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Imitation/L∞P  作者: ヴィラノ・エンヴィオ
セネルティエ王国留学編 1学期
282/377

11-14

2025/04/30 編集しました。

魔術についての授業や精霊についての授業、学ぶ事は数多あれど、ロキが最も興味を持っているのは精霊についてであろう。神学はカドミラ教の者が来るため最初かなり神子が留学してきたとあって授業担当の神官は興奮していたものである。


「――ということでございまして、世界は世界樹によって創られ、今現在も世界樹によって守られているのでございます」


授業担当の神官ことヤヤンがにこりと笑った。人のよさそうな笑みを浮かべる明るい神官である。肌が浅黒かったためまさかと思って出身を聞けばセンチネル出身だという。センチネルはもともと大陸の南に住んでいた世界樹を祀る原住民が追い立てられて世界樹のもとへ籠ったのが原型となった自治領を中心に国として分けられたものである。ガルガーテ帝国が分裂した際に、一番彼らと仲が良かった派閥を率いていた次男が治める土地に定められたというが、現在は帝国との戦争に敗走し、旧自治領部分しか土地が残っていない。


「世界樹は人間に対して庇護を与えました。シヴァ神の加護を持つ神子様がその最たる例ですね。神子様は世界の理を書き換えることが可能です」


本来なら実際にやってといいたいところですが、とヤヤンが苦笑した。


「神子様の御力は神子様自身を傷つけやすいもの。不用意に扱えば神子様は魔力を使い切って、亡くなってしまわれることがございます」


ヤヤンがロキを見る。おそらくロキが既に何度か欠損魔術として神子の力を行使していることが伝わっているのだろう。咎めるような眼だ。それが神子への心配からくるものであることを、ロキは何となく察していた。


プラムはヤヤンの話をしっかり聞いて教科書に書き込んでいる。近くに同級生の従者が侍っているがそちらは話半分で聞き流している様子だ。


「ついでなので少し、聖人の話をしましょうか。カドミラ教におけるもっとも偉大な聖人は誰だか御存知でしょうか?」


ヤヤンはしばらく口を噤む。生徒たちは顔を見合わせた。


「聖人??」

「カドミラ教で有名な聖人って言ったら、歴代のセンチネルの王様たち……?」

「リーヴァとか?」

「それ列強だろ……」


口々に一応意見を言ってみる生徒たちを眺めつつ、ヤヤンは笑っていた。そうだそうだ、いくら何でも列強はないだろう――と、思うだろう。列強、即ち人類に敵対する者、という印象が現在は蔓延っている。つまり、列強が人類に味方するようなことはないだろう、と考えられているわけだ。


す、と軽くロキが手を挙げた。


「ミスター・フォンブラウ」

「……それは、ラックゼートではありませんか?」

「!」


ヤヤンは目を見開いた。ロキが答えるとは思っていなかったらしい。確かに、ロキはリガルディアでは貴族派閥に厳重に守られていて、教会の面々への露出が少なかったので、教会に興味などないと思われていてもおかしくないだろう。


「よくわかりましたね。どこかで聞いたことが?」

「いえ、彼は神子に力の使い方を教えることはできなくても、その手引書を現在も更新しながら各地の教会に配っているという話を聞きましたので。カドミラ教は神子を大切に抱え込む。ならば、神子であるラックゼートを聖人と呼んでもおかしくはないかと考えました」

「なるほど」


ヤヤンはロキを見つめる。面白い子が来たものだ。きっと彼は周りをよく見ている。

ロキという存在について聞いたときは、周囲の者たちがどうしてそこまで肩入れするのかもわからなかったが、こういう考え方もできる子なら、面白いと思って手元に置いておきたがるのも道理ではなかろうか。


先ほどからこちらを見るプラム王女の横の黒髪の美少女の赤い瞳が、ヤヤンを射抜いていた。



「ありがとうございました」

「「「ありがとうございました」」」


授業は終わり、ヤヤンが出ていく。

プラムは早速ロキのもとへ向かう。アレスとアテナも寄ってくると、ロキはプラムたち側へ身体を向けた。


「楽しかったですね」

「そうですね。他の神官よりはましでした」

「そういうもんなのか」

「神子と見るなり媚びてくるやつもいましたからね。あの方は、でもまあ、あんまり信用はできないかな」


ロキは小さく息を吐いた。教会の者の前に姿を現すのは気が引けていた。けれども出て行ったのは、ひとえに余計な詮索をされないためである。


「ヤヤン神官はダメなのですか?」

「信用はしないというだけです。人としては至極まっとうな方だと思います。でもお腹灰色っぽいので、微妙ですね」


ロキが周りをよく見ているのだとプラムは認識する。自分よりも視野が広い気はしていたが、プラムが気付けなかった機微を敏感にロキは察知している気がするのである。そしてそれは恐らく事実だし、そもそもプラムよりもロキの方が知識が多いのではなかろうか。


