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2025/05/17 編集しました。
ロキから攪乱を任されたソルとガウェインはベヘモスの膝を突き回したり、目元に矢を射ったりして気を引く。プラムにだけ集中されても困るからだ。ゼロたちはまだベヘモスの頭の付近で飛び回っている。そろそろ決めて貰わなければ、ソルの魔力が保たない。戦車を出しているのはソルの魔力だからだ。
「ロキ、まだなの!?」
『まだだ!』
「私いったん城壁に戻る!」
これ以上は命にかかわるとソルは判断し、独断で戻ることを決めた。
「ごめん、ガウェイン戻る」
「わかりました」
ソルの魔力量が限界手前であることを悟ったガウェインはソルの要請に応じた。ソルは戦車を城壁へと向け、ガウェインは後方のベヘモスを警戒する。封印石を持ったアイゼンリッターたちは配置が固定されるためもう動けない。守る必要も出てくるのである。帰還途中でオデュッセウスとすれ違った。
「オデュッセウス?」
「どうしたんでしょうか」
城壁に戻るとアレスからすぐに休めと言われてアダマンタイトに囲まれた部屋に通された。ミスリルで作られた調度品がソルとガウェインの魔力を吸って火属性を帯びる。
「モードレッドってどれくらいの電撃が出せるの?」
「雷くらいならば出せますね。威力は、そうだな、吸血鬼族の先生と手合わせをして半身が吹き飛ぶくらいですか」
威力は十分だなとソルは思った。問題は、その電力がどこまでベヘモスに通るか、なのだろう。水を浴びせかけたということは、外側に電気が漏れたときにダメージソースになるようにとの考えからであろう。ということは、ループの中でロキは相当ベヘモスに苦戦を強いられていたのではなかろうか。
窓から外を見やれば、デスカルたちが何かしているのが見える。雷属性以外に何かを付与するつもりなのだろうか。
「デスカル、何してるの?」
「属性付与! 即死つけてやる」
とんでもないものをつけようとしているようだった。今かろうじてではあるが痛がっているのだから、【即死】で引っ搔き回す方が良い、とデスカルは言う。
「幸いロキは鎌にも適性があるしな。焼き殺しても魂が残る、そこをロキに刈り取らせなきゃならん」
「そういうものなの?」
「自分の事情で巻き込んで頭パァになってる人だぞ? 慰謝料出せって言ってるんじゃねえんだからいいだろ?」
雷がレジストされても、即死がレジストされなければいいと言う。魔法耐性、魔術耐性は基本的に複数がぶつけられた場合、どちらもレジストするように動くが、本人の意思によってはどちらかだけをレジストするように変更もできるのだとデスカルはソルに説明した。
「即死属性はロキは持っていない、だから雷しか付与できない。が、あの子くらいの竜種なら、即死をつければ十中八九即死をレジストしに来る。そうなりゃ雷魔法がモロに入る。それで今回の依頼は完遂だわな」
デスカルは風属性で雷も持っているらしく、扱いはお手の物であるらしい。ナツナとカルディアはベヘモスが進まないように牽制を行っている。上位者が複数でかかってなお倒れない竜であることを、ソルは認識する。ナタリアはプラムを最前線にと言ったが、さすがに止める気持ちもわかる。
「最初のブレスは何で飛んできたのよ?」
「ルルガンシェたちも準備ってもんがいるんだよ。ロキみたいに変化でプラズマ作ってるわけじゃねえんだ、察してやってくれ」
どうやら準備が間に合わなかったらしい。今はもう大丈夫、とデスカルは言って、示したほうを見やれば雷を纏っているらしいルルジスと、眩い光を纏っているのに眩しくないルルガンシェの姿があった。
カルの声がして、城壁からソルたちの代打が出撃したことを知らせる。
「こちらに気を向かせろ、行けるな、トリスタン殿」
「はい。――我が矢は必中にして必死の一撃。≪必的へ導く弓≫!」
♢
カミーリャのやることにプレッシェは一切口を挟もうとしなかった。これ幸いとカミーリャは先にロキと打ち合わせていた予定を簡潔に伝え、射った矢がベヘモスの目に刺さるのを確認したのと同時に走り出していた。
オデュッセウスは速かった。人型ロボットというよりは、人間の動きをするように作られた魔導人形の巨大なもの、といったほうが近いのであろう。ゴーレムの仲間らしきこの鉄機兵たちは、人間よりもずっとずっと速かった。
