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Imitation/L∞P  作者: ヴィラノ・エンヴィオ
セネルティエ王国留学編 1学期
314/376

11-46

2025/05/12 編集しました。

「おー、なんかいっぱいできてるなあ」

「あ、ギルマス」


カオリが丁度アミュレット作りから休憩に入ったところでセネルティエ王国王都支店の管理者であるゴートが入ってきた。セネルティエ王国では珍しく獣人である彼は、転移者であるカオリを快く受け入れ、そのまま保護するために奔走してくれた恩人でもある。今回も、急にやってきて大金と素材を置いて帰った無茶振りな外国の貴族令息の注文をこなすために頑張っているカオリをねぎらいに来たのだった。


冒険者ギルドは大陸中に支店を構えており、その国ごとにギルドマスターと一応呼ばれている立場の人間が存在する。ギルドマスターは本来本部長であるダイクというリガルディア人の男なのだが、国の中ではここが本部ということでギルマスと呼んでしまうようになったのだ。カオリもそれに倣ってゴートのことをギルマスと呼んでいる。というのも、実はカオリと同い年だったのである。敬語を使うのも変だということで、ギルマス呼びに落ち着いた。


カオリは現在午前と午後に少しギルドに顔を出して今まで通りアミュレットを販売し、それ以外のときは基本的にあの大きな注文の品を作り続けていた。数の指定も何もないのだから、とりあえずたくさん作るとかいう途方もない話である。まして置いて行かれたのが白金貨だったため断ることもできなかった。


ベヘモスが来るかもしれないなどという世迷言を置いて行った彼は、とても冗談を言うタイプには見えなかったのだが、どう受け取るべきか。とりあえず何かに必要なのだろうということで、カオリはありったけの材料で練習を兼ねながらいろいろ試してアミュレットを作っていた。何せセネルティエではほとんど手に入らないワイバーンやコカトリスの素材も混じっていたのだ。職人魂に火が点いたカオリを止める者はなかった。


「今いくつくらい出来てるんだ?」

「そうね、500はくだらないと思うよ。でもこんなに何に使うんだろうね」


置いて行かれた素材だけなら優に1000を超えていたのだが、練習も兼ねていた結果、やはり加工に慣れていないBランクの素材は3分の1ほどをだめにしてしまった。もったいないとは思うが、それによって何とか質の高いものができているのだから勘弁してほしい。しかし、留学生であるならばそんなに数は必要ないはずだ。従者用だろうか、はてそんなことを気にするかな、と考え込みながらカモミールティーに口をつけたカオリは、そういえば、とゴートに話を振る。


「どうだった、ベヘモスなんてほんとにこの近辺に居たの?」

「あー、それについてなんだがなあ」


ベヘモスの話題に言葉を濁したゴートは瞑目した後、ゆっくりと口を開いた。


「……居た」

「ほんとに!? どこに!?」

「リガルディア側の国境付近だ。あの距離ならベヘモスでも1週間はかかるだろう」

「でもたった1週間……」


ロキがギルドを訪れてカオリに無茶な注文を投げつけて既に1か月が経過していた。もしもべへモスが起きてから準備をしていたらとてもではないが間に合わなかっただろう。


「確定じゃないって言ってたけど、そこはどうなの?」

「あと1回起きれるかどうかってくらいの御老体だったぞ。もしかしたら、暴れたくなるような理由があるのかもしれないな」


怖いねえ、いざベヘモスが来たらどうするんだろう、とそんな現実味の無い話をしながら2人でカモミールティーを飲んで一息ついた時だった。


突然地面が揺れ、ゴートが飛び上がって慌てふためく。こちらの人間は地震に慣れていないのだと気づいたカオリはゴートをテーブルの下に引っ張り込んだ。カオリはそこまで地震が多すぎる土地に生まれたわけではないが、それでもいわゆる震度4くらいの揺れには慣れている。そのカオリも怖いと思うくらいの大きな揺れである。


「何でそんな冷静なんだよおおおおぉぉ」

「故郷はこんなに大きな揺れじゃなかったけれど、結構揺れてたからね。でも流石にこれ震災クラスあるぞ」


カオリがこちらにやってくる直前にカオリの実家は最大震度7の地震に見舞われていたが、それを彷彿とさせる揺れだった。地鳴りがとにかく酷くて、もしかして震源がかなり近いのではないかと辺りをつける。およそ2分間にわたって続いた揺れが収まると同時にカオリはゴートを引っ張って集会場エリアへと足を踏み入れた。


「なんだ今の」

「すっごく揺れた」

「うわぁぁぁぁん」

「誰かちびちゃんたち泣き止ませて!」


ギルド内は大わらわだった。幼い子供が泣きじゃくり、大人たちも恐怖で青ざめている。ギルド内部は強化魔術で補強がなされているが、街はどうだろう。もしかしたら建物が倒壊しているかもしれない。レンガも石も割れるものなのだから。まあ、アダマンタイトは割れないと思われるが。


