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Imitation/L∞P  作者: ヴィラノ・エンヴィオ
幼少期編
3/363

1-3

2021/05/27 加筆修正しました。

アーノルドに食事の後話がしたいことを伝えたスクルドは、メティスにも事情を伝えておきたいと言って、食事のあと3人でアーノルドの執務室に引き上げた。


「それで、どうしたんだ、スクルド」

「アーノルド、貴方が出てる間に分かったことが2つあるわ」


メティスにもまだ伝えてなかったの、とスクルドは言う。アーノルドは怪訝な顔をして先を促す。


「ロキちゃんの事だけれど」

「……」

「アーノルド、神子ってだけで大変なのにって顔しないの」


メティスの言葉にアーノルドは自分の頬を触る。疲れているから顔に出たのだろう。スクルドはアーノルドを労わるのは後、と言ってそのまま続けた。


「ロキちゃんは転生者よ。しかも記憶と人格を引き継いでいる感じね」

「……」

「あ、アーノルドが灰になっちゃったわ」


アーノルドには心労が大きかったらしい。真っ白に燃え尽きてしまいそうなアーノルドをソファに座らせて、スクルドとメティスはアーノルドを挟んで座る。


「転生者って知られると拙いんじゃないの?」

「あんまりよくないけれど、友達がいるかもしれないから探してみたいってロキちゃん言ってたわ。それに、アヴリオスの事、知ってるみたい」

「あらら、もう神子ってこと表に出して転生者ってこと隠したら?」

「そうしようかなと思っているの」


その為には、アーノルドに今以上に教会対策を講じてもらわなければならない、というのが、スクルドからアーノルドへの相談だった。意図を理解したアーノルドがああそういう事か、と納得して姿勢を正した。


「ロキを守りたいのは分かるが、教会は置いておくとして、他にも問題があるんじゃないのか」

「人格が男の子だから、王家との婚約の話が出たら即止めてほしいわ」

「……ジークに相談しておく」

「お願いね!」


アーノルドが天を仰いだ。ジークというのは、ジークフリート・ヴーイ・リガルディア――リガルディア王国現国王陛下の事である。アーノルドの従兄弟でもある彼にあらかじめ相談しておけば、ある程度のことは防げるだろう。国内の事は置いておくとして、宰相が牛耳っていた王宮内部をほぼ掌握しきった男である。


ロキが転生者であるということから、勉学やらなんやらの心配は減った。転生者であることと勤勉さが必ずしもイコールであるわけではないのだが、概ね勤勉な転生者が多いのも事実だ。しかしそうなると、後継として確実視されているフレイの立場が危うくなりかねない。転生者に勉学の理解度で敵う普通の子供はほぼいないと言っていいからだ。


「でもスクルド、スクルドが言うってことは、ロキは何かあるってことよね? 女の子の精神が育つ見込みは無し?」

「昔のアーノルドにそっくりな男の子がこっち見て、母上、って手を振ってくれる姿が視えたわ。ロキ神は男女どちらの姿も持った神格だから、男の子の精神に合わせて、男の子の身体に変わるんじゃないかと思うの」

「なるほどね」


カイネウスのパターンもあるし、とメティスが呟く。女から男に身体が変化した神話を持つ英霊の名である。ロキは男から女に変わったり馬になったり鮭になったりとこちらも変身を得意とする神話を持つ神格であるため、スクルドの予想はあながち間違いではなさそうだった。


「……そういえば、ロキの時の産婆も不審がっていたな」

「あら、そうなの?」

「ああ。『男児だと思った』と言っていた。あの産婆は島のイミットだったからな、術体系の違いで見えていたものが違ったのかと思っていたが」


魔術師としてもトップクラスの実力を持つアーノルドは、自分の扱う魔術体系以外の流派も齧っている。思うところがあったようで、少し考え込んだ。


「それで、スクルド? これからどうするの? フォンブラウの社交は私が引き受けられるけれど、アーノルドは次帝国行きでしょ?」

「教会を追い払いたいのよ。今はガルーとリウムベルが頑張ってくれてるけど、使用人の中にもカドミラ教徒はいるし、神子の保護派が混じっていたら、私も社交に出るようになったら守り切れないわ」


