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Imitation/L∞P  作者: ヴィラノ・エンヴィオ
セネルティエ王国留学編 1学期
295/376

11-27

2025/05/08 編集しました。

教会と今まで共に歩んできた国、それがセネルティエ王国だった。


プラムは今、祖父に叩きこまれた常識が覆っていくのをひしひしと感じている。祖父が教えてくれたもの、教えてくれたこと、組み合わせればその思考は氷解するのに十分な材料を揃えているものの、プラムの思考はまだそこに追いつかない。


リガルディア王国は基本的に宗教に寛容な国家である。日本のような、宗教統制の無い、国教も厳しくなく、信教の自由が保障された国であり、逆にそれは宗教に傾倒しやすい人間との軋轢を生み、結果的にセネルティエ王国をも巻き込もうとしている。セネルティエ王国の国民が何をしたというのか。何故教会の人間の頭がいかれているなどと言われなければならないのか。


プラムは何度か祖父の元へ通い詰め、フォンブラウ公爵からの書状をもとに教会側との会合を予定に組み込むことに成功する。話し合いにはフォンブラウ公爵がやって来るそうで、こちらの日程に合わせるとのことである。そうでなければ、いくらアテナの加護があると言っても3人では手も足も出ないだろう。転生者すべての人生経験が豊富なはずがない。


「プラム様」

「なに、イナンナ?」


黒い髪に赤い瞳の少女がプラムの傍に控えたまま声を上げた。


「恐れながら、教会と話が通じるとお考えですか」

「?」


話が通じる前提さえも覆される可能性を考えねばならないということか。


イナンナの目は不安げに揺れている。どうしたの、と問えば、イナンナはちゃんと口を開いた。


「私もループをしております。1度だけですが。その中で、戦争の引き金を引くのは教会でした。ロキ様を執拗に追い回し、リガルディア王国との仲がさらに拗れて、令息を害されたフォンブラウ公爵家は全戦力を以って教会を崩壊させます」

「教会を崩壊させる、って……」

「フォンブラウ家にはアーサー王の加護持ちと軍神テウタテスの加護持ちがいます。さらには臣籍降下したとはいえ前王の妹君であるエメラルディア様がいらっしゃいます。過剰戦力ですよ」


イナンナの言葉にアレスとアテナが唖然とした表情でイナンナを見る。イナンナが転生者か何かであろうことは言動の端々からわかっていたものの、ループの経験があったとは。いや、それ以上に、フォンブラウ家に戦力がやたら集中しているように感じたのは間違いではあるまい。


ロキの口ぶりからして、おそらくロキはフォンブラウ家で最も防御は薄いと考えていい。つまり、ロキの兄妹、両親や祖父母、曾祖父母に至るまでロキよりも()()可能性が浮上してきた。この情報をロキが開示した理由は何だろうか、とアテナは考えた。


「……もしかしてロキは、フォンブラウ家の人間をセネルティエで暴れさせるつもりか?」

「えっ」

「おいおい、いくら何でもそりゃダメだろ」


アテナが口にした意見をアレスが否定する。しかしあの場であそこまでの名を口にした理由が、それ以外思いつかない。リガルディア王国の情報統制はかなりのもので、おそらくその権限を握っているのはフォンブラウだと思われる。人刃はもともと頭を回すのが苦手な種族であり、にもかかわらず吸血鬼交じりの現セネルティエ王家が情報を探れないとなると、相当頭の回る者が情報統制を行なっていると見ていい。


「リガルディア王家が人間を中枢から排除したのはそう古い記録じゃないし、多分フォンブラウが頭の回る世代に変わったんじゃないかと思うんだが」

「あー……」


プラムが覚えがありそうな表情になったのを見たアレスが眉根を潜める。


「現フォンブラウ公爵のことっスか?」

「うーん、まあ、ね。アーノルド・フォンブラウ、杖の人刃」

「杖?」

「人刃に杖がいたのか……」


人刃とはもともと刃物に転身するはずだが、とアレスは呟いたが、アテナがいや、しかし杖ならば記録にもある、と答えた。


「ガントルヴァ帝国の歴史書によれば杖の人刃は旧帝国時代末期に魔物の多い辺境に左遷されたと記録にあるが、この分だと左遷ではなくリガルディア王家について行ったとみるべきかな」

「可能性は高いですね。それに人刃はあまり自分たちの土地を動きませんから、調べればすぐわかるでしょう。それよりも、今はどうにか教会の人たちを長く留めて出し抜かなきゃね」


