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Imitation/L∞P  作者: ヴィラノ・エンヴィオ
セネルティエ王国留学編 1学期
284/376

11-16

2025/05/03 編集しました。

地球で言うところの体育にあたる武術の時間。エドワードとランスロットが剣を合わせる。

真剣でこそないが、木剣は当たればそれなりに痛いものだ。

ランスロットの方が地力があると知っているエドワードは普段から得意としている速い剣さばきで何とかランスロットの胴を捉えようと必死である。ランスロットは正直すぎるその太刀筋を見ていればおのずと防げた。


「っ!」

「ふっ!」


ランスロットがエドワ-ドの木剣を受けて、そこで捉えた。軽くひっかけて木剣を弾き、エドワードの顔面に剣を突きつける。


「そこまで。勝者、ランスロット!」

「ありがとうございました」

「ありがとうございました」


エドワードとランスロットが互いに礼をして休憩に入る。これでロキたちが見ているだけでもエドワードの10連敗であった。

動きを見ている限りエドワードも弱くはないはずなのだが。


ロキはエドワードが間違いなく加護のない者の中では強者に分類されるものと理解した。アーノルドと同類のものだ。アーノルドほどの力強さも技術もないけれど、弱くはない。最高の素材だろう。間違いなくこの男は加護を持たない中ではセネルティエで最強に躍り出る。


「はー、やっぱりランスロットは強いな。前より踏み込みがしっかりしてる」

「エドワードも、なかなか。最近以前よりも体捌きが様になっています。ロキの指導の賜物ですかね」

「ははは」


エドワードとランスロットはの仲は決して悪くはない。むしろ良いといえる。ロキたちが来てから、もっと仲が深まったのでは、とはガウェインの言であった。


彼らの次に中央に出てきたのはアレスとアテナで、2人は木剣と木の盾をしっかりと構える。アレスはどことなく気怠げ、アテナは真剣そのもので、ロキから見てアレスよりもアテナの方が才能には劣るのだろうとなんとなく理解した。


通常は才能溢れる神格としてアテナ女神が描かれることが多いのだが、人間の方となると話が変わってくる。


ランスロット、モードレッド、ガウェイン、そしてベディヴィエールの4人はこの学年では突出して強いが、それを遥かに凌ぐ実力者が2名存在するとロキたちは説明を受けていた。それがこの2人であると、ほとんどの者は理解しただろう。ロキは、違うが。


アレスが大きく振りかぶった剣をアテナが受け止め、弾き返す。かろうじて弾き返した木剣はぶるぶると震えて、すさまじい力でぶつけられたことを窺わせた。空気もともに振動したのではないだろうかと。


「アレス君の打ち込み、かなり重いんですよ」

「そうなのですね」


カミーリャとタウアは訓練場中央を眺めていた。

アレスは弾き返された木剣をナイフのように持ち変えて、振り下ろす。アテナはそれを避けるが髪が数本切れた。


「相変わらず速いな!」

「お前もな」


アレスが圧倒的に押している。振り下ろされた木剣をアテナが木剣で防ぎ、盾の縁をアレスに叩き付けた。アレスの身体が淡く、赤い光を纏い、アテナの持っていた盾が砕け散る。小さく舌打ちしたアテナが距離をとろうと再び木剣を弾くと同時にアレスが腰を落としてアテナに足をかけ、引き倒した。


アテナは小さく呻きつつ体勢を立て直そうと木剣を構え直して受け身を取れるように。アレスはアテナに蹴りを入れ、アテナは受け身こそ取ったが身体が数回地面をバウンドする。

アレスが軽く右足首を解すように回して目を瞑った。


「そこまで!」


審判の声にアテナがほっと息を吐く。眼を開けたアレスは瞳が赤紫に光っていた。

プラムがイナンナを伴って2人の方へと歩いていく。2人は互いに礼をして、プラムにも礼を返した。


「アテナ、傷を診せて」

「はい、お願いします」


アテナは動きやすいようにとノースリーブを着ていたために肩と二の腕を激しく擦っていた。数度バウンドしたためか傷口に砂粒や泥がついてしまっている。プラムはそれを丁寧に魔術で生成した水で流し、傷口を癒した。


