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Imitation/L∞P  作者: ヴィラノ・エンヴィオ
幼少期編
32/368

1-31

2021/09/14 大幅に変更しました。ちょっと駆け足です。

2023/03/01 アンリエッタのレシピに関する情報と描写を修正しました。

ロキは9歳になった。だいぶ魔力操作を覚えてきた。本来は10歳ごろから学ぶことを、8歳ごろからやっていたので当然と言えば当然で、寧ろ覚えるのが遅いまであるが、これには深い訳がある。そもそもロキ自身がこの幼少期の時点で大人でも扱いに困るレベルの魔力量を有していること、更に魔力消費に一役買っていた呪いを解いたことによる魔力消費の激減によって、ロキの魔力量は未だに爆増を続けている。


相変わらず精霊を見ることができないままのロキと、その原因の究明のために世界中の精霊から話を聞きに行って屋敷にほとんど帰ってこなくなったデスカルとアツシ、ロキの守りのために残されたリオ。ロキの魔力と一番相性が良いのはリオであるため特に問題はないのだが、便りの一つも無いと不安になってくるのは致し方ないだろう。


いよいよロキも初等部への入学まで時間が無くなってきた。必要な道具を揃える為と、入学前に一度くらいロキの顔を両親に見せておかなければというアーノルドの言葉で、ロキを連れて領地へ戻ることが決まった。


「アンリエッタ、ロキの薬は保存が利くのか?」

「それはちょっと難しいわ。でも、このレシピを教えてくれた人はフォンブラウ領都から来た薬師さんだから、このお店に行ったら作ってもらえるはずよ」


ロキはアンリエッタから作ってもらっている薬を未だに飲み続けている。ロキの身体の弱さは解決されているわけではないのだ。


「……しかしこの薬、材料的にはエングライアのものに似ている気がするが」

「そこは分からないわ。私はエングライアのレシピに触れたことはないから。このレシピを教えてくれた人は、赤い髪の女性だったけれど」

「それだけじゃわからんな……」


ロキは領地へ戻るための旅支度を、魔力で行っていた。リオが見てくれているので、魔力を使ってモノを動かしていく。シドとゼロも今回は付いていくので、シドはついでに隣領の実家に顔を出すそうである。


「シド、そう言えばお前の実家って、セーリス男爵領だったよな?」

「そうっスね。生まれはセーリス男爵領なんで、一応俺はセーリス領の人間っスよ」

「そんなに近いっけか?」

「フォンブラウ領都に支店があって、そこから転移陣で実家に飛べますから、大丈夫っス」

「そうか」


シドの実家はフェイブラム商会という貴金属及び宝石を取り扱う所謂宝石商で、ロキの侍従として息子が召し上げられたことをきっかけに、フォンブラウ公爵家にも出入りが許されるようになった。親父が喜んでたっス、とシドが言っていたので、無理に息子を取り上げる形になっていなくてよかったと思ったことを告げたところ、そんなこと気にするなんて、らしくねえなとシドには言われてしまった。


シドは実家で生まれて、フォンブラウ領で少し過ごしてから王都に出て来たそうで、育ったのは王都だという。ロキが知らないことを多く知っていて、ゼロと一緒にシドの話を聞くのがロキの密かな楽しみだったりする。


アンリエッタは王都を離れられないとのことで、今回は一家全員での移動となるため、休暇に入ることになった。アーノルドの予定が立て込んでいるので割と旅程は強行軍だが、フォンブラウ領での予定がいくつかあるのだと聞いている。妻と子供たちを領地に帰ってからゆっくり休ませるつもりらしい。


ロキは乙女ゲームの舞台としてのリガルディア王国に思いを馳せる。ロキの、というか高村涼の記憶には、こいつも攻略対象じゃなかったっけ? と思う者が居るのだが、ソルは何も言ってこなかったり、ロゼが把握していなかったりと情報の抜けが少なからずあることに違和感を覚えていた。


デスカルに相談しようにもこの場に居ないし、リオに聞いてもまだ教えてあげられないとしか返されない。色々考えてみても、ロキの持つ情報では穴抜けが多すぎて、上手く組み立てられなかった。


大枠は分かっている。“大体ループの所為”である。でもそれを言い出したら大体のものはこれで説明っぽい何かができてしまうので、きちんとした説明になる確固たる理由付けが欲しいのだ。


シドは、何となく予想はできていると言っていたが、ロキには教えてくれなかった。お前に教えたら碌な事にならなさそう、という理由だそうだ。心外である。


「綺麗だな」


ゼロの呟きに、ゼロの方を見て、その視線を追う。ロキが魔力で詰め込んだ荷物を見ていた。こんなに綺麗に畳んだ覚えはないのに、服が美しく畳まれていた。精霊が手伝ってくれたんだろうなと予想が付く。


「ありがとう」


ロキは虚空に向かって言葉を紡いだ。ロキはマナが見えない。つまりマナの塊である精霊も、魔力も見えないという事だ。それでも、精霊がそこに居るのだけは、気配で分かるようになってきたらしい。