「もう揺れないかな?」

「また来たら流石に震えて動けなくなってそうだわ」


ギルド内は荒くれ者も多いためシャンデリアはない。危険なものが天井にない分、気が楽と言えばそうである。カオリは鳥人の少年に声をかけて、ギルドの外に出て外付けの階段を駆け上がった。


「どしたのカオリねーちゃん」

「いいから向こう見て。山が動いてたりしない?」

「えー」


んなわけないじゃん、と少年は笑いながら辺りを見回す。鳥人は基本的に目が良い。人間の視力では見えないものも見えると有名なのだ。

少年はある一点を見て口をぽかんと開けて動きを止めてしまった。


「どうしたの」

「ほんとに山が動いてる」

「……方角は、……南。リガルディア側からだわ」


方位磁石は持っていないが、建物の配置は大体覚えている。向こうは南側だ。

カオリは階段を駆け下りてゴートに向かって叫んだ。


「ギルマス、ベヘモスと思しき影を発見。南側。まだ人間の視力じゃわからない!」

「くそっ、まじかよ! 誰か王宮の騎士の詰め所に行ってこい!」


そう、ゴートが叫んだ瞬間、集会場の中心に光が浮かび上がり、銀髪の少年が姿を現した。


「!?」

「あ、貴方この間の!」


周囲の者たちが驚く中、カオリがロキを指さした。ロキはカオリの方を見て、口を開く。


「カオリ殿。頼んでいたアミュレットは?」

「できては、いるけど、あんな数どうするの?」

「配る。文字通りな。あんたが作ったものだ、あんたが1つ先に選んでおけ。他はすべて納品してもらう」


それはいいけど、とカオリは言いつつアミュレットを保管している部屋へロキを通す。ロキの歩調が普段よりも早い気がして、この子も焦っているんだと思った。


「!」

「ここにある分で全部よ」

「素材は使い切ったか?」

「いいえ、まだ少し残ってるわ」

「ならばあとは好きに使え。――よく、これだけ揃えてくれた。ありがとう」


微笑みをカオリに向けた後、アイテムボックスでアミュレットを回収して、さっさとロキがいなくなる。転移で来たからその後も転移で消えたが、寧ろ転移を使うほど焦っていたのだろう。カオリは残った素材を手に取って、もう慣れたエンチャントを掛ける。アミュレットが1つ完成した。流石に、頼まれた品から1つ取るのは気が引けたから。


「これで良し」


確認することもなく去っていったのだから、相当行先の皆を心配しているのだろう。カオリは自分が身に着けたアミュレットの出来を確認しながら他にもアミュレットを作っていく。王国騎士団も出撃することにはなるだろうが、とりあえず冒険者ギルドの仲間たちに作ってあげたい。そんな心理を見透かした上で素材を置いて行ったのかもしれないと考えると何とも、可愛げのない中学生である。


口調を目上の者に対するものにせずに喋っていたのはよろしくはないだろうが、まあ、上流貴族に畏まられてもこちらが硬くなるだけである。あれでよかったのだと思うことにした。


「さっきの奴はなんだったんだ?」

「リガルディアの留学生らしいですよ。皆の分のアミュレット作っていいって言われたので作りますね!」

「いや、逃げろよ。無理だろあんなの」

「あ、そうなんですか??」


異世界転移モノを読みすぎたせいか、カオリはつい冒険者たちがあれを止めるのだと思っていたようだ。違うらしい。


「あんなの緋金級でも止められんわ。逃げるが勝ちだな」

「え、じゃあ、逃げるためにアミュレット作ったりは?」

「それはいいと思う。各々逃げねえとな。生きてたらまた会おうぜ」


冒険者ギルドの人間は殆どが個人で住宅を持っている者は少ない。基本的に家族がいない者が多いのである。身軽にどこへでも行ってしまえる彼らが、わざわざ故郷でもない土地を守ることは珍しい。


「おい、まじであれやばいぞ!」


鳥人の大人が見てきたらしく、慌てた様子で集会場に走りこんできた。どうした、とゴートが問う。


「すげえ速さでこっちに向かってきてる! 1週間もかからねえぞあんなの!」

「はあ!? ベヘモスが走るなんてあり得るか! 逃げるどころじゃなくなっちまうぞ!」


ベヘモスのサイズはカオリもなんとなくわかる。山が動くレベルである。地震がずっと起きている状態を想像して、まともに走れないことに気付いた。迎撃さえ難しいのではなかろうか。


「転移で人を逃がしたりはできませんか?」

「そんな魔力使ってたら死んじまう! 多分リガルディア王国の方が安全だな」


皆逃げる方向に物事を考えていく。住民を逃がそうとか考えるだけ無駄らしい。自分の命が大事でないならそもそも冒険者としてすでに終わっている。命がいくつあっても足りない。カオリに生き残ることを教えたこのギルド支店に集まる者たちが、自分たちの命以上に優先するものなどないのだった。


「大体な、そんなことは王族サマに任せておけばいいんだ。なんのための王族だよ」

「そんな」


助け合いの精神を抱えているカオリには割り切ることは難しい。そんな彼らのところに、黒箱教からユウキが駆け込んでくるまで、後、3時間。


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