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Imitation/L∞P  作者: ヴィラノ・エンヴィオ
セネルティエ王国留学編 1学期
328/377

11-60

2025/05/17 編集しました。

「キュクロプスって魔法なんですか?」

「巨人族にはキュクロプスの加護持ちもいるかもしれないけれど、人間にとっては魔法だね。鍛冶に携わる、または雷属性である、が条件の補助魔法だ」


迎えの者が来るまでロキとカミーリャは話し込んでいた。こうやってテスト前に仲良くなったのだろうなとセトは思っている。カミーリャが垢抜けてくればロキと喋るのに不安は感じさせない堂々とした振る舞いになった。ロキ自身が堂々と人と話すせいで、少しでも気圧されるとそのまま圧倒されてしまうことも多い。口調を和らげる工夫はロキもしているが、感情を剥き出しにした時のロキの言葉には異常なまでの威圧感があるのも事実だ。


「カミーリャ、一応飲んでおいて。タウアもね」

「ポーションですか?」

「魔力が少ない人の方が危ないからね」

「ありがとうございます」


ソルがポーションを持ってきてカミーリャとタウアに渡す。どれくらいがいいかわからないから一番等級が低いものを持ってきた、とソルは言ってまた戻っていく。


「……キュクロプスと言ったら巨人としか思っていませんでした」

「もともと3柱とも雷に関連する名前を持っている。雷鳴とか、雷光とかな。神話上の兄弟、強化魔法ならヘカトンケイルが一番強いだろう。……使えたら、鉄機兵がサブアーム付けたときまとめて強化できそうだな」

「へえ……」


ロキとカミーリャが面白がって話を進めていたらオートが割り込んでいく。


「さぶあーむ?」

「人型だと腕が2本だろう? そこを4本にするとでも考えればいい」

「ヘカトンケイルっていう鉄機兵を作ったほうが早くないかな、ロキ?」

「腕を増やすのって結構大変なんだぞ? 収納場所も考えねばならんのだし」

「なんで設計関わってないロキの方が知識あるみたいな喋り方するのー!?」


そいつが転生者だからだよ。

ここにそれを答えられるものは残念ながらいないのだった。


モードレッドに自作のポーションを飲ませるかどうかで悩んだ末に、飲ませない判断をしたロキは、身体が冷えないようにとアイテムボックスからブランケットを取り出してモードレッドを包み、身を寄せ合った。燃焼していない携帯暖炉、寒くなってくるとこれでほんのり温めるのは変わっていないようで、ロキが複数持っていたので皆で輪になって中央にそのいくつかをまとめて置いた。キャンドルみたいだとはオートの言である。


これから更に暑くなっていくとはいえ、まだ日はそこまで長くない。夕暮れ空に染まり始めた空が時間を伝える。夜はまだ、少し寒い。こちらの環境に慣れてしまったため、これでも寒く感じてしまうのだ。リガルディアに帰るの苦になりそう、とセトが呻きながらいい具合に鱗が冷えているコウを抱きしめていた。


迎えの者がやってきて、その中にカルとアルがいた。緊急事態であったとはいえ、他国の貴族、しかも子供を最前線に引きずり出したことになってしまったセネガルは対応に追われているようだが、カルたちもカルたちで対応せねばならない男がいる。迎えの馬車から降りてきたカルがもうじき来るはずだ、と言ったので、ロキは居住まいを正す。交渉事を、この疲れている状態でこなせるのは自分以外にないという自信の表れのようにも見えた。


「皆様、戻りませんと」

「いえ、もうすぐドラクル公が来ます。ベヘモスについての話まで済ませてから戻ります」

「ドラクル公って、第14席の?」


兵士が親切にも声をかけてくるが、ベヘモスの子供のイミットがいる可能性があるので、とロキが答えれば、驚いていた兵士は納得したような、していないような困惑した表情で貴人が乗るための馬車の準備をしに行った。


ほんの10分ほどだっただろうか、辺りがすっかり暗くなり始めたころになって、警鐘が鳴らされた。


「ドラゴンです! 数は、5!」

「危ないです皆さんも早く馬車にお戻りください!」


いつの間にか兵士が増えている。ロキ達はそれでも動かない。このままここにベヘモスの遺骸を放置しても魔物が寄ってくるだけだ。ナタリアが気を利かせて結界を張ってくれているが、離れればまず意味がない。合流したソルのポーションでモードレッドを少し回復させて、できる手当はこちらでそのまま受けて、月上がりに照らされる黒竜たちが下りてくるのを見つめていた。


