走った時、リオの表情が抜け落ちたことに誰が気付いただろう。眩しいね、というロキの言葉で、リオもデスカルもかなり危機感を覚えたようだった。



王都に戻ったアーノルドは早速仕事に取り掛かってしまったので、子供たちの面倒は使用人たちが見ている。入学直前とあってロキと同い年の子供たちの家が主催する茶会もほとんどない。


「もうすぐ入学とか言いながらものすごくゆっくり過ごしてるな」

「まあ、ロキ様特に問題も起こさねえしなあ」


ロキという神格の加護を持っている子供というのは、基本的に扱い辛いことで有名である。幼少期扱い辛いほど後々もっと扱い易くなるので、ロキはどちらかというと大人になってからが厄介なタイプだと予想される。


ちなみに現在ロキは転移魔法の習得に全力を注いでいた。本人曰く寝坊した時の為らしいが、正しくはデスカルが勧めたからである。転移魔法は慣れないうちは魔力の消費量も尋常ではないので、今の内にある程度慣らしておこうというデスカルの考えで、習得を頑張っている所だ。転移魔術ではないのは、魔法の方が何かあった時にサポートやリカバリーが利きやすいからである。


シドとデスカルがロキの様子を見ながら駄弁っていた。アンリエッタもいるし、リオもいるのでそこまでずっと見ていなければいけない訳でもない。

ロキが転移魔法を失敗してかなり上空から落下してくる。それをリオが浮遊の魔法をかけてゆっくり下ろした。


「転移魔法ってあれどういう原理でやってんスか結局」

「魔術でやると座標計算とかいるらしいが、結局のところ、囲碁と変わらん」


俯瞰的に場面を見るように世界を見下ろせばいいと、デスカルはロキに教えている。

そこに行きたいと思えばいいのだと。

リオのやり方だとかなり空間把握を鍛えなければならないので、魔力を上手く扱えるようになってから覚える方法になる。


ロキ神自体が空を飛ぶ小道具を持っているので加護持ちであるロキはその力も持っている可能性が高い。そしてそのデスカルの読みは中って、ロキは『空と陸を駆ける靴』の権能を解放した。本当はリオに支えてもらわなくなって1人で降りてくることは可能だが、リオが構いたいことと、空中に放り出された時の恐怖心に慣らすためということで権能をあまり使わずに落ちてくることがほとんどである。


転移魔法の訓練と称して空を飛ぶ練習を始めたらスクルドがそわそわし始めたり、フレイたちが教えろ教えろとやかましくなったりした。案外子供の相手が好きなデスカルにはいい経験だったかもしれないが。


デスカルはロキが再び転移魔法を失敗して落ちて来るのを眺めながら、隣にいるシドに問いかけた。


「アウルム、今は楽しいかね」

「ん? 楽しいっスよ? この時間がずっと続いてほしい位には」

「……」


この後あまりよくないことが待っているという事か。デスカルは小さく息を吐いた。デスカルはこの世界の住人ではないので、干渉して良い事と悪い事が存在している。そして、シドのこの言い方は、デスカルではどうしようもないことを指している。


「何が起きるんだ? ロキに言ったらどうにかならんの?」

「何が起きるかは知ってるけど、どうしてそうなるかは思い出せてないんスよ」

「で、何が起きるんだ」

「俺の今の両親は死にます」


シドの言葉にデスカルがシドを殴ったのは、まあ、仕方のない事である。シドの出身はセーリス領ではあるが、セーリス領の一番上の貴族はフォンブラウだ。この国はあまり寄親制には頼っていないが、大まかに最高権限を持っている貴族くらいは決まっている。


リガルディア王国は大まかに分けると王族の直轄領、6つある公爵家のうちドラクル大公家とクローディ公爵家を抜いた4つの公爵家が治める東西南北の方角の領地の5つの領地で成り立っている。フォンブラウが治めるのが西側であり、セーリス領はフォンブラウが治める土地の隅っこにある特殊な領地である。通常フォンブラウ領、と呼ばれているのは公爵家の直轄地ということになる。セーリス領の領主はあくまでもセーリス男爵で、西側であるので大まかにフォンブラウの意向に従う、という指示系統ができているだけだ。