スクルドはせめて家の中から教会を追い出したいのだと、アーノルドに願う。アーノルドは少し悩んだが、分かったと頷いた。


「……銀髪の子供が生まれた時点で、考えられることではあっただろうからな。ガルー」

「はい、旦那様」


扉の外に控えていたガルーが返事をした。


「聞こえていたな? カドミラ教徒の使用人に暇を出す」

「畏まりました。50は減ると思いますが、どうなさいますか」

「お前とリウムベルの一族を連れてきてもいい」

「ありがとうございます」


ガルーが去っていく。少しは落ち着くといいけどねえ、とメティスが言った。



教会――通常、教会と呼ばれるのはカドミラ教だが、神子を保護してきた宗派であり、ロキを見せろと、あわよくば連れて行こうとしている教会のことである。見せてほしい、なんて、そんなことで終わるはずがない。現に王宮は先代の頃教会の出入りを阻めず、当時の()()()()()()()のだから。


ガルーは使用人たちを全員呼び集め、手短に状況を説明した。え、というような顔をした者もいるが、古参の使用人とメイドたちは特に反応を見せない。


「まあ、いずれこんな日が来るのは分かっていたしな」

「むしろロキ様がお生まれになってよく3ヶ月も期間があったと思いますけれどね」


公爵家の使用人、侍女ともなると、貴族の家の継承権を持たない子弟であることがほとんどだ。カドミラ教は爵位の低い家にこそ浸透しているため、召使やメイドの方が辞める可能性は高かった。


リウムベルがロキを抱えてやってくる。ロキは転生者故に状況を把握できるので説明をしつつ見せることにしたのだ。


「ロキ様」

「あぅぁ」


普段ロキの世話をするようになったアリアがリウムベルからロキを受け取った。リウムベルはガルーの横に立ち、使用人たちを見回した。


「君たちの中で、カドミラ教を信仰している者には、改宗かここを出るか選べ、との御達しだ」

「「「ええっ!?」」」

「銀髪の子が生まれた時点で考えられる範囲内のことでしょう?」


声をあげたメイドや召使たち以外は、その場に膝をつく。彼らは元々カドミラを信仰していないため、問題ないのである。ガルーは満足げに小さく頷き、残りの立っている使用人たちに目を向ける。


「君たちはどうする」

「……そん、な」


立っている使用人たちは顔を見合わせて口々に答える。子爵家や男爵家の息女、そこそこ裕福な平民の息女など、カドミラ教を深く信仰している者たちにとって、背教なんて考えられないことだろう。


「家への連絡はしますので、心配しなくてもよろしい。奉公先を変えられない場合は信仰を捨てなさい。この家にカドミラを蔓延らせるわけにはいきませんので」


リウムベルはぴしゃりと言い放ち、アリアにどうしますか、と問いかける。


「正直、いつ彼らがロキ様に手を出してくるかってひやひやしてたの。神子なんて信仰の対象みたいなもんだし。スパッと切っちゃえばいいのに、お優しいことで」

「旦那様ですからね」

「どうせ暇を出すくらいしか言わないんだから、クビにしちゃえばいいのに」


菫色の髪をショートにして飾りでリボンを結んでいるメイド、名はアリア。赤みの強い暗い瞳が、立ったままの使用人たちを見た。


「ここに居る全員、明日にはどちらか決めること。カドミラの信仰は捨てよ。できなければ出て行くように。以上だ。解散」

「「「はいっ」」」


ガルーは言うことは言ったとさっさと踵を返して姿を消す。残された者たちはそれぞれ相談を始めた。信仰を捨てること、それはすなわち家に戻れなくなることに等しいのだ。


ロキはアリアの腕に抱かれたまま、使用人たちの行く末を見守った。そういえば自分を見る目がアリアやリウムベルと違って、何やら聖なるものを見ているような視線を向けている者たちがいた気がするのだが、そもそもロキ自身がそういう類の者として扱われているようだ。


あまり両親は情報をくれないので、首が据わって動いたり話したりできるようになってきたら自力で本を読もう、と誓ったロキだった。


結果的に使用人たちは翌日、傅いた者たちと2人以外全員出て行ってしまった。

残った2人は騎士爵の娘だったりスラム出の少年だったりで、信仰はあまり関係ないだろうと勝手に判断した結果である。教会なんて既に貴族の温床じみた状態になっているのだから、心の中で祈ってりゃいいんじゃないですかね、と言ったこの平民の少年、後にロキの影となるが、今は脇に置いておく。


「じゃあ、2人はこのままこの家で働くのね。あーあ、一気に結構やめちゃったなあ」

「まあ、上流貴族連中の教会嫌いは今に始まったことではないですしね、慣れてるんじゃないですか?」


なお教会に関しては後にひと悶着あるが、まだ知る由もない。


ここまで読んでいただきありがとうございます。

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