「皆さん!!」

「お前たち、無粋だよ。わざわざ第14席が来るからって、尻尾を巻いて逃げるような真似するのかい? お前たちがベヘモスから守ったのは一体何だい??」


オデュッセウスを置いてきたらしいプレッシェが一喝する。まだ動けるアイゼンリッターを2機ほど連れて合流してきた。降り立ったドラゴンたちに目を向ければ、黒い髪をひっ詰めて結んだ若々しいイミットが立っていた。横には子供らしき黄色と青のオッドアイのイミットもいる。


ロキはする、と袖から砕いた竜鱗を張り合わせて作られたらしいブローチを取り出した。


「久しぶりだなぁ、ロキ坊」

「久しゅうございます、ドウラ・ドラクル。御健勝そうで何より」

「ロキ兄ー」

「ハドは後」


ブローチをそのまま袖に仕舞ったロキは、小さく笑みを零す。


「まさかこの時間帯とはね」

「眠いですか?」

「ハドがにゃ。まァいい、手短に済ませんべや」

「ありがとうございます」


ぽかんとしている兵士たちをよそに、ロキはドウラと話し始める。ソルとナタリアが木の器によそったスープを持ってきて配っていく。ロキとドウラが話し込んでいるのを眺めながらカルとカミーリャが言葉を交わす。


「ロキ君が話している方が列強の方なんですか?」

「ああ、ドウラ・ドラクルといって、一応リガルディア王国の大公家当主だな」

「一応って?」

「実際に土地を治めているのはフォンブラウなんだ。とはいっても、昔はちゃんと治めていたらしいが、フォンブラウ家が守っていた土地を一度内政が混乱した時に魔物にぶんどられた形になっていてなぁ……その時ドラクル家が治めていた村も離散したらしい。フォンブラウも、もう旧領都は使えないらしいから、そのままなのだそうだ」

「へぇ……」


もともと近かった大都市が機能を失って、村の体しか成していなかったドラクルの領都と呼べる場所は完全に機能を失ったのだ、とアルが補足した。


「そうだったんですか」

「もともと、ドラゴンは一か所に留まる方が珍しいからね。無理に留めるよりも、自由に過ごせばいいと言って村を解体した結果みたいだけれど」

「そうなのですか」


先ほどロキがハドと呼んだ少年が案外ロキに懐いているらしいことに気が付いて、カミーリャは微笑ましくなってきた。緊張していた頃が馬鹿らしくもなってくる。ロキは相手を知ってこそ態度を変える男だとカミーリャは学んだ。現にドウラ相手にはいつものロキのマシンガントークではなく、聞きに徹しているように思える。


「――は、どうだった?」

「……!」


ロキが一瞬凍り付いたような気がしたが、すぐにロキは元のペースに戻った。


「俺はもう問題ないよ。父上も、母上も、兄上たちもだ」

「ほか、ほか。なん、こん後のこつはお前たちん任せっばい」

「まったく余計なことを……! 本気で心配したんだぞ、こっちは」


話し合いが終わったようで、小声で何か言っていたロキの声が微かに大きくなる。


「――なら、ベヘモスの魔核はセネルティエにということでいいね」

「ああ、それがよか。……ようやく奴さんも眠るるわ」

「……もう起こしはしないと約束しよす」

「あんがとさん」


さ、ハド、帰るべ、というドウラの声がやたらと大きく響いた。ロキが携帯暖炉に当たるために戻ってきた。


「ロキ、どうなった?」

「ベヘモスの素材はこちらで使用可とのことだ。魔核はセネルティエに使用権を譲渡。あと、卵を見つけたのでプラムに押し付けてこようかと」

「ひでぇ」

『まあ、何の話?』


プラムは丁度リンクストーンを繋いだところだったらしく、声が返ってきた。


「プラム、ベヘモスの卵、いるか」

『いりません』

「まあ、ドウラの見立て上プラムについていきそうだと言われたから置いてくね」

『拒否権がない』


プラムは転移でそのままやってきて、アレスやアテナが薄手の毛布を皆に配っていく。ロキはいつの間に回収していたのか、10キログラムリンゴ箱くらいの大きさのまん丸の卵をアイテムボックスから取り出し、プラムに渡す。まだ殻の中で身体ができていない間はアイテムボックスに入れても問題ないという。


