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2025/05/10 編集しました。
大人の言葉に、ループを理解している者が多いことにプラムは驚き、同時に蒼褪めた。祖父に事情を匂わされたことはあるが、ここまではっきりと言い切られると驚いてしまう。ロキがすべての椅子をほぼ同じデザインにしていることに気付いたアテナが「器用ですね」とロキに向けて笑いかけ、ロキは「鍛錬に余念がないのです」と返した。
「……アーノルド、ジュード、聞かせてくれ。教会は一体どうなっている? 情報が入って来る時と、来ない時がある。我々が欲する情報を持っているのは、恐らく子供たちの方であろうが」
セネガルが問いかける。アーノルドは眉根を寄せて、ロキの方を向いた。ロキはアーノルドの視線に首を傾げ、少し考えると、ニコリと笑みを浮かべる。それを見てアーノルドが静かに口を開いた。
「……我々のところでだと、転生者とループに関する情報はほぼ全てロキが握っています。他に何か知っている者はいるか、ロキ?」
「重要度が高いものを知っているのはシドとロゼ嬢とヴァルノス嬢でしょうね。次点でルナ嬢かと」
ロキの答えにアーノルドがふむ、と考え込んだ。プラムはアテナとアレスを見る。プラムはループについては、ロキ達が知らせるまで何も知らせていなかった。アレスとアテナの視線がプラムに向けられ、プラムはしゅんとうなだれる。巻き込むべきではないと判断していたため、2人には知らせなかったのだが、手足として使うべき2人に対してそれではいけなかったようだ。
「どうした、プラム?」
「……私は、ループしている、という自覚がなかったので、御爺様の御指導の下活動していたのですが、アレスとアテナには持っていた情報を知らせていなかったのです。……その、自分の持っている情報が限定的な時期のものでしたので」
プラムの言葉にアーノルドとジュードが表情を硬くした。アーノルドがロキを見る。
「……私の持っている情報は基本的にただの情報の継ぎ接ぎであり、また、現在の状況との乖離がございます」
ロキの答えに続けてカル、ナタリア、ソル、セトと情報を出していく。
「私の場合はロキに関する情報と、自分のことに関する情報が多い。概ね戦争に関する情報が大半を占めている」
「私の場合は、約20回分のループの記録です。自分の感情に関することはほとんど忘れてしまいましたが、思い返すと苛立ちが募る程度には鮮明に覚えております」
「私はあまり覚えておりません。私はどうにもこれまでの周回でよく死んでいたようでして、戦場の記憶はほとんどございませんし、だからといって日常の記憶もほとんどございません」
「自分は戦場の情報が多いです」
かなり大雑把にしか開示しなかったが、その情報だけでもセネガルは思い至ることがあったらしい。セネガルがアーノルドを見る。
「アーノルドは?」
「……俺は王宮に詰めているか、ロキと戦うか、だな。まあ、大体負けるんだが」
「お前の息子強すぎん?」
アーノルドとセネガルの言葉に宰相と騎士団長がくす、と笑った。プラムは情報を整理しようと必死に頭を回す。ここに居る者たちの大半がループについての記憶及び情報を抱えているといっても過言ではないらしい。
黙っている金色蝶とアルテミス、アカネ、カミーリャは目を丸くしているので、恐らく何も知らないのだろう。タウアだけが、難しい顔をしていた。
「君たちにとってのループは、戦争がメインのようだね」
「そうだな。そこで我々の命運が決まるのだろう」
しかし手に入れたい情報はセネガルの手に入ったらしい。これ以上のプライベートは開示しなくても大丈夫だ、とセネガルが言ったことで肩の力を抜いたリガルディアのメンツと、背筋をしっかりと伸ばしたトリスタン、その後ろに控えるアストルフォ、名を呼ばれてもいないのに残っているユウキが対照的だった。
「では本題に入ろう。教会は一体どうなっていた?」
「正直に言おう。我らが同胞と契約を結んだ精霊たちのマナが崩壊した」
わかっていたが、思い至ってはいたが、事実をしっかりと把握しているらしいジュードの言葉にセネガルもピオニーも息を吐いた。宰相と騎士団長がやはりか、と呟く。
「今現在はマナの動きを強制的に神子の力で止めていただき、教会の中の魔力的な動きを制限している。この場において彼らをどうにかできるのはロキ様しかいない」
「待て、そこはどう関係する?」
「そも、人工精霊しかマナの崩壊によって生じた闇のマナを受け止められないのだ。特に闇属性がよい。ここで闇属性の人工精霊をお連れなのはロキ様だけだよ」
周囲の者たちがロキに視線を向けた。
