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Imitation/L∞P  作者: ヴィラノ・エンヴィオ
セネルティエ王国留学編 1学期
302/376

11-34

2025/05/10 編集しました。

2025/09/19 編集しました。

プラムが王宮に入る頃には、王宮にある2番目の謁見の間にジュードとトリスタン、ロキが立っていた。続々と教会への突入に参加した子供たちが謁見の間に通されていく。本来このような使い方をする部屋ではないことを皆分かってはいるようで、あまり話すこともなく静かに王族の入室を待っていた。


「プラム様、御到着!」


衛兵の声と共にプラムが早足で入室する。上段に控えている宰相とプラムは目を合わせ、小さく頷けば、宰相は次いで国王の入室を知らせ、さらに先王の入室を知らせた。国王が謁見用の衣装で姿を現し、アレス、アテナ、エドワードがプラムの後ろに跪いたのを見て、ブライアンをはじめとする生徒たちが同じように跪く。ロキ達外国の貴族はカミーリャたちも含めて膝はつかず、アーノルドに倣い、お辞儀(ボウアンドスクレープ)で礼を示す。無論、金色蝶(パピーリオ)たち女性陣はカーテシーだ。


「――面を上げよ」


国王の声が謁見の間に響く。宰相以外にも騎士団長の姿がある、と思いながらプラムは深く腰を折っていた体勢を解いた。プラムは父親が子供を溺愛する人だと知っているが、それでも祖父の子供であるとわかる程度には厳しい人だった。祖父も見ている。アテナが知らせたのはとにかく教皇とトリスタンがここに来るということだけのはずだ。


「――プラム。先日教会の異常については聞いた。故にこうしてジュード教皇と御子息を保護したのは良い。しかし、何故連れてきた?」


ここよりも教会内の方がよかったに決まっている、と国王の瞳は訴えていた。プラムはう、と言葉に詰まる。以前のロキとの打ち合わせでは何と言っていたか。


「……教会に放置してはいけないと判断したからです」

「何故だ?」


今までも放置していてもよかったではないか、と言外に言われて、プラムは緊張で冷や汗が米神を伝う。


「……今まで、監禁されていたという情報がこちらに渡った時点で、救い出すべきだと判断しておりました。しかし私は教会に踏み込み、常ならぬ様子の教会の者たちを見ました。救出という形で彼らを連れ出すまでは良かったのですが、兵士よりも赤華騎士に常ならぬ様子の者が多く、そのまま教会に残していれば、彼らに危害が及ぶ可能性を考えて、お連れいたしました」

「ならば何故護衛ではなく留学生に任せた? 護衛騎士を連れて行けばよかった話ではないのですか?」


今度は宰相から問いが飛んできてしまった。その言葉に発言の許可を求め、アテナが立つ。


「我々は今回安全よりも救助の早さを重視いたしました。教皇様と御子息の救助が完了した時点でこちらにお連れするべきだという意見が出たため、後はアーノルド卿の指示に従いました」


本来は事前に王宮へ連れていくことを考えていた作戦だったが、そのためには情報提供をしたイナンナやリガルディア貴族であるナタリアのループ経験を説明しなくてはならなくなってしまう。宰相がアーノルドを見る。アーノルドは小さく頷いて一歩前に出た。ロキを手招いて前に出ると、軽く会釈をして国王に向き直る。


「確かに、彼らに最終的に指示を出したのは私だ」

「何故、と問うてもよいだろうか?」

「構わない。……結論をいうならば、そちらの方が良い、と判断した。魔物が地下にも潜んでいたため、早急に安全圏へお連れするのが良いと。そのためにはロキの魔物を使うのが最も速かった」


アーノルドの答えに国王と宰相、騎士団長ががくりと肩を落とした。


「アーノルド……其方相変わらずであるな……」

「陛下、人刃に言ったところで変わりはしませぬ」

「相変わらずリガルディアの上流貴族は何をするかわからん……」


3人がアーノルドを知っているらしいことに気付いてプラムはアーノルドに視線を向ける。アーノルドは背筋をしっかりと伸ばして壇上にいる3人を見上げていた。騎士団長が気を取り直したようにロキに問いかける。


「では、ロキ・フォンブラウよ。何故街中でフェンリルを呼び出した? あれは強大な闇属性の魔物のはずだが」

「私の魔物は私が手塩にかけたモノばかりでございます。教皇台下におかれましては、魔物に親しき精霊をお連れでしたので、問題ないと判断し、フェンリルをお貸しいたしました。魔物との戦闘が考えられる中で魔術師寄りの適性の私が魔力を失うのは避けたかったのでございます」