「うわーん、本当に私が面倒みるの!?」

「貴女を狙うということは、貴女にご執心ということ。竜種は親がそうなら子供もそうだ。親はハデスの元ではなくダヌアの元へ向かったそうだが」


大事にしなきゃ、とプラムが呟く。そう言える貴女だから子供を託していったのだろう、とは、今は言わないでおくことにしたカミーリャであった。



冒険者ギルドに連絡を取ったところ、裏方に回ってもらったラックゼートとアリアが連絡をいろいろ入れていたらしく、兵士、騎士たち用にアミュレットを配布したり、ベヘモスが歩いた分地震やら地割れやらが起きてしまった地方に居た冒険者たちに安全な地点まで村人たちの護衛を依頼として出していたそうである。もちろん金は王家が負担するのだが、貴族からも巻き上げられるだろう、とラックゼートは笑っていた。


「列強ってみんな手を組んでいるのだと思っていました」

「手を組んでいるように見えるのは不可侵協定を結んでいる王や長が所属しているせいだ。竜族、エルフ、人刃、蟲人はそれに当たる」

「吸血鬼は?」

「散らばりすぎてて分からないわ。大きな派閥のトップ2人が所属してるだけ。男性トップの派閥もあるけど隠遁してるし」


アリアがセトナ・ノクターンだとセネガルにばれてからは、アリアは敬語を使わなくなった。セネルティエ王家はユスティニフィーラの派閥なのだと教えられ、ロキはそんなもんか、と納得したような、理解したような。


帰りの馬車の中で列強についての話をラックゼートとアリアに尋ねながら、プラムはこれからのことに頭を悩ませた。


「災害復興どうしよう」

「金で請け負ってあげられるよ」

「へっ」


ロキから出たトンデモ発言にプラムは目を見開く。


「そんなことできるの? 知識があるとか?? あっでも経済も動くから職人さんたちにしてもらった方が、うーん」

「すべてを元通りにするだけなら、俺が契約してるやつにそれが可能な奴がいる」


もうすぐ夏休みであるから、終業式パーティがあるのだが、この状態でできるとは思えない。どうすれば良いだろう、と頭を悩ませていたのだ。


「……学園と王都だけお願いできます?」

「ならセネガル王の許可がいるね」


ロキはセネガルにリンクストーンで連絡を取った。災害復興についての話をすると、職人を黙らせられるなら、と条件が出た。


「職人にやらせたら時間がかかるから――そうだ、時間がかかっても問題ない部分をピックアップさせて、橋とか住宅とかを優先することにしましょう。王都の大工はどこに?」

「えっと、下町です。裏通りにあるんだけど」

「わかった、明日行ってみよう。大工たちの方が災害にあってれば問答無用で全部直すが、そうでなければプレハブみたいなものを作って、家の立て直しの仕事を大工らに任せればいい。学校はどうする、宮廷大工がいるだろう」

「いっそ建て替えたい」


王都に入りましたよ、と言われて窓の外を見て、ロキは言った。


「外観がほとんど崩れてないが」

「強化魔術がかかってるんですぅ!」

「なら俺が直そう」


これからの予定全部やばくなってる、とアテナが言えば、旅行とかいろいろ計画してたのに! と生徒会長であるプラムの悲鳴が聞こえた。


「博物館とか美術館とか作ったのでそっちまわろうかなとか考えてたんですよぅ……」

「経済分からない状況からよく頑張ったなプラム殿下……」

「だって、だって、入館料とか取って、王家の宝物なら皆興味持ってくれるかなって、お金になるかなってぇ」

「よしよしパニクってるな、落ち着け」


ソルが準備してくれたココアをロキが少し飲んでからプラムに渡す。プラムはココアを飲んで落ち着いた。


「……帰ったら生徒会招集しますね」

「貴族全員強制召集を掛けて学内の清掃から始めるぞ。貴族連中どうせ動かないだろ」

「直すだけじゃダメなんですか?」

「空間把握がしっかりできていないと俺の契約方法だと少し不安だ。あいつは人間の建築に詳しいわけじゃない」


学園についたところで迎えてくれたのは高等部の生徒会と金色蝶、アカネ、アルテミスだった。


「御無事で何よりです、プラム殿下」

「そちらも、御無事で何よりです。金色蝶(パピーリオ)殿下、皆さんお怪我は?」

「中等部まで確認しましたが、怪我人はいません。大丈夫です」

「良かった」


この後のことを話し合わなければならない。プラムは中等部の生徒会役員と執行部を招集し、今後の話し合いを始めた。


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