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Imitation/L∞P  作者: ヴィラノ・エンヴィオ
セネルティエ留学編 夏休み
346/377

12-16

2025/05/21 編集しました。

セネルティエ王国王都の建物を、ロキが魔力で支えているという事実を知ったピオニーとセネガルの動き出しは早かった。他国の人間、しかも学生に、わざわざ王都を支えさせるわけにはいかないのである。


「――ということで、王都も同時進行で再建することになりました。ロキ様にはもうしばらく頑張っていただくことになります」

「ええ、そこは任せておいてください。多少なりとも魔力を使わなければ、魔力回路も錆び付いてしまいそうですから」


ロキが人好きのする笑みを浮かべた。プラムはリガルディア王国にまた借りができそうだと頭を抱えたくなったものだが、とりあえずロキの厚意に乗っかっておくことにする。いつか返すことにはなると思うが、そこは国交及び留学中にどうにかしたいところだ。


王都の建物の大半は化粧石が落ちて中にあったアダマンタイトが剥き出しになってしまっている。化粧石に冷暖房の術式を組んでいるため、化粧石が落ちてしまったら冷暖房は使えない。今後さらに気温が上がるため、冷房がないのはなかなかつらい。


プラムはロキとアテナを連れて、人払いした城下町の一区画を視察を行うことになった。ロキを連れていくことにアテナが反対したものの、ロキの魔力で建物を支えている状態なのだから、当事者として連れて行っても問題はないだろうとプラムが押し切った。


「へえ、個人宅のほうで冷暖房つけてたんですか」

「うあー、ロキ様に現場見せると技術が漏れるー」


プラムはアテナが嫌がっていた理由をちゃんと理解はしていたようで、困ったように笑いながら視察を進めていく。ロキも別に現在ロキが支えている建物を崩したり脅したりということをする気もない、と口にした。


「……ロキ・フォンブラウ、嘘はないな」

「あー、いいですよ。ではそちらに倣って。――『ステュクスの川』に誓いましょう」

「……わかった」


ようやく納得したアテナにプラムは一息吐いた。アテナがロキの加護持ちを警戒するのは致し方ないといえるかもしれないが、プラムからすればちょっと警戒しすぎでは、と思ってしまうのである。それだけロキという神格の加護がアテナのような秩序寄りの神格の加護にとって望ましくないものであるということなのかもしれない。


ロキ神の神格が人々を騙すような性質を持つことは、プラムでもわかっているのだ。でも、ロキと喋っているとそこまで警戒しなくても、と思うから、ロキがいかに気を遣って周りと喋っているのかが伺える。


周辺を見渡すと、ドワーフや巨人族が建物の修繕を行っているのが見える。ここら一帯は特に、古い建物が多かったためにロキの魔力を多く消費しているエリアでもあった。


「ロキ、魔力の消費ってどんな状態なの?」

「徐々に消費しているだけですよ。回復より消費の方が少し多いですかね」


ロキの答えにアテナが小さく息を吐く。それはすなわちロキの保有魔力が徐々に減っているということだ。ロキは魔力不足に陥ると動けなくなるようで、この状況はあまり良い状況ではない。ロキの体調に万が一何かあったらと思うとアテナは気が気ではないのだろう。プラムはそういうことはあまり考えずにいるのだが、2人で同じことを考えて悩んでも仕方がないかな、と思うからである。正直アテナのほうが頭は良いのである。プラムは包括的に物事を進めるために自身の全力を注ぐだけだ。


「ありがとう。貴方が支えてくれているおかげで工事が予定より早く終わりそうなの」

「おお、それは良かったです。住む場所がないとどうしようもありませんからね」


長屋の建築を提案したのはロキだった。元の家が建つまで、同じ区画に住んでいた住人たちを同じ長屋に集めて生活させている。簡単な秩序を決め、文章化したものを被災者たちの前で王族が発表し、複数の区画を同時進行で急造している状態だ。再建が終わった建物の部分から随時ロキの魔力の支えをなくしていき、最終的にはすべての建物を元通りにする、ないしそれに近い状態にしたところでロキの魔力を使わない状態に移行して残りの再建を進める予定である。