淡い緑の光が傷口を照らし、傷がみるみるうちに薄くなって消えていく。


プラムの使う魔術は植物系の土属性に根差したものである。プラムの髪は紫から桃にかけてのグラデーションで、まったく属性などわからない面倒な色ではあるが。植物による色は花の色になることが多い。


アテナが息を吐いた。アレスも戻ってくれば、次の2人が中央へ出る。ロキの視線はプラム、アレス、アテナを見ていた。回復魔術、ないし治癒魔術が使える者は少ない。通常は光属性の治癒が最も効果が高いとされるが、基本は火属性以外に必ずあるのが治癒魔術だったりする。治癒魔術という系統に絞れば、長い時の中で戦い続けてきた種族としての歴史の中に、治癒魔術がないわけがない。光属性はただでさえ扱える人間が少ないのだ。


次に出たのがモードレッドだったせいかあっという間にモードレッドが戻ってきた。次はロキの番である。アレスが座り込むのを見たロキは小さく呟いた。


「腰抜けめ」


アレスが眉根を寄せてロキを睨む。アテナが眼を丸くしていたがロキはそれには気付かず、静かに中央へと向かっていった。



ロキの目の前には、カミーリャがいた。木剣を構え、油断などない。ロキは木剣ではなく木刀を手に取った。木刀を扱うということは、人刃で言うところの“古い血統”を汲んでいることになる。


「人刃、というのは本当なのですね」

「契約している主が居ませんので、分かり辛いでしょうねえ」


カミーリャはおそらくかなり血の薄まったイミットなのだろう。ロキは見ただけでわかるが、人間と仮定するには不自然な軋みが聞こえる。人間と竜では筋肉の造りがそもそも少し違ったな、と考えて、ロキは軽く木刀を構えた。


カミーリャはたっ、と軽く地面を蹴り、ロキに接近する。ロキは木刀を軽く握り、カミーリャが振り下ろしてくる木剣の側面を木刀の腹で弾いた。カミーリャの腕が一気に弾かれるが、左足を軸にロキが振り下ろした木刀を避ける。振り下ろされた木刀が地面にまで叩き付けられると、その付近の地面が陥没した。


「っ、」


カミーリャがロキから離れる。何度やっても慣れないのであった。生存本能に常に警鐘を鳴らせる男、それがロキだ。

人刃ゆえの怪力と、魔物と距離の近い環境で生まれ育ったことが、ロキを化け物足らしめる。国境の警備を担っているとはいえ魔物が少ない環境で生まれ育ったカミーリャに比べれば、ロキの方が経験は豊富だった。


ロキが接近し、カミーリャが木刀を受け止め、力では敵わないと悟ったカミーリャがロキに蹴りを入れる。ロキは肘で蹴りを受け止め、そのままバックステップで威力を殺し、間髪入れず踏み込んでカミーリャの喉元に突きを繰り出した。


「……参りました」

「――」

「そこまで。勝者、ロキ」


カミーリャは若干仰け反っていた。ロキが木刀を下ろせば避けきれなかったことを窺わせる態勢を解き、ほう、と息を吐く。ロキの実力は留学生の中では最高水準にあり、カミーリャではあと一歩届かない。


ロキがこれなのだから、ロキの護衛としてついているゼロの実力がいかほどか、末恐ろしいものである。


「ありがとうございました」

「ありがとうございました」


脇に戻ってきたロキとカミーリャの後に中央へ向かったのはタウアとゼロで、タウアは籠手を身に着け、ゼロはロキと同じく木刀を佩いていた。


「やはりカミーリャ殿はお強いですね」

「いえいえ。ロキ様も同年代としてはかなりのものでしょう」


言葉を交わしつつ中央へ出て行った従者たちへ目を向ける。2人は互いに睨み合っていた。

合図の声と同時にどちらからともなく踏み出し、すさまじい魔力の奔流が生まれる。ロキは目元を手で庇って2人を観察する。


ゼロの構えは居合、タウアは空手の構えを取っている。どちらも身体強化と身体硬化が掛けられているのが見え、ロキは思った。


(こいつらキレてやがる……)


いったい何が気に入らなかったというのだろうか。2人の気に障るような手合わせを自分たちはしたのだろうか。カミーリャもあまりタウアの機嫌がよくないことに気付いたのか、少し視線を彷徨わせてロキと目が合った。