ロキの答えはいくつか遠回しなものが含まれていたが、壇上の3人はちゃんと理解したらしい。自分の弱みを見せることで揺さぶりをかけたのだとプラムは理解した。ロキが魔術師寄りであるという事実は、寧ろ実戦を通してロキを知っている者の方が感じにくい事実である。プラムは片眉を上げた宰相の様子にロキが何やら感じ取ったらしいことを悟った。


そしてプラムははっとした。

魔物に親しき精霊、つまり、ジュード教皇の精霊は闇属性ということになる。精霊の姿はまだ見当たらないが、恐らく強力な闇精霊ではなかろうか。教皇の出身はセネルティエ国内なのだ。闇属性に適性があってもおかしくはない。


「……事情は分かった。大教会は今どうなっている?」

「常ならぬ者と、その指揮下にある魔物が外に出てこないようにと、結界を張って参りました。ただ、常ならぬ者たちを止める方法は発見しておりますので、大教会の復旧は早いかと」


国王の言葉にそのままロキが答える。驚いたのはプラムたちだ。カル班にいたメンバーが顔を見合わせた。


「……その方法とは?」

「崩壊したマナを取り除くことでございます。皆様には、闇のマナとして見えているものですね。先王陛下は、崩壊したマナだとお分かりになられるかもしれません」

「……」


壇上の4人が黙り込んだ。プラムにはロキ達の視界が分からなくなった。一体どんな世界を見ているというのだろうか。カルが小さく「俺にはわからなかったが」と呟くと、ロキが小声で「お前の傍にいたら見えん」と返したので、光属性の人間には見え辛いのだろうなと理解した。


「……これ以上の深入りは皆に危険が及ぶだろう。ここでの話、他言無用である。皆、下がって良い。プラム、アレス、アテナ、エドワード、ブライアンは残れ」

「「「「「はっ」」」」」


国王は息を吐いて、一旦全員に退室を促した。とはいえ、残れと言われたプラムは動けない。どうやらアーノルドをはじめとしたセネルティエ王国民以外の者たちは全員残るつもりであるらしいが。


「……ヘリオトロープ」

「はっ」


宰相が懐からタクトのような魔導棒を取り出し、魔力を込めて何か唱えると、部屋全体に宰相の魔力が流れ始める。ロキとアーノルドが視線を交わして、カルたちに何か言うと、リガルディアの留学生が全員                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                         魔力で作っていたらしい障壁を解除する。それを確認し、宰相の魔力が謁見室全体を覆ったところで国王が口を開いた。


「さて、ここからは割と私的な会話となるが、全員他言無用だ。アーノルド、昔通りでいいぞ」

「昔などと言ってまだ20年も経ってないがな」


アーノルドが合いの手を入れたことで驚いてプラムたちがアーノルドの方を見た。アーノルドは片眉を上げただけで特に何か反応するわけでもなかった。


「……リガルディアの留学生、私はジークとアーノルドの学年に留学した身でな。改めて、よろしく頼む」

「もったいなきお言葉でございます、セネガル陛下」


セネルティエ国王セネガルの言葉にカルが礼をする。カルを前に出してロキが下がった。国王がマントと王冠を一旦玉座に置いて宰相、騎士団長、先王と共にプラムたちの目の前にまで下りてきた。


「陛下!? 父上!? 宰相様!? 先王陛下!?」

「案ずるな、アテナ」

「リガルディアと話すにはこれが一番なのですよ」

「リガルディアは会議室などと言って円形の討論場があるからなあ」


大人たちが何やら挨拶を交わした後、アーノルドがロキを見ると、ロキが小さく頷いて、氷で作った椅子を20脚用意する。円状に並べられた椅子を見て、椅子に座った自分たちの保護者を見たプラムは自分も腰掛ける。大人が6人とも座ったところで王族から順々に椅子に腰かけ、カミーリャが座ったところでカミーリャの少し後ろにタウアが立った。


「さて、まずは状況を聞こうか」


口を開いたのは先王(ピオニー)。するとス、と手を挙げたジュード教皇の上後方に黒い髪の紫がかった肌の女性が現れる。それが精霊であることはプラムもすぐに分かった。


「おお……闇精霊殿か」

「詳細な事情は私からも何とも言い難いことです。ただ、ある時から彼女と言葉を交わすことが難しくなりました。今は、私の言葉は届けど、彼女の言葉を私が聞くことはできません」


ピオニーの言葉にジュードが答え、ロキが目を細める。


「であれば、ループについてこの場に居る者が理解していると言ったら、もっと詳細を教えてくれるのか、ジュード」

「……それはとても、悲しいことですね」


セネガルの言葉にジュードが答えた。


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