「突然襲われるなんてこと、あの土地であり得るか」

「うちは商家っスよ? セーリス領を出る機会ならいくらでもある」


ふと、ロキが目標にしていた台の上にしっかりと現れた。転移魔術が成功したらしい。


「……お前、ご両親助ける気ないだろ」

「助けようにも助けられないんですもん。俺が死んだり、両親が死んだり、そもそも何もないこともあるし」


確定未来じゃないと回避はできない、とシドはぼやいた。正直、そのことにはデスカルも承知のことであるらしかった。


「俺が見た時はお前の両親普通に居たしな」

「……正直、居たら後々ロキ様が楽、居なくても普通、くらいの人たちだから、俺的にはどっちでもいいって感じっすね」

「……スレてんなあ」

「俺は女将みたいにメンタル強くねーんで、そこは御愛嬌っス。何度も死なれてたら、何も感じなくなってくるっスよ」


昔はもっと明るくてメンタルつよつよの子だったのに、とデスカルが笑うと、シドはロキを見やる。


「ロキ様の傍に居ると、感情が戻ってくる感じがして、生きてるって感じるんスよ。あの人も、スクルド様の事で滅茶苦茶大変だったのにさ」

「あれは感情をコントロールしながら感情移入ができるタイプだからな。替わりに足場を支えてやらにゃ、なりふり構わず救世主兼悪役役回り(ロール)するから」


デスカルもロキを見やる。魔法が成功したことを喜んで、リオに抱き着いているロキは、年相応の子供にしか見えない。抱き着かれているリオの方はかなり感情の起伏が少ない種族なのだが、それでもロキの頭を撫でてよしよししているあたり、ロキを気に入ったのだろう。


「……何で前回の時点で来てくれなかったんスか」


シドが口を開く。


「時計がまともに役目を果たさない世界でどれだけ急いで来たよっつってもお前信じねーだろ」

「あー、もしかしてナツナさん以外も契約してたのが居たんスか」

「不死鳥と竜人は何人か契約してたのが居た。アルヴラントのやつらと、あとメタリカ。それでふさぎ込んじまってんのがアレキサンドライトだな」

「ルビーたち来るのにアレキサンドライトが来ないのってそのせいか」


上位者と呼ばれる物にも複数の種族がある。アツシと同族の名を出したデスカルは、ロキに一番合ってるメタリカなのに、と呟く。シドは、だからこそロキが二度とその子を呼ぼうとしないことが、容易に想像できた。


「……アレキサンドライトから来ないと、ロキ様はアレキサンドライトに辿り着かないっスよ」

「みたいだな。……たった一回精霊との口約束破っただけで、『精霊を二度と利用しようとしないように』なんて誓約掛けるからこうなるんだ。馬鹿め」


利用しようとしたことなど一度も無かったくせに、とぼやくデスカルに、シドは、デスカルがなんだかんだ言いながらかなりロキを見ていたことを知る。そしてふと、デスカルも契約を結んだことがあると聞いていたことを思い出す。かなり力のある上位者でなければロキの前に姿を現すことができないと分かっていたわけではないが、ロキの誓約の強力さを、事実シドたちはロキが竜人を認識できなかったことで知ってしまった。


「ロキ様ってば、他人を優先しすぎなんスよ」

「いやあ、何の悲劇か喜劇かっつーレベルだな。まあ、俺は嫌いじゃないぞ、裏切り者の裏切りの理由が皆を助ける為とかもっと大きな敵の存在に気付かせる為とか、全部終わってなお悪役のままでいられるように裏工作しまくって、ひっそりと生き延びさせられた元従者だけが暴かれなかった裏切り者の行動理由を知っているのとか」

「暴かれて皆が泣くのは?」

「それも好きだぜ、でももっと早く気付いてやればよかったのに、って思うな」


これが特定の誰かを指した言葉であるのをシドは理解している。ロキが今後生涯を捧げることになる相手――カル・ハード・リガルディア。彼さえ道を踏み外さなければ、ロキがここまで死に戻りはしなかった。


