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Imitation/L∞P  作者: ヴィラノ・エンヴィオ
セネルティエ留学編 夏休み
348/377

12-18

2025/05/22 編集しました。

ロキとナタリアが2人で図書館に来ていた。ロキが調べ物をしたいとカルに言伝て図書館に向かい、その先でナタリアと会ったので調べ物を手伝って貰っている状態である。ロキが調べているのはセネルティエの歴史と文化、および魔術体系についてのようだが、本を取り出して来てくれるナタリアがなかなか分厚い本ばかり持ってくるので、ロキは全く読み終わらない。そもそも論文を調べているわけではないので該当歌箇所をぱらぱらとめくって探しているだけに等しい状態だが。


「でも、なんだっていきなりセネルティエについて調べ始めたんですか、ロキ様」

「んー、興味が湧いただけだよ」


ナタリアの言葉にロキが答える。ステンドグラスは擦りガラスになっており、強烈な日光を多少和らげるように術式が組まれているのが微かに見える。直接見るのはやはり眩しいので流石に目を逸らすが、本を読むのには丁度良い塩梅の光量になっているのが印象的でもある。


セネルティエ王国は吸血鬼とドライアドの国だ。厳密にはそれだけではないが、それでも人口の大半を占めるヒトよりも重要な地位を占めているのは事実である。リガルディアのように上流階級が圧倒的な力を持っているわけではないので、何度もはねっ返りの人間に苦しめられてきたようだが、それでも1000年は続く長命国家なのだ。


ナタリアはロキが本を読む姿に目を細める。柔らかな日光に照らされて、銀の髪が金色の光を反射していた。

ぺらりと本のページを捲る音が虚空に消える。


ロキは本を読むのが早い。かなりの文章量が書いてあるはずの本のページが容易く捲られていく。けれどその音に忙しなさはなく、形の良い指先が地球に比べると大分質の悪い紙を捲るのを眺めていると、そこだけ切り取られているような感覚に陥った。


「ロキ様って不思議ですよね」

「そうか?」

「何であなたはそんなに――」


消えてしまいそうなのに、そこに確かに居るのが、なんとも不思議だった。何度もロキの死に様を見てきたナタリアには特にそうだったのかもしれない。

本を読んでいると今にも消えそうなのに、顔を上げるとこいつは死んでも死ななそうとか思ってしまうので、ナタリアもだいぶおかしくなっているのだ。錯覚ではない、これはきっと漸くナタリア自身が自覚したのだ。


「……ナタリアのその状態異常も治せたらよかったんだけれどね」

「?」


ロキの言葉にナタリアは首を傾げて、自分の状態異常について考えてみる。恐らく所謂ループによる発狂状態のことを言っているのだろう。ナタリアは属性の関係なのか、契約精霊が狂っていないからなのか、ドゥーによるマナの補填だけでは発狂が治らなかったからだ。


ステータス異常として本来発現するそれを、ロキたちは確認できない。ステータスを見ることができないためだ。上位者であるデスカルやアツシ、ナツナが確認できるのみで、ロキたち自身はステータスや適性を見ることができるスキル持ちに頼る他無い。


「まあ、他に異常もないですし、記憶の混乱だけで済んでますし、大丈夫ですよ」

「まったく……自覚はなかったじゃないか」


ロキは少し呆れた口調でナタリアを咎めた。ナタリアは苦笑いでロキの視線から逃げる。その真っ直ぐな視線は、強くナタリアを惹きつけると同時に、あまり得意ではない。


ロキが集めている情報についての本を背表紙から何となく選んでいく。当たりもはずれも、ロキは楽しそうに読んでくれるので、本を選ぶという役目についてはあまりプレッシャーは感じなくて済んでいた。


「……」


ロキはナタリアから視線を外し、既に目の前に置かれた本に目を通していく。この本でもないな、と目次付近とそれらしい章の冒頭から流し読みをしていると、ふと視界に薄い本が入った。薄っぺらいうえに、小さくてメモ書きのようなものだ。背表紙にタイトルも見えない。


