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Imitation/L∞P  作者: ヴィラノ・エンヴィオ
セネルティエ留学編 夏休み
332/376

12-2

2025/05/18 編集しました。

結局タウアの服には椿の花を赤い宝石であしらったブローチをつけることを前提として、ゼロが華美になりすぎないようにカミーリャのチョイスの中から選んで決定した。


「主、ありがとうございます!」


珍しく顔を綻ばせたタウアにロキたちがタウアを可愛がる原因が増えたなと遠い目でぼやいたゼロと、その言葉を聞いていたエドワードの真顔はロキが噴き出す原因になった。ドレスの試着をして女性陣の買い物が終わってから、ロキがぱぱっとアイテムボックスに全部詰め込んで、路地に入ってから男の姿で戻ってくる。


「便利ですね」

「男女の服の色が変えられないけどな」


変えようと思えば誰でもやれるぞ、とロキが悪戯っぽく笑い、じゃあぜひアレスを、とアテナが言い始めてアレスが悲鳴を上げる。


「オレを売る気か!?」

「いや、顔がいいから」

「そんな理由で!? じゃあいっそお前を男にしよう!」

「あ、それは賛成したいけど権能的にいかがなものかしら」

「私は問題ない」

「ちったぁ恥ずかしがってよオレ馬鹿みたいじゃん……」


シェネスティ公爵息女は今日も仲が良い。カミーリャも宝飾品を選びたいと言っていたとロキが告げれば、次は梯子だなとマーレの買い物によく付き合っているらしいブライアンが遠い目をした。



「ここ、私も使ってるお店」

「王族御用達」


プラムの紹介した店はセネルティエ王国では一番大きな店であるらしい。女性向けジュエリーが多いからお土産にはもってこいかも、とプラムは付け足す。店内は豪奢なシャンデリアできらきらと光が散っており、内装はロイヤルホワイトに金装飾でまさしくといった雰囲気のある店だった。


商人時代の親を知っているカミーリャに目利きができないわけはないと思われるが、おそらく宝石をあまり扱ったことがないのであろうことはロキにも想像できる。巨人族のいる土地に食料を運ぶのに宝石を扱っているとは分野が広すぎる、そんなの貴族になるよりも豪商になったほうがいいに決まっていた。


息子の適性もあったのだろう、とは、思うが。


カミーリャは品行方正だ。過度なものではないから潔癖症というわけでもなさそうだが、レディファーストとノブレスオブリージュを地で行く。女性陣の買い物をニコニコと笑顔で見ていたし、買い物に付き合ってくれと頼んだ時も文句ひとつなかった。できた人である。


そんなカミーリャが、ショーケースに並べられた宝飾品を一つ一つ吟味している。婚約者への贈り物だと皆察しているから誰も時間をかけることに対して文句など言わない。このデザインがいいなあ、こっちもいい、とブライアンが言っている間、アレスはガラスケースの中はオレには見えん、と荷物持ちに専念していた。とはいえ重たいものはアイテムボックスにロキが入れてくれたのでそこまで大荷物でもない。


「……」


カミーリャが困ったようにロキの方を見た。お眼鏡に叶うものがなかったようだ。


「カミーリャ、どんなものを探しているんだい?」

「それが、なかなか。デザインはどれも美しく洗練されたものだと思うのですが、その。……ダイヤモンドを贈りたいわけでは、ないんです」

「ふむ」


ロキがあたりを見渡して、カミーリャがじっくり見ていたショーケースの前に立ってみると、中にあるのはどれもカボションカット、つまり曲面に研磨されたものだった。ロキがカミーリャの瞳を見つめる。


赤みの混じった暗い茶の瞳は、スモーキークォーツに例えるには赤みが強い。暗いガーネットがいいだろう。

光が強く当たると赤く見えるその瞳を見て、ロキはしばし考える。


「カミーリャ、俺としては、こちらのカットでもいいと思う。光が当たって表情を変える宝石なんて、最高じゃないかな?」

「……彼女はもともと中央の貴族ですから……」

「なればこそ、だよ。辺境伯の意味も分からず侮られているのならば、いっそ流行を作り出して悪い事なんてないさ」


キュロットスカートはロキが令嬢姿の時によく履いていた。それを知ったロゼがファッションリーダーたる伯母(ロマーヌ王妃)に伝えて、ブリュンヒルデ測妃に話が行って、結果女性騎士たちの間で流行って大変なことになったことがある。カミーリャがこれから帝国の中央に食い込んでいくには、流行を作れるようなセンスを磨いておくに越したことはない。金色蝶(パピーリオ)たちはお土産、と言っていろいろと眺めている。


「そこの」

「はい」


ロキが視線を向けて声をかければ、女性店員がすぐ気付いてやってきた。愛想のよい笑顔で応えてくれる。


「何でございましょうか?」

「ここでは持ち込んだ宝石の加工を行ってくれたりは?」

「可能でございますよ」

「では、オリジナルのデザインのものを教えてほしい」

「はい、こちらになります」


店員が示してくれるデザインを眺めながら、ロキはセネルティエ王国はずいぶんと宝飾品加工が進んでいるように感じるなあと思いながら、とてもきらきらしいデザインを店員が通り過ぎたのを見て、一通りの説明を受けた後で問うてみた。すると。


「あ、こちらはハーバッシュ王国のデザインですね。向こうは、さすが宝石の原産国といいますか、リガルディアの魔石加工技術も素晴らしいんですが、宝石はハーバッシュが一歩先ですね。特に最近出たこのカット、まだ流通は先になるそうですが、広告も兼ねています」