ロキは表面上誰とでも仲良くするような気がしていたが、そんなのはただの印象に過ぎなかったとプラムは理解する。こいつはやっぱり悪役令嬢ロキだ。思ったことは結構ズバズバ言うタイプの人間だ。そして正しい事を言いすぎて冷たい人だと思われてしまうタイプの。


「……もっと道化染みた方なのかと思っていました」

「道化には程遠いですよ、俺は。それに、1年も隠し通せる気がしないし」


板についている部分はありますけどね、とロキは小さく言って、す、と立ち上がった。


「どちらへ?」

「どうせなので、ラックゼートに会ってきます。ついでにいろいろと調べたいこともあるから戻るのは夕食頃ですね。皆さんいつも通りの時間に俺が戻らなかったら先に食べちゃっててください」

「わかりました」


プラムはロキが教室を出ていくのを見送る。そのタイミングで、プラムの従者――黒髪の少女が席を立った。


「あら、どうしたのイナンナ」

「私ちょっと彼に話したいことがございまして。行ってきてもよろしいですか?」


イナンナ、と呼ばれた黒髪の少女はプラムが「行ってきなさい」と答えると同時に教室を飛び出していった。

彼女が何を考えているのか、プラムにはわからない。しかし、分かることがひとつだけ。


「いいのですか」

「いいのよ。彼女も転生者であるし、私と同じくループの記憶もある。きっとロキについて何か知っていることがあって、私が知らないことを隠しおおせていたのね」


尋ねてきたアテナにそう答えて、プラムは静かに教室を離れる。

プラムは知らない、この世界がどれほど面妖なのか、言葉の上では理解していたとしても、その姿を知らないのだ。ならば、知っている者と知ろうとしている者がその情報を共有すべきではないか。


「アレス、アテナ、準備はできているかしら。話は通った?」

「あ、はい、海軍は通りましたよ」

「陸軍はもう少しかかるかと。しばらく様子を見たいと仰る方がいますので」

「あのくそ爺まだゴネてんのね……」

「いけませんプラム様、そのような言葉遣いなど」


ひえ、とプラムがおどけて見せる。アテナは少しばかり笑いながらアレスとともにプラムの護衛のため傍について教室を離れた。



教室の外でロキはイナンナに捕まる。わかっていたことだ、ロキにとっては。


「声を掛ける無礼をお許しくださいませ」

「構いません。それで、何用です?」


日の差し込む廊下でロキとイナンナが向き合った。2人の表情にはそれぞれうっすらとした笑みが浮かぶ。


「ループの記憶はあるかしら、ロキ」

「そんなものはないが、大まかなことだけは知っている」

「そう、なら悲報よ。令嬢の貴女は死んだわ」

「……そうか」


ロキがかすかに目を細めてそれだけ呟いた。


イナンナはひとまず伝えるべきことのひとつ目を伝えた。ロキの反応はずいぶんとあっさりしたものであったものの、ロキの中ではかなり傷ついているときの反応だと知っている。

少しだけ安心したようにイナンナが目元を緩めた。


「――令嬢の俺が逝ったということは、人間は滅びの運命を辿ったのだな?」

「ええ」

「……力不足も甚だしいことだが、致し方あるまい。案ずるな、ここには理解されないだの愛されてみたいだのと涙を押し殺して泣く大馬鹿はもう居らん」


ロキの言葉にイナンナは小さく頷く。


「転生者でループの記憶のある人は?」

「教えると思うか?」

「こっちも命かかってるのよ。教えなさい」


イナンナの態度は本来ならば厳罰ものだ、イナンナがイナンナのままであるならば。ロキは特に気にした様子もなく言葉を交わした。


「そちらからだな」

「ベヒモス陸亀形態の来襲予告」

「――ナタリアだ」


必要最低限の言葉数で重要な情報をやり取りする。ロキはその魔物を嫌というほど知っている。厄介な情報を先に持ってきてもらえただけ良しとしよう。


「何か対策は打てると思う?」

「わからない。そちらは確実に起きるのか?」

「今のところ五分五分よ。でも、来るときはめちゃくちゃ早い」

「全長100キロメートル超えの山脈竜イベントだな」


伝えられることは今のところはそれだけよ、と言ってイナンナが来た道を戻っていく。これは厄介なことになったな、とロキも静かに息を吐いて自室へと向かった。


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