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Imitation/L∞P  作者: ヴィラノ・エンヴィオ
セネルティエ王国留学編 1学期
286/377

11-18

2025/05/03 加筆・修正しました。

姿見の前で美しい白い髪の少年が自分の姿を映して何かを確かめている。


「うーん……これだとちょっとなあ……」


服を合わせているようだが、それは煌びやかなものではなく、どちらかというとこれから市井にお忍びで見学にでも向かうかのようないでたちだ。


少年の名はトリスタン。教皇の義息子にして神子である人物。円卓の騎士の名を冠する非常に珍しい教会所属の人間だった。


今や枢機卿派閥と敵対しているので、こうして父ともども監禁されているのだが。もともと教皇の立場というのは基本的に軟禁されているようなものだが、それでも外に顔を出すぐらいは許されているし、そもそもその最高権力者は教皇のはずなのだ。強硬手段に出た枢機卿たちの顔を見たときは足が竦んだ。人間はこんなおぞましい表情をするものなのかと気が遠くなった。


抵抗しなければ危害は加えないと言われたのでそのまま大人しく捕まってここに監禁されているのだが、そろそろ飽きてきた。もう1年近くこの状態なのである。そろそろ逃げ出したい頃合い。


トリスタンは目を開く。黒い瞳が見えた。

黒い瞳は忌み子の証。トリスタンもこの瞳を誰かに見せることはほとんどない。


瞳を隠すようにもともと細い瞳を糸目にして。フード付きの外套を引っ張り出し、目立たない色に染色したうえで身体に合わせてみる。いくらか目立たなくなっただろうか。どうやって外に出ようか。窓から出たら目立ちそうだ。


トリスタンには少し年上の幼馴染たちがいるが、彼らからの手紙もふっつり途絶え、今年に入ってからは父教皇との面会すら叶わなくなった。

幼馴染たちの手紙は握り潰されているのだろう。


それにしても、自分たちを閉じ込めていられると思うなと言ってやりたかったのだが、なんだかそこまでしっかりと閉じ込められているわけではなさそうで、人個人としてトリスタンが動くことはできないのだけれど、人を使うことはできた。情報収集には困っていない。枢機卿派は何がしたいのか微妙に理解に苦しむところである。


現在ロキ・フォンブラウが留学してきているらしい。その情報はトリスタンにとっては喜ぶべきもので、どこかで接触できれば最高の結果を導くのが楽になること請け合いである。自分の駒として動いてくれている少年を労わってやらなければと思いつつ、未だ情報収集に駆り出しているあたり、トリスタンも使える手が少ないのは明白だった。


トリスタンと教皇のマークが堅いだけなので、他は案外動きやすいらしく、教皇も何とか情報収集を計っているようだった。ただし、トリスタンと教皇の面会は禁じられている。教皇は教皇の部屋に囚われているが、トリスタンに至っては自分の部屋のある尖塔の最上階に押し込められている。


早く皆に会いたいな、と小さくトリスタンは呟いた。



「で、結局我々で動くしかないんだな、ロキ?」

「そうみたいだ。……そもそも教皇猊下とパイプを持っているのが俺、というか父上だしな。大きく巻き込めてトリスタン関連で円卓がいいところかな」


カルの問いにロキが答える。トリスタンを助けなくてはと考えていたところで、トリスタンの手のものと思しき少年との接触に成功した。正しくは、向こうから声をかけてきたのだが。リリスのいる黒箱教へ顔を出しに行く途中でのことだったので、驚いたものだが。


「彼の話によれば、教皇猊下とトリスタンの拘束が強力なだけみたいだから、秘密裏に侵入する、というのは可能かと。ある程度人数を絞っていった方が格率も上がるんじゃないかな」

「突撃と陽動にでも分かれてみるか?」

「そうだな。こういっては何だけれど、ある程度魔術を扱えるので俺は救助に回った方が良いかと」


王都の地図をプラムに貸し出してもらい、サロンで作戦会議を行う。はっきり言って周辺地図なんて軍事機密なのだが、プラムが許可したのでアレスとアテナも黙っている状態だ。代わりに、今回の作戦に参加させることとなったが。


