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Imitation/L∞P  作者: ヴィラノ・エンヴィオ
セネルティエ王国留学編 1学期
327/376

11-59

2025/05/17 加筆・修正しました。

「よう、レジスト対策、持ってきてやったよ」


デスカルの言葉に、ロキは息を吐いた。ロキのステータスを考えて雷以外で拙いものと言ったら、病とか、死とか、そういう本当にヤバいものしかない。デスカルはどちらの権能も持っている。


「モードレッド、次のクラレントは自分だけで撃て」

「おいおいまじかよ」

「おちび君、これ使いな」

「オートだよ!」

「ロキはこれだ」

「……」


オートもロキも、渡されたのはバングルだった。オートはウォーターメロンらしきトルマリンがはまったバングルであり、ロキはジェットが嵌め込まれたバングル。

解析をかけると、どうやらオートには風の魔力を雷に変換するトランス術式が組み込まれているもの、ロキには即死属性の付与効果のあるものを渡されたらしい。


考えている暇はない。そんな暇があったら皆の回復に力を注ぎたいくらいなのだ。やたらと近くに感じる圧倒的な魔力の濃さにもかかわらず、べへモスの至近距離にいるというだけで、デスカルの魔力さえちっぽけに思えてくるから、竜種とはかくも恐ろしいものだと感じる。


「魔力を流し込んで撃ち込みな。レジストさせるだけなら出血するレベルでぶち込めば済む」

「わかった」


ちくしょー、とモードレッドがぼやきながら次のクラレントの詠唱を始める。


「直接の助力はしてくれないの?」

「竜種は無理。俺たちは生き物を殺すことはできるけどな、竜は環境として捉えられる。木は生き物だが山は環境だ。俺たちはこの世界の環境を変える権利を与えられてはいない」


世界樹とのお約束さ、とデスカルは告げて、ロキに鎌を渡す。


「これは?」

「このべへモスは渾沌になりかかってる。導き手の元へ連れて行く、この鎌がそのゲート」

「最後にマナの集中している部分をこれで切ればいいんだな」

「ああ」


頼むぜ、と言ってデスカルが離れる。タウアと、カミーリャとプレッシェの乗ったオデュッセウスだけではべへモスを抑えきれない。再び咆哮したべへモスにデスカルが顎の下から鎌を突き刺した。


「ハイ坊やちょっと黙ろうか」


阿保か、そんな簡単に刺さるなんてとはもう言わない。上位者なんてそんなものだと自分に言い聞かせ、ロキはバングルに魔力を流し込む。

デスカルの鎌も大ダメージとはいかないらしいところが竜種の恐ろしいところなのだ、本当に。


下顎にダメージを受けたベヘモスが、デスカルが離れると同時に吠える。デスカルは思ったよりも遠くに吹き飛ばされ、頭痛を引き起こすほどの咆哮にロキは片耳を押さえる。ぱきん、ぱきん、と小さな音がした。


「……行くぞ、ロキ、オート」

「おう」

「うん!」


咆哮に耐えきったらしい。詠唱を終えたモードレッドが声を掛けた。オートもバングルに魔力を流し込んで、バングルからバチバチと放電が始まった。赤黒い雷が青白い光を巻き込んだ。


「――【メドラウト・クラレント】!!」


再び放たれたクラレントは、初撃よりもずっと威力が低い。モードレッドは2発でガス欠になるのだ、威力は致し方ない。ロキとオートの詠唱が重なる。


猛者共(たけきものども)振るう拳、届かせたまえ、我らが祈り。此度戦場に赴きたまうは戦神の猛り狂うが如き様。御魂は焔、(あか)く揺らぎ、者共絡む(かいな)に嗤う。(こう)と輝く焔を鎮め、沈め、静め、喰らう。是は灯を呑む幽鬼の(あぎと)、宵闇の帳を此処に下ろす。其の力を削ぐ我が獣の牙、【対魔力術式・吸魂(セーレンフォーサー)】」


ベヘモスに紫の幕が下りる。


「我、友への力添えを願う者。風の知らせ、雷を呼べ、曇天を裂く天の炎を作り出せ、≪ステロペス≫!」


オートの身に着けた宝石と、魔力が通っていたらしいコートの刺繡部分が強い魔力を帯びてキラキラと輝く。バチバチと火花の音がし始め、詠唱が終わると同時にオートの身体が雷に包まれる。


「鼓動を止め、静寂(しじま)に潜む。其、久遠の眠りを誘うもの。又其、引き摺り込むもの、或は其、万人に等しく訪れるもの。是は死神の示す道標へ連なる黒き弾丸。【即死の魔弾(タナトスバレット)】」


ロキがピストルのように手を構え、魔力を集中させ、放った。オートがベヘモスの目に突き刺さった投擲槍にしがみつく。雷電は剣を伝ってベヘモスの庇い切れない肉を焼き焦がす。


