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Imitation/L∞P  作者: ヴィラノ・エンヴィオ
セネルティエ王国留学編 1学期
317/377

11-49

2025/05/12 編集しました。

2025/05/17 再編集しました。

「では、お願いします」

「そっちも、武運を祈っているわ」


金色蝶(パピーリオ)たちに後の指示を任せて、プラムは王都の最南端の城壁に来ていた。ロキが着々と何かの準備を進めている中、ナタリアとセトがそれを手伝い、オートもそれについて回ってあれやこれやを聞いている。こんな時に何故オートを下げないのか気になったが、何かあるのだろうと言ってアレスがアテナのそれ以上の追及を止めていた。


「ロキ、これ何?」

「アダマンタイトで甲腕を作ってみた。ないよりはましだろう。なるだけ魔力をとどめておいてくれるか。俺よりはお前の方が適正が高い」

「そうなの?」

「ああ」


ロキが兵士のひとりひとりに至るまでガントレットのようなものを配布し、黒いそれはアダマンタイト製であると明かした。魔力放出を塞き止める性質を持っているため、基本的にアダマンタイトの向こう側には魔力で編まれたものはたとえ魔法であろうとも通らない。ただし純粋な熱には普通の金属と同じように熱くなるので注意が必要になる。溶けることはない。


ロキは神子というその体質上アダマンタイトを長く身に着けるのは避けなければならず、皆のようにベヘモスのあるかどうかも分からないブレス対策などできない。逆を言うならばそれでも平気だから前線に出てきたということである。欠損魔術はそんなにも優秀なのかと小馬鹿にした兵士をプラムは叱り飛ばした。ここでロキの機嫌を損ねたらどうなるかわからない。


「ロキ様、他に準備は何かいる?」

「今のところはない。準備はラックゼートとアリアに任せているものがあるから、それの準備ができ次第と言ったところだな。――ゼロ」

「なんだ」

「行ってこい」

「わかった」


ナタリアに答えた口でそのままロキはゼロに当たり前のように斥候を命じた。ゼロもそのままワイバーンの姿に変じて飛んでいくのだから止めようがない。


「……行っちゃった」

「ちょっとロキ、ゼロ大丈夫なの?」

「人間に過敏になっているだけだろう。イミットならば同族である以上下手に攻撃などしないさ」


ナタリアが止めていないのがいい証拠だ、と問いかけてきたソルに答える。リンクストーンが白っぽく光り、ラックゼートの声で「そちらへ向かう」と連絡があった。


「ロキ、ラックゼートらには何を頼んだんだ?」

「ん。まあ、秘密だ」


彼らに頼まねばならないほどのことがあったということで、カルが何か警戒し始めた。セトがロキの指示で動き回っているのを椅子に座って眺めるオートがふとロキに問う。


「ねえロキ、ゼロが戻ってきたらもう一回作戦見直し?」

「ああ。相手のサイズによっては使えるものと使えないものとがあるからな」


ベヘモスの情報をあまり持っていないことを憂慮していたらしいロキはゼロを向かわせたが、本当はアリアたちを向かわせた方が良かったのかもしれない。彼女らは死なない。不死身だ。だからこそ、行かせるべきだったろうにとプラムは思うのだが、ロキの中ではゼロを行かせるくらいラックゼートらに頼んでいる物が大事であるらしい。


「ロキ」

「やっほ」

「ああ、来たか」


ラックゼートとアリアが執事服とメイド服から戦闘用の衣装に着替えており、その手には小さな箱があった。


「頼まれていた物だ。だがロキ、本当にやるのか」

「恐らくだが俺はベヘモスと会わなければベヘモスと戦った時のループを知り得ない。打てる対策は先に備えておくべきだろう?」

「だからと言って、お前の魔力をドカ食いするようなやり方をしてどうするんだ」

「腕の1本や2本、命に比べれば百億倍安い」


ロキは言い切った。ラックゼートは観念したように箱をロキに渡す。ロキは箱の中から指輪を取り出し、左手の親指に着けた。


「ロキ、何が有効と考えている?」

「まずは加護持ちの魔法を一斉に撃ってみる。次に雷魔法による感電を狙う。あとは溺死、蒸し焼き、このあたりが現実的だろう。正直溺死はソキサニス公クラスが出てこないと話にならんが」

「無理じゃねえか。あの人が国から動くなんてまずありえねえわ」


カルの問いにロキが答え、セトが突っ込みを入れる。アレスの加護は、とプラムが問えば今のアレスにはベヘモスを相手取ることは不可能だとロキから返され、思わずアレスを見るとそっぽを向かれてしまった。