「通常、闇精霊は人工的に作ることは難しいですよね?」
「闇属性の精霊は精霊の中でも最もマナが多く必要なのではなかったのかしら?」
「人工精霊? 精霊を作るなんて非常識です!」
それぞれの言葉にロキは少し困ったように眉根を下げる。
「恐らく、ループ周回中の私が作り、育てた人工精霊です。私のことを父と呼んでおりますが、既に最上級精霊と同格にまで成長していることと、風の最上級精霊と親しい様子であったことから、ループに関して教会の方々と契約している精霊のマナが崩壊したことについて、事情を知っている可能性は十二分にあります」
「???」
わからない、と周りは完全に頭を抱えてしまった。ループの延長線上に今がある、という認識は全員に持たせることができたのだが、カミーリャはここにいるのが場違いではないかと思い始めたようで、目を伏せる。
「ループがすべての根底にあるのでは、私にわかることはほとんどありませんね」
カミーリャの言葉に大人たちが苦笑した。
「致し方あるまい。君は親の意向によって意見が翻る。帝国貴族である以上カミーリャ家は生き残る為に幾らでも卑怯になるだろう。それを疎んではいけないよ」
セネガルの言葉に小さくカミーリャが頷く。頭ではわかっているつもりなのだろうが、正義感の強い子供であることは疑いようがない。たとえ帝国貴族であろうと、ループの中で敵対していようと、表立って敵対行動をしない場合は受け入れられるのが、ここに居る者たちの美徳であろう。
「……一ついいかしら」
「はい」
金色蝶がプラムを見ながら言った。プラムは頷いて金色蝶を見る。
「そもそもループの原因って何? 私も覚えてなどおりませんし、ループの自覚もございませんけれども、何でそんなことに巻き込まれているのか伺ってもいいでしょう? 教えてくださらない?」
「……」
プラムは言葉に詰まる。はっきり言って理解していない。わからないのだ。プラムは何故ループしているのかわからない。ロキが口を開いた。
「それには私がお答えします」
「あら。じゃあお願いするわ」
「……詳細な理由は不明ですが、何者かが誰かの死を嘆くことがループの原因です」
「生きとし生けるものが死ぬなんて当然でしょう?」
金色蝶は理解不能だと首を左右に振る。
「……自分のせいで誰かが死んだら、後味が悪いではありませんか」
「それはそうだけれど、仕方がないことでしょう?」
責任を持つべきよ、と金色蝶は言った。西の諸国がどうやらかなりシビアらしいことを察して、プラムは小さく息を吐く。ロキが続けた。
「……男爵令嬢のために別の国の伯爵が死ぬと言ったらどうしますか」
「その男爵令嬢を処刑する。示しがつかないわ」
「その男爵令嬢が庇われていて、相手が身体の欠損だけで生き残った場合は?」
「……それだと処刑は難しくなるわね」
金色蝶が難しい顔になった。そんな金色蝶の様子にアルテミスとアカネが不安そうに表情を曇らせる。カミーリャと金色蝶の答えが出るのがほぼ同時。
「「まさか、それがループでの記録?」」
「そうなります」
これはきっつい、と金色蝶の表情が訴える。ロキは苦笑を零し、アーノルドは息を吐いた。カル、セト、ソルは肩をすくめ、ナタリアだけが難しい顔をする。本題のためにこの話をしなくてはならないとはいえ、かなりずれた話をしている自覚はロキにもあるのだろう、少しばかり考え込んで、どうやって本筋に戻そうか、と小首を傾げた。
「すみません、それがいったいどのように、教会に関係するのでしょう?」
発言したのはブライアンで、それに乗っかってジュードが口を開いた。
「ループの結果として現在成立している人工精霊はそこまで多くないが、ロキ様がお連れの精霊以外にも複数いらっしゃることが分かっている。ただ、精霊から崩壊したマナを取り除くには人工精霊の力が必要になるので、ロキ様に協力を仰ぐ必要がある」
「あの、すみません、ジュード台下。私に敬称をつけないでいただけませんか。ものすごくやりにくいです」
ジュードの言葉にロキが呻くように注文を付ける。ジュードは笑い、トリスタンとアストルフォが顔を見合わせた。
「ロキはあんまりそういうの得意じゃないしな」
「……さっきの枢機卿もロキのことをロキ様って呼んでたな」
カルとゼロの言葉にアーノルドがそういえばそうだったな、と言ってロキの方を見る。
「ロキ、もう平気か」
「はい」
ロデリック枢機卿猊下も話は分かってくださいましたから、とロキが返せば、不快に思われませんでしたか、とジュードが問う。枢機卿がああなっているのを知りながらなぜ動かなかったのかと問うのは野暮だと判断して、ロキはただ平気だとジュードに返した。




