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Imitation/L∞P  作者: ヴィラノ・エンヴィオ
セネルティエ王国留学編 1学期
318/377

11-50 とある世界線

2025/05/12 編集しました。

とあるせかいのはなし


「備えろ!」


セネルティエ王国は未曽有の危機に陥っていた。プラムは実感も何もない状態であるが、リガルディアの人間――ナタリア・ケイオスが言うには、相手の狙いはプラムであるらしい。嘆くよりも民の安全を、とプラムは言い、国境付近まで出よう、とアテナとアレスに相談をした。


同盟国であるソウジェナ王国との技術提携があって良かったと父たちが胸をなでおろしていたのを覚えている。巨大人型機動兵器、通称アイゼンリッター。ソウジェナとリガルディア、そしてセネルティエが共同で開発している対魔物用兵器の実稼働の機会となるそうで、少なくともベヘモスとの絶望的な対格差だけは、生身の状態よりも幾分かマシになると聞いていた。


配備されたアイゼンリッターは全部で20機。何となく、ガ〇ダム、と言葉が浮かんだのをプラムは覚えている。それが何なのかはわからないのだが、似たようなものを見た記憶があるということなのだろう。自分はソウジェナに足を踏み入れたことなどなかったはずだが、などと考えつつ、自分の提示した条件をアテナとアレスが調節しているのを見ていた。エドワードは無事だろうか。公爵家の務めとして必ずや、と言って家族らとともに斥候に向かったが、エドワードはどちらかというと騎士寄りで斥候は向かなかった気がする。


「搭乗者たちへのお声掛けをお願いできますか、プラム殿下」

「わかりました」


陸軍をまとめる補佐役を務めているアテナの言葉にプラムは頷いて、アイゼンリッターの搭乗者らの整列した広場へと向かった。自分にできることはなんだろうか。


リガルディアの留学生はナタリア・ケイオスとレイン・メルヴァーチ、トール・フォンブラウの3名で、現在すでに戦闘態勢に入ってもらっている。


「皆さん。我が国のため、民のため、アイゼンリッターという未知の兵器を手にした貴方がたに、武運を祈ります。私に直接できることは少ないけれど、皆さんが私の鉾です。ベヘモスを討ち、必ずやセネルティエに平穏をもたらしてくださいまし」


はっ! という揃った返事を受けて、プラムはその場を後にする。アテナとアレスが頑張っているのだ、自分ものんびりはしていられない。


「おかえりなさいませプラム殿下」

「ただいま、アレス。どうしたの」

「リガルディア王国から通信が入ったそうで、助力のために、学生を2人こちらへ送るとのことでした」

「そう……」


学生か。いや、仕方がない。セネルティエとリガルディア王国は馬車で移動したら1ヶ月くらいの距離にあるのだ。いくら人刃と言えどもその日程を7日より短くするにはかなり体力を削ってしまう。戦闘できないのでは話にならない。恐らく転移魔術で送れるくらい魔力量が多い者がその2名だったのだろう。


「半刻後には転送するとのことです。立合いを願います」

「わかりました。エドワードは?」

「現在戻ってきているとのことです。べへモス、かなり巨体なようですよ」


戻ってきたエドワードから聞けば、ベヘモスは山脈のような大きさだったという。レインやナタリアが顔を顰めていた。そして半刻後に転移魔術でセネルティエにやってきたのはロキ・フォンブラウとゼロ・クラッフォンの2名だった。


「お前らが来たのか」

「俺たち以外に適任もいないだろう?」

「ソル嬢が来るのかと思っていた」

「ベヘモスにちゃちな火が効くかよ」


整っているがきつめの吊り上がった目鼻立ちとラズベリルのような瞳のロキ・フォンブラウは、神子だった。神子がいるならば話は早い。ブレスも怖くないだろう、とロキは自信たっぷりにプラムに言い放ち、作戦を立てていると判断したアテナに自分のできることを細かく報告し始める。同時進行でメモしながらわからなかったらこれを見ろ、とわかりやすく箇条書きにしたメモをアテナに渡す。


