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Imitation/L∞P  作者: ヴィラノ・エンヴィオ
セネルティエ留学編 夏休み
338/377

12-8

お久しぶりです。つじつま合わせという名の改稿作業をしていたら遅くなりました。

改めてよろしくお願いします。


2025/05/20 編集しました。

「……ちょっと待て。遅すぎないか?」


ブライアンの言葉で、ベンチから弾かれるように立ち上がったのはロキだった。


日は高く昇り、もうすぐ昼時も終わりそうだ。プラムが立てた計画ではそろそろ移動して、バラ園の方に向かい、そちらで昼食を食べる予定だった。オートとセトが戻ってこない。そろそろ探しに行った方がいいだろうか。


「まさか、迷子か?」

「セトがついていながら?」

「いや、一回戻ってきたときは既にオートがセトを振り払いかけていたじゃないか」


カルとゼロが言葉を交わす。


「あ、ちょ、ロキ!」

「探してくる」

「待ちなさい! あんたこっちでも日に焼けないとは限らないのよ!」


ロキがそのままヒマワリ畑に入って行くのをソルが慌てて追いかける。


「どういうことだ?」

「カル殿下、もしかしてロキってアルビノなの?」

「いや、そんなはずは」

「ロキ神とバルドル神の神話を考えるとそうとも言えない、って太陽神のソルは考えてるんじゃないの?」


順にアレス、プラム、カル、ナタリアの台詞だ。リンクストーンに手を掛けたカルは驚愕に目を見開く。


「リンクストーンが作動しない」

「魔力が濃いのか」

「精霊があんだけ飛び回ってんのに利くわけないだろう」


ゼロが腰に刀を佩いてロキとソルの後を追う。プラムは少し考える。いったい何が原因なのだろうかと、確かに迷ったのかもしれないが、セトもオートも方向音痴なんてことあるだろうか。そうならばむしろその前に道に迷って戻ってこなさそうな気もするのである。


「私は残ります。何かあれば連絡を。ブライアン、アテナ、行ってきて頂戴」

「了解」

「はい」


ブライアンとアテナにヒマワリ畑へ入るように指示を出し、アレスに向き直る。


「アレス、もしかすると、“夏の夢花”が発生しているかもしれません。アテナなら多分戻って来られますから、それからでもいいので管理者に連絡を」

「はっ」


夏の夢花。魔物の名称である。魔力を貯め込み過ぎたヒマワリが魔物化したものの中でも、幻術に適性を持つようになった種類のことを言う。恐らくだがロキには幻術の類は効かないので、そこまで心配の必要はないかもしれないが。



ロキとソルはヒマワリ畑の中を歩いていた。ソルが出した麦わら帽子をそれぞれ被って、オートを探して歩き回る。ロキはジャケットを脱いでシャツとスラックスだけ、ソルは日傘を差しながらワンピースがヒマワリにあたらないように気をつけながら辺りを見渡していた。


「ソル、どう思う」

「……やっぱ、魔物の幻術とか?」


ソルの答えにロキは立ち止まる。


「……実はね、ヒマワリ畑の中央にかなり強い魔力反応があったんだ。オートとセトの魔力は正直、あの魔力反応に呑まれてどこにあるかわからない。魔物の親玉が湧いてるのは確かだろうね」

「人を襲うタイプじゃないといいけれど」


ロキとソルは言葉を交わしながら進む。ロキの方が探知には優れているので任せているが、ソルはアイテムボックスからレイピアを取り出して帯剣する。ロキは少し顔をしかめた。


「……俺も刀を持っておくべきだね」

「あら。持ってなかったっけ?」

「今俺が持っているのは少し長い。打刀サイズのものが欲しいかな」


ロキが現在所持している刀は全長1メートルはくだらない大ぶりなものなのである。大刀でこそないが、曲刀である太刀を使うには1メートルは少々長いのだろう。刺突には使い辛いと言われても納得しかできない。特にロキは男性ではあるが女性的なスピードに重きを置いた戦闘スタイルを固めつつあった。


普段振るっているのがハルバードであるため分かり辛いが、そのハルバードも斧部分を強調したデザインになってはいるものの、槍の部分もかなり大ぶりなのである。ロキが言うには、今ロキが持っているハルバードはもう少しロキ自身身長が必要なものであるという。それだけ身体に合わない武器を使っているようにロキ自身が感じているということなのであろう。


