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Imitation/L∞P  作者: ヴィラノ・エンヴィオ
セネルティエ留学編 夏休み
334/378

12-4

2025/05/18 編集しました。

宿は旅館だった。また旅館だ、とゼロが飛び跳ねた。和風なものが好ましいのはわかっているのだが、こうも喜ばれると、用意したプラムも嬉しいのである。


「そういえばここ、いろいろと服を着替えたりもできるよ。和服っぽいものもあるし、踊りのための衣装もあるから、着てみて? ロキは特に似合いそう」

「ふむ、指名を受けたならば、着てみるか」


プラムの言葉にロキが答える。ゼロが目を光らせたのでロキはカミーリャを見る。どうせならカッコいい日本人顔のカミーリャも巻き込んでやろうと思ったのであろう。


「巻き込まれてくれるかい?」

「いいですよ」


きらきらした笑顔で話を振られたカミーリャが答えた。タウアも着てくれそうな感じだったのでカミーリャに目配せをしたら苦笑される。旅館の一角に衣装の貸し出しコーナーと、売店があり、オートが早速走っていこうとしたのをセトに取り押さえられていた。


大部屋は10人部屋で、男女でそれぞれ分かれるとちょうどいいくらいの別れ方をする。畳と布団があり、男部屋に入ったカルとセトがベッドはないんだな、と言う。大部屋にベッドがあったらそれはそれで驚く。カミーリャは畳は懐かしいと言った。


「父が持っている別荘が、板張りと畳だけでした。こう、床がちょっと高くなっていて。下を覗き込んだら猫又が親子で寝そべっていたり、白狐が雨宿りしたりしていたんです」

「いきなり俺たちの前世の風景のようなものが引っ張り出されてきた」

「そうなんですか?」


ロキの思わずといった呟きにカミーリャはにこにこと笑みを浮かべて続ける。


「そういえば、父が、音の鳴る金属の飾りを縁側にかけていました。夏はよく風が吹いてましたね。今思えば、風精霊が面白がって風を吹かせてくれることを期待しての飾りだったんでしょう」

「風鈴にそんな効果が……」

「フウリンというのですか?」

「ああ、下に風を受けるための紙が下がっているやつだろう?」

「はい。それ以外にもあるんですか?」

「ウインドチャイムとか、ウインドベルとかいってな、構造は風鈴と似たようなものなんだが、金属製の筒を円形に並べて、中央にはその金属の棒を叩けるようにガラスとか金属とかの固いものを一緒にオーナメントとして吊るしておくものだよ」


西側は暑いので売れそうですね、とカミーリャが冗談めかして言う。リガルディアでも売れそうだ、とロキは返す。


主人たちが楽しげに話しているのを横目に、ゼロとタウアはお茶の用意をしていた。ここも置いてあるのは緑茶で、ブライアンとアレスはテーブルが低い、座り難そう、など、カルとセトも言っていたことを口にしていた。


「夕食は皆で一緒に食堂で摂るそうです」

「温泉に髪はつけるなだってよ、オート」

「何で業務連絡で僕だけ注意されるの?」


タウアとゼロが茶の準備を終えてから連絡をするとオートから抗議の声が上がった。それはね、お前が移動途中で温泉に入って湯船で泳ごうとしていたからだよ。ロキがにこりと笑ってオートに言えば、ロキの顔奇麗だけど怖いね! と言ってオートがお茶に口をつけた。


「あっつい!」

「猫舌め」



ソルとナタリア、プラムとアテナ、金色蝶(パピーリオ)とアカネ、アルテミス、マーレ。結構大人数だねと笑いながら大部屋に踏み入れた8人は各々で荷物を置いて、窓を開ける。もちろん網戸なんてものはない。障子を開けたら中庭が見える。


「イミットの屋敷みたい」

「間違ってないですよ。ここはもともとイミットの屋敷を改築したものだそうです」

「へー」


隣の部屋が男子が泊まっている部屋だが、ゼロとタウアがいる為か、お茶をしているらしく話し声が少し届くだけだ。縁側で繋がってはいるが、行き来するなという様に木製の仕切りが置いてある。


