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2025/05/17 編集しました。
「まさか本当に直してしまうとは」
「契約した上位者の中に闇竜がいたなんて、ロキ君、末恐ろしい方ですね」
セネガルはアグラヴェインと話していた。もともと、若干赤字経営だったセネルティエ王国の国庫をどうにかしようとプラムが頑張った結果が少し出ていたのだが、災害復興用の予算を組んだことにより全部今回の予算に使われることになった。さらに貴族連中からも借金をしなければならないという試算が出て、頭を悩ませていたのだが、リガルディア王国の留学生であるロキ・フォンブラウの提案によってそれは大きく変更されることになったのだ。
ロキは自分の契約精霊の中に思った通りに地形を変化させられるものがいることをセネルティエ王家に伝え、一番うるさいであろう職人街の大工たちに話をつけに向かった。
どうやったのかはわからないが、大工たちを黙らせて戻ってきたロキは、そのまま大通りの整備をはじめ、学園内は人手を用意して片付けを行わせた。一通り瓦礫を退かした後、どちらも上位者の闇竜を呼び出して修繕を行わせた。王宮にも画家たちにも問い合わせて、職人街の者たちにも人海戦術で聞き込みをして情報を集め、王都の街並みをそっくり再現したのである。
ロキに言わせると、設計図さえあれば闇竜による再現が可能であるため、とにかく設計図に使えそうな風景画及び風景を覚えている者から情報をかき集めただけ。集めたそれをアレスとアテナに製図させなおしてオートに手直しを頼み、ロキが建築技術を持っている上位者たちに最終確認を行って実行したという。
数は力です、とロキは笑って言った。冒険者ギルドに土木系の仕事の依頼として提出し、災害復興に拍車をかけ、ベヘモスを倒して1週間で王都はおろか、周辺の都市も災害復興が始まっている。国境付近はアダマンタイトのおかげで崩れてすらない部分も多かったため、アダマンタイトを隠すために化粧石で覆っていた部分を修繕中である。ブレスを受けて塩化してしまった石が多かったため、アダマンタイトの表面を化粧石で覆いなおしているのだ。
大工が黙った理由は後に判明したのだが、なんとロキが言っていた建築技術を持った上位者というのは、大工やドワーフが崇めてやまないアスティウェイギア及びメタリカ族の者だったらしい。皆の家がないのは困るが、早く元の生活に戻ってほしいから、ということで、倒壊した建物が多い付近の家をすべて壊して長屋を作り、簡易でそこに住まわせ、少しずつ周辺の家を建て直す。それはもう大工に任せて、道の整備と巨大な建物、人口密集地を重点的にアスティウェイギアに修繕させているという。
プラムが、美術館に置いていた王家倉庫から出てきた焼き物などは壊れてしまったと言っていたはずなのだが、闇竜に直されたらしい。ほらこいつら災害だからと何やらわけのわからないことをロキが言っていた。美術館に置かれているそれらを直すとまずいことでもあったのだろうか。
それと、怪我人だが、一般人及び貴族にはほとんどいなかった。しかし、戦闘に赴いた兵士やアイゼンリッターの搭乗者、ロキを含めて5人ほどの学生が強制的に病院に放り込まれていた。ロキはベッドの上でできることから始めたというわけだ。
まず、ロキ・フォンブラウ。魔力の過剰使用による魔力回路の損傷、及び、実際はベヘモスとの魔力の削り合いを展開していたことによる著しい魔力不足による指先の炭化。病院に入れられて縛り付けられ、晶獄病を発症しないように厳格な管理のもと3日ほど安静にしていた。結果炭化が解け、5日目には万全の状態に回復したため現在は復興支援に回っている。
次に、モードレッド・ディライドレア。こちらは全治1週間。既に退院してはいるが、魔力回路の焼け付きと、魔力枯渇による四肢末端の壊死が著しく、ポーションを飲んだとのことで、それがなければ四肢は切り落とさなければならなかっただろうと魔術医に告げられて顔を青くしたディライドレア卿がいたとか。