「ロキ、いるかい」

「どうぞ、フレイ兄上」


ドアの向こうから声がかかる。フレイが様子を見に来たらしい。アーノルドとアンリエッタは確認が終わったのか、部屋を出て行く所だった。


「フレイか」

「おはようございます、父上。アンリエッタ先生も」

「おはようございます、フレイ様」


フレイは挨拶もそこそこに部屋に入ってきて、ソファに沈んでいるロキの所へ寄ってくる。


「フレイ、ロキを頼む」

「はい!」

「父上、アンリエッタ先生、また後で」

「ああ」

「はい」


アーノルドとアンリエッタが部屋を出て行く。フレイとロキは2人を見送ってから、顔を見合わせた。


「ロキ、身体は大丈夫?」

「はい、たまに節々が痛くなる程度です」


晶獄病は発作を起こす可能性の芽を限りなくゼロに近付けているだけで、完治したわけではないらしい。デスカルによると、晶獄病を治すにはそもそも魔力回路をどうにかせねばならず、魔力回路を弄るには浮草病を先に治さねばならない。浮草病を治すためには、ロキがもう少し前世の記憶から離れる必要があり、本当は他の転生者との接触は断った方が良いが、そうすると乙女ゲームの展開に間に合わなくなる、というある意味詰みだった。


となってくると、必然的にどうにかこうにか対応できそうな乙女ゲームへの対応が後回しになってくるわけで、悪役令嬢ロキの存在そのものが今や無くなったも同然の為、ロキは病気を治すことが急務になる。本来ならばロキが動かなければならないところを、ロゼに代わってもらっている状態だ。


ロキ自身があまり乙女ゲームに詳しくないことが幸いして、行動ひとつひとつに気を配っているという状態ではないので、ロキは比較的大らかに過ごしている。ロゼはといえば、フォンブラウ家からでは動き辛かった政敵をロッティ公爵家の力で叩き潰してイベントのフラグそのものを叩き折ったり、ロキの知らないところでヒロインたちを監視したりしているようで、たまに茶会で会うと順調に高飛車に見えるお嬢様と化していっている。


なおロキ的には強気な少女というのはポイントが高いらしく、ロキは幼馴染となったロゼやソルの事をかなり好意的に見ていることが伺えた。スカジもかなり気が強いので、その延長では? とフレイからは疑われている。


「ロキは、魔力に潰されそうだよな、ほんと」

「割と身体重いですよ」


フレイがロキの横に座り、ロキの手を握る。リオがロキの魔力同調をよくやっているのを見てフレイも同調を覚えたらしい。


「こんなに綺麗な魔力なのに」

「フレイ兄上にそう言ってもらえると、やっぱ嬉しいですね」

「思ったことを言っているだけだよ」


フレイの魔力は火属性と植物属性が混じっている。ロキの魔力は闇属性をベースとした火属性、氷属性、そして変化属性をメインとした全属性である。2人の魔力は、血縁にあるため親和性が高く、また、ロキの変化属性の魔力は、他者の魔力にとにかく馴染みやすかった。


他者と魔力を同調させずに混ぜると、魔力は結晶化してしまう。血液凝集のようなものだ。血液型と違うところは、魔力は個人個人で別物であるため、相性の良し悪しで魔力を分けて良いかどうかが決まるというところだろうか。


血縁であれば多少属性が違っても魔力を分けて大丈夫であるし、全く属性分類が同じであっても相性によっては相手を死なせてしまう事すらある。割と魔力の相性は大事なものなのだ。


