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Imitation/L∞P  作者: ヴィラノ・エンヴィオ
セネルティエ王国留学編 1学期
287/376

11-19

2025/05/04 加筆・修正しました。

2025/09/19 編集しました。

「お前がロキか」

「――そうですが、いかがなさいましたか?」


断定形の言葉で、モードレッドと話していたロキに声を掛けてきた露草色の髪に天色の瞳の少年は、一見すると女生徒に見えるほどにほっそりした身体のラインと、艶やかな髪を持っていた。ロキの髪も艶々としているので、他に言えたことではないのだが。


「俺はアキレス・コートレンジャー。留学生にすっげえ強いやつがいるって聞いたぞ、ロキ・フォンブラウ」

「――自己紹介は不要なようですね」


アキレスを名乗った少年は、挑発的な笑みを浮かべてロキを誘った。無論ロキはそれに乗ったりはしなかったが、代わりにデコピンを一発見舞ってやった。


「――!?」

「たとえ浮ついていたとしても、礼儀は欠かぬように。仮にも俺、他国の公爵令息ですよ」


一言も発さないままモードレッドが怒りに震えているのは無視して、ロキはアキレスを廊下に向けて放り投げた。面白い奴が来た、と、笑っていたのは、モードレッドだけが知っている。



「なーなーロキよう、組手しよう(あそぼう)ぜ!」

「おいアキレス、お前あんまりオレがロキと喋ってるときに来るならぶっ飛ばすからなァ?」


ロキが話を聞くために教室へ向かうと、まずモードレッドと会った。モードレッド以外の円卓加護勢が見えなかったのでトリスタンを救出するまでに集めておきたい情報をまとめたリストを手渡し、そのまま雑談を始めたところでアキレスがやってきた。


ガウェイン曰く、モードレッドはあまり友達は少ないとのことで、ロキやセトといった“悪い”印象を受ける加護持ちとの方が相性が良いことが伺える。なお、アレスとの相性もそれなりに良いらしいので、恐らくだが粗野な印象のあるものと相性が良いのであろうとロキは考えていた。


「いいじゃねーか大体お前いるもんよ」

「おめー順番こって言葉習わなかったんですかァ??」


せめてオレの話が終わってからにしろー!


モードレッドの言葉に、アキレスはいいじゃんか、とぶつぶつ言いながらロキの方を向く。ロキは軽く肩をすくめて言葉を紡いだ。


「なあ、2人とも、ちょっと聞きたいことがあるんだが」

「ん?」

「おう」

「2人は魔物を扱う者と関係がある教会の人間を知っているかな?」

「は?」

「あ?」


おや、外したかな、とロキは小さく呟いた。モードレッドとアキレスは顔を見合わせ、首を傾げる。なぜそんなことを尋ねるのだろうか、と言わんばかりの顔だ。


「知ってる、けどなんでまた??」

「何、ロキ、お前さん教会敵に回してんのか??」

「教会を敵に回してるのは俺が2歳ぐらいの時からだが?」

「はァ?」

「あん?」


3人がそれぞれ首を傾げる。要は相手の話が要領を得ない。わからない、うん。


「ああ、要は、俺が調べてるのに関わりそうな情報なんだが、俺の伝手では調べきれなくてな。だから最悪お前らの伝手を借りようと思ったわけだけれど」

「わあ学生時代から貴族やりやがって」


ロキが自分の言いたかったことを率直にまとめて伝えれば、アキレスからそんな返答があった。ロキはニッと不敵に笑って見せ、まあそう言うなよ、とポケットからタンザナイトカラーの魔晶石を取り出す。


「!?」

「それは」

「魔晶石。これは俺が作ったものだけれどね。直接金をやり取りするより楽でいいだろ?」


ロキの掌に収まった2つの魔晶石は、それぞれが幅3センチ長さ7センチのスクエアカット、同じく幅3センチ長さ7センチのひし形となっており、恐らく相当な魔力が込められていることがうかがえた。


モードレッドがごくりと生唾を飲み込んだ。モードレッドは魔術が苦手なうえ、輪をかけて加護に付随する魔法もあまり乱発できる代物ではないため、魔晶石、それも上質となれば、喉から手が出るほど欲しいものである。


モードレッドは授業中に魔術を使うことはまずない。施設が崩壊する恐れが高いからである。そんな高火力の魔術や魔法はコントロールだって難しいのだ。


モードレッドは貴族だ。モードレッドの名故に蔑まれることも多かっただろうが、それ以前に反骨精神は本物。馬鹿にされて黙っていられるような性格ではないのだ。それはずっと同じ学年で“円卓”と括られていた彼らを眺めていたアキレスの方がよく知っていた、が、ロキは既に、その事実程度までは見抜いていた。


アキレスの家格はモードレッドの家格よりも上ではあるものの、今回は()()()()()()()()()。ロキにとってはこの反応だけでモードレッドだけになっても全く構わないのだ。アキレスに関してはアキレスから絡みに行っているため、放置してもまた来ることをロキは分かっている。

もしかしたら他の学年にまで手を伸ばしているのではないか――などというふとした予感がアキレスを襲った。強いから戦ってみたいと思っていただけだが、なるほど、こいつ頭がよく回る。


