表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Imitation/L∞P  作者: ヴィラノ・エンヴィオ
セネルティエ王国留学編 1学期
298/377

11-30

若干のBL要素を含むのでご注意ください。


2025/05/10 編集しました。

枢機卿の持つ転移魔法陣で枢機卿の私室へと転移したロキは、ポス、とベッドに押し倒された。煽ってみたはいいが、まさか自分に情を向けているような男だったとは、何度か夢で見たことがある光景であったとはいえ、相手がグレイスタリタスやバルティカだったことの方が多いせいで、完全に失念していた。自分の容姿は相手を煽るようなものだっただろうかと改めて考えてみるが、答えは出ない。少なくとも肌の露出はあまりしていないはずなのだが。


「お待ちを、枢機卿」

「なんだね」


ロキの服の中に手を滑り込ませた枢機卿に対し制止を掛けて、ロキは問う。


「肌を重ねること、やぶさかではございませんが、早急ですね」

「当然です、ロキ様。貴方をお救いできるのは我々のみ。フォンブラウ公爵に任せていては、貴方はいつまでも貴方自身を粗雑に扱われる。誰かのものとされた貴方は、己が身を大切に扱われるのですから」


これは俺の態度の問題か、とロキは独り言ちる。ここで蹴り上げてやってもいいが、留学前にロキへ忠告をぶつけてきた神子に近いものを感じる。気のせいではないと思った。


「何故、フォンブラウ公爵では駄目なのでしょうか?」

「彼は貴方を疎んじております。ロキという名を持って生まれた貴方は、公爵家にとっては邪魔な存在でしかない。王家を一番に考える公爵家に、貴方の真の居場所はなかったかと存じます」

「……」


悲しい人だ、とロキは思った。そして、誠実な人だったのだろうな、とも思った。

彼の言葉は、これは、詭弁ではない。いつかのループの印象が強く焼き付いているだけだ。今はそうではないと言ってもきっと受け入れてくれることはないのも分かってしまった。


枢機卿の長い指がロキの肌を撫でる。神官服はゆったりしているため分かりにくいが、まあ、男だから何となく見ればわかってしまって、いつかのループの、掘り起こしたくない記憶が頭をよぎった。


「ロキ様。少し、愚痴を聞いてくださいますかな」

「ああ、構わない」


枢機卿が発狂している、というよりも、精神を病んでいるのではないかとロキは思い始めていた。何か語ってくれるのならば好都合。


世界の流転(ループ)は、我々に、多大な負荷を負わせました。皆、気が狂っていったのです。それをお救いくださるのは、いつも、ロキ様でした」

「……そうか」

「はい。その身で以て、我々を清めてくださった。歪み、闇に穢された私たちの魂の濁りを、その身に封じてくださった」


彼らにそこまで自分が時間を割くだろうか、と考えたところで、やめた。きっと一時の気の迷いとかそういうもので片付けられる時期の話のような気がする。投げやりになった自分が、周りに求められるままにハイハイと言う事を聞く性質であることを、ロキは、転生者故に理解していた。


「その時、ロキ様は仰ったのです。お前たちが辛い時は頼ってくれと。どういう形でも構わない、お前たちの傷を癒す術を探そう、と。私は感動に打ち震えました。隣国の、たかが教会に身を置き、俗世から離れているはずの私たちに向けて、貴方ほどの神子がその言葉を発したことが、どれほど信じられず、どれほど嬉しかったか。そして貴方は世界の流転(ループ)を止めるために戦われ、志半ばで命を落とされた。欠損魔法の使い過ぎによる魔力切れでした。だから私たちは決めました。神子を多く手元においておけば、貴方のやろうとしたことをかなえられるはずだと」


欠損魔法は、もともととても燃費の悪い魔法であり、魔術に落とし込んだラックゼートが聖人扱いされるレベルの代物だ。ロキはまさか、と思った。もしも、だ。ラックゼートはループを覚えていると言っていた。では今もまだ教会に魔術の教本を配り続けている意味は。まさか。ループの結果必要だと悟ったから、ラックゼートの中のこの時間の開始地点から教本を配り始めているのではないか。違うかもしれないけれど。


「その後も貴方は死に続けます。俗世の身に関わり続け、追い落とされ、国の存亡の危機に立ち向かったのは1人だけ。何故貴方が死なねばならない? なぜあのような惨い死に方をしなければならなかった? 奴隷のように扱われても貴方は笑ったままだった。何故です、何故ご自身を大切にしてくださらない?」


枢機卿の後ろに、淀んだ光を纏う、表情の抜け落ちた少女が見えた。ロキはそれが何なのか、悟った。知った、分かってしまった。ああ、だから教会の人間は。


枢機卿の手がロキの腰を撫でて、ロキは目を見開く。背筋にぞくりと走った感覚が、ロキの脳内で警鐘を鳴らした。流されてはいけない、と理性が訴える。ロキは失礼、と言って枢機卿の身体を押し退ける。


「ロキ様、どうなさいました?」

「枢機卿。俺は、世界回帰(ループ)を止めたい」


世界回帰(ループ)、の言葉で枢機卿が固まった。ロキが事情を正確に把握していると伝わった――否。ロキに記憶がないことを、悟った。


「止めるために、ここまで来ました。今までの俺も同じだったでしょう?」

「……はい」


枢機卿の視線が伏せられた。知っているのだろう、分かっているのだろう。


「貴方は俺を守りたいでしょうが、俺は、リガルディア王国を守りたいのです。この、セネルティエ王国も」

「……存じております」

「ならば、分かってくださいますね?」


ロキの判断はいつだって現実を見ていて、こういうときばかり、希望的観測は形を潜める。ロキの目標のためには、ロキの冷たさは必要なものだと、枢機卿は知っているはずだ。今までの自分を見ていたのだというのならば。


