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Imitation/L∞P  作者: ヴィラノ・エンヴィオ
セネルティエ王国留学編 1学期
315/375

11-47

2025/05/12 編集しました。

アレスとアテナ、エドワード、ブライアンを学生への指示に走らせたプラムは王宮にやってきた。王宮自体には深刻なダメージはなかったようだが、シャンデリアが落ちているところがあり、一緒に王宮へ向かうと言い出したカルによって、護衛としてソルとナタリアが付き、4人で王のいる部屋を探し回った。どうやら対応のために衛兵も近衛騎士も出払ってしまったようで、門番としてその場を離れていない騎士たちしか残っていなかったのである。


「陛下!!」


比較的ダメージが少なかったのは一番小さい謁見の間で、王と先王はそこにいるとすれ違った女官から聞いて足早に向かった。

騎士に扉を開けさせて中に入ると玉座に腰かけた王と先王、宰相と騎士団長がおり、それぞれ指示を仰ぎに来た役人たちがバタバタと動き回っているところだった。


「プラム! 早かったね」

「挨拶が疎かになってしまい申し訳ございません、陛下。急ぎ尋ねたいことがございます」

「ああ、今は挨拶は不要だ。それで、何のことだい」


先王と騎士団長が王の出す指示を受け持ってくれた。プラムは早口になりながら用件を伝えた。


「中等部学舎の一部が倒壊して生徒が動けなくなっています。初等部は見ていませんが現在アレスを走らせています。生徒たちを避難させたいのですが、どこへ避難させればよろしいでしょうか。今回の地震はベヘモスが絡んでいるとのことですが」

「ああ、やっぱりベヘモスだったか」


失礼します、と慌てたように兵の1人が走って部屋に入ってきた。要件を騎士団長が聞き取る。ベヘモスが南から()()()きていると、冒険者ギルドからの連絡がありました、と兵士は言った。わかった、と冷静に騎士団長は返したが、兵士が震えているのは皆も分かったはずだ。役人の動きが止まる。ここで止まったら恐慌状態になりかねない。


「早い段階で知れたのは良かったな。さて、今までなら7日から8日の猶予があったが……」


王の言葉にカルが口を開く。


「僭越ながら、ベヘモスの体格がいかほどのものかはわかりかねますが、走っているということは、7日かかる行程ならば5日、いえ、遅くて4日です。そのベヒモスは丘なのですか、それとも山なのですか?」

「……山だ。山と呼ぶのも烏滸がましいまでの、ね」


王の答えにカルは瞑目し、そして再び口を開く。


「……3日。3日後にはセネルティエに到達するでしょう。あれだけの地震を起こしたことを考えると、明日のこのくらいの時間ならばもうまともに戦闘などできません」


明日、と宰相が眉根を寄せた。役人たちは静かにしてはいるがかなり狼狽えているのが手に取るようにわかって、プラムは心苦しくなった。ナタリアが泣いていた理由など、考えればわかるのだ。恐らく、いや、きっと。


ロキは、ベヘモスに勝てない可能性がある。


「今から住民を避難させるのは間に合いそうにないな」

「ベヘモスってブレスあったっけ、カル殿下」

「基本的にはないと思うが、大きな個体ならば持っている可能性はある」

「バハムートは火を噴くだけなのになあ……どうなることやら」


ソルが敢えて口調を崩した状態で喋っているようで、重々しくならずに情報をもたらされた騎士団長が動いた。


「迎撃態勢を取ります、陛下」

「しかしそれだと民に被害が出るぞ」

「ベヘモスの狙いが分からない以上はどうしようもございません。大地が揺れ、民が逃げられるだけの時間も無いとなれば、倒す他ありませぬ」


カルはああ、こんな時父ならどうするかな、とジークフリートを思い浮かべた。

ドラクル公に話をつけるだろうか。走るベヘモスなど止められる気がしない。だがベヘモスは上級竜種である。ドラクル公が出張ってくるのはわかっている。


次にロキについて考えてみた。ロキならば恐らく、騎士団長と同じ答えを出す。最も被害が出ない状態を設定して。転移で住民を移動させる? どこへ?

ロキはベヘモスに有効な手段を何か持っていただろうか?

