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Imitation/L∞P  作者: ヴィラノ・エンヴィオ
セネルティエ王国留学編 1学期
325/377

11-57

2025/05/16 編集しました。

さて、ランスロットには特徴的な魔法がある。≪魔力鎧≫と呼ばれ、魔力によって形成される鎧の着脱を基本とするこの魔法は、ランスロットという、防御に秀でた加護との相性が抜群によい。故に今回、実働部隊としてベヘモスの背中に取り付くことが決まったのである。


ランスロットとベディヴィエールはギャラハッドを連れてフェンリルでベヘモスの背中に上っていた。


「すごいですね」

「家が建っている」

「あぶー」

『恐らく、このベヘモスが動くまでは誰かが住んでいたのだろう』


水晶の柱のすぐ傍に建っている小さな家は、建っていた場所がよかっただけと見える。水晶の柱はべへモスが身体を起こしたときに地面の土を落としながら隆起したのだ。他の建造物があったとしても、既に倒壊している、が正しいのかもしれない。


見つけた家屋の中に踏み込む。中は生活していた痕跡が、かなり新しかった。恐らく3日前にベヘモスが動いた時に家人は家にいなかったのであろうとは想像に難くない、荒れた雰囲気というよりは震災にあったような状態であった。扉が歪んでいて蹴破るしかなかったし、カンテラが置いてあったのか床に落ちて薄いガラスが砕け散っている。


「これは……」


ランスロットは横の部屋に入って驚いた。


「子供がいる!」

「えっ」


ベディヴィエールはアイテムボックスに入れてきたパンとミルクを取り出し、子供の許へもっていく。3日間も何も食べていないのだから衰弱しているはず、と思ったのである。


そこにいたのは獣人だった。ヤギと思しき角の生えた獣人。なるほど、山に住んでも平気または山の地形を好むものかと思ってはいたのだが、そういうことかと納得した。

パンもミルクも問題なく食べられるだろう。ロキに勧められて持ってきたが、ロキはどこまでわかっていたのだろう。


「お嬢さん、こっちにおいで。助けに来たよ」


寝室と思しき暗い部屋の隅で、藁を敷いて上からシーツを被せてあるだけの簡易なベッドに、少女がうずくまっていた。ランスロットが声をかけると振り返って唸り声を上げ始めた。怖がられている。


「……ギャラハッド」

「あいー」


ランスロットはギャラハッドを下ろしてヤギの少女に近づけた。少女は驚いてランスロットを見るが、ランスロットは一礼すると寝室を出た。ベディヴィエールの方が優しい顔立ちであること、自分が今魔力鎧を展開していることを考えて、ここにいるよりも小屋をどうにかした方がいいと思ったのだ。


ランスロットたちは、人が誰かいた場合、転移を使えるならばそれで退避した方がいいが、雷を使う関係上、雷の入ってこない箱の中に居てもらった方がいいとロキに言われた。屋根があり、壁があればしっかりしたつくりなら雷が箱の内側に入ってくることはそんなにないとロキは教えてくれたのだが、窓を開けっぱなしにすると意味がない、とも言われた。


今いる小屋はだいぶ歪んでしまっている。どうしよう、と思っていると、フェンリルが声を掛けてきた。


『この辺りは比較的地盤が平らだ。主はベヘモスの内側を焼くのだろう? ならば土でも箱を作ればよかろう、ぼさっとするな、ベヘモスの魔力に遮られて我々には通信手段がないのだから』


そう。

リンクストーンは【念話(テル)】と同じような術式を持っているため、ベヘモスに取りつく形になる都合上、通じない可能性があるとロキは懸念を示していた。ランスロットはリンクストーンを取り出す。魔力を流してみても、すぐに魔力が霧散した。ランスロットよりもベヘモスの魔力の方が強いのだ。


「……土木作業か……」


やったことない、とぼやきつつ、ランスロットは近くの土を掘り始めた。箱を作るための土台を作ろう、ランスロットは残念ながら水属性であるため土は使えないのだった。



「……すごいですね、もうすぐそこに見える」

「そうだね」


トリスタンとジュードは王宮からベヘモスを眺めていた。いざとなったらトリスタンの加護の力を借りるかもしれないとは言われていたが、特に出撃要請を受けることも無く、現在も王都で過ごしている。もしかすると急に呼ばれるなんてことがあるのかもしれないが、今は、まだ。


こともなげに会話ができているものの、王都でさえベヘモスの一歩の衝撃で地震が起き、窓ガラスが割れている建物が見受けられる。アダマンタイトが仕込まれている建物は良いが、それ以外の建物は再建が大変だろう。総本山たる大教会の地下は魔物の巣になっていて空洞が多く、避難場所としては使えない。王家は王家所有の公園に王都の者たちを集めて、地震による建物の倒壊での死者が出ないよう対策を講じた。