店員の中指には、ブリリアントカットのダイヤモンドがはめこまれた指輪が光っている。ブリリアントカットがもう作り出されたということは、ハーバッシュ王国周辺の技術レベルはもう馬鹿にできないところまで来ているのだろう。


ハーバッシュ王国は、アイゼンリッターを作るにあたってセネルティエ王国と技術提携を結んでいるソウジェナ王国の隣国だ。技術力が高いと言えばソウジェナのイメージがあったが、リガルディアもうかうかしていられなさそうだ。


「本当にジュエリーがお好きなのですね」

「あ、はい。すみません、熱くなってしまって」

「いえいえ、とても身になる話を聞けて良かったです。ありがとうございました」


カミーリャがうまく話を切ってくれたので、いったんこの店を出ることにする。ロキとカミーリャは別の店も梯子することになった。

ロキが見つけていた店もあったらしく、そこに行ってみよう、とロキが言ったのでカミーリャは大人しくついてきた。


ロキが連れて行ったのは小さな個人経営のジュエリー店だが、店番をドワーフがしていた。カミーリャが納得した。ドワーフは大きな工房で働くと人間とは馬が合わないため、こうやって個人商店を持っていることが多いのである。店番のドワーフがロキに気付いた。


「なんだお前また来やがったのか!」

「まあそう言うなよ。今日の客は俺だけじゃないんだ」


口がやたら悪いのと、ドワーフと考えると随分と顔面が凶悪であることにカミーリャは気付いた。ドワーフには、エルフにエンシェントエルフやダークエルフといった傍流があるのと同じく、ドウェルグという傍流がある。ドウェルグは基本的にあまり人付き合いを好まない代わりに高い技術力と賢しい悪知恵が特徴だ。


この調子だとロキが散々からかって遊んでいるのだろう。こちらはショーケースには入っておらず手にとって普通に見ることができた。


ドワーフと協力している店なのか、宝石も置いてある。加工前の原石から、加工済みのジュエリーまで幅が広い。人間受けしなさそうな変なものも多い。

ロキとカミーリャは原石を置いている場所に向かった。


「くすねんなよ?」

「くすねるくらいなら店ごと貴様を買うぞ?」

「やめろ、リガルディアには行きたくねえ! あんなエルフだらけの所行けるか!」


この国もかなりエルフが多いと思うのだが、まあ、エルフの本拠地を抱えているリガルディアよりはましなのだろうとロキが言ったのでカミーリャは納得した。


赤い宝石は色味が濃いものほど値段が高い場所に置かれていて、その中から自分の瞳の色を探すのは容易くはなかった。色味が濃くなってくると黒っぽく見えて、本当にこれで装身具を作ってもいいものだろうかと思案してしまう。中央の茶会を見たことがないわけではないのだ、金はあったから中央の学園で中等部2年間は学んだ。しかしそこで行われる茶会に参加する令嬢は、婚約者を含めても皆きらきらしく目に痛いのだ。ドレスに合わせて美しいのは当然のことながら、宝飾品をこれでもかとつけている令嬢もいれば最低限しかつけていない令嬢もいた。


カミーリャの婚約者は侯爵家の令嬢だ。お金がないことを付け入る隙にして、父親がもぎ取ってきた婚約話の中に入っていた。別に構わないし、趣味の話も合うし、家格は最高、父親からの太鼓判と自分と彼女と彼女の両親とで決めた円満な婚約である。


ただ。


彼女の家は、お金がない。没落貴族だった。見栄が大切な貴族社会でこれは非常に痛手である。だからこその融資と婚約を引き替えにした条件で釣り合いが取れている。あまりきらきらしいものは嫌味にならないだろうか。


「何を悩んでいる?」

「……以前、これは似合うだろう、と思って買った品が、彼女のお気に召さなかったことがあるんだ。『嫌味なの?』って言われてしまって」


おそらく家格と財力の逆転による僻みだろう、彼女はわかっていても、それを抑えきれないほどに苦しい思いをしていたのではなかろうか。例えばいじめられていたとか。ありえそうだ。


「……その時はすぐ謝られたんですが、そう思わせてしまったのも悔しくて」

「その時の品は何だったんだ?」

「手提げのバッグです」


革とか使ってあったんだろうなあ、と容易に想像できることを考えながら、ロキはならば、と答えを返す。


「他国の貴族にあーだこーだ言う気はないが、相手の財力を見て、少しずつそちらの家が持ち直しているように見えるよう、服、宝飾品、小物を贈っていくのもありかもしれないよ。いっそ一気に一式贈り付けてお前が婚約者を愛していることを示せばいいさ。財力チラ見せの方法が嫌なら、財力をひけらかさないようにうまく立ち回れ。そうすれば婚約者が権力闘争からは守ってくれるはずだよ」

「……そこまで、考えていなかったな。ありがとう」


財力を示しすぎれば婚約者まで嘲笑の対象になってしまう。カミーリャはまだそれに気付いていなかったのだろう。リガルディアは家格通りに財力も大体並んでいるので問題ないのだが。


「おら、間接的に惚気てんじゃねえ! 甘えんだよ!」


ドウェルグがぺっぺっと文句をたれ始めたので、ロキとカミーリャは石を選ぶ。ロキが見立ててくれたガーネットは色が濃く、店内の光にかざしてみると艶やかな緋色を見せた。


「何にする?」

「……こんなに綺麗なら、ネックレスとイヤリングでセットにしたいな」

「げ、それ一番高い奴だぞ。それ1つで300万リール下らねえぞ?」

「買います!」


カミーリャが財力を見せた瞬間だった、とロキは語る。値切りも忘れて、その場で言い値で買ってしまった。恋愛すごい、とドウェルグがぽかんとしたので、ロキも珍しく入荷していたカラーチェンジガーネットを購入し、店を出た。


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