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Imitation/L∞P  作者: ヴィラノ・エンヴィオ
セネルティエ留学編 夏休み
336/376

12-6

2025/05/18 編集しました。

「ロキ着物似合ってたね」


オートは写真をロキが焼き付けている間だらしなく笑っていた。オートの興味が6割ほど研究に注がれているのは知っているソルだったが、残りの4割中3割がロキに向いていることを最近言葉の端々から拾うようになった。


「そうね。銀髪と黒があんなに合うなんて知らなかったわ」

「えへへ、姉様たち喜ぶぞー」


家族ぐるみで同じ推しがいる感じなのだろうかとオタク思考に則って考えたソルはきっと悪くない。オートの緩んだ顔が、推しについて夢想するオタク友達そっくりなのである。そしてその対象がロキであることを考えて、ああそうか、と納得もした。


貴族なんてものは顔見せして豪遊して慰問して、国を回すという仕事はあるがアイドルと同じだ。一般人からすれば天上の、手も届かない、拝顔すら許されない雲の上の存在であるはずなのだ。

ソルたちのような男爵令嬢とはわけが違う。ロキは公爵令息だ。


「……そう考えると確かにロキは異例なのかもしれないな」

「あれ、声に出てた?」

「ああ、割と最初から」


アテナの指摘を受けてソルはペロッと舌を出した。ロキについての思考はいくらやったとしても終わりなどない。だから、程よいところで切り上げて放置するのがソルの常である。


「転生者だってことでせっかく融通利かせてくれてるんだし、私は思いっきり楽しむわ!」


ロキが全員分の写真を印刷し終えて戻ってくる。無料配布とはいかん、とロキが言ったのでそれぞれ1枚につき小銀貨1枚で購入した。



「デスカル陛下!」


赤い髪が夜風に揺れる。満天の星空の下、ネイヴァス傭兵団の隊長でもあるデスカルは声をかけてきた若草色の髪の少年を振り返った。


「どうした、キル」

「んとね、陛下が探してたもの、見つかったって、デストロイヤーが言ってたよ」

「そうか。流石は我が弟、よく使える」


デスカル、キル、デストロイヤー。ロキが聞けば卒倒したくなるメンツだが、そのロキ本人がここにはいない。デストロイヤーというのはデスカルの最初の弟の現在の役職名である。破壊神という神格をもともと持っていなかったデスカルたちのいる世界は、補助的な役職としてデストロイヤーとクリエイターという管理神格を置くに至った。


デスカルもデストロイヤーに属しているが、もともとはクリエイター側に所属していた身である。転生を繰り返してクリエイター所属の女神として求められる基準を満たせなくなったが、あまりある魔力によってどこへも行けず、ならばとデストロイヤー所属と相成った。弟とは対をなすように所属していたため、デスカルがデストロイヤー側を纏めるに至った時、弟である元デストロイヤーは死神へと所属を変えた。


とはいっても、デストロイヤーを纏めるために転生したようなもので、初代デストロイヤーだった彼に、今使える名は他にはデスカルの弟だった時の名しかない。なのでやっぱり今もデストロイヤーと呼ばれているのだった。


「ようナツヤ。話は聞いたよ。見つかったんだって?」

「ああ、やっぱキルが行くと早いな」


野宿のためにテントを張っている仲間たちを尻目に、デストロイヤーと呼ばれた赤と黒の髪と赤と黒のオッドアイを持つ青年は何かの地図を描いているようだった。


「マップ?」

「ああ。ちょっと厄介なことになっててさ」

「どれどれ」


地図を描き終えたデストロイヤーが焚き火の火で照らして見えるように地面に地図を置く。デスカルが覗き込むと、地図に書かれていたのは、デスカルたちの世界の世界樹だった。


「うげ、面倒なとこにあるな」

「仕方がねえよ。姉貴があの貪食龍を倒した場所の近くだ。妥当だろ?」

「まあな」


デスカルは苦々しい思い出を抱えている。人工物の黒光りする様、ぎらついた赤い瞳、思い出すだけでも身震いがする程の膂力を備えた鐵の身体の持ち主。ただひたすらに強者を求める彼の姿を、デスカルはよく覚えている。龍とは名ばかりの、武者。