プラムの言葉にアテナが小さく頷いた。イナンナがこれを、と紙を差し出す。


「イナンナ、これは?」

「国内での教会の不審な動きを監視させておきました。主な内容は魔力のない子供たちが神子になって戻ってきたことですが、教会内の孤児院の内情は不明のままです。あと、教会の一区画に防音魔術による隔離部屋を発見しております」

「イナンナ、危険なことをしてはダメよ」

「御心配痛み入ります」


軍神の加護を持っているのはイナンナも同じ。やれることはやったぞ、と言わんばかりのイナンナの高圧的な瞳がアレスとアテナに向けられた。イナンナの今の立場は男爵令嬢であり、公爵令息女のアレスとアテナに比べたら踏み込める場所など限られている。それでもこれだけ調べられた。もっと成果を持ってきて見せろ、ということだろう。


「あとプラム様、僭越ながらこのメモは早めにロキ・フォンブラウ様にもお渡しくださいませ」

「わかったわ」

「よろしくお願いします」


イナンナは一旦姿を消し、プラムは資料をアイテムボックスに入れて再び歩き始める。教会の人間をどうにかしてプラムの前に留める必要がある。ロキたちは早急に教皇とトリスタンを救出することになるだろうが、なんだか嫌な予感がするのも否めない。ロキがどんなループを経験してきたのか、本人は覚えていないと堂々と言い放つし、覚えているメンツも詳しくは話そうとしないことから、相当惨たらしいこともあったのではなかろうかとプラムは何となく思い始めていた。


「アレス、アテナ、教会を呼び出す名目は何にしましょうか」

「そうですね、寄付金の話でまた揉めていたはずですが」

「リガルディアの温情がなくなって厳しくなったんだろ。教皇猊下はリガルディアに信仰を強制しようとはしてなかったしな」


持ち合わせの情報をすり合わせながら3人は生徒会室の一室であるプラムの執務室へと向かう。エドワードとブライアンが途中で合流してきて、新たな情報を落としていき、アレスをぎょっとさせた。


「――教会ではもうループを認識してんのかよ!」

「というか、光属性の精霊と契約をしている人たちは精霊がちょっと力が強いとループを忘れることができないそうだ。その関係で教会所属の者たちが“頭がいかれた”と言われているようだぞ」

「まじか……んじゃ、教会関係はもう一仕事ありそうな感じだな」


軍は動かしたくねえぞ、とアレスがぼやきつつプラムの執務室へと踏み入れる。中に入ってすぐに5人はメモを出して情報を洗い直し、教会宛の書状を書き始めた。学校の中でこんな仕事をするのはいかがなものかとも思うが、ここが最も生徒が入ってこない丁度いい部屋なので仕方がない。



生徒会室に留学生が来るのは禁じられていないので、ロキらが顔を出すのは時間の問題だったと言える。サロンを招集して数日後、プラムの執務室に1学年下であることを表わす黄色のリボンを身に着けた女子生徒がやってきて口を開いた。


「プラム様、生徒会室にリガルディア王国の留学生が来ています」

「あら。通して頂戴」

「承りました」


いつの間にか仕事を始めていたらしい生徒会役員。来客を告げられたプラムは客人たちを執務室へと通した。


「いらっしゃい」

「作業は進んでいるようですね、生徒会長」


ロキの声だった。殿下ではなく生徒会長で呼んだのはわざとだろうし、個人的な意見云々ではなく何らかの提案がある可能性がある。プラムは顔を上げた。


「どうしたの、ロキ」

「教会への突入の日程が決まった」

「えっ」


なんで、とプラムはつい問い返した。ロキより先に自分が知るべきでは、とも。


「ああ、実は黒箱教の教会に()()()()()()()()()()()()()()()()()()。そいつの協力を取り付けただけさ。そいつから得た情報から見て、突入は5日後になる。軍は動かさないで済むとアレスに伝えておいてくれ」


そんな重要人物でしかないようなものがセネルティエの城下にいたことに驚いた。ロキがほら、と甘味をプラムのテーブルに置いた。あまり根を詰めすぎるとよくない、とロキが言う。そんなに自分は休まないで作業に没頭していただろうか、とプラムは首を傾げたが、とりあえずロキの指示に従おうと思った。


眠るといい、とロキに促されるまま寝入り、ロキに仮眠室へと運ばれたプラムが目を覚ましたのは、翌日の昼頃だったとか。イナンナからのメモはしっかりロキに回収されていた。


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