ナタリアが持ってきたものだろうから、目を通してみるべきかと思った。ロキは読んでいた本を置いて、そのメモ帳のような本を手に取る。

ロキの手が触れた瞬間に、青い魔力回路が走った。


「!」

「ロキ様、それ魔道具です! 手を放して!」


ナタリアが慌てたように近付いて来ようとしているのが見えた。ロキはメモ帳から手を放すことができなかった。ロキをターゲットに絞った魔術だったなら、ここまでの効力もあるだろう。ロキは自分を狙ったものと悟ると、静かに目を閉じた。


周囲の音が、消えた。



風の音が、する。ロキは目を開けた。

冷たい風が吹いている。身体を起こすと、自分がベッドに横になっていたことが分かった。


黒と赤のタイル柄の絨毯、黒地に白で細く緻密な模様が描かれた壁紙。家具は黒く塗装され、角に金色の彫金が施されている。内装が自分の好みに近いことに気付いたロキが眉根を寄せた。


ロキが横になっていたベッドは天蓋付きの貴人用のもので、薄手のレースカーテンが下ろされている。でもこんなベッドをロキは知らないので、警戒度がどんどん上がっていく。カーテンの向こう側に誰かの気配を感じて、身を固くした。


「誰だ」

「よう」


カーテンの向こう側の誰かはカーテンを少し開けて顔を見せる。


「……ロキ・フォンブラウ?」

「ああ、間違いなくお前だよ、俺」


身長がものすごく高くなっているが、顔を見せた人物は間違いなくロキの顔をしていた。正確には、令息の顔がそのまま成長したような。ロキがベッドを這い出すと、成長したロキは手を貸してくれた。


「この魔道具は、俺を指定してたよな?」

「ああ。そうでなくては、引き込めん」


少し硬い話し方だなと思ったのは間違いではないだろう。ロキは目の前の自分自身を名乗る男を見上げる。

右目は金、左目は赤。手に右目用の眼帯を持っているのが不穏。指先の無いグローブを嵌めているため、ぼろぼろになっているのか、包帯を巻いた指が見えていた。


「……シドの目か?」

「ああ」


金色の瞳を見上げて問うことができるやっとの問いに肯定が返ってきた。聞きたくない肯定だったのだが。


成長したロキは、魔力量が尋常ではなかった。ロキの目の前のこのロキが持っている魔力量を表すなら、()()()()()()()()()()()()。ロキはこの世界の住人の魔力量をRPGのステータスで表した数値も知っている。その知識と合わせたら、人間基準で考えるとアーノルドの魔力量は化け物と評されるにふさわしい量だった。


あくまでも人間基準だから化け物なのだとは思う。けれど、デスカルたちに言われた言葉がロキの脳裏を掠めた。


――お前は魔力を盗られている。


目の前のこのロキがいったいどの時点のロキかはわからない。けれど、ループの最中のロキであったとするなら、たとえ()()()()()()より魔力量が低かろうと、高いもんは高いのである。


魔力で形成しているらしい鎧に視線が向かう。ランスロットが使っていたものと同じだろう。細かな装飾があるのが、ロキの技術の高さを表していた。


「何のために俺を呼んだんだよ」

「託すものがある」


簡潔に答えた成長したロキは踵を返した。ついて来いという意味なのは何となくわかるが。ああそれと、と成長したロキが振り返る。


「この世界線を慟哭騎士と呼ぶ奴が多い」

「なんだそれ」

「さあ。俺が泣きすぎたせいかもしれないな」


周囲の音が無いのは、ここが魔道具によって形成された世界だからなのだろうか。それとも、そういう場所を再現しているだけなのだろうか。

ちらと袖付近のシャツの下から覗く様々な色のミサンガを目に留めて、ロキは慟哭騎士と呼ばれたらしい目の前のロキ・フォンブラウを改めて見上げた。


「皆死んだのか」

「ああ」

「……守れなかったんだな」

「……強くなるだけでは、駄目だったよ」


魔力がこんなに有っても、友達は誰一人救えなかった、と慟哭騎士は言う。

ソルの髪の色をロキが見間違えるはずがない。カルやセト、ロゼの髪の色だって。露草色の髪で編まれたミサンガを目に留めて、ああこいつも死んだのかと、ロキは震える声で呟いた。


「……もう、会ったんだな」

「小さい頃に、会ってる」

「そいつには、これから先世話になることになるぞ」

「そうかよ」


守れなかったことに変わりはないけれど、自分の大切に思った者のことを語れるのが嬉しいようで、慟哭騎士の瞳には柔らかな光が宿っていた。


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