「……あれ以上あいつに強くなられたらいろいろ終わってたと思う。あいつマジ疫病神だわ」

「あれがもうちょっとまともだったら、ロキと組めたかもしれないのにね」

「過ぎたこと言うな。結局あいつがロキを食らったからこうやってロキの魔力はさらに分断されてるわけでしてね」

「陛下ロキに御執心?」

「……キル、どこでそんな難しい言葉覚えてきた?」


デスカルを以て、かつて彼女らの世界に存亡の危機を、災いを齎した男がいた。それは、転生者の言葉を借りるならば、いわゆる機械生命体や金属生命体と呼ばれる類の生き物であり、アヴリオスにおいては人刃の神子たる魔力量を持ってしても葬り去ることのできなかった厄災である。


たった一ついいことがあるとするならば。


デスカルが当時結んでいたロキとの契約を早々にロキから切られたことによって、貪食龍の牙から逃れ、デスカルたちの世界を守り切ったことであろうか。ロキらが誇りと命を懸けて弱らせたそれは、全てを擲ったリガルディア王国とガントルヴァ帝国を難なく打ち破り、ハンジを一撃で潰し、ロキを喰らって回復した。


アヴリオスが回帰をしている事実を知らなかったデスカルは、とんでもない奴が乱入してきたと思ったし、自分たちのことで精いっぱいだった。後から調べて分かった話だが、この時のロキは、この貪食龍の出現によってラグナロクを起こすはずだった予定を急遽変更し、貪食龍討伐に当たった。キルによれば、「6度目のラグナロク」らしい。この回以降ロキのラグナロクは成功しなくなった――カルたちがロキの引き留めに成功するようになったというから、随分と皮肉な話である。


貪食龍が喰らったロキの一部が、回帰では回収されなかったことが、ロキが女に変化する原因になっていたことをメビウスが突き止めた。ならばその一部をロキに返せばいい。貪食龍が上位世界へ侵攻したという事実だけで、何故回帰でロキの一部を回収できなかったかなど分かり切っている。


「俺らで回収できるかな?」

「無理だな。人間に行ってもらうしかねえ。こんだけ世界樹のマナを浴びてちゃ、すぐ本人の身体に入れないと解けるだろ」

「どうしよう?」


その場所へ行くための道ならば、よく知っている、が、デスカルは正規の道で行ったところでロキの一部――もとい、魂の欠片を探すには時間が足りないことも分かっている。上位世界のマナの濃度はこのアヴリオスの何百倍といったところだ。おそらくまともに帰れるものがそもそもほとんどいない。ロキくらいもともと体内のマナの濃度が高いものならばなんとかなるだろう、くらいのものなのだ。


「……仕方がない、予定より早いが、一度ディアステーアを使おう」

「アヴリオス怒らない?」

「多分怒る。が、ロキの魔力を返すにはこうしないとな。キル、ルイとスピカに連絡を入れてくれ。ルイが干渉した坊やに被害が出る可能性があるからな」

「はーい」


夕飯の支度ができたよ、と副団長が声をかけに来たのでそろって移動する。キルは先にルイとスピカに伝えに向かったようだ。黒箱教にロキたちがまた顔を出したときにちゃんと伝えなければならないなと思いながら、デスカルは立ち上がる。


ここに来ている者たちの大半がロキと契約を結んだことがあったり、傍目から見ていてロキを気に入った者たちである。ロキという名は確かに精霊には好かれにくい名前ではあるのだが、だからと言ってロキの名にロキの魂が負けたわけではないのだ。


精霊が好むのはマナの質である。マナにも質があるなんて、とアヴリオスの者が聞いたら驚くだろうとデスカルは思っている。マナにだって質はある。魔力をグラスに入った色水に例えたらいいと、デスカルは思っていた。


魔力が色水の入ったグラスなら、マナとは色水のことなのだ。半透明のあまり詰まっていないマナなのか、不透明のみっちり詰まったマナなのか、それくらいの違いしかない。そして、魔力は多少の圧縮による質の向上が可能だが、マナはそれができない。ロキは問答無用の不透明色水だった。色水に例えて話をするから面倒だ。ロキの魔力は決して不純物の多い雑多な魔力ではない。


説明が難しく思考の輪にはまる。だからこのことは今は置いておくことにした。


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