「今竜王の権能持ってる子とベースになった神格の悪戯が悪い意味で最高に相性が良いからな、どうにかするのは今を生きるお前らの役目だぞ、シド」

「へーへー、分かりましたよー」


もう一度ロキが台の上に現れる。成功をものにするために、彼は努力を惜しまない。否――、誰かのためになることが分かっている努力を、ロキは惜しまない。


デスカルはロキの方を見たまま再度口を開いた。


「……で、アウルムとしてのお前に聞くんだが」

「何、女将」

「ロキに何があってる?」


デスカルの問いが望む答えはたった一言。分かってはいるけれども、当事者たちの口から聞きたい一言。

それをアウルムは正直に答えた。


「自作自演もいいとこ」

「やっぱり“黒”が絡んでんのか」

「“黒”の気持ちもわからねえわけじゃないから、いいけどよォ。あと、うちの赤い方のお嬢様に気をつけといてくんねーっスか?」


シドの珍しいお願いにデスカルは問う。


「いいが、どうした?」

「誰か足んねえから。俺の知ってるフォンブラウって、最大人数7人のはずなのに6人だし?」

「……転生者か?」

「わかんねー」


デスカルには分からないことをシドが知っているのは今に始まったことではない。上から見ているだけなのは歴史書を読んでいるのと同じだ。デスカルは読者でシドはキャラクターの関係にある。当然と言えばそうだろう。


「あー、でも女将、今回いろいろ試したいことがあるんスけど!」

「試したいこと? 何を?」

「ロキと本契約してみたい!」

「――は?」


デスカルは目を丸くした。

半精霊であるシドは普通の精霊と同じく契約をすることができる。

ロキたち神子ほどではないが魔力タンクたりえるため、人道的な扱いをされない者も多く、学校に行く前に何か対策を考えねばとアーノルドが頭を悩ませているのをデスカルは知っている。


「待て待て待て、まだ本契約したことないのか!?」

「してたらこんなこと言わねえよ!」

「……まさか、お前“収束点”じゃないのか……?」


デスカルはたどり着いた結論を口にする。

小さく、シドは首を左右に振った。


()()収束点じゃない。でも一度収束点は通った。なのに契約もしたことがない。その辺飛んでる闇精霊と風精霊はロキが最後にブチ切っちまった」


俺だけなんだよ、残ってるの。

もう、仮契約止まりの俺との繋がりも擦り切れて消えちまいそうなんだ。


シドがどれほどロキの前世で仲がよかったのかなんてデスカルは知らないが、それはつまり、本のキャラクターを見てワイワイ話している人間と、そのキャラクター自体を比べているようなもので。


「あいつらを諭したのは俺だけど、結局のところ俺がマジで契約する以外に今のロキには精霊の言葉なんざ届かない。なんとなくそこにいるのが分かるだけ。気付いたか、アイツそこにルルジスがいたことには気付いたのに見えてなかったんだぜ」

「ああ、ルルジスさらっとショック受けてたな」


僕、魔力量には結構自信あったのに、とさめざめと泣いていたリオの異父弟を思い出し、デスカルは苦笑した。彼は上位者であり、デスカルたちの仮定が正しければ、ロキは彼を見ることができるはずだったが――ロキは、上位者さえ見えていない場合があることが証明された。


「――上位の奴らに必ず契約を持ちかけるくせに、そっちに危害が及びそうになった途端に契約を切って自滅する大馬鹿野郎、か」

「端的すぎて何も言えねーわ」

「というか、俺が動くまで何で誰も事情教えてくれないわけ?」

「海で繋がってるわけじゃねーんだからそんなに情報が行き来するわけないじゃないっスか……」


上位世界は人間とかかわりを持ったことによって本来の球体からいくつかの領域に別れてしまう特異な形に変わっている。

その領域間を行き来できるのはそれなりに力を持った者たちでなければならないし、つまりそれなりに力を持った者以外がこんな契約に選ばれるほど特異な力を有しているはずもなく。


デスカルに情報を提供してくれたのは彼女のかつての双子の兄だった。


『そういや、ものすごくオイラと相性のいいヤツが契約持ちかけて来てさあ。なんかやばい奴と戦ってたんだけど、最後“呪い”受けちまって、契約切られた!』


ロキの扱う属性が全て見えているデスカルたちからすると、この情報だけでロキと断定するには早いのだが、集まり始めた情報を整理していたらどうにも同じもののことを指しているらしいということにアツシが気付いた。