「父上たちが何もしないとは考えにくいが、それでも割ける人員などたかが知れている。救援等は基本的に無いものと考えた方がいいだろうな」

「だな。いくら父上が転移を王室から直々に許可されているとはいえ運べる人数もあてにはできないし」


プラムは親の行動をそこまで何となく読めているカルとロキに戦慄した。そこまでわかるものなのだろうか、それとも彼らの父親が読まれやすいだけなのか。というかこの状況で自国じゃなくて他国の心配ができるのか。というかもう動いているのか。


疑問が頭を埋め尽くしてしまったプラムに代わり、アテナが問いかけた。


「どういった作戦があるのかだけでも聞かせてはくれないか? こちらも動き辛い」

「ああ、そうだな。ゼロが戻ってくるまでは何とも言えないが。加護持ちによる一斉の魔法発動。正直撃った方角への被害は考えないこととする。雷魔法を使用する案は、雷魔法でベヘモスの感電を狙いたい。溺死、は、水魔法クラスの魔力量によるごり押しだ。蒸し焼きならば要は水と火の複合魔術を使用する」

「案は4つか」

「正直これらでも難しい」


通常兵器は、とアテナが一応問うが、カルが首を左右に振った。


「ベヘモスは巨体かつ土属性に極端に寄った亀形の竜種の呼称だ。土属性がただでさえ硬さに定評があるのは知っているだろう? さらに、ベヘモスはその巨体を支えるために、強化魔法に適性の高い個体がなるものだ。土属性かつ強化魔法をかけた体に質量が付いてくる。ここからでも見えるほどの巨体、魔力量はロキでも及ばぬほどあるんじゃないか?」


カルの言葉にアテナが思案する。


「……強化魔法のキャンセルを行うことができればいいのか。アレスはやはりだめなのか?」

「ロキ、どうだ」

「無理です。負傷している今のアレスでは絶対に勝てません。アレス神も竜種の父である以上は優位性はあるかと思いますが、今のアレスには、竜種の使う魔法を成立させている構築式そのものが見えないはずです」

「……悪かったな、役に立たなくてよ」


アレスが吐き捨てる。ロキは、そういう意味で言ったわけじゃないよ、と続けた。


「戦闘は今のお前には無理だ。ならば司令塔をやってくれ。千羽嬢のアミュレットの効果は1度きりだ。お前が使える権能で前線に出る者を庇って。戦場では不死身になる武神アレスの権能、存分に振るってくれ。正直俺の中で一番可能性が高い方法だと俺自身が直接ベヘモスと激突する可能性があるから」


ロキの言葉を受けておい、と声をあげたのはカルだった。かなり切羽詰まった表情をしていたので慌ててロキは笑ってカルを宥めた。


「死にやしないさ、平気だ。そのためにアレスに頼んでいるよ?」

「……大馬鹿野郎。お前の耐久力でベヘモスの体当たりなんか耐えられるものか。良くて衝撃による四肢爆散だろう。メタリカたちの協力は取り付けられんのか?」

「デスカルとアツシには頼む。シドがいないからルビーらに頼むのはちょっとな」

「言ってる場合か! 死んだら元も子もないんだぞ!」

「それはそうだけど、それで精霊に契約以上の力を振るわせて良いわけがない。今夜には彼らの意志も確認する。持てる全てを以て挑んでやるから気にするなよ」


ピリピリしたカルとロキの雰囲気に、プラムは察した。ああ、これがループで死んだことをぼんやりと覚えている人たちの姿なんだ、と。大切な人が死ぬことを恐れる表情を、プラムはようやく認識した。


そして思い出した。


『――』


プラムの記憶における()()のカルのあの表情を。親友を、姉を、兄を、亡くしたような、そんな絶望の表情を。


そしてその意味を悟る。


亡くしたのだ、彼らは。失ったのだ、奪われたのだ。プラムにループの終了を告げたあの赤毛の女がいったい何者だったのかなど知らない。自分の身体がやたらと軽くなった感覚を思い出して、プラムは決意した。


「皆さんよく聞いてください」


皆がプラムを見る中。プラムははっきりとその意志で言葉を紡ぐ。乙女ゲームの前の段階だとか、過去だとか、関係ない。確かにあの時、プラムの友達になってくれた令嬢ロキは死んだ。エンディングがすぐに訪れたせいで、墓参りにすら行けなかった友達。彼女が身を引いた理由は、国のこれからのためだった。


分かったから、もう逃げない。


祖父に施された教育とはまた少し違う部分で、プラムは現実を認識する。


「ロキ様にしかできないこと以外は、同じ全属性持ちの私が代行します。ベヘモスの狙いが私であるというのなら。逃げません。ここでベヘモスを倒します」


ベヘモス。

プラムを狙う上級竜種。


彼がプラムらが準備した迎撃用の城壁に辿り着くまで、あと、1日。


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