「リガルディア側は何故公爵たちを寄越さないのですか?」

「我々の一件でフォンブラウ公爵が動いていただろう? だからだとも」


トリスタンにはそこがよくわからない。確かに、他国の事情に自国の上級貴族を寄越すのもなんだかおかしいとは思うのだが。


「……リガルディアが得るものがないからですか?」

「それもある。まあ、リガルディアの貴族は、上の方はあまり損得勘定が得意じゃないけれどね」


ということは、本質はそこではないのだろう。


「……分かりません」

「少し、難しかったね」


ジュードは空を見上げる。薄紫の肌の闇精霊が、近くを通った風精霊とお喋りをしていた。

トリスタンはひときわ大きく揺れた衝撃て立っていられず、尻餅を着く。ジュードがそれを助け起こした。


「公爵のように魔力が高く練度の高い()()を長距離転移させる力を持っているのは、時空間属性の適性を持つ者だけだ。リガルディアにそこまでのポテンシャルを持っている者は、ロキ様を含めて3人しかいない」

「じゃあ、ロキ様がこちらにいらっしゃって、フォンブラウ公爵が一度移動しているから」

「そう、恐らくリガルディアが使える転移はあと1度。この短期間でアーノルドの魔力抵抗を受けた術士が回復するとは思えないからね」


人刃族は魔物である。故に、主従契約を結んでいれば話は別だが、そうではないならば、その抵抗力を十全に発揮するだろう。ましてアーノルドともなると、リガルディアにおいて最強の称号を持つ。上手くすり抜けが効かない訳ではないが、すり抜けられる術士がいないのだろうとジュードは言った。


恐らくだが、今回転移を使うとすれば、間違いなくクローディ家が動くだろう。闇属性に適性を持つ魔力が豊富な家と言えばあそこしかないのだ。


「教皇台下、トリスタン様」

「おや」

「はい」


1人の騎士が近寄ってきた。着ている鎧が赤く塗られ、金の縁取りがある。纏っているマントに鈴蘭の小さな刺繍があるのを見て、ジュードは「きたか」、と呟いた。


「用件は」

「は、ロキ様から、トリスタン様への出撃要請がありました。召喚に応じていただけますか」

「分かりました」


トリスタンが歩き出す。目の前のこの金髪の騎士が誰なのかは何となくわかった。ジュードがトリスタン、と呼び止める。


「?」

「これを」


それが戦装束であることに気付いたトリスタンは、ジュードに向き直って恭しく下賜を受ける。トリスタンがもしたったの一矢でも放つことがあるならば、この衣装は大いなる助けとなることだろう。


トリスタンがついてくることを確認した騎士は礼を取って転移魔術を発動させる。短距離移動をするだけでも相当な魔力を消費するので、この騎士は魔力が多いが戦力外通告を受けているに等しいと言えるだろう。


「トリスタン様」

「何でしょう?」


騎士が口を開いたので、トリスタンはそれに答える。


「世界は、楽しそうだと思いますか?」

「……そうですね」


今までずっと閉じ込められてきたので何とも言えないけれども、やりたいことはたくさんある。今ここに一緒に入られなくて、前線で恐らく荷運びをしているであろうアストルフォや、今回前線に出ていくことが予想されたガウェイン、ランスロット、ベディヴィエール、モードレッド。皆手紙をよくくれた。ロキだってそうである。ロキは情報収集のためだったとしても、文通だけが、トリスタンの外を知る手段だったのは事実だ。外国の風景を綴ってくれたロキの手紙は、トリスタンにとっては宝物だ。


「ぜひ、この足で世界を歩いて回りたいと、思っています」

「……ならば、まずはあの山脈を打倒しませんとね」

「はい」


前線に到着し、既に出撃しているロキの代わりにカルの指示を仰ぐようアレスから託けられ、カルの許へ向かうと、城壁の向こうに豪速で走っていく鉄機兵が見えた。よくあの揺れの中を走れる、と思ったのはトリスタンだけではないだろう。


「よろしく頼むぞ、トリスタン殿」

「はい、こちらこそ、よろしくお願いします、カル殿下」


戦衣装に着替え、いつ指示があっても大丈夫なように魔力の制御を行っていく。黒い瞳を見た兵士が驚いていた。


「む、ソルたちが戻ってくるかもしれんな」

「弓兵が減るってことですね」

「ああ。引き継げるか」

「問題ありません」


カルの言葉でトリスタンは周辺を確認する。確かに、ベヘモスの膝辺りを狙って矢を放っている少女がいる。朱色の髪を揺らして、その姿は金色の光に包まれていた。

視線をベヘモスに戻して、トリスタンは弓に魔力で形成した矢を番えた。


必中の弓、フェイルノート。

ロキが必要だと言った力が、今、竜に牙を剥く。


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