黒い髪に黄色と赤のオッドアイのゼロ・クラッフォンは、瞳をよく見ればわかるが、イミットだった。これは頼もしい。プラムは少しだけ光明が見えた気がして喜んだ。アイゼンリッター、リガルディアのメンバー、そして国内の力を合わせてベへモスを討ちとるのだ。そうすればどうにかこうにか、国は回るようになるだろう。


「ほう、ゼロ・クラッフォンはブレスも打ち消せるのか!」

「物理さえ混じっていなければな。現象そのものをキャンセルできる。欠損魔術のリスクは知っているな?」

「ああ。いちいちブレスの度に使ってもらうわけにはいかんさ」

「理解があるようで何より。それと、使い物にならん軍神は別のことをさせておけ。雑用が一番得意だろ」

「おいロキ、そんな言い方は」

「義眼の軍神など使えん。雷も持っているトールの方が良かろう。万が一公爵家の全員がいなくなるなんてことになったらどうする気だ? 負傷兵は生かして後に使え」


物言いはきついが言っていることはそれなりに道理が通っているからタチが悪い。ロキは後から入ってきた割に皆にいろいろと指示を出していったが、アイゼンリッターに対しては指示は一切なかった。後に聞けば、「素人が言うよりも乗っている者の方ができることとできないことが分かっている分、遊撃兵に回した方がいい」と返ってきた。20機しかないとロキは言った。20機以上ある状態なんてあるのだろうか。



ベヘモスの姿が見えたのはロキらがやってきてから1日後の早朝。予想を遥かに超えるサイズだった。プラムはベヘモスがゆっくり歩いてやってきたことを察した。


轟く地響きと、ヴオオオオオオオオ、と咆哮で揺れる空気がびりびりと身体を叩き続ける。アレスが絶句していた。


「ああ……殿下、オレ駄目ですわ……」

「どうしたのアレス」

「ロキの言うとおりだった……オレじゃ無理です、あれは。“軍神の目”がいる」


オレは補給班の指示に回してください、とアレスが頼み込んできた。彼がここまで言うということは、間違いなくアレスの目にも敵わないものとして映ったということだろう。ロキが言っただろう、と言いつつトールやレインと何か話し始めていた。


ベヘモスが迫ってくる。アテナがアイゼンリッターを出撃させ、その武装の中でも特に長いパイクを全員に持たせて、点で破ろうとし始めた。


「同じ部位を狙え!」

『硬いです!』

『強化魔法か!?』


アイゼンリッターの搭乗者たちと通信を繋いでオペレーティングをしているのはアテナである。横からロキがそっと口を出した。


「リガルディアのロキ・フォンブラウという。ベヘモスは土属性かつ強化魔法を得意とする個体の進化形態だ。膝を狙え。尾には当たるなよ。吹き飛ぶぞ」

『膝か』

『刺さりませんが反応はあります! 狙えーっ!』


通信で伝わったらしくアイゼンリッターの動きが膝を徹底的に狙うものに変化した。ロキは近くの兵から双眼鏡を借りて様子を窺っている。膝を突かれて煩わしくなったらしいベヘモスがその場で旋回を始めた。


「――」

「まずい! 旋回を始めた、逃げろ!」


アテナの言葉が早いか、アイゼンリッターの1機が尾に当たる。


「――【大地を裂く木の大盾(バウムシルト)】」


と、同時にアイゼンリッターが吹き飛び、草原を転がった。地面についていないように見えるのがいっそ滑稽だ。


「ケイネス機、無事か!」

『はい! 損傷軽微。立て直して吶喊します!』


転がった拍子に落としたらしいパイクを持ち直して、起き上がったアイゼンリッターはもう一度ベヘモスに向かっていった。ベヘモスに攻撃が効いている様子がない。硬すぎる、とまた通信越しに男の声が響いた。ロキはアテナに問う。