オート・フュンフ。慣れない魔導具の使用による魔力回路のちょっとした焼け付きがあったそうだが、ドワーフの耐久値ゆえかぴんぴんしていた。
キョウシロウ・フォン・カミーリャ。オデュッセウスへの搭乗による強制的な魔力の吸出しによってもともと少ない魔力を更に擦り減らしていたことと、同じくオデュッセウスに搭乗した際の無茶な駆動による衝撃で若干脳震盪のような症状を引き起こしていた。倒れなかったのは頑丈だからだという。その頑丈さがどこから来たのかは不明だ。魔力がほとんどないといえど、魂あるものには魔力が存在する。ポーションを飲まされたことでかなり楽になったと本人は言っていたので、魔力回復系のポーションを飲んでいたのであろう。
ユウイチ。タウアと名乗っている彼は、ベヘモス相手にかなり鬼の力を使っていたらしく、見せたがらなかったが無理やり服を剥いたところ両腕が鬼の腕だったという。浸食されているのだろうと魔術医は言い、胸のあたりが赤黒くなっているらしい。鬼といえば鬼の伝承が我が国にもありましたな、と騎士団長が言っていたので、何かありそうなら情報を集めるようにと命じておいた。
随分と頑張ってくれたものだと思いながら、セネガルはそろそろ始まっているであろう中等部の終業パーティへ向かう準備を始めた。
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終業パーティにて、プラムはこれからの夏らしい深緑のドレスを身にまとっていた。宝石はあまり身に着けず、サテンの白いリボンをポイントにして可愛らしく飾ってもらった。髪飾りは金細工なのでそれに合わせて耳飾りは金にアメジストをあしらったものにした。着飾らなくてどうする、死人が出ていないのに暗いなんて嫌だ。
それはみんな同じだったようで、予想以上に使い回しを嫌うはずの貴族令嬢たちも今回は以前作った明るい生地のものを着てきているようだった。驚かれたのはリガルディアの貴族たちで、全員ワザとなのか、夏空色に白いレースをあしらったお揃いジャケットを着ていた。カミーリャは真っ赤なジャケットに金のカフスと涼やかな青いクリスタルのペンダントを胸ポケットにさしていた。
黒は今回はこの場に似つかわしくないとの判断であろう、タウアとゼロも主人に合わせて青と赤のジャケットを着ている。今回の終業式は華やかだ。
「……終業パーティへの参加、ありがとうございます、皆さん。まずは、皆さんのおかげで死者を出すことなく、ベヘモスによる災害を乗り切ることができました。本当に、ありがとうございました!」
プラムは最初の、生徒会からの連絡の際にそう言って話を始めた。誰も死ななかったことが嬉しかったのだ。普通にとはいかないし、今年のトレンドは暗い色だったはずだが、皆明るい色を着てくれた。似合わない色をわざと着ている者も見受けられるが、そこは今回だけということで。
食材が足りない、炊き出しをしなければ、なんて考えていたプラムは、逆にカミーリャが言った方法をとることになった。それは、食材を提供してもらう代わりに、今回のパーティを平民にも開放するというもの。大量に食材を利用するのだ、余ったら捨ててしまうものだってあるだろう。使用人に下賜する食事方法をとっているのはカミーリャだけだった。ならば平民も入れてしまおうと。分け隔てなくとはいかないが、今日だけ学内の施設を平民に開放しましょうと。お風呂に入れない平民だって多いのだ、これは効果絶大だろうとはロキの言だった。
学内の施設を開放する、ということで、流石に初等部は解放されないが、中等部と高等部は解放されることになったらしい。家を失くし、地震等で使えなくなった銭湯の代わりに1日限定の開放だ。
「王家による自分たちの株上げのプロパガンダの一種だと思えばいい。ここで警戒すべき貴族たちも絞られるだろうしな」
「ロキもカミーリャも頭が良すぎて私どうにかなりそうです」
ロキは笑いをこらえながらプラムの泣き言を無視した。
ここまでのお付き合いありがとうございました。これにて11章は終了です。