俺は、俺だ。きっといつだってそうだったから。


ロキは視線のみで枢機卿に訴えかける。


ループを止めるためには――今お前たちに構っている暇は、無い。



「教皇猊下のとトリスタン殿の部屋は」

「教皇猊下の部屋はあちらの階段を昇ればすぐでございます」


ロキは傍にドゥー――ドゥンケルハイトを控えさせた状態で階段を上っていく。枢機卿はやはり、病んでいた。精神を病んでいた。


狂気染みた光は消え、柔和な視線が今はきりと強い意志を持って煌めいている。ロキの求めるものを提示できることが誇らしいと表情からありありと読み取れた。


重ねられたループの果て。何度も何度も精神を病み、擦り切れたのは本人たちの精神と、契約していた精霊だ。枢機卿の契約精霊だった少女は、ドゥンケルハイトによる精霊同士のマナの受け渡しによって光精霊が抱えられない淀み、闇のマナをドゥンケルハイトへと渡し、正常な状態に戻った。


同時に枢機卿の精神状態も回復したらしく、ロキを組み敷いたことを詫び、トリスタンと教皇の居場所を教えてくれた。ロキはナタリアにも協力を取り付けねばならないと考えながら、鍵を持って上階へと走る。


枢機卿は他の枢機卿と赤華騎士を抑えると約束してくれた。ロキへの狂信はなくならなかったようだが、まともな精神状態に戻ったならばなんとか立ち直りそうな人で助かった。正直言って今回の事は記憶から早急に抹消してしまいたい。


それにしても、ドゥンケルハイトが他の精霊のマナを受け取れるとは初めて知った。光精霊の話によれば、どうやら、人工精霊は大体そういう性質を持っているのだという。ドゥンケルハイトはもともとループの中でロキによって造られた人工精霊であるというから、どこかで似たようなことを経験していたのかもしれない、とロキは思った。そうでなければ、自主的に精霊から闇のマナを受け取ったりはしないと思う。


どれだけ周囲を見渡しても上級神官が見当たらない。恐らくだが、一定以上の強さを持ち、一定以下の強さしかない精霊と契約していた神官たちが、枢機卿の言っていたように発狂していった、もとい、気がふれていったのであろう。ロキはこれで正当防衛を掲げて殴り込めるようになっているであろう父たちのことを思い浮かべ、ほくそ笑む。


アーノルドはリガルディアとはいえ公爵で、外務大臣に近い仕事も経験している。であればある程度のこじつけには慣れているだろう。枢機卿には悪いが、アレスやアテナの反応からしてもボディタッチは厳禁だったようなので、今回は大人しくしょっ引かれてほしい。


階下で大きな音がして、魔物との交戦が始まったことを察したロキは、ゆっくりとした足取りで階段を上っていく。皆が追いついて来るか、はたまた別の追手が掛かるか。追手が来た場合はロキだって正当防衛を振りかざせる。ロデリック枢機卿はロキの肩を持ってくれるだろう。


教皇の部屋のある階に足を踏み入れ、次の階への階段を探す。トリスタンを先に連れてくる方が好ましい。ロキのその考えは的中しており、巡回している赤華騎士が数名、通常の兵士がまた数名居り、ロキは彼らの目を盗んで階段へと移動した。


(警備ガバガバじゃねーか)


内心それで楽ではあるが、こんなんでいいのかと思いつつ、ロキはゆっくりと階段を昇る。どれだけ気を使っても足音が響くので、特殊な加工がされているとみるべきだなと判断したロキは、ブーツを脱いで階段を駆け上った。ざりざりと砂の感触がするが、だいぶ掃除されているのは分かる。


トリスタンの部屋があると言われた場所まで行くと、確かに部屋があった。窓の外を覗き見て、驚く。モードレッドたちが魔物と神殿の庭で交戦しているのが見えた。神殿の庭の一部に穴が開いている。余計な魔物まで起こした可能性は否めない。そろそろ裏手に回った者たちを中に引き入れてもよさそうだ。


ロキはトリスタンの部屋の前に立ち、ノックを4回。はい、と返事があったのでロキ・フォンブラウです、と名乗り、扉を開けた。


「貴方が、ロキ、ですか」

「……トリスタン殿とお見受けいたします」


階下が騒がしかったためだろう。既に外に出る格好をした白い髪の少年がロキを待っていた。話には聞いていたが、白い髪と黒い瞳の、忌子の神子はロキも初めて見る。ユスティニフィーラのような漆黒の光を吸い込むような眼でも、ユウキの日本人にありがちな黒髪と焦げ茶交じりの黒い瞳でもなく、鴉の羽のような瞳。


「……ロキ様?」

「……ああ、すみません。オブシディアンの瞳があまりに美しいので、見惚れてしまいました」

「……それは女性に掛けるべき言葉でしょう?」

「事実ですので」


トリスタンがそっと部屋を出てくる。首にはまった魔道具をロキが無力化して室内に放置し、トリスタンが階段を降りようとしてロキが裸足であることに気付く。


「あの、失礼ですが、ロキ様、何故裸足に」

「警備兵がいると思っていましたので、足音を極力立てぬようにと。人刃ですので、こちらの方が戦いやすい可能性もありますがね」


ロキはそう言いつつ脱いでいたブーツを回収し、階下の教皇の部屋のある階へと降りて行った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