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Imitation/L∞P  作者: ヴィラノ・エンヴィオ
セネルティエ王国留学編 1学期
290/377

11-22

2025/05/06 編集しました。

2025/09/19 編集しました。

「疑問があるのですが」


プラムたちに声を掛けたのはカミーリャであった。ロキらはループの一件を詳細に話してはおらず、隠し事に気づいてはいるがそこまで信用を勝ち得ているわけではないと判断している。だが、それでも何も言わないよりはましだろうと考えてのことだ。カミーリャの思惑を周りがどう思うかはそれこそ周り次第である。


「どうぞ、カミーリャ」

「では」


タウアを控えさせたカミーリャが口を開く。


「来ることがわかっているのならば、何らかの形で周辺に指示を出すべきかと。避難指示でも、協力要請でもしてみるべきです。なぜ受け止めようとなさるのでしょうか」

「――」


プラムとロキが顔を見合わせた。2人はゲームの知識を持っているが、カミーリャはそうではない。最悪の場合の対策のためと考えてはいるようだが、それ以上のものはない。ベヘモスなんてまず帝国では見聞きするのも珍しいはずである。


「ベヘモスというのは、ドラゴンの一形態のこと。山脈竜、なんて名前もあるよ」

「名前からして大きそうですね。避難は間に合いませんか?」

「正直、来ることがわかってからだと厳しいと思います」

「確定していればまだやりようはありますが……不確定な状態では避難に反対する住民もいるということですか」

「はい」


次期領主としての勉強もしているであろうカミーリャの言葉に眉根を寄せたのはナタリアだった。


「目が覚めたベヘモスは一週間以内でセネルティエに到達する。逃げてる暇なんかない」

「近隣住民を逃がすことは?」

「数百キロメートル範囲の近隣住民を全員一人も残さず逃がせるというのならどうぞ」

「……」


ナタリアがピリピリしているのを感じ取ったソルが口を開く。


「ナタリア、どうしたのよ」

「死んだ貴女に何がわかるのよ」

「あら」

「あ」


ナタリアが顔を背けた。ああなるほど、死人が出ていたのならこの反応は頷ける。ロキは口を開かなかった。ループについて、カミーリャに知らせる意味がない。そもそも、詳細を知らせていいものだろうか。下手なことを知ってカミーリャに何らかのマイナスがある方が面倒なのだ。


「……どういうことですか? ソルさんは今ここにいらっしゃいますが……」

「……ロキが何も言わないってことは、詳しくは知らせる気がないってことでしょ。こっちの事情です、お気になさらないで」


突き放すように言ったソルにカミーリャは口を噤む。気にならないわけではないし、できれば知りたいと思う気持ちの方が強い。理由があるとするならば、自分の中のちょっとした予感、である。


タウアに目配せする。タウアはロキをつついて話を聞かせろと催促を掛ける。ロキは目を細めて小さく息を吐き、首を左右に振った。およそ荒唐無稽、故に信じられない。信じられないのなら、わざわざ話す必要はない。


「何故拒む」

「お前らのようないいやつらを巻き込むのは気が引けるだけだよ。それとも馬に蹴られたいのかい?」

「馬……」


タウアは考え込んだ。何らかのヒントになるのだろうと。思考をまとめる前にカルが口を開いた。


「とにかく、ベヘモスへの対策に近隣諸国への通達の準備と近隣住民の避難準備くらいは必要だろう。ベヘモスへの対策は我々の方が専門だろうから、そのあたりの相談にはその都度乗ろう。いいな、ロキ」

「ああ」


カルの言葉にロキはうなずく。プラムが必死に頭で状況を整理し始めた。


「ベヘモスとの戦闘はやったことないけど、滅茶苦茶耐久力あったわよね……ってことは、陸軍で削るとか……でも一週間で展開なんてできない……」


ロキがそんなプラムに声を掛ける。


「プラム。雷属性魔法を扱えるのはどれくらいいるの?」

「え、雷? そんなにいないわ。私とモードレッドを含めても5人がいいところ」

「ん、じゃあ国内のギルドに声を掛けてみて。最低限それくらいの抵抗はしないとね」

「そっか、ギルド! 冒険者をあたってみるね」


プラムは目から鱗、というように目を輝かせて考え付いた内容をメモし始める。どうするの、とソルがロキに小さく問えば、ロキは、少し待っていろ、と言いつつ書類をアイテムボックスから取り出した。


