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Imitation/L∞P  作者: ヴィラノ・エンヴィオ
セネルティエ王国留学編 1学期
299/375

11-31

2025/05/10 編集しました。

ロキとロデリック枢機卿が姿を消した会談室に、赤華騎士と魔物がなだれ込んでくる。アーノルドが落ち着いた様子のままに手元によく磨き上げられた木の棒を出現させ、アレスとアテナはそれぞれ手元に剣と盾を出現させる。プラムはアレスとアテナの後ろに立って辺りを警戒しつつ魔術を組み始めた。魔物に抑えられたはずのゼロの姿がどこにもない。どこへ行ったのだろうか。


「フォンブラウ公爵」

「なんだい」


プラムの声にアーノルドは静かに問い返す。


「ロキ様のアレって、何か作戦でもあったのですか」

「いや、ない。少なくとも私との間にあの行動の約束はなかったよ」


プラムはロキの独断だったことに驚いた。どう考えてもゼロと手を組んでやらかしている。いったい何があったのかと思いつつブラッドサイス・スパイダーの足元に植物を出現させ、脚を絡めとった。プラムに標的にされたブラッドサイス・スパイダーが驚いて足を踏み鳴らし、体を揺すったのでテラスの装飾が一部崩れる。決して脆くはないはずの石を軽くぶつけただけで崩すあたり、魔物たちの硬さとパワーは推して知るべし。


赤華騎士の眼が血走っている気がするのは何故だろうか、とプラムは思う。戦闘のみならず興奮を落ち着けるような作用の魔術の行使も考えてみるべきか。


魔物の数が増えている。ぞろぞろとテラスへ侵入してきているが、どうやらこの部屋は2階か3階あたりにあったらしい。魔物の脚力なら難なく飛び込んでくるのは当然だ。アレスがわざと盾を構えながらアーノルドより前に出る。赤華騎士の1人が掛かれ、と小さく魔物たちに命じ、一斉にアレスに飛び掛かってきた。


魔物と一口に言っても、複数の赤華騎士がいるのだから、複数種がいるのは当然のことで、ブラッドサイス・スパイダー以外にもオーガやアルミラージなど凶暴な種類が揃っていた。後ろには下級神官たちが居る。後退はできない――できなくはないのだが、神殿を破壊するのは気が引けるのだ。


部屋に入り込んできたブラッドサイス・スパイダーが右前脚を軽く上げて、アーノルドを引っ掻いた。アーノルドはそれを木の棒でぱしんと跳ね除け、一歩で懐へ入り込み、ブラッドサイス・スパイダーの顔に向けて膝蹴りを放った。


「ギィイイィィィィイィ」


膝蹴りを受けたブラッドサイス・スパイダーの頭は半分ほどにひしゃげていた。ブラッドサイス・スパイダーはギルドでもBランクに相当するかなり強力な魔物のはずだが、それをいとも簡単に膝蹴りで潰すアーノルドにアテナが目を見張る。ブラッドサイス・スパイダーが1匹頽れ、流れるようにアーノルドはその先にいたオーガの眼を木の棒で突き刺し、頭を掴んで隣のアルミラージの群れを薙ぎ払った。


悲痛な声を上げて吹き飛ばされていくアルミラージとその一方で踏み込んでくるオーガたちにアテナが応戦するが、パワー不足なのか押され始める。プラムが強化魔術で支援を行い、オーガの足元を凍らせてみるが、砕き散らされるあたりオーガにはあまり効果がないらしい。


じりじりと押し込まれていく。まだ魔物は増える。アーノルドが大物を薙ぎ払ってくれるおかげで子供でも耐えることはできる。魔物と戦い慣れているメンツがここにいないのは、戦うことを前提としていないせいだった。アレスがアテナの援護のために盾で魔物の頭を叩き割っていく。


「っく、」

「アテナ、支援しろ、邪魔だ!」


アテナはくそ、と小さく悪態を吐いて下がり、魔術を組み始めた。

ああもう嫌だ、とプラムが呟いた時、テラスに誰かが上がってきたのが見えた。


「誰!?」


それは紺のローブを纏った男だった。フード状に巻き付けた布の所為で顔は確認できないが、その手には長筒が握られており、ローブの男はオーガの後ろから長筒を当て、引き金を引いた。


バァンッ


オーガの身体が吹き飛び、ローブの男はガシャンキンガシャッ、と長筒を弄って再び別の魔物にそれを向ける。金属の小さなケース(薬莢)が高い音を立てて転がった。再び大きな音がして、魔物が倒れる。魔物たちがローブ男を取り囲んだ。ローブ男は再び長筒を弄ってプラムたちに背を向け、魔物の頭に向けて長筒を向ける。


プラムは驚愕していた。どうして個人が銃を持っているのか。この世界において銃はそんなにお目に掛かれる代物ではないはずだ。ましてあれは。


「なんでショットガンなんて……?」


まるで囲まれるのが分かっていて用意したような代物ではないかと、内心叫んだ。ショットガン、故に、魔物の後ろにいた魔物にも被弾し、魔物たちの悲鳴が響く。すぐ足元で魔力が集束したのに気付いたアーノルドがローブの男とアレスもろともプラムたちの元まで退いてきた。


