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Imitation/L∞P  作者: ヴィラノ・エンヴィオ
セネルティエ王国留学編 1学期
297/378

11-29

2025/05/09 編集しました。

物事には準備というものが必要である。大きな行動を起こすときには、特に。

プラムは本来自国内でどうにかしなければならない問題にリガルディア王国からの留学生を関わらせることに難色を示した兄王子アスターの説得に3日を要することになった。



学校はないが、寮からぞろぞろと生徒たちが出る休日のタイミングに合わせた結果、教会への突入は昼頃の予定となった。ロキはカガチに手紙を書いたり、父親(アーノルド)国王(ジークフリート)からの書状を届けるついでに教会への突入に参加すると言い始めたこともあり、かなりバタバタしていたが、なんとか期日には間に合っている。ロキがここまで立て込んだ予定を組むのも珍しいとソルが笑ったのがプラムには印象的であった。


「じゃあ、プラム。よろしくお願いします」

「ええ、大丈夫よ。……ちょっと予定は変わっちゃったけど、フォンブラウ公爵がいるから、大丈夫」


プラムの言葉に、本来ここにいるべきではない男――アーノルド・C・フォンブラウが恭しく礼をする。近頃地響きが聞こえるとのことで、魔物が潜んでいる可能性を考え、その注意喚起を行うために周辺国に公爵たちが飛んでいるらしい。ロキは素直にループの結果得られている情報をアーノルドに話したらしいが、まだそれだけではリガルディア王国を動かすには足らなかった。


目下トリスタンの加護が必要だ。その為にロキは手段を択ばなかった。

トリスタンを助けたいと言っている者がいるのだから、その子供たちを煽って火をつけるのはロキには簡単だったのだ。プラムが思った以上に当日ちょっとしたことでも協力すると名乗りを上げてくれた子供たちは多かったのである。まず、教員(大人)にばれてはいけないから、皆で外に出る、とか。


トリスタンが教会関係者としては非常に人気が高かったことも一因だったようで、トリスタンが以前はよく市井に出ていたことを話してくれたのはフローラだったそうである。


「我々は教会に向かい、枢機卿を数名抑える。その間に君たちが監禁されている教皇らを救出する、だね?」

「はい」


外向けの穏やかな口調のアーノルドを見ながら、ロキは、似合わねえなあ、などと考えた。アーノルドの顔は結構いかついのである。悪役然として整っているのだと言った方が正確だが。


ふと、アーノルドの視線がロキへと向いた。


「ロキ、今回の作戦、突入班はどうやって教会に入ったらいいと思う」

「……」


しまった、そこまで頭が回っていなかった、とはアレスの言である。呻くような声が聞こえて、ロキはふっと笑ってしまった。


「俺を囮に使いましょう」

「正気か!?」


アテナから鋭く咎めるような声が返ってくる。アテナはロキたちと教会の警備についてや考えられる人員の位置などを確認していた。考えられる策は尽くしたつもりだったが、如何せん、子供の考えだ。ロキはアテナの方を向いた。


「皆に【インビジブル】や【スニーク】をかけていたところで、教会の敷地内に入ってしまえばそんなものは強制的に打ち消されるのが関の山でしょう。ここは、俺が父上の横に立って相手の注意を引いた方が良い」

「でもそれじゃあ突入はどうするんだ」


アキレスの言葉にロキはニッと笑う。


「全員俺が運ぼう。教会の裏手に回れ、短距離ならば魔力量的にそこまでの問題はないからね!」



プラムは大型の馬車にアレス、アテナ、アーノルド、ロキ、ゼロと共に座っていた。従者役としてゼロが立ち振る舞ってくれることが決まったので、これ以上ないほどに頼もしいメンツとなっている。


突入班とは別動隊として、ランスロットとギャラハッド(ランスロットから離れなかった)とベディヴィエール、モードレッドとガウェイン、アキレスとサンダーソニアとフローラの3隊を組んだ。アキレスにサンダーソニアとフローラの相手をさせればいいとはロキの言で、実際アキレスは2人をうまくまとめて教会の裏に回っていった。


今回の話し合いの中心はプラムであり、アーノルドは徹底的に相手を叩くために来ただけだ。ロキが来た理由は、この時のプラムにはまだ見当もついていなかった。囮のためとは言ったが、いったい何の囮になるのか、知らなかったのだ。


カドミラ教総本山たる中央セネルティエ教会。そこは基本的に白と緑を基調とした装飾がなされており、敷地内は芝生が青々と茂り、美しく整えられた花壇と、植えられた広葉樹が基本的に白い建物を彩っていた。


門をくぐって教会の私兵が護衛のために傍に着く。ロキが馬車を降りた瞬間、兵士たちの息を呑む音が聞こえた。プラムはここに来て漸く、ロキが自分を囮といった本当の意味を理解する。


教会に神子が来る、というのは、とても目立つことなのだ。注目を自分に集中させるに等しい。これならば確かに教会の外から教会内を窺ったところでそう分からないだろう。裏手に兵士はいない。表が貴族用の門であり、裏手は平民用の門なのだから。もしかしたら裏手に回ったクラスメイトはほとんどいなかったかもしれない。初めて見る教会の姿に驚いている者もいる頃だろうと想像しながら、プラムは案内の神官が来るのを待った。