「アテナ嬢、アイゼンリッターと言ったか? あれらの持つパイクの長さはどれくらいだ」

「20メートルほどだと思うが、それがどうした」

「……もっと長いものが欲しいな」


ロキの呟きにアレスが驚いた顔でロキの方を見た。あれ以上長いものが実現などするものか。


「……まあ、どうにかするしかないな」


ベヘモスが軽く首をもたげる。ロキはそれに気付いて魔法陣(コード)を展開する。繊細に編まれた美しいそれはいくつも平面上に展開し、さらに立体に組み上げられていく。プラムらが展開するよりも40度ほど傾いていたが、魔法陣を立体に組んだ衝撃の方が大きかったようだ。


「立体に魔法陣を組む方法を確立したのか!?」

「俺と俺に近い者しかまだできないがな」


アイゼンリッターを下げろ、ブレスに中らせるなとロキは言い放ち、直後にベヘモスが大きく口を開けた。プラムはベヘモスと目が合った気がした。


淡い光を放つ粉が飛び散り、ズドッ、と鈍い音と共にベヘモスのブレスがロキの張った魔法陣(コード)に直撃する。ロキがプラムを庇う様に間に割り込んでくる。魔法陣(コード)は斜めに張られていたためか、ブレスが斜め上に弾かれていった。


「――え」

「ッ!」


プラムは目を見開いた。ロキの身体に薄く白い粉が付着している――粉をまぶしているような。


「ロキ、無事か」

「あの野郎……バハムートと近縁種なんだからきちっと防がれろっての」


どうやらブレスの影響を受けたらしいとみて、プラムは慌てて治そうと駆け寄るが、ロキに首を左右に振られた。ブレスの種類はこれで分かった。塩化だ。


「お気になさらず。この術式の維持をお願いしたい。軍神の加護の持ち主か、騎士の後ろに居れば塩化は防げるだろう」

「君はどこへ?」

「ベヘモスを直接叩く。ブレスが塩化であることが分かった以上動き回られるのは良くない」


ロキが指した方――城壁の下、ブレスの通ってきた場所だけ、やたらと白くなっていた。塩になってしまったのだとプラムは悟った。吸血鬼族は基本的に水分の消失に弱い。塩だらけにされたらかなわないし、植物の名を持つことが多いセネルティエの人間にとって、植物精霊を弱らせる塩は大敵だった。


「方策は?」

「一番確実なもので行く」


ロキはそう言うと、弟であるトールと従者であるゼロ、従兄弟であるレインだけを連れて、ゼロが姿を変えたワイバーンに飛び乗り、ベヘモスに近づいて行った。


ロキから術式を引き継いだプラムは想像以上に緻密で多量に魔力を取られることに気付き、自分の魔力を切らさないようにしながら必死で術式の維持に努める。その間にもアイゼンリッターがベヘモスを突き続け、ベヘモスの足元の地面が割れ始めたためにアイゼンリッターが3機巻き込まれた。


『挟まれた!』

『引き抜けないか!?』

『脱出しろ!』

『いや、強化魔術を掛けて耐えろ! お前魔力多いだろう!?』

「魔力が少ない者を優先して救出しろ! 損傷機体、帰還せよ!」


ロキが当たり前のようにアテナたちの通信に割り込む。


『アイゼンリッター、離れろ。雷魔法を使用する。恐らくアイゼンリッター本体は保たん』

『なんだと!?』

『トール神の雷を使うと言っている。下がれ邪魔だ死なれると後味が悪いんだよ言うことを聞け耄碌爺』


カチンときた者が多かっただろうが、ロキがかなり焦っているらしいことをナタリアが告げる。プラムは言いすぎだと思ったが後でいえばいいと思い、帰還命令を直接出した。




はてさて、直後ベヒモスの悲鳴が聞こえて、雷の音がし、辺りは閃光に包まれた。アイゼンリッターの搭乗者を含め、帰還者は23名だったのだが――。


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