「――【クラレント】!!」


赤と黒の雷が撃ち上がった。魔物が魔力に中てられて焼かれていった。モードレッドの声だ、とプラムは呟いた。


「「プラム殿下!」」


駆け上ってきたらしいモードレッドと、普通に正面から神官の許可を得て入ってきたらしいランスロットの声が重なった。モードレッドの後ろからガウェイン、ランスロットの後ろからベディヴィエールが現れる。


「御無事でしたか」

「ええ、なんとか」

「アレス、アテナ、そちらは」

「問題ねえ」

「大丈夫だ」


アーノルドに庇われたのは驚いただろうが、モードレッドの魔力放出を察知したアーノルドの判断は非常にアレスにとってもありがたかった。アレスはそもそも動き出しが遅いタイプであるため、とっさに移動する、ということができない。モードレッドの魔力放出を間近で受けたら流石に加護持ちであっても危うい。反逆者の加護は伊達ではないのだ。


「フォンブラウ公爵」

「問題ないよ。それより、外にも魔物が見えたけれど、大丈夫なのかい」

「向こうはアキレスの班に任せています。地を駆る俊足の英霊の加護持ちですから、彼が居れば問題ないはずです」


ベディヴィエールが答え、アーノルドは納得したように頷き、枢機卿らが姿を消したあたりへ足を向けた。いつの間にロキが皆を教会内部に引き込んだのかは謎だが、ハッとした。その為にゼロがいなかったのだ。辺りを調べ始めたアーノルドは眉根を寄せて、そうか、と呟いた。


「何かありましたか」

「ああ。……彼らがどこへ行ったかは分からないけれど、彼らについている精霊が異常を抱えているようだね」

「そんなことも分かるんですか」


ああ、そうか、君たちにはわからないんだね、とアーノルドは呟いて、今は置いておくよ、と返した。


「この後どうするんですか」

「それなら俺についてきてほしい」


ローブの男の声に皆がそちらを見る。そういえばこのローブの男はいったい何なのだろう。


「そもそもお前は誰だ」


アレスのその問いと同時に、部屋にソルが入ってきた。


「ユウキ!」

「おっ、ソルちゃん! うまくいった?」

「そうね。今ロキからトリスタンを連れて教皇の部屋に向かってるって連絡が来たわ」


アーノルドがソルを見て、どういうことだい、と問えば、ソルがローブの男のフードを取り去った。

現れた黒髪黒目を見て、彼がローブを纏っていた意味を察した。


「彼はユウキ。私たちの友人です。黒箱教会に居候していらっしゃるの」

「ユウキっていいます。よろしくお願いします」


魔物がまだ動いているのが見えたので、急いで教皇猊下の部屋へ向かおう、とひとまず全員の意見をまとめて階段へ向かって走り始める。プラムはユウキに問いかけた。


「どうしてショットガンを持ってらっしゃるの?」

「カガチと取引したんスよ。ショットガンくれ、って言ってこっちからも取り引きの物出して、終わりっス」


絶対面倒なことになっていると思ったのはプラムだけなのだろうか。ソルがこの反応ということはロキも噛んでいるはずだ。特に、ロキ以外にカガチにわたりをつけられるような者がいない。ロキは何も言わなかったのだろうか。


「取引内容は?」

「秘密っス」


即答したユウキに、これはロキたちからたまに聞いていた印象とだいぶ違うなと思いつつ、プラムは息を吐く。少し、どこかナタリアに似た雰囲気を感じ取ったというのもある。


他のメンツは、とソルに確認すると、トリスタンの遣いだった少年――アストルフォを名乗った――と合流したナタリアとセト、カミーリャとタウアが裏口から教皇の部屋のある階に向かっていると返ってきた。どうやら教皇の部屋のある階はそれ以外にほとんど部屋がないらしく、暴れ始めればすぐにわかるため、こちら側が暴れ始めたら呼応して姿を現すだろう、とのことである。



いつの間にかアーノルドが掛けた消音の魔術で足音が消えていた。該当階へ足を踏み入れた時、窓のない廊下にもかかわらず目立つ白を2つ見つけて、プラムは驚いた。身長が少々高い方がロキ、低い方がトリスタンであろうことは髪型からわかる。ロキは現在緩くオールバックのように髪を上げているが、トリスタンはストレートの髪を邪魔にならないように前髪も耳に掛けているらしい。


「ロキ様」

「ああ、プラム殿下」


小さく声を掛けるとロキがプラムの方を見て、笑みを浮かべる。トリスタンがはっきりと目を開けているのを見て、ランスロットたちが驚いていた。


「トリスタン、目を開けても大丈夫なのか」

「はい、皆さま、御心配をおかけしてすみません。そして、御助力感謝いたします。今は父をあの部屋から出すことを優先したいと考えております」


トリスタンがそう言い、大人(アーノルド)がいることに驚き、慌てて礼をした。


「すみません、どちら様でしょうか」

「リガルディア王国、フォンブラウ公爵家当主、アーノルドだ」

「そうでしたか。カドミラ教皇ジュードが子、トリスタンです」

「早速で悪いが、突入しても構わないかね?」

「はい。よろしくお願いいたします」


アーノルドは簡潔に話を切り上げて、廊下の様子を窺う。赤華騎士と兵士が複数いるが、アーノルドがロキを見やればロキは小さく頷いて、闇属性魔術の【盲目(ブラインド)】で兵士たちの視界を奪う。今の内に、と兵士と騎士たちが呻いている横を通り抜け、アーノルドが確実に騎士の意識を刈り取っていった。


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