「プラム殿下」

「何?」

「本当は正式な場での方がよいのですがね、どうか目を通していただきたい」


ロキが取り出した紙をプラムが受け取りざっと視線を走らせる。眉根を寄せて、口を開いた。


「以前言っていたものですね。承認するのは構いませんが、具体的に何故彼を引っ張り出そうとお思いに?」

「彼の加護があれば百発百中でどこでも狙えるはずだからね。ベヘモスと対峙した時、最も高い攻撃ソース及び起点になるのは彼だと思うし」


誰のことを言っているのか、とアテナがプラムに問う。


「トリスタン殿よ。教会に監禁されているのだし、助けに行くための口実をロキが作ってきたってわけ」

「いったいどのような……?」


アレスとアテナにプラムが書類を渡し、目を通した2人は目を見張った。


「おいフォンブラウ、これって!」

「いくら何でも教会がこんなことをするはずがない!」

「事実ですよ。指図した枢機卿の名は割れましたし、事実俺は死に被りましたし、其れこそ我が伯母であるウルド・ノルン・フォン・マルディサンデを連れてくれば嘘偽りはあり得ないでしょう」


なんだなんだと皆で覗き込む。カミーリャもかなり興味を引かれているのか、視線はそちらを向いていた。アレスが口に出して読み上げる。


「『カドミラ教ロデリック・アンドレウ枢機卿。13年前、赤華騎士の魔物を用いてフォンブラウ家の馬車を襲撃し、スクルド・ノルン・フォンブラウ及びフォンブラウ家の息女に危害を及ぼした。結果としてロキ・フォンブラウの魔力暴走を引き起こし、晶獄病の発症を助長した。これをもって、カドミラ教会への調査団の派遣を願う。アーノルド・コランダム・フォンブラウ』」


リガルディアの筆頭貴族の名が出た瞬間、サロンが静まり返った。ソルがロキを見て尋ねた。


「……ロキ、いつ公爵様に連絡を?」

「情報収集をという話があったあたりからだ」

「ほぼ最初からじゃないの。よくそんなのでっち上げられたわね??」

「だから、でっち上げではないと言っている」


ソルさえも信じてくれないらしい。カミーリャと目が合ったロキは肩をすくめた。


「どうしてでっち上げだと思われるのでしょうか……??」

「だってカミーリャ、考えてみて。魔力を持っている人は最速でも5歳頃に魔力の発現があるわ。でもロキの当時の年齢はたぶん1歳か2歳。早すぎるの」


ソルからすれば、今のロキの魔力量は進化を経て得たものであるため、そんなに早く魔力暴走を起こしているとは考えられなかったのだ。大体。


「そもそも、そんなに早く魔力を発現していたのなら、今まで生きてるはずがない。1歳も2歳も3歳もそう変わらないもの。魔力をうまく放出できなくて内臓を魔力結晶がぶち抜いて死ぬわ」

「もうこれループじゃ説明できないよ、ロキ」


ナタリアがソル側に回った。カミーリャはループ、というたびたび聞く言葉に眉根を寄せる。

晶獄病というのは、魔力過多による障碍であるため、ロキがそれだったと聞いても、それくらいの魔力量があったから白い髪なのかな、と思うだけで済んでいた。どうやらそれだけではないらしいと、カミーリャはもう気付いてしまったが。


「……ループの結果だったとしても、言うことは変わらないよ。俺の魔力は元々の量の半減状態にあり、その量であったからこそ俺は今まで生きていたのだろうよ。身体がちゃんと出来上がっていない以上、発症のリスクは高まったわけだけれど」

「でもそれじゃ最初の魔力暴走の説明がつかない」


ソルが切り返す。皆まで言わす気か、とロキが小さく息を吐いた。


「家族が危機的状況に陥った。そう判断したら、魔力が暴走した。それだけだよ」

「……あのスクルド様が危機的状況に陥るって何??」


リガルディア出身者の方が疑問に思ったことだろう。ソルの怪訝そうな表情にロキが顔を顰めた。


「……母上なら、居なかったよ」

「……は?」


ロキが目を伏せる。ソルは惚け、カルが蒼褪めた。あの子供を溺愛するフォンブラウ夫妻が両方ともその場に居ないなんてことありえるのか?


「……だから、母上はその時居なかったんだよ」

「あのスクルド様が??」


ソルがずけずけと踏みこんで行く。ソルが知っているスクルドは、子供を放置する人ではない。ましてこの話はロキがまだ2歳の頃の事だと言っていた時期の話のはずで、そんな時期なら、今以上に過保護に決まっている、とソルは思っていた。


ロキが瞑目する。少し魔力が動いた気がした。ロキが冷静さを欠き始めたことにゼロが気付く。ゼロが待て、ロキ、と小さく声を上げたのと同時に、ロキが低い声で呟いた。


「……ったんだよ……」

「え?」

「だから。嵌められたんだよ。父上も母上も、俺たちを乗せた馬車から引き剝がされた」


どうして!


ソルはその言葉を飲み込む。ここで思ったことをそのまま言ってはいけないと、悟ったのだ。ロキが怒りを堪えているのがわかる。


公爵夫妻ともあろう人が、相手の罠に嵌って子供たちを危険に晒した。

これは、ロキの家族の失態にあたることだ。

ロキの逆鱗に軽く触れていることに、ソルは気付いた。


空気が、凍った。


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