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Imitation/L∞P  作者: ヴィラノ・エンヴィオ
セネルティエ王国留学編 1学期
300/377

11-32

2025/05/10 編集しました。

裏口から教会内に入ることになっていたカルの班――カル、セト、ナタリア、カミーリャ、タウア、金色蝶(パピーリオ)、アカネ、アルテミスの8人は、2階部分で魔物が暴れ始めたのを確認して、裏門から一目散に裏口へ向かった。


「まさか私たちも噛ませてもらえるとは思わなかったわ」

「貴女方は何かと巻き込んでおいた方が良いだろうとロキが言っていたのでな」


金色蝶(パピーリオ)の言葉にカルが答えれば、なるほどね、と金色蝶(パピーリオ)は笑った。アカネとアルテミスは強いわよ、と言って、金色蝶(パピーリオ)は肉切り包丁を2本、その手に握った。カルもこちらへ来るときに新調したロングソードを構え、タウアが斥候の役目を果たすため前に出た。神殿内の整えられた庭を破って、近くに魔物が来ている。アルテミスが弓に矢をつがえ、魔物に向けて放った。


「グギャアアアアッ」

「シャァアアア!」


複数向かってきた魔物全てに向けてアルテミスの放った矢は分裂し、一撃で脳天を射抜いた。どさどさと魔物が倒れるのと、ドアを開けて中を確認したタウアが入ってもいいと彼らに告げたのはほぼ同時だった。

全員で中に入ると同時に、上階の騒音が反響して聞こえてくる。


「これは酷い」

「結構騒いでそうね」

「こちらで暴れてもそこまでは分からないだろう」


武力突破、と全員の回答が一致した。カミーリャが案外脳筋思考であったことに驚いたのはカルだけではないと信じたい。全員が得物を持って走り出す。ナタリアが教会内部の構造は覚えているらしく、こっちに階段があります、と先導してくれた。


教会と言うだけあって神聖とされる白と緑で飾られた建物は、差し込んだ日光をよく反射していた。眩しい反面、少しの明かりでもそれなりに明るく見えるから、窓のない廊下が存在していても何も考えずに歩くことができる。ナタリアの先導のままにカルたちは進む。階段の付近に差し掛かった時、赤い腕章をつけた騎士の姿が見えた。


「!」

「まさかこっちに人員が回されてる?」


声を潜めたナタリアの言葉に、どうやら回帰の中ではこの経験はないものと考えてよい事をカルは思った。もしかして、と推測をナタリアに投げかける。


「ナタリア、もしやロキと離れての行動は初めてか」

「?」


ナタリアはカルを振り返って何を言っている、と言わんばかりの表情で答えた。


「ロキと離れても何も、私教会への突入自体初めてですよ?」

「え?」


ナタリアの言葉にロキの事情、ループについてのあらましを既に説明されていた金色蝶(パピーリオ)が口を挟む。


「今それは置いておきなさいな。――普通こういう場には大人が付いて来るものではないのかしら?」

「はい、普通であれば。しかし基本的に教会はロキとの対話しか望んでおりませんでしたから、指定を受けてしまったロキがお供を連れて行くだけなんです」

「……トリスタン殿と仲良く、とでもいったところか?」

「はい、まさしく」


気を取り直したカルの合いの手にナタリアは頷いた。少なくともこれで教会側はロキが目的であることはカルの中でははっきりしたわけだが。


「さて。詳しい話はあとで聞くとして、今はまず合流地点へ向かうのが先でしょ? 確か、教皇猊下の部屋のある階だったかしら」

「はい。4階ですね。教皇猊下の部屋は同じ階に他の部屋がないのでわかりやすいですが警備もしやすいです。4階に10人前後の護衛がいると思っていいと思います」


金色蝶(パピーリオ)の言葉にナタリアが返す。アカネがショートソードを鞘をつけたまま構えて曲がり角の影から身を躍らせ、階段を守護している兵士に挑んだ。タウアが続けて飛び出し、そのすぐ上の踊り場にいた赤華騎士に殴りかかる。階下で音がしたためか兵士と赤華騎士が階段を駆け下りてきた。


「魔術は使わないでください。アダマンタイトとミスリルで魔術を打ち消されますから」

「わかった」


カルはナタリアのもたらす情報をもとに、手に持ったロングソードで赤華騎士が向けた剣を叩き落し、柄で赤華騎士の顔を打つ。赤華騎士のフェイスガードを切っ先で引っ掛けて目元を露出させると手元で魔力を動かして、赤華騎士の目の前で光を放つ。


