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Imitation/L∞P  作者: ヴィラノ・エンヴィオ
セネルティエ王国留学編 1学期
322/378

11-54

2025/05/15 編集しました。

大地が揺らぎ、木々がひしゃげ、踏み込まれた地面から地中の魔物の悲鳴が聞こえる。地響きはもはや地響きではなく、目の前の巨体の足を踏みしめる音として、そして、地震として人間たちに伝わっている。


ロキが連れてきている使用人一団の中に入り込んでいたラックゼートを呼びつけたのは、概ねべへモスへの迎撃準備が済んだころ。


「ねえ、本当にベヘモスってブレス吐かないよね?」

「何を言っている、ベヘモスは塩化のブレスを吐くぞ」

「えっ」

「えっ」

「うぇっ?」


オートの言葉にラックゼートが答え、皆が固まった。


「まじ?」

「おおマジだとも。そもそも、ベヘモスがブレスを吐かないなんて誰が言ったんだ?」


ラックゼートは呆れたように息を吐いて、ロキが立てている作戦のメモ書きを眺める。ロキはもともとベヘモスがブレスを吐くことを前提とした作戦を立てているが、この時ばかりはその認識でいてくれてよかったとラックゼートは思った。


「ロキ、どうしよう!」

「大馬鹿者、何のためにアダマンタイトを配布したと思っている! 魔法に対してアダマンタイト最強だからな。まさに最強の盾」

「ベヘモスのブレスだと熱量があるから気を付けたほうがいいぞ」

「アダマンタイトが融解するような温度なら人間はもうとっくに死んでいるよ」


確認事項を1つ1つ確かめていく。皆の配置、合図、アイゼンリッター隊の動き、待機場所。アレスとアテナとプラムが中央指揮、後方支援はセネガルとピオニーが受け持つといっていた。


「ロキ、ベヘモスをどう叩くつもりなのかもう一度教えてもらってもいい?」

「ああ」


プラムたちを守る騎士たちも一緒に話を聞いてほしいとロキが言ったことで、その場にいる全員が話を聞くために耳を傾ける。


「まず、封印石を持たせたアイゼンリッターによる包囲。包囲が終わるまではベヘモスの脚をチクチク、だ。その間に俺がベヘモスの止まる予想位置にドレインの術式を描く。今回ドレインするのは強化魔法だから、前に言った通り成功率は五分五分。成功した場合はそのままオデュッセウスで投擲槍を撃ち出す。狙う部位は目。瞼ってのは基本的にどんな生き物もほかの部位に比べて薄いからね。その後、雷魔法を刺した投擲槍を伝わらせて直接ベヘモスの脳髄を焼く」

「成功すればベヘモスの強化魔法が解けて自重で自壊するはずです」


ロキの言葉に最後ナタリアが補足すると、プラムの護衛についている騎士たちがざわめいた。そんな雷魔法の使い手がいるのか、と。


「……雷魔法が使える者を、俺は1人しか知りません。モードレッド、やれるか」

「やれるかじゃなくて、やらなきゃなんねーんだろ?」

「……ああ。正直、案はこの1本しかない。しくじったら全員死ぬと思え」

「うわ、なんつープレッシャー」


モードレッドがけらけらと笑う。大体そんなに上位者連れてて失敗とかないだろ、と茶化すようにロキの後ろに控えている上位者たちを指して言った。ロキは苦笑を零す。


ロキの後ろには、デスカル、ナツナ、ドルバロム、クシャルダス、ヴルマギア、アスト、ルビー、サファイア、エメラルド、ダイヤモンド、トパーズがおり、さらに宙にはヴェン、ドゥーの姿もある。こんなに上位者が必要なのか、と問われ、ロキはわからないと答えようとしてデスカルに遮られた。


「ベヘモスって言っても色々いるがな、あれは上位者に匹敵するぞ。次に転生したらあの子は竜人族になるだろうね。こいつらと同じ」


デスカルに指さされたのはドルバロムとその横にいるオレンジ色の髪の青年2人。ドルバロムと似たような瞳なのでドルバロムと同じく竜人族であろうことがプラムにはわかったのだが、ロキは口を開いて彼らの紹介をした。