「ゼロ」

「ん」


ゼロの姿がヒマワリに変わり、よちよちと歩いて行った。様子を見に行くとき必ずゼロはモンスターになってから行くが、理由をロキに尋ねたソルはちょっと笑ってしまった。


「ねえロキ、ゼロってなんで変化してから行くの?」

「……あー、変化に慣れていないから慣らすため、だね」


イミットの能力を長年封じていた弊害が降ってきたらしい。ゼロも大変ね、とソルが言えば、まあ、戻って来るまでは待とう、とロキが返す。


少しして、ゼロが戻ってくる。ちゃんと戻ってきたのでロキはほっとしたようだ。ゼロが元の姿に戻ると、ロキが問いかける。


「何かあったか」

「幻術の範囲が近い。気付いたから戻ってきた。これ以上進むと、離れ離れになるかもしれない」


ロキには効かないかもしれないが、とゼロが付け足す。それが分かっただけでもいいかもしれない。ロキはこの場に留まるか、オートとセトを探しに行くかで悩み始めた。


「……ゼロ、この場も幻術の効果範囲である可能性は?」

「なくはない。ただ、あっちはさらに明確に壁がある」

「……分かった。お前たちは残れ。俺に幻術は効かないから、俺が行く」


ソルが呆れたように小さく息を吐いた。何でこうなっちゃうかなあ、とボヤく彼女は決して悪くないだろう。


「まあ、その内アテナちゃんたちが迎えに来てくれることを信じて待とうかしら?」

「……俺たちが一緒に動いて、俺とソルだけが術にかかる可能性は無くはない。戻れるかもわからない。ここに残る」

「じゃあ、決まりだな」


ゼロがロキから自主的に離れるのは、用事があるときだけだ。今回ロキから離れる決意をしたゼロは非常に珍しいと言えた。


何かあったら教えてくれ、とロキは2人に魔力結晶を渡して、ヒマワリの向こうに消えた。



夏空が見えている。高く青い空、遠くに見える入道雲。ヒマワリの金色に囲まれた世界。土の匂い。麦わら帽子。少しばかり生ぬるい風だけが、潮風を含まない乾燥した風だけが、今ここが日本ではないことをロキに知らせる。


遠くに消えかけた高村涼の記憶が、知識として残ったその残滓が、目の前に見えた気がして、目を凝らす。海が見えた気がした。ロキは一度も海なんて見たことがないはずなのに、その海の青さを知っている。


ここは海ではないし、セネルティエは海に面していない。だからやっぱりそれは幻覚で、ロキは小さく息を吐いた。目を凝らしたところで見えるのはヒマワリ畑だった。


もう後方にあったはずのゼロとソルの魔力の探知ができないのは、ロキが確認した通り、既に幻術の範囲に入っていたという事なのだろう。ロキに効果が出ているのか、ゼロとソルに効果がかかったことで探知できなくなってしまっているのか、そもそも効果範囲ではそういう探知をすべて阻むような状態になっているのか。調べてみたいが、それよりもオートとセトが水分補給できているかが心配だった。リガルディアでもよく熱射病になる人間はいるが、水分補給を忘れるとすぐ倒れるような認識があるロキにとっては、マイペースなオートよりセトの方が心配だったりする。


魔力反応が強い方へと歩を進めていくと、一陣の風が吹いた。薄く乗った風の魔力。オートだ、と思うと、自然と早歩きになる。

ヒマワリをかき分けている感覚が途中でなくなっていることに気付いた。こんなに開けていただろうか。


金色と緑のカーテンのようなヒマワリ畑を抜けると、浅葱色の髪を見つける。帽子を被っていて、丁度水分補給のためにボトルの口を開けたところだった。


「オート」

「あ、ロキ!」


水を飲んでほうと一息ついたオートにロキは声を掛ける。オートは目をキラキラさせてロキを見上げた。


「えへへ、ロキなら来てくれると思ってた!」

「お前なあ、俺に心配かけてるってわかんねーの?」

「えへへへへ……」


このやろう、とロキがオートの頬を摘まむ。もちもちしたほっぺたがむに、と伸びた。

少しばかりだらしなく笑うオートに毒気が抜ける。


セトはどうした、と言葉を掛けようとして、オートの言葉にロキは息を呑んだ。


「ねえロキ。ちょっと話そうよ」


悲しいのか、苦しいのか、はたまた。

そこには、ロキの知るオートではない、オートの表情があった。


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