国の方針が敵になる方針ではないから、安心していられるが、あまり手の内を知られたくはないな、とも思った。


「まあ、知ってるっつっても内密にな? あと個人名は知らねえ」

「構わん。階級がわかれば後はでっち上げが利く」

「さらっとコエーこと言ってんじゃねーよ……」


情報を持っていると分かれば、とロキは2人を寮の自室へ案内した。同じ部屋にいるのはカミーリャであるし、カミーリャとは別行動も多い。そして護衛のはずのゼロは今ロキの傍を離れている。下手な護衛よりも強い主というのは難儀なものである。


「寮に戻ってくるほどにヤバい情報か……?」

「まあ、階級は分かっちまうしな」


アキレスもモードレッドも知っている情報である、ということをアキレスは知っているためあまり内密にするべきという風には考えられないのだが、ふと部屋全体に掛かってゆく組み上げ途中の魔術に気が付いた。


「魔術?」

「防音と気配遮断くらいはするだろう、普通」

「さっき廊下でもさらっと防音、気配遮断、人避けもやってたな」

「そういうのの感知はうまいんだな、モードレッド」

「まあな」


モードレッドが褒められて少し得意げな顔をしている間にロキは紅茶を淹れ、茶菓子を用意して備え付けの丸テーブルに置いた。


「おお……これクッキーだよな?」

「プレーンだけどね」

「いただきまーす」


アキレスが早速手を付けた。サクッと音がしてクッキーは簡単に割れる。


「うまい。あんま甘すぎねえし」

「お、じゃあオレも」


ん、うまい、とモードレッドが言った。さすがにあれだけ一緒にいればモードレッドがあまり甘いものは好きではないのもわかっていたようだ。


「それで。本題だが」

「ん」


ロキが何を急いているのかはわからないが、ここはちゃんと答えてやるべきだろう。

ごく、とクッキーを飲み込んでモードレッドが口を開く。


「――枢機卿だ。魔物を連れてるってんなら確実に赤華騎士」


赤華騎士、とロキは繰り返した。


「赤華騎士でも魔物を連れてんのは限られるけどな。そこまでビーストテイマーに適性のある人間そのものが少ねえんだよ。っつっても俺もお前も持ってるけどさ」


アキレスの補足にああ、なるほど、とロキは呟いた。


「ロキ神の持っている魔物に懐かれやすい性質はビーストテイマーに直結するのか」

「そういうこった。俺は馬型限定だけどな」

「クサントスもバリオスもペーダソスもいい馬だろうが」

「なんでほとんど文献の残ってねえ代物をお前は知ってんだよ」

「転生者だから?」

「重てえ事実をサラッと!!」


そもそもこのアヴリオスにはギリシャ神話でも英雄に関する資料は残っているものが少ないのだが、ヘラクレスやペルセウスといった筆頭は残っているのに比較的新しいはずのアキレウスの方が残っていないという状況に陥っており、アキレスはしぶしぶ自分自身の適性と折り合いをつけながら能力開発をしている状態だった。自分の馬として魔物に付けた名がクサントス、バリオス、ペーダソスだったのだが、その名を簡単に当てられて驚いたというだけのことだ。


「……よし、ロキお前俺の能力開発付き合え」

「ああ、下手に知らなくていいことを知らせてしまったことだしね。相応の対価だ」


クッキーを平らげてしまったモードレッドが口を挟む。


「こいつらも巻き込むって言ってたよな?」

「ああ。俊足の英雄の名は伊達ではないだろうし。そこに加えて風の神とその嫁の神格の加護だ。本人たちがどうであれ、相性抜群なのは目に見えているからね」


ロキは言い切った。モードレッドはその時点で肩をすくめる。恐らくロキは本気でアキレス・コートレンジャー、サンダーソニア・ゼピュロス、フローラ・ノックバートを巻き込んでくるだろう。あまりサンダーソニアとフローラは仲が良くなかったはずだけど、とモードレッドが言えば、理由は分かり切ってるからな、とロキは返す。


「で、そっちはどーすんだ」

「今回は必要であるということをしっかりと伝えて、ついでに買収も考えているよ。まあ、そのためになんだが――アキレス」

「おう」


アキレスをロキが呼ぶ。ロキがにこりと笑ったのを見て、ああこれ碌なことじゃねえと察したアキレスだったが、逃れる選択肢は最初から潰されていた。


「英雄色を好む、とは言うが――お前、サンダーソニア・ゼピュロス及びフローラ・ノックバートに気があるな? 2人の説得の材料集めを任せる」

「やめろおおおおおおお何で知ってんだよおおおおおおおおお!!」


アキレスは絶叫する。ロキがわざとらしく嗤って見せた。


「おいおい冗談はよせ、こっちにはアレスもいるんだぞ。それと、貴族の相手の表情を読む社交スキルを舐めない方がいい」

「うぅ……」


力なく項垂れたアキレスは、やるしかないと腹を括ったらしい。顔を上げて恨めしそうにロキを見る。


「……報酬はずめよ?」

「俺をケチな奴みたいに言うのはやめろ」


ロキに突っかかったのが運のツキというやつだろう。


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