「そううまくいくかしら」

「日本ほど地震も多くないじゃないですか。それにドワーフと巨人族がやっているんですよ、問題はないでしょう」


職人気質の者たちは手抜きを嫌がるものだ。ドワーフも巨人もその性質の強い種族である。プラムは日本のことしかあまりわかっていなかったのだろうが、日本では2年以上かかる建築工事も、こちらでは土魔術を利用することもあってそこまで時間がかからないのである。ついでに区画整理も一緒にやるほうがいいとセネガルが言い出したので多少道が広くなるかもしれない。


「区画整理もすることになったので少し時間はかかってしまいますけれど」

「長屋と言ってもプレハブですし、別のところに移したり、再建の間だけ移送用の転移術式を設置するとかどうです?」

「ああ、それだともっと効率が上がるかしら」


家屋の耐久性とかは一旦脇に除けて、仮住まいのための建物を作ってもらっているため、どちらにせよ長期間の居住に適したものでないのは確かなのである。区画整理を早めに進めて転移が使える冒険者に頼んで、とプラムが頭を回し始めるのと同時に、ロキが口を開く。


「あ、冒険者に頼むならちょっと報酬は高めがいいですよ。ここの冒険者、国外の人が多いですから」

「……そうだった」

「……ポケットマネーで足りる程度の金額に収まるとは思わないほうがよろしいかと」

「うーっ」


ロキもアテナも頭が回るだけあって同じ答えに辿り着いているらしい。プラム的にはここでさらにロキが援助を申し出てきた場合断らねばならない。たぶん対価にロキに優秀な人員をリガルディアへ持っていかれてしまうからだ。


「いやあ、ほんと、金で動く冒険者っていいですね」

「冒険者を買い漁ってるのは君か、ロキ」

「やだあ、ヘッドハンティングってやつですよぅ」

「とりあえずその口調をやめろ。気に障る」

「えー」


アテナがまじめなのはわかっているけれど、ロキを邪険にしすぎだ。ロキは気にしていないようだけれども。リガルディアにこうやって相手を煽れる者が出てきたのは、周辺国としては喜ばしくない事だとピオニーが言っていたので、もともとはリガルディアの様子を伺いながらの政治が基本だったのだろう。ロキが出てきた時点でその政治の前提が崩れている。


ロキがいることによって、リガルディア王国の意見というものが発生する。しかもフォンブラウ家は最も人間を見てきた外交の家である。ピオニーたちがフォンブラウ家に生まれたロキのことを警戒する理由が未だに明確には分からないながら、なんとなくロキの存在の大きさをおぼろげに感じ始めていたプラムだった。



「オデュッセウスを現金で買うって、本気?」

「はい。言い値で買います」


プレッシェは少し悩ましげに目の前の赤いジャケットの少年を見上げる。ガントルヴァ帝国からやってきたこの少年は、プレッシェの一存でオデュッセウスを売るには、存在が大きすぎた。というより、現金で即買いというところが一番プレッシェが呆れている部分である。


ベヘモスとの戦闘に際して彼に売ることは確定していたのだ。彼が搭乗することが決まったその瞬間に。けれど、大国とは言えないとはいえそこそこの国土面積と経済規模を誇るセネルティエが国家予算を組んで研究・開発に取り組んできたアイゼンリッター、中でも射撃寄りに特殊パーツをチューンナップを施された“名持”のオデュッセウスを即買い。現金で。この子下手したら帝国の実家にオデュッセウスで帰る気なんじゃないかと思うくらい。


本当は交渉で値下げを狙うものなのだが、カミーリャは今回そんなものは度外視しているようだ。現在再調整中のオデュッセウスは、搭乗者たっての希望で、重騎士にも見えるその装甲部分を紅に塗装し直しているところである。縁取り部分は黒地にして、その上から金色に塗る。


セネルティエ王国はリガルディアと同盟は結んでいるが、帝国と貿易を禁止されているわけではないし、リガルディアが禁止しているのはドラゴンをはじめとする希少な魔物の卵や幼個体の密貿易であるため、実は周辺の弱小国家にとっては帝国についてもリガルディアについても損はないのだ。リガルディアは戦争に参戦したことはなかったし、帝国はひとまず経済規模も巨大で、よほど大きな内乱でも起きない限り倒れることもないだろう。


カミーリャの実家はもともと商人だったと聞いている。情勢を読む力が非常に高いのだろう。


「……まったく、その代わり、ベオウルフの情報はあげないからね!」

「はい、心得ております」


カミーリャの後ろでメモを取っているタウアを視界に入れながら、プレッシェは改めてオデュッセウスのカタログスペックについての説明を始めるのだった。


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