ベヘモス自体を転移させるのはどうだろう。


いろいろと考えてみたが、次第に体が震えてきた。1つの可能性を見出したから。


「カル殿下、どうしました?」


カルが震えていることに気が付いたプラムが声をかける。カルの護衛のためにひっそりとついて来ていたナタリアが涙をこらえて下唇を噛み切った。


「……何の対策も打てなかった場合、ロキが死ぬかもしれん」

「えっ」

「……ロキはそういうやつだ、と、俺たちは知っている。住民が邪魔なら一方的に殲滅して、戦闘終了後に住民をヘルに生き返らせる、なんてことも、あいつならば選択肢に入るんだ。その場合恐らくロキは魔力枯渇で死んでいる。ヘルは魔物ではあるが、もとはと言えば女神だ。ロキが死んだからと言ってその一生を共にするわけではないし、ロキが戦闘で死んでもヘルに影響はない。戦闘で死んだら、ロキはヘルの権能では戻ってこれない」


最悪の場合この選択肢をロキはとるだろう、とカルは言い切った。


「……ロキ君が回帰の元凶であるというのなら、回帰をさせないためにはロキ君を守るしかないはずだ。なるほど、こういう形で回帰は繰り返されてきたのか」


ピオニーの言葉に、プラムはいつかの幸せだった世界の夢を思い出した。あの世界はロキにも優しかった。こんなことは起きなかった。


本当だろうか。

自分は16歳からしか知らないではないか。セネルティエ王国の民たちはあの時どうなっていたのだろうか。もしかして、対応したのは本当のプラム王女で、民を守り切れなかったのかもしれないし、最初からこんなことは無かったのかもしれない。


「……ロキの条件に、誰一人死なせないこと、って入ってたら終わるわね、これ」


一番ありえそうな選択肢を紡いだソルに、プラムは泣きたくなってきた。

直後、カルの懐に入っていたリンクストーンが光り始め、カルはそれに応答した。色は、青緑。


『あ、つながった!』

「オートか?」

『うん!』


オート・フュンフ。あの少年がいったい何の用だろうと役人に指示を出していた宰相も手を止めて聞き入った。


「どうした」

『あのね、ベヘモスと戦うために準備してた超大型魔導人形(オートマタ)があるんだって、鉄機兵っていうんだって所長さんが。あと、アダマンタイトで竜種のブレスって防げるのか聞いてほしいって言われたんだけど』

「――アダマンタイトで防げるとも。ブレスは竜種の種族固有魔法の一種だからな」


カルは自分で答えられる方には答えて、王たちの反応を待つ。超大型魔導人形(オートマタ)、恐らくエンシェントエルフたちは回帰を理解しており、かつ対策を練っていたということであろう。

だが、これではっきりした。


「……もとより民を逃がす暇などなかったということですね」

「騎士団長、迎撃態勢。学生たちを逃がさねばならないが、我々に浮島はない。申し訳ないが、リガルディアの学生諸君には、ベへモス戦に参加していただく」


王の言葉に分かりました、とカルは頷き、それと、と。


「リガルディア王国に連絡を取ってください。こちらに転移できる人数を考えると、今から兵を招集したところで間に合いませんから、だれか、1人2人送ってもらう形がとれればと思います」

「それはいいが、何故そこまで? 急すぎやしないだろうか?」

「それに1人2人でどうにかなるものなのですか?」


カルの提案に騎士団長とプラムが問いかける。


「ロキは基本的に前線に出ると思われます。それ前提で考えた時、ベヘモスの属性は土がメインで複合属性と考えると、ロキの火と氷と闇だと分が悪いのです。土の精霊も風の精霊もいますが、ベヘモスと拮抗するのでは話にならない。ベヘモスくらいのサイズになると強化魔法が使えることも多いので」


竜に関する知識が不足していたところを補う形になったのだろう。カルの言葉を聞いて役人が何か話し始め、宰相にそれを提案する。


「……わかりました。ベヘモスの迎撃態勢は、学生たちをひとまず建物から出して、順次整えていきましょう。……カオリ嬢を取れなかったのが悔やまれる」


ぼやいた宰相はそのまま退室していき、避難はプラムらの指示で行う様にと王の命を受け、プラムたちは学園へと戻る。

馬車よりも走った方が早い。今馬はきっと使えないから。


「カオリって、ランスロットが言ってた一撃死一回回避のアミュレット作ってる人じゃなかったっけ?」

「そうね、たしかそのはずよ」


ソルの言葉にプラムは答える。じゃあもしかして、とソルは何か考え始めた。


「ナタリア、私たちは先に迎撃に向かった方がいいんじゃないかしら?」

「そうするしかないですね。……私たちで山脈級のベヘモスなんて倒せるのかなあ……」

「諦めないの。諦めてたら結局何も終わらないわ」

「はーい……」


ナタリアの魔術はあまり攻撃向きではないから。余計苦しかったのかもしれない。カルはそんな2人を見て言った。


「ならば、ここで終わらせるぞ。使える手はまだある。すべて使ってでもこの国を守り、ロキも守らねばならん」


俺たちにできることがどれだけちっぽけだろうが、ちっぽけなことこそ大事な時だってあるだろう。


カルたちは再び学園へと踏み入れた。


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