それを全無視できるロキの魔力は、ともすれば他国からさえ狙われかねない代物だった。


「ロキ、その内ロキのために父上が人を用意すると言っていたよ」

「うえ、でも面倒とも言ってられないですよね」


自身の重要性は分かっている。ロキはそれが分からないほど愚かではないし、両親がロキによく気を遣ってくれている理由なら理解している。


「ロキの周りばかり人が増えるね」

「侍従2人に侍女1人ですよ。兄上には侍従はいますよね?」

「1人ね。ロキは生まれが女の子だったから、侍女が居るのは当然だと思うけどなあ」


フレイと魔力を交わしながらロキはお喋りに興じる。

ロキの侍従はゼロとシドの事で、侍女はアリアの事だ。ロキの周りには確かに、人が多い。


「まあ、俺の場合は護衛の意味もあるでしょうし」

「ついてるのがイミットと半精霊と吸血鬼じゃ、そう言われても仕方がないね」


フレイとロキがくすくすと笑い合う。ロキの魔力がだいぶ馴染んだようで、フレイは満足そうに笑みを浮かべてロキの手を放した。


「フレイ兄上は魔力の扱いもお上手ですね」

「さて、ロキほどじゃないさ。じゃあ、俺も準備してくるね」

「まだやってなかったんですか」

「まだ時間あるしいいだろ?」


フレイがロキの部屋を出て行こうとドアを開けた時、がやがやとエントランスの方が騒がしくなった。ロキと顔を見合わせて、ロキもフレイと一緒に様子を見に行くことにする。

2人がエントランス沿いの廊下に出ると、ガルーがアーノルドに何か報告している所だった。


何と言っているか聞こえなかったが、何か重要案件らしく、そしてアーノルドにとってショックな出来事であったようで。


アーノルドが手で目元を押さえているのを見て、ロキは、はたと、何かを思い出した。


直後、アーノルドが顔を上げる。すぐに領地に向かう、と指示が飛んだ。アーノルドがエントランスに来ていたロキとフレイに気付いて、近付いてきた。


「フレイ、ロキ。もう準備は済んでいるか?」

「まだです」

「済んでいます」

「……黒い服を、入れてもらいなさい」


ロキはそれが何を指すか理解して、フレイの袖を引いて部屋へ向かった。

乙女ゲームが進行しているなら、続編の時間だって一緒に進んでいるに決まっているではないか。


黒い服、で意味が通じていなかったフレイに分かるよう、彼の侍従に喪服の準備をするよう指示を受けた、と伝える。フレイの侍従ははしたなくも廊下を走ってフレイの部屋に準備に向かった。



訃報から3日後、フォンブラウ領にて。

今日ロキは、喪服を身に着けている。


「……」


リガルディア王国フォンブラウ公爵領領都、貴族墓地。平民が来るはずのないここに今、平民の大家族がやってきている。


青い空を見上げて、ロキは今日埋葬される故人の事を思い出した。

故人の名は、アンネローゼ・クレパラスト。アーノルドの妹で、クレパラスト()侯爵家に嫁いだ。息子が1人いて、ロキより3つ下、コレーと同い年だったはずだ。


ロキがリガルディアの貴族が危ういものだと理解したのは、クレパラスト家の没落を聞いた時だった。


アンネローゼはもともとそこまで身体が強かったわけではなかったそうだが、子供を産んでからさらに身体が弱って、6歳の子を残し、儚くなってしまった。貴族である元クレパラスト侯爵は土属性の魔力を持ち、頑強であるため、現在は冒険者としてランク上げに勤しんでいると聞いている。


アーノルドの傍には、人刃でありながら薬を必要としていた人物が2人居たことになる。アーノルドの事であるから、ロキの件でいろいろ調べて、途中で気が付いて、妹の事をアンリエッタに相談していたかもしれない。


ロキは、疲れ切った顔をして母親の棺桶を眺めている従弟を見やった。ロキは彼と顔を合わせるようになったのは、クレパラスト侯爵の弟が倒れた2年前に遡る。


アンネローゼに連れられてフォンブラウ家を訪れたその姿は平民の中では裕福な姿だったように思う。ロキはクレパラスト侯爵家という家の存在を知らないのだが、アリアに聞いたところ、ロキが3歳くらいの時まであった侯爵家で、フォンブラウ領に隣接している領地だったという。侯爵本人が領地を治め、弟が政治面を王都から支えていた。


クレパラスト侯爵の弟は失脚したのではなく、暗殺されたそうだ。政治的な立ち回りを苦手とする人刃族は、政治的に動ける者を王都に置いていることが多い。クレパラストもその例に漏れなかったのだろう。フォンブラウ家はアーノルドが政治に最も向いているということで王都に滞在しているが、代わりに領地にはアーノルドの両親と祖父母が残っている。


元はアンネローゼが残っていたらしいが、息子の懐妊と共に領地へ戻り、代わりに一緒に動いていた弟夫婦が代理を果たしていたという。政治的な立ち回りができる柱を失い、立て直せる奥方も臥せっている中、クレパラスト侯爵家は政敵に陥れられ、失脚した。結果、慣例に従い、爵位返上。本来は御取り潰しの上一家を四散させるが、ジークフリートが待ったをかけたため、爵位の返上で止まっている。


「ケイ」

「……ロキ兄」


暗い表情のロキの従弟。名は、ケイリュスオルカ・クレパラスト。それなりに魔力量を持つ、侯爵家の跡取りだったはずの少年。御年6歳、それがやけに諦めのついた表情をしているのが、ロキは気になった。


「母様、死んじゃったよ」

「……ああ」


掛ける言葉も無い。アンネローゼはフォンブラウ家に居る間はちょっとずつ回復の兆しを見せていたらしいが、長期で家を空けてはいけないからと戻ったりしていた。ロキはヴァルノスとロゼ宛に、今年クレパラスト一家が遊びに来るのに合わせて情報提供を頼んだ。――間に合わなかったけれど。


「ロキ兄、またいつか遊んでくれる?」

「ああ、ケイが望むなら」


明るい茶髪が風に靡く。夕焼け色の瞳に涙はない。


今後ロキは、彼とどう付き合っていくべきだろうか。

涙が枯れたケイリュスオルカの顔は、感情の読み取れない顔をしていた。


ここまで読んでいただきありがとうございます。

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