「武家屋敷、よね、これ」

「そうなんですか?」

「うん。ここを建てたイミットはお金持ちだったんでしょうね。畳は後から入れてるみたいだけど」


畳の分床が高くなっていることに、障子を開けてから気が付いた。もともと板張りだったのだとそれだけでわかる程度には、ソルは畳に親しんでいる。


「???」

「あ、プラムもしかしてマンションに住んでた?」

「うん。よくわかったね?」

「マンションって畳の仏間がない印象ある」

「カマかけられた」


基本的にソルたちの前世の時代ならば、畳とは床に直接既に敷いてあるものの印象が強かったはずである。障子を開けて一段上がっていれば、そりゃ気付く。


「まあほら、私祖父母と住んでたから、時代物とかよく見てたし」

「そうなの? 私海外ドラマばっかり見てたからなあ」

「ラブロマンスじゃなければロキと話が合うかもね。まあ、あいつの好みホラーとかパニック系とかだけど」

「ロキの性格絶対前世の影響受けてると思う私!」


ソルとプラムが笑い合う。ナタリアがお茶を淹れてくれたので障子は開けっ放しにして縁側に茶を運んで、用意されていた菓子を摘まむ。見上げた二つの月はどちらも三日月だった。


「……夜空が綺麗」

「星ってこんなに良く見えるんですね」


アルテミスとアカネの言葉にナタリアがようやく座って、三日月ですね、と言った。


「ミカヅキ?」

「月が空からなくなる日があるでしょう? あれから3日目って意味ですよ」

「それは、前世でのこと?」

「はい。もしかしたらゼロなら何か言い方を知っているかもしれませんけれど」

「え、じゃあ聞いてみましょうよ」


その時、ガラッと男子側の障子が開いた。オートの長い緑の髪が見えて、ああなるほどとソルとナタリアが納得したところで、ロキとカルが障子を全開にしたので男子全員が出てくる。


「あれ、縁側でお茶なんて随分わびさびなことしてるな」

「わびさびって何?」

「うーん、華美さではなく落ち着きに重きを置いた美的感覚?」


ソルと金色蝶(パピーリオ)の会話にロキが笑みを浮かべた。これ何、とオートが仕切りをどかそうとしている。


「ロキ、これ重たいよ!」

「固定されているんじゃないのか?」

「でもぐらつくよ?」


オートがちょっと左右に動かすとかたかたと音を立てる。


「……レディ、どうする?」

「そこでこっちに話振ってくるときのあんたの真顔ちょっと面白いんだけど」

「キズツクワー」

「見事な棒読み」


ソルとロキのお喋りな部分が噛み合っているのだろうなと思ったらしいゼロが、これはこうすれば外れるはずだ、と左右に少し、前後に少しずらす。


「ゼロ、そこから左、奥、右でどうだ」

「ん。外れた」


床の方に穴があった。だからぐらついていたようだ。タウアが座布団を持ってきて敷いたらカミーリャが座った。


「お」

「流石に穴が開いているところに最初に座りそうな人を座らせるわけにはいかないので」


カミーリャがロキを見ている。ロキは確かに一歩踏み出した後の状態で固まっていて、苦笑を浮かべていた。


「あんた完全に読まれてるわね」

「俺はまだ彼の性格を掴みきれていないぞ……」

「ロキ君は物語に出てくるような貴族を連想すれば読みやすいですから」

「俺の方が疑い深いってのか。くそぅ」


ロキを手玉に取るその手腕、見習いたい、とカルは笑いながら男子たちの真ん中あたりに座る。ロキはその外側に座り、アレスとブライアンは国ごとに固まらないようにばらけて座った。


「ねえゼロ、あの月なんて言うの?」

「三日月か?」

「やっぱり三日月なんだ」


ナタリアが話を振るとゼロが答えたが、もう一度空を見上げてぼんやりと眺める。


「眉月」

「2つあるからか」

「ああ」


眉らしい。


「……日本も眉月ってあったわよね?」

「三日月のことだな」

「……やっぱイミットって感性が日本人よね」

「イミットのせいだけじゃない。人刃の持ってる言語もかなりロキやソルのいうものに近いらしい」


ゼロがいつの間にそんな情報を仕入れたのか、ロキが突き回していたが、どうやら大教会の一件の後ムゲンにいろいろと問い詰めていたらしい。ついでにうんちくを垂れていたのだと吐き捨てるように言った。ゼロの中ではムゲンよりロキの比重の方が重たいらしい。まあ大方、どうして族長とロキが既知の仲であったのかとか、大事なこと教えてくれなかったのかとか、そんなところだろう。


「ねえ、せっかくだからキモノ着ようよ! 温泉入ってさ!」

「あら、ここ温泉だって言ったかしら?」

「パンフレット貰ってきたの!」


オートの提案に一旦皆乗ることにする。これがいったい何を引き起こすかなど、まだ誰も知らなかったのだ。


中庭を一陣の風が吹き抜けた。


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