「まさか教皇が本当に監禁されてるとは思わなかったね」

「でももともとロキに友好的な方だったそうじゃないですか。過激派と意見が合ってなかったなら、ロキに対する態度でもいろいろと噛み合ってなかったのかもしれませんよ」


ソルの言葉にマーレが返す。ナタリアとプラムは地図を別の紙に写し終えてから作戦のための書き込みを始めた。


「過激派って呼んでるのは枢機卿派だけなんですか?」

「いえ、恐らく他にもあると思います。どこまでが連携しているのかも知らない。少なくとも、教皇猊下とトリスタンを監禁しているのは枢機卿派でしょうけれど」


この場にいるのはカルをはじめとするリガルディア王国からの留学生たちと、ガントルヴァ帝国からの留学生たち、セネルティエ王国内の者たちである。


「エドワード、見に行った教会の様子ってどうだったか覚えてる?」

「たしか、神子がやたら幼いのが出歩いてたんだったな。人工的に作られた神子、だったっけ」

「タウアが気付いたんだったよね。でもあの教会は枢機卿派じゃないから」


以前足を運んだ旧教会に青で印をつけ、ここはもともと私が知ってたからね、とマーレがつけ足した。


「教皇猊下がどう動いているのかがわからないからなあ」

「トリスタンと教皇猊下だけガード堅いっておかしくない?」


カルの言葉にプラムが問う。セトが口を開いた。


「それこそイカレてる頭で思考してるんじゃないか」

「でもそれってほとんどまともな判断能力なくなってない?」

「……ロキはどう思う」

「俺に振らないでください」


人間としてそれでやっていけるのか、というごく自然なプラムの疑問はセトによってロキに丸投げされた。


「……多分ですけど、そこそこ思考判断能力が残っているものがいるか、貴族か何かのバックアップを受けている可能性はあるかと。フォンブラウをよく思わない連中か、はたまた単純に教会に恩を売っておきたい連中かは知らんです」


フォンブラウ家の名が国外にも轟いていると知ったのはとある筋からだが、ロキはこの可能性も高そうだな、と思っていた。アーノルドならやりかねない。国内の問題ならば10や20は抱え込んでいるような人だ。国外に問題の1つや2つあってもおかしくはあるまい。まして王家の総力を挙げて教会に喧嘩を売っている昨今、ターゲットになっていてもおかしくは無かろう。


どっちの可能性もあるわね、情報が足りない、とそれぞれ口にして、プラムとロキはアテナとアレスを見る。プラムが知らないことを知っていることもある2人に情報提供を促したのだが、2人はそれぞれ首を左右に振った。何もわからないということだろう。


「申し訳ありません」

「少なくとも海軍内に動きはねえ」


それが分かっただけでも十分よ、とプラムは返す。


「御爺様に聞いてみなきゃ何とも。海軍所属の家はフリーかな」

「つってもガキだけで何調べるんだよ」

「おいアレス……」


否定的な意見を口にするアレスとそれを諫めるアテナの構図が出来上がっていた。アレスの意見が現実的といえば聞こえはいいが、否定意見を述べているだけのようにも見える。小さく息を吐いたアテナはロキのアレスを見る目がやたらと厳しいように感じられた。


ロキはしばし虚空を見つめた後、プラムとアレスを見やる。口を開けば出てきたのはクラスメイトの名だったが。


「3人ほど巻き込みたいのがいるんですが」

「誰」

「ゼピュロス嬢、ノックバート嬢、アキレスですね」

「フォンブラウがコートレンジャーと仲が良いのは分かった」


片手間にアテナが答えたということは、恐らくアキレスというのは陸軍所属の家なのだろう――とカルが考えたところで、ソルが口を開いた。


「円卓勢はどうするのよ。そもそもその3人を巻き込むことによるメリットは?」

「円卓はトリスタンのお迎え要員だね。3人に関しては面白いことを言っていたよ?」


ロキがもったいぶるからこれは面倒な方だとソルはジト目でロキを見る。


「『Imitation/Lovers』のアプリ版2作目のヒロインと攻略対象」

「よし情報を巻き上げるわよ」

「ソル、チンピラみたいな言い方しないの」


3人を巻き込むことが決定した。

というか、『Imitation/Lovers』ってそんなにシリーズあるのか、とかプラムはちょっと遠い目をした。プラムは悪くない。悪くないはずだ。

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