「!」


そして出迎えに出て来た神官の顔を見て驚く。


「ヤヤン神官!」

「昨日ぶりですね、プラム王女殿下。ロキ様も」

「昨日ぶりでございます、ヤヤン神官。本日はよろしくお願いいたします」


下級神官じゃないか、という言葉はこの際飲み込んだ。にこやかに対応しているロキの様子を見るに、このセッティングをしたのは恐らくロキだ。アーノルドも全く動じていないところを見ると、先に顔を合わせている可能性がある。口元が引き攣ったのはアレスとアテナだったが。


「こちらへどうぞ」


ヤヤンが廊下をゆっくりと歩き始め、プラムを先頭に後をついて行く。アレスがロキを責めるように睨み、ロキは肩をすくめた。


(おいロキ、どうなってやがる。普通王族が来たら出迎えは上級神官だろうが)

(ああ、そのことに関してはあとで謝罪しよう)

(種明かしはあるんだろうな)

(あるとも。今日中に分かる)


念話で言葉を交わし、アレスは一旦怒りの矛を収めた。


教会は外から見た通りの大きさに見合った広さがあり、ヤヤンが歩いていく廊下ですれ違うシスターや神官たちはロキを見る度に膝を衝いて祈っていた。大きな窓から差し込む光がロキの髪を照らし、ロキの髪が青紫と桃色の光を反射する。ロキの服は私服だった。傭兵が好むような黒いVネックのシャツに黒い薄手の前開きシャツ、赤いストール、白いスラックス、黒い革のブーツ、装飾は彼の契約している精霊の金、ルビー、サファイアのピアスとストールを留めている大ぶりな赤い魔力結晶のブローチだけで、貴族としてはかなり装飾品が少なかった。故に、か。ロキの銀髪が、よく目立つ。


すれ違う人々を見てプラムは気付いた。そういえば、上級神官を1人も見ない。巫女も見ない。木製の扉の前でヤヤンが漸く足を止めて、「こちらの部屋です」と言い、ちりん、とベルを鳴らした。ぎぃ、と扉が開き、プラムは促されるまま中に足を踏み入れた。


部屋は円形で、大きな窓と続くテラス、天井のシャンデリアは荘厳。中には枢機卿と、下級神官が待っていた。枢機卿の後ろにいる赤い腕章をつけた騎士にプラムはロキの話が確かに正しかったことを知った。赤華騎士。魔物を手懐ける騎士。教会における最高戦力。アーノルドは少しばかり眉根を寄せ、そのまま枢機卿らに歩み寄っていく。


「御久しゅうございます、ロデリック枢機卿」

「フォンブラウ公爵も、御久しゅうございますね」


下級神官たちはロキを見てすぐに頭を下げる者が多かったが、枢機卿たちはぎらついた眼でロキを見ている。アレスは嫌そうな表情一つ見せないロキに驚き、同時に、神子はいつもこのような視線に晒されていたのだと悟った。ロキは天然物の神子である。このことが枢機卿たちにとってどれほど価値があるのか知らなくても、アレスは、ロキの存在を枢機卿たちが喉から手が出るほど欲していることに気付いてしまった。


「そちらの神子様は?」

「私の息子でございます。名は、ロキ。挨拶を」

「はい」


ロキはアーノルドの横に並び、軽く会釈をする。


「ロキ・フォンブラウと申します。以後、お見知りおきを」


息を呑むような礼だった。さらさらとした髪質のせいか、軽く頭を下げただけで髪の束が落ちてきてロキの顔にかかる。ゆっくりと姿勢を戻した時、枢機卿の手がロキの顔に伸びていた。


「ロキ、さま」


ねっとりと絡みつくような視線に、ロキは優しく微笑み返した。


「やっと、応えてくださったのですね。ロキ様。我らが救世主」


ぞっとした。プラムは一気に蒼褪めた。これはまずい。何かよくわからないが拙い。ロキをあのままあの男に触れさせていてはいけない。ふと、ロキの方手が動いた。弾かれるようにゼロが窓を開け放つ。


「何をする!」


枢機卿の1人が声を荒上げ、赤華騎士が指笛を吹いた。


ピイイイイイイイイイィィィッ――


足音がする。

枢機卿の手がロキの肩に触れ、腕のラインをなぞるように滑らせていく。


「枢機卿。こちらは危険ですよ。移動しませんか」

「ああ……ロキ様、覚えておいでなのですね。ええ、移動しましょう、ここは騒がしい」


ロキと枢機卿の会話の意味が分からなくてアテナが目を見開く。なぜここから移動する、などと言うのか。ロキに明らかに色情を向けていることがわかる瞳の枢機卿を見て、吐き気がした。


一瞬のこと、枢機卿とロキが姿を消し、魔物が窓から入り込んでくる。下級神官たちが慌ててドアを開けようとしたが、開かない。


「プラム王女殿下、御下がりください!」


神官の言葉に下がった方が良いだろうかと思案したプラムだったが、枢機卿たちが次々と姿を消して赤華騎士がなだれ込んでくるのを見て、やめた。戦った方が良い。


「神官の方々は後ろをお願いいたします。持ち堪えましょう、アレス、アテナ、ゼロ、フォンブラウ公爵!」

「おう!」

「はい」

「ああ」

「承知した」


巨体を揺らして入ってきたのは、ブラッドサイス・スパイダー。5メートルはある体躯で、窓を壊して入り込んできた。ぎらついた赤い瞳の化け物が、ただでさえ光の少なかった部屋に黒い黒い影を落とす。ああ、こんなものに赤子の時に襲われたロキは、さぞかし怖かっただろうと、プラムは思った。


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