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Imitation/L∞P  作者: ヴィラノ・エンヴィオ
セネルティエ王国留学編 1学期
305/377

11-37

2025/05/10 編集しました。

「これで神殿から狙われることもなくなったわけだな、ロキ」

「ええ。14年間お世話になりましたよほんとに」


セネルティエ王立学校中等部、寮のホール。その一角で、カルとロキは読書をしていた。教会の後始末は本来教会と王家の問題であって、留学生であるカルたちが首を突っ込むべきところではない。アーノルドが事務処理を引き受けたため、ロキは大教会から戻ってすぐに寮へ帰された。


大教会から戻ってくるときも、赤華騎士や神官たちからかなり崇拝されている雰囲気だったため、慌ててジュードがロキを学園へ帰したのだとカルは聞いている。ロキ自身かなり複雑そうな表情で帰ってきたためどうしたのかと同伴していたガウェインとモードレッドに聞いたところ、「知らない間に気持ち悪い狂信者が増えていた的な?」という曖昧なのか具体的なのかよくわからない返答があったので、見ているだけで混乱するほどに精神的にダメージになる光景を見る羽目になったのであろうことだけは理解した。


ロキが人肌恋しそう、とのゼロからの報告を受け、しばらく隣に居てやったらそれだけで本当に復活していたので切り替えの早い奴だなとカルは思うのだが、ロキ的には一刻も早くあの光景を忘れたいらしい。


気遣わし気にロキを見ているのはガウェインとモードレッドで、何があったのか詳細を聞かねばとカルは思っていた。ロキはやたらユウキを褒めており、何らかの形でロキにとって不快だった何かを振り払ったか何かしたのだろうと想像には難くない。ロキは案外評価した人間には甘いし、そのあたりのストッパーはカルがするべきなのだと何となく上流階級の子供たちが考えている節がある。


ロキが読んでいる本の表紙に目を向けると、これまた随分と面倒くさそうな鉱物と魔術についての本だった。リガルディアにあるのは大半が宝石の本だが、セネルティエは金属について書かれている、と読書中のロキがカルの視線に気付いて答える。


カルはといえば軍略についての本を読み漁っている途中だ。要は、兵法の本である。軍の指揮などまだまだとることは無いだろうが、あって困るものでもない。ロキに未だにチェスも将棋も勝ったことのないカルは、早急にロキを負かしてやりたい欲もあった。


本に溢れた国、セネルティエは、最初に紙の生産が始まった国として歴史の中では出てくる、というか、それまで名前がとんと出てこない。リガルディア王国やガントルヴァ帝国と同じく2000年以上前に建国されているのだが、リガルディアが安定してからしか名前が出てこないこともあって、結構文化は粗野なものと勝手に思っているところがあったカルである。


ロキは色ガラスが作れる国のレベルが低いわけないだろう、と勝手にいろいろ言っていたが、あながち間違いでもないことに、留学してきてから気付いた。建築物は細かく装飾がされているし、ガラスの発色は素晴らしく、不本意ながら大教会の外側からも見れるステンドグラスで表現された世界樹の美しさは目を見張った。光が当たり、白い教会の床に、壁に映し出されたら美しいだろう、とも。


ロキ曰く、ガラスとは本来割れにくく硬い鉱物であるらしい。しかし薄くすれば脆くなるのも当然のこと。金属のような柔性を持たないガラスは、強い衝撃には弱い。さらに、そこに色を付けるために別に金属を混ぜることになる。不純物が混じればその部分も脆くなる。色ガラスはさらに、貴金属で色を付ける場合もある。色を分けるにはそれだけ金属も多くの種類を使わねばならないし、食堂で出されることのある切れ目文様の入ったガラスは本体のガラスを割らないように後からつけるものであるという。ガラスに思い入れがありすぎるロキには驚いたものの、それだけの知識をどこで、と問えば、前世です、と返ってきたので納得した。


ガラスを真ん丸に加工するのって大変らしいよ、とオートが戯れに少々いびつであるらしいほぼ球体のガラス玉を机の上で転がしながら言っていた。


ちょっとセネルティエ王国への嘲りが無くなったところで、ロキからギルドへ向かいたいと申請していた件について、正式に生徒会が認めたとアレスが知らせに来た。これで大手を振ってロキはギルドにいるというアミュレット職人(?)をスカウトに行けるのだ。ロキが焦りもせず悠長に待っていられるのは、そのアミュレット職人の女に対してユウキが面識を持っていたため。ベディヴィエールとランスロットに話を振ったところで、ああその子なら知ってるよ、とユウキが言ったらしく、ユウキが着実にロキとのパイプを構築しているのが気になる。