「こちら、ネイヴァス傭兵団のルルガンシェ殿、ルルジス殿です。光属性ということで、回復と、ブレスの打消しを行っていただくために来ていただきました」


本当はドルバロムが声を掛けたら来ただけだというのだが、ルルジスは以前からロキに借りを返したいと言っていたので丁度良い機会だと思ったのだろう。ロキには一切合切理由がわからないが、そこは理由の詳細をルルジスは語らなかった。

塩化のブレスを唯一打ち消すことができるのがプラズマのブレスを放つ彼らだということで、急遽ロキも彼らを借りることを考えた。ヴァルノスの予定とは異なるかもしれないなと思いつつ、そのまま持ち場を改めて確認する。


「アレスはこのままここの指揮。アテナはアイゼンリッター隊及びオデュッセウスへの指揮。プラム殿下は状況に応じて俺を呼んで、転移での移動も込みで逃げ回ってください」

「おう」

「わかった」

「はい」


「カルとリイン。城を囲うように結界を。そこにいるんだろうベリアル、手伝え」

『なーんでばれてんのかねぇ?』

「ルキフェルにも頼んでおく。所詮学生の張る結界では心許無い」

「魔術師団の方々は彼らの張る結界の外側と内側にさらに結界を張ってください。塩化のブレスは結界を透過してくるとのことですから、ブレスを吐かれる前にアダマンタイトの入っている壁に隠れてください」

「わかりました」


「ソル、ナタリア、お前たちは後方支援、アレスの下に入れ。ソルは状況に応じてアポロンの権能を揮ってもらうことになる」

「あら、私アポロンの権能混じってるって言ってたかしら?」

「アポロン本体よりは弱いかもしれんが、ヘリオスだけではないんだ。アリギュロトクソス、なんてな?」

「私の弓が銀色だからってあの残酷な神様と一緒にしないで頂戴」


本当にこいつら付き合ってるんだろうかとか素朴な疑問が浮かぶ中、弓に適性のあるソルには曲射でベヘモスの気を引いてもらうこととなった。


「ガウェイン、今日の君のコンディションは」

「絶好調です」

「よし。ソルを任せる。これを」


ロキがガウェインにマントを渡した。沢山の刺繡が施されたそれにはどうやら状態異常無効の術式が描いてあるらしい。


「おや、女性的なこともするんですね」

「俺の女神を守ってもらうためだがな」

「承りました。必ずや、ソル嬢を無傷でお返しいたします」


大人だったらもっと様になったのに、とは言わないでおく。口を開くと何か言う前に赤面しそうだったからだ。


「ベディヴィエール、ランスロットと基本的に一緒に行動するように。ランスロットもギャラハッドの幸運にかけている部分はあると思うが、君たちには、ベヘモスの背に誰もいないかどうかの確認を頼みたい。飛び移って散策をしてくれ。人がいれば保護を、いなければ、最悪の場合は君の槍を使うかもしれない」

「わかりました。その時はミスリルの槍を使用しますね」

「お見通しでしたか。そちらも十分に気を付けて」


その時、前線の大人側の指揮官にアグラヴェイン公がいらっしゃった、という報告が来て、ランスロットが挨拶してくると言ってギャラハッドを負ぶったまま向かった。ロキはもうこのままアグラヴェイン公には会わないつもりでいるらしい。


「カミーリャ、君は、どうしたい」

「……一通り考えたけれど、オデュッセウスの補助をしたいと思う。2人乗るらしいですから」

「教わったのか」

「はい。オート君に聞きましたよ」


えっへん、と胸を張ったオートに対して、ああそうか、とロキは納得する。


「オート、つまりお前は俺と一緒にベヘモスの前に躍り出ることになるが、いいんだな?」

「ロキの無茶なんて2年前からだよ! 僕も行く!」


もともとはオートが搭乗する予定だったであろうオデュッセウスをカミーリャに任せていること、半日足らずで引継ぎを済ませていることに戦慄するが、こいつらならやりかねない気もする。おそらくだがオデュッセウスは魔力のある人間が乗らねば動かない。ほとんど魔力がないカミーリャが乗る以上、もう1人は魔力のある者に変更になってしまうだろう。慣れない運転で平気かとは聞かないことにした。


「セト、ゼロ、お前たちは俺たちの補助だ。モードレッド、ゼロの背に乗ることになる、酔うなよ?」

「酔わねえよ!!」


目と鼻の先に迫るベヘモスに攻撃を仕掛けるまであと、半刻。


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