「……大暴れの予感?」

「当然」


言葉を交わした直後、タウアの籠手とゼロの木刀が触れ合い、金属でもないのに高い音を紡ぎだす。キン、キィン、と、下手をすれば木刀は折れてしまうのではないかと思うほどで、しかしその木刀の振られ方は、どれだけ硬かろうと何も問題ないと言わんばかりに、早く、鋭くなっていく。


斜に構えたとてイミットには関係ない。むしろそっちの方がやりやすい、なんてイミットも存在する。ゼロはどんな体勢からでも大丈夫だっただけだ。居合を受けきったタウアの籠手には大きな傷がある。ゼロが再び納刀する。次の居合は鋭さを増していることだろう。


「――」

「ああああああぁぁぁ!!」

「はぁッ!」


ゼロの抜刀とほぼ同時にタウアが籠手と拳を魔力で強化してゼロに殴りかかる。木刀をタウアが籠手で受けたが、タウアの体重は身長に見合って軽かったようで、横殴りに吹き飛ばされた。壁は遠く、地面に叩きつけられたタウアとその周囲に土埃が舞って一瞬姿が見えなくなる。


「――まだまだァ!!」


土煙が起きたそこから飛び出してくる黒い影。吠えるようなその声に、タウアの声が案外低いことを知る。ゼロは半歩ほど下がってタウアの拳を避けると突き出された腕に肘のあたりを絡めて捻りつつ吹き飛ばした。タウアが体勢を立て直して再び地面を蹴る。足元の地面が抉れた。


振り抜かれる拳をゼロが難なく躱しつつ木刀の柄で額をどついた。タウアはそれに魔力障壁を張ることで応え、ヘッドバットで木刀の柄を打つ。ゼロは体勢を崩しかけ、脚を大きく開いて後方へ退く。危うく蹴られかけたタウアは小さく舌打ちした。


「もはや実戦」

「やっぱ護衛は違うな」


ロキとカミーリャの横でアテナとアレスが口を開く。


「まあ、アレ木刀だからできる話だけどな」

「そうなのか」

「前に一度当たったことあるが、パーツを組み合わせた武具だとタウアに殴られたらぶっ壊れんぞ。あの腕、多分鬼だな」


カミーリャの方がびくりと跳ねた。ロキはアテナから見えないようにカミーリャを自分の影に隠す。カミーリャがあまり身体が大きく無くて助かった。

ロキはカミーリャに念話で話しかける。


『鬼だと何かまずいことが?』

「!?」

『【念話(テル)】ですよ。口に出さずとも伝わります』


念話を受けたのは初めてだったのか、カミーリャがロキを見たのでロキは念話で説明をした。恐らくだが、このキョウシロウ・フォン・カミーリャという少年は、かなり魔術に対する耐性が高い。念話というのは基本的には対象に対する干渉であるため、前触れもなく使うとレジストされる可能性がある。ロキがレジストしないのはロキ自身が念話(テル)をレジスト対象から外しているためであり、基本的にそうしていないとロキは誰からも念話を受信できない。


『……人の身体に、鬼の腕です。死にかけていたのを、貴族になったばかりのころ、父が見つけて連れてきました』


ロキに下手に隠せば追及されると思ったのだろう。カミーリャはそう告げて、視線をタウアに戻す。


木刀で何か所か打たれた痕のあるタウアはそれでもまだ余裕のある姿勢で立っていた。タウアは150センチ程度の身長しかないのだが、外見以上にタフだと言っていい。カミーリャの鍛錬に付き合って打ち込みを身体強化を掛けていない状態で受けきって見せるくらいには頑丈なのだ。


ロキは考える。とはいっても、ロキが知っている情報などあまりないのだが。

タウアの本名はユウイチであり、こちらも名前の事情を考えるとイミットの血が混じっている可能性は高い。ハンジが女性名でありながら男に使われていることを考えると、ハンジもイミットの血が混じっているのかもしれない。


鬼と竜。創作物の中でならいろいろと出てくるものの中に龍鬼だの鬼竜だの言われても問題なく受け止めていたが、もしかするとそれに近いものがこの世界にもあるのかもしれないと考え、それ以上の思考による追及はやめた。