ベヘモスには先ほど効かなかったはずの電撃が、確実にベヘモスの肉を焼いていく、臭いが漂ってくるのがなんとも不快だった。吠えようとしたのか、無理に立とうとしたのか、ベヘモスの身体が急激に上昇する。


「うわっ」


モードレッドは二度目の加護固有魔法の開放で魔力切れで身体に力が入らない。オートは槍にしがみついている。セトがオートのジャケットを掴み、ゼロが咄嗟に変身を解除してモードレッドを掴んだので一緒に持ち上げられた。ロキはそれを加護による浮遊で逃れ、【対魔力術式・吸魂(セーレンフォーサー)】によるドレインが切れたことを確認した。


「ロキ、どうだ!?」

「ドレインが切れた」


ほぼ全員魔力切れになるであろうと予想しての、介助要員と化していたセトが、その仕事を始める。セトからの声にロキは静かに現状を伝えて、カミーリャたちを見やる。デスカルと思しきペリドットの体長30メートルはあろうかという怪鳥が、オデュッセウスを足に掴んで離脱していくのが見えた。


「オート!」

「キュイ!」


セトがオートを抱きかかえて槍から引きはがし、コウがオートの頭の上でポンポンと跳ねた。流石にオートも魔力を一気に流しすぎたようで、ヘロヘロの状態でセトに抱えられて戻ってくる。


ロキはその手にデスカルから渡された鎌を持ち直すと、ベヘモスの脳天に突き刺した。いとも容易く刺さるその鎌は、しかしベヘモスから血が流れることはなく、魔力の残滓と思しきパーティクルが舞うだけだ。


「貴方に終焉を。お休み、ベヘモス」


ベヘモスの身体が轟音を立てて地面に倒れ伏す。身体強化のなくなったベヘモスの身体は自重で崩壊を始め、血が噴き出し、肉と骨が拉げ、ベキベキと嫌な音を立てて崩れていく。少し離れた場所でロキたちはそれを見届けた。



リガルディアとセネルティエの国境。倒れたベヘモスの身体からパーティクルが飛び散る。ロキはデスカルが戻ってきたのを確認して、自分はオデュッセウスの方へ向かった。デスカルが抱えていたということは破損している可能性がある。


「もう動けねえ……」

「キュー……」

「あ、ロキ!」


伸びているモードレッドの頭に乗っているコウがロキを見た。セトとゼロはオートとコウを置いてどこかへ向かったらしい。


「オート、ゼロとセトは?」

「カミーリャさんたち見てくるって! ロキも行くの?」

「そのつもりだったが、2人が戻ってくるまで待とう。俺も少し怠い」


魔力を一気に放出しすぎた。ロキの魔力は減るとなかなか満タンになるまでに時間を要するので、怠さがずっと続いて大変なのだ。アイテムボックスから魔力回復用のポーションを取り出したら、オートからジト目で見られた。


「ロキの持ってるポーション、疲れてるときに飲んじゃダメなやつでしょ、それ」

「よく見てるな」

「瓶の色変えておいてよく言うよ」


むしろそれ僕にちょーだい、と手を伸ばしてきたオートにそのままポーションを渡す。ロキは下手に身体に作用するようなポーションを飲むと、魔力の生成速度が馬鹿みたいに上がって晶獄病を再発する可能性が、なくはないのである。完治はしているが、そういう状況になったらば、再発となる。


ロキは座り込んでゼロとセトを待っていた。しばらくするとカミーリャとタウアを連れてゼロとセトが戻ってくる。


「ロキ君! 御無事でしたか」

「カミーリャ、そちらこそかなりオデュッセウスごと振り回されていたようだが、どこかぶつけたりはしていないか」

「俺は大丈夫です、と言いたいところですが」


カミーリャが握り込んでいた手を開く。そこには、破損したアミュレットがあった。


「すぐ近くで咆哮を受けたときに、ぱきっといきました」

「オデュッセウスの中でも駄目だったか」

「そちらもですか」

「うん」


人刃族や竜種はただでさえ耳がいい。ドワーフもそうだが、耳の良い種族が近くで鼓膜が破れるほどの音を聞けば、下手したらショック死だ。アミュレットが壊れていなかったのはモードレッドだけだったので、ロキ、ゼロ、オート、セトは咆哮によるショック死という一撃死をアミュレットによって免れていたらしい。


オデュッセウスは正直、中破くらいのダメージを受けたとカミーリャは言った。オートが、整備大変だったのにねー、となんてことないように言うのでカミーリャは少し困ったように笑った。ドワーフは人間が思っている以上に器用なのである。


「つーか、オート、お前キュクロプス系の魔法使えたんだな」

「あ、ステロペスのこと? ロキに言われて覚えたけどまだステロペスしか使えなかったんだよ??」


意外だったわ、と言いつつモードレッドが漸く自分で寝返りを打って仰向けになった。ゼロが腰を下ろして口を開く。


「すぐに迎えを寄越すそうだ」

「ならば待機だな」

「キュ」


コウは無事にセトの元へ戻っていった。


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