デスカルの区分は不死鳥ということになっている。精霊召喚をするときに、上位世界に繋ぐかこの世界の枠の中の精霊たちと契約を結ぶかによってかなり呪文が変化する。

呪文は祝詞だ。


「しっかし、不死鳥相手でも無理ってどういうこっちゃ」

「相手の特定はまだできてねーの?」

「“黒”が妨害してんだよ。あの野郎、ほんと騙すことと裏切り行為だけは俺たちを超えるからな」

「無敗と完璧は別モンだからなー」


シドはメタリカ、または金人と呼ばれる種類の上位精霊で、その中でも特に代表格に当たる黒髪を持つ。

黒い髪のメタリカは少なくとも最高クラスの生産能力を持っていると言っていい。彼らは鉱物を生成する能力を持つ。


メタリカの生産するものはその名が表してくれるのでわかりやすいが、下手をすればそのせいで狙われる。その為メタリカには人間の召喚に応じないものも多い。

シドの元の名はアウルムとかゴールドとか呼ばれていた。

つまり、彼がメインで生成するのは、金ということになる。


これがどれほど狙われやすいか、理解しているものは案外少ない。

貴金属を生成するものほど保有魔力量も多く、タンクとしての役割も果たす力を持つと判断されてしまう。攫われても文句言えない。

特に平民だと。


「毎度御苦労なことだが、お前よく攫われてたな」

「もうあれは仕方ないと思う! 捕まらなきゃいいわけだし!」

「捕まっても救い出しに来るヒーローがいそうだけどな」

「やめろ、アイツほどヒーローが似合わない奴もいないから!」


誰のことを表しているのかなんて野暮なことは聞かない。

デスカルはシドの目を見た。

金色の瞳は陽光を湛えて煌く。


「お前がまだ笑ってられんのが不思議だよ」

「えー? もう今更じゃないっスか? 人生全部一度きりにして、全部全力で生きるの、結構楽しいっスよ? 周りにいる人間皆一回ずつ変わるんだから、皆の反応違うし」


今回は例外ですけど、とシドは笑ってぐっと伸びをする。ロキが居るから、なのだろう。

デスカルとシドの関係は親子とそれだけで表せるほど単純ではないけれど、事細かに誰かに伝える必要はなかろうと。


「皆張り切ってるよなー」

「女将が動いたんだぜ? いよいよ大手を振って全力投球できるじゃねえか」

「最後に情報上がってくんの俺なんだからそんなに大事に思ってたなら皆何かアクション起こせよコラ!!」

「無理じゃね。女将基本伝えてもバッサリ切るから。破壊神てのはそういうもんだろうけど」


破壊神。

サッタレッカと呼ばれるその柱のことを皆は破壊神とだけ呼ぶ。

教会に敵対している他の宗教の一角であり、黒箱教と呼ばれる一派の頂いている主要五神の中で一番信仰を集めている存在。


サッタレッカと名乗ればすぐにばれるのでデスカルと名乗っているに過ぎないものの、それも本来の名であるため、偽名を使っている気はない。


名によって神格の変化するものは、多々いる。デスカルもその一角なだけ。


「アウルムっつったらお前も神格なのにな」

「だから今はシドなんですって。まあ、アウルムって名乗った方がいろいろ狂ってくれて助かるんで、そのうち変わるかもしれないですけど?」

「ホント、なんか皆で一気に切り崩しに掛かってきた感じだな」

「俺たちは実験体じゃない」


シドの言葉にデスカルは目を細めた。


「――ああ、そうだな」


チマチマことを変え続けていろいろ試すってのは、ものすごく面倒で、苦痛なことだ。

デスカルはそれを知っている。

経験してきた。

今それはもう遠い過去の話。


「もう少し探ってみる。“白”の接触があったら教えてくれ」

「はいはーい」


デスカルは立ち上がった。そろそろ行かねばならんなと、そんなことを呟いて。


「無理はしなさんな」

「もうしねえよ」

「してもアツシぶっ込むだけだけどな」

「やめたげて! 族長俺より防御低いから!」


ここまで読んでいただきありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