今日は読書をしているが、時間潰しのためだ。セトの準備が終わればいつでも出発できる。セトは残念ならが婚約者であるターニャに手紙を書いているらしく、いや、筆不精であるがゆえに催促されて返信中といったところか。とにかく、あと半刻ほどは出てこないだろう。


ゼロがオートと共にやってきて、その手に持っていたプレートからレモネードをカルとロキの前に置く。ロキが一旦本を置いてレモネードに口を付け、カルがそれを見てからレモネードに口を付ける。リガルディアではあまりやっていなかったが、こちらに来てから滞在時間が長くなるほどロキが毒見をよくするようになっていた。


「セトは」

「もう少しかかると。返信ついでにお土産も買いたいそうだ」

「そうか」


ロキの問いにゼロが答え、カルは小さく息を吐いた。婚約者への土産はカルも考えておかねばならないだろう。ロゼには何が似合うだろうか、と考えながら、読んでいる最中の本に栞を挟んで閉じた。


ロキは本を再び読み始め、残りのページがあと5もないことに気付いてカルは咎めるのをやめた。ロキの読む速度ならあと10分もあれば読み終わってしまうだろう。


レモネードを一緒に飲むのだと言って持ってきたのはオートだったらしい。研究所でよく飲まれていたが、おいしかったので持ってきたと笑って語るオートに、自由だなとロキが返した。本を読んでいるのか会話を聞いているのかどっちかにしてほしいものである。


「進捗はどうだ、オート・フュンフ」

「えっとですね、今のところ飛べる靴というか、レギンス、かな? それの開発を手伝ってます」

「ほう」


さすがに詳細は教えられないですけど、と言いつつオートは面白い発想の人が多いですよ、とセネルティエの人間を褒めた。ドワーフの血を色濃く継いでいるフュンフ家の人間が言うのなら相当なものだろうとカルはあたりをつける。初めて会ったときに顔を合わせたあのエルフもそうなのだろうかと思いつつオートの話を聞いていて、気付いた。


「それで、力の術式でレギンス自体を浮かせてるらしいんですけど」

「待て、オート。それはいつだったか、フォンブラウ家から似たような資料が上がっているぞ」

「え、ほんと!?」


オートが驚いて声を上げ、ついでに敬語もすっぽ抜けたのとほぼ同時にロキが本を置いた。カルの記憶によれば去年の夏休みの間だったはずだが。


「父上とアーサー曾御爺様が研究しておられましたね」

「やはりか」

「はい」


ロキが肯定したということは確かに事実なのだろう。オートはぽかんとして、こっちでは最新らしいですけど、と首を傾げると、ロキは小さく頷いた。


「カルが気付いたのは、術式が似ているからだろう。父上たちの案は俺が考えた術式を根底に組んであるし、属性は力で力のかかる方向を調節する術式で成人男性が飛行できる程度の出力を想定したものになっている」

「え、え、同じだ」


オートが目を丸くしている。最新の研究というのは事実だろうが、それより遥かに進んだ科学を知っているロキ達転生者からすれば、もう追いついてきたのか、という程度のものでしかない。


「ここから先は教えないが、そちらはそちらで考えろ。2種類の解決法が出来上がったのであればそれはそれでよし、交渉にも転用にもいかようにでも利用法はあろうよ」

「うん、頑張るね! でも帰ったら見せてね!」

「父上に許可はとっておくよ」

「わーい!」


オートがちょっと気持ち悪い方向に表情を崩している間にセトがやってきたので出発することにする。


「悪い、遅くなっちまった」

「問題ない、時間潰しはいたからな」

「あー、オートか」


お待たせしました。と改めて言って、セトとゼロでロキとカルを先導して寮を出る。オートもついてくるが、オートは研究所、カルたちは冒険者ギルドに向かうため、オートはいつも通り、カルたちはちょっとしたお忍び衣装である。カルたちは全員良いところのおぼっちゃま感のある服であるのに違いはない。


「じゃあまた晩御飯のときにね!」

「ああ、気をつけてな」


学校の正門から出てすぐ左にオートが曲がって歩いて行く。カルたちは真っすぐ、大通りを、ギルドのある貴族街と平民街の境界へ向かって歩いて行った。

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