「ぐぁっ!」


ナタリアがふらついた赤華騎士を魔力の糸で縛り上げ、その間に金色蝶が階段を駆け上る。後を追うようにアカネとアルテミス、カミーリャが続き、カル、セト、ナタリアが駆け上がるとタウアが殿でついてきた。


「こっち人数多くない?」

「はい、やたら多いです」


アルテミスが弓を弾き、アカネがショートソードで切り込んで、赤華騎士が向けたアルミラージを切り捨てる。カルは指示をしっかり聞いている様子のない魔物の集中攻撃に驚いた。ナタリアが素早く魔力糸で8人の周囲に障害を作る。魔物が触れると身体が斬れた。


「どうなってるの、魔物もやたらと多いわ!」

「正気を失っているように見えますね。赤華騎士はモンスターテイマーのはずでしょう?」


アカネの言葉とカミーリャの言葉にハッとしたナタリアが振り返る。


「正気を失っているのかもしれません!」

「ナタリア、どういうことだ」


カルが聞き返す。魔力糸が数本切れたところにセトが糸を張り直した。


「力のある光や闇の精霊や魔物はループしたことを覚えている個体がいるんです。赤華騎士が連携が取れていないのも教会所属の者がおかしくなったのも、たぶんマナの循環が滞っているせいだと思います」

「マナの循環?」

「精霊はマナを放出していますよね? その放出ができなくなっているんだと思います。魔物は純粋にマナ不足かマナの循環がなくなって魔核に異常を抱えたかでしょうね」


魔物に詳しいリガルディアの中でしか話が通じていないことを理解したうえで、ナタリアは話を続ける。どうしようもないし、今はセトとカルが理解しているだけでいい。

魔物は8人も集まるとこちらばかり攻撃してくるようになっており、赤華騎士も焦点の合わない目をしている者がいるのが見える。兵士はそこまでないが、この差は、とカミーリャが問えば、ナタリアは「兵士には契約精霊も魔物も強い個体がいない」ということしかわからなかった。


「どうすればいい!」

「魔物だけを徹底的に狩ってください! 多分どうあがいたって魔物は助けられません!」

「それは本当ですか? 人間の許に下っている魔物ならば、どうにかできないのですか?」

「無理です。魔物は精霊ほど多量のマナを保有しているわけではないですし、精霊は属性を変じてしまったマナを他に回せば、体内を巡るマナが減って結局死んでしまいます」


相手の契約魔物を殺さねばならないとわかって、カミーリャが目を伏せた。魔物を飼っているのかもしれないな、とカルが言えば、なるほど、とナタリアは納得した。基本的に魔物は狩るものと考えているリガルディア王国と違い、ガントルヴァ帝国では魔物を飼うことができるのだろう。ロキがいるから自分たちもそこまで慌てなくて済むが、本来飼っている魔物も危険な生き物なのである。たとえ大人しかろうが馬の蹴りは人の頭が割れるのだ。ガントルヴァ帝国内の魔物はリガルディア王国内の魔物よりも弱いのではないかと思い始めたカルだった。


赤華騎士の動きが鈍いのは理性と狂気の間で戦っているからではないか、とナタリアは言い、とにかく魔物を狩ることを優先していく。本来大人しいはずのスライムや毬兎という無害な魔物までが狂暴化しているのを見て、カルも泣きたくなった。



カルたちは魔物の攻撃がパターン化していることに気付き、いなして魔物を絶命させながら階段を上がってきた。4階に着いた時には振り返ってももうカルたちを襲って来る者はおらず、それを見た金色蝶(パピーリオ)が頬に付いた魔物の返り血を手の甲で拭う。


「まだいるかしら?」

「この先にはまだいるようだ」


4階には今までの中で一番人数がいた。連絡がつかないことにも気付かない程度の連携しかしていなかったらしい様子に、アカネが息を吐いていた。


カルの答えに金色蝶(パピーリオ)が小さく息を吐いて肉切り包丁を構え直す。まだ敵がいるならば殴り込むのだろうと考えてのことだが、カルはそれを手で制した。


「廊下の向こう側に既にロキがいる。タイミングは合わせるべきだろうし、アーノルド公がいる以上は我々がこれ以上刃をふるう必要はなかろう」

「……あのアーノルドという方はそこまでお強い方なの?」

「加護持ちを抜けば彼に敵う者はリガルディア国内にはおらん」


そう、と金色蝶(パピーリオ)が武器を仕舞った。

カルたちが影に身を隠して待つこと5分足らずで、燃え上がる炎のような髪と瞳の男が切り込んできたのだった。

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