ワイバーンが飛んでいる。ゼロだ、と認識すると同時に、オデュッセウスのコクピット内に潜んでいたらしいタウアがするりと降りてくる。
「おや、どこにいたんだい?」
「上」
「そうかい」
プレッシェも気配はわかっていたのであろう、それ以上は何も言わず、カミーリャが投擲槍の石突部分を、刺さった投擲槍の石突と合わせたところで仕込まれていた魔法陣による連結を行った。次にコクピットを開き、タウアが外に出る。コクピットを閉じると、連結された槍を、オデュッセウスのパワーで、ベヘモスの眼球にさらに捻じ込んだ。
「ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアア――」
至近距離での咆哮はオデュッセウスを激しく揺らし、投擲槍を掴んだままのオデュッセウスは激しく揺さぶられた。
「っ」
「ぐうぅぅっ」
振り回されることに慣れていない2人はそれでも耐える。タウアはもっと危険な方へと向かったのである。2人のこの位置にはブレスは中らない。
足場はない。走って跳んでここに今いる。あとは――
「無茶する人たちですね」
「助太刀!」
「防御は任せろ!」
「足は着いたかなぁ~?」
「もう少しです、頑張りましょう!」
作戦開始直前にロキから、メタリカである、と紹介を受けた、ルビー、サファイア、エメラルド、ダイヤモンド、トパーズが土魔法でオデュッセウスに足場を作ってくれたらしい。オデュッセウスは再び地面を踏みしめた。
『おらおらおら、退けえええええッ!!』
リンクストーンからモードレッドの声が聞こえる。突撃してきているのだろう。魔力がほとんどないカミーリャにはわからないが、後方がやたらと明るく見える、これは、知っている。赤く照らされたベヘモスの表皮を見て、カミーリャは、上方へと跳んだ。
♢
「ゼロ」
『ああ』
ロキはオデュッセウスが投擲槍2本を連結してベヘモスの眼球に深く突き刺したのを見届け、近付くようにゼロに指示を出す。ゼロは頷いて近寄っていった。モードレッドはその間に詠唱をし始める。その腕に巻きつけられたネックレスらしきアクセサリー。
「これは我が力の証明、輝けるは眩き白銀の剣なり。我が名はモードレッド。最も果敢な男である」
赤黒い雷が剣に纏わり付く。ロキはそれを見てモードレッドの背に手を添えた。魔力を受け渡す。ロキの魔力はモードレッドの魔力とほぼ同質のものに変わっていく。
「……お前の魔力、すげえな」
「ありがとう。魔力タンク役にはもってこいだろう?」
「言うなよそーゆーの」
メタリカたちが飛び出してオデュッセウスの足元を作り出す。おし、とモードレッドはリンクストーンに向かって叫んだ。
「おらおらおら、退けえええええッ!!」
オデュッセウスが槍を放して、上方へ跳躍する。猶予はない、これが決まらなければ被害は甚大、封印石の使用時間ももうそんなに残ってはいないだろう。
「――≪メドラウト・クラレント≫!!」
投擲槍が痛いのだから瞼など閉じているに決まっている。モードレッドは高出力の雷を投擲槍に中てる。金属製の投擲槍は無事に電気を通し、ベヘモスの目から煙が上がり、ベヘモスがさらに吠えた。
「クッソ!! 効いてんだろうけど、倒れねえぞ!?」
「ベヘモスがでかすぎる! あとレジストされた!」
「強化魔法の上にレジストも上げましたってか!!! ざけんなよ!!」
もう一度やるしかない。その瞬間だった。
ベヘモスが首をもたげた。
「しまっ、」
「オート、この中に!」
「うん!」
ベヘモスが再びブレスを吐く。しかも今度は、方向が定まっていない。次の瞬間、城壁のほうで爆発的な魔力開放が行われた。
「ガラティーン!?」
「光竜も動いている!」
ゼロを守り切れない!
ロキは内心悲鳴を上げた。
『ロキ、大丈夫だ』
ゼロはそう言って、直後、ベヘモスの顎が下から打ち上げられ、その鼻面にオデュッセウスが蹴りを入れた。
『集中してください!』
「こっちはオレたちが何とかする」
カミーリャとタウアの言葉に、もう一度だ、とモードレッドが魔力を集め始める。
氷でセトとコウ、オート、モードレッド、そして自分を守っているロキは、これ以上の魔力の消費はできない。次雷をもう一度撃ったところで意味がない。レジストされるのが関の山だ。
「よし、間に合ったな」
一陣の風が吹く。
「デスカル?」
振り返ると、赤い髪の風の女神がそこにいた。
「よう、レジスト対策、持ってきてやったよ」