ロキが中央に視線を戻すと、丁度ゼロが地面に組み敷いたタウアの頭に木刀を叩き込もうとしているところだったので視線だけで咎めた。


「!」

「――そこまで! 勝者、ゼロ!」


すさまじい実戦、しかもかなり血腥い戦い方だった。とはいっても、ゼロがタウアからどいてすぐに手を差し出せばその手を握って身体を起こすタウア。仲が悪いわけではない、ちょっとお互いに気が立ったからいつもより激しくなっただけ、程度の認識のようである。


下手をすればタウアは死んでいたのではないかと思われるほどのゼロの打突にもかかわらずロキやカミーリャ、アレスやアテナが心配の一つも浮かべていないのはタウアの頑丈さを知っているためだった。何よりも。


「……タウア、硬いな」

「……まあな」


ゼロが握っていた木刀の先端が潰れかけていたり、ひびが入っていたりと普通に見ればものすごく、物申したい気持ちを抱かせる状況が出来上がっていた。


「怪我はございませんか?」

「……はい、御心配には及びません」

「問題ございません」


イミットの血が流れているだけで強化魔術の掛かりが良いという話を聞いたことのあるロキは、若干うらやましく思う。ロキにとて竜の血は流れているが、フォンブラウ家で最も強化魔術の掛かりが良いと言えばエメラルディアであろう。やはり王家の竜の血は濃かったらしい。


プラムの問いに答えた2人が戻ってくると次の組が呼ばれ、ゼロとタウアはそれぞれ主の傍に腰を下ろした。プラムは少々不服そうにロキとカミーリャの傍にやってきて、ロキとカミーリャを見下ろす。本当に問題がないのかと主であるロキたちに問うているのだろう。ロキは小さく頷いた。


「問題がないと申告しているのであれば問題ないのでしょう。まあ、後から痛かったなどと言おうものならば骨ごと砕いてあげる所存ですがね」


ロキが言った瞬間にゼロが慌てたように解析魔術で身体の状態を確認し始める。タウアは本当に何ともないらしかった。

なんてタフな奴、と周りの者たちが口にするのも無理はない。


次の組が終わるとプラムが呼ばれた。プラムもそこまでに弱いわけではないらしく、ロキが思っていた以上に相手と張り合った。とはいえ、攻撃魔術は基本的には無しの方向なので魔術を得意とするプラムが勝つことはできなかったのだが。


とはいえ、王族相手に容赦のないクラスである。ロキたちの国でも別に王子だからとかいう理由で加減容赦したことなどないが。


プラムに容赦なく肘鉄と膝蹴りを放っていたのはロキの記憶が正しければ男爵令嬢なのだが、そういうお国柄なのだろう。良くも悪くも、リガルディアの周辺国家は脳筋である。


「うう……やっぱり勝てない……」

「筋は悪くないと思われますが?」

「皆それ言う!」


ロキの前に突っ伏したプラムはとても王女とは思えない態度である。淑女の鏡と言われているらしい目の前の転生者を眺めつつ、ロキはうっすらと笑みを浮かべた。


そもそも魔術に適性が高い者は大半が近接戦闘に向かない。それを無理やり塗り替えれるのは人刃のようにもともと種族的に近接戦闘に向いている者だけだ。プラムたちにいくら吸血鬼の血が混じっていようともすでにクォーター。近接戦闘よりも魔術適性が高い吸血鬼の血ではどう足掻いたところで近接特化の者には敵わないし、先ほどの男爵令嬢も近接に特化していた。


「もっと自主鍛錬増やそうかなあ……」

「それがいいかもしれませんね」


プラムは起き上がって呟いた。それにアテナが同調する。一緒に鍛錬をする気なのだろう。ロキがふと口を開いた。


「プラム殿下、こちらでギルドへの出入りに制限は?」

「ないよ。――あっ、ギルドでクエストを受けるつもり?」

「ええ、まあ」


実戦が一番でしょう?


言外にロキが告げれば、プラムは苦笑を零した。


「リガルディアではそうだったかもしれませんね」

「こちらは我々の故郷ほど危険ではありませんから、丁度いいかもと思ったのですがね」


合宿の予定が例年より早まっていることを伝えるべきか否か、プラムはちょっと迷ったが結局言わないことにした。そのうちロキならばどこかで情報を手に入れてしまうだろうし。


予定されていた全員の模擬戦が終わり、クラスが解散となる。生徒たちはそれぞれの足で戻っていった。


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