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Imitation/L∞P  作者: ヴィラノ・エンヴィオ
セネルティエ王国留学編 1学期
281/375

11-13

2025/04/29 加筆・修正しました。

旧教会を出たマーレたちは急ぎ、学校の寮へと戻る。帰りの馬車でカミーリャとタウアは向かい合って座っていた。

エドワードとマーレの表情は硬い。


「……主」

「どうした、タウア」

「……さっきの神子たち、たぶん……生まれつきの神子じゃない」


沈黙を破ったのはタウアだったが、話題は目を見張るものだった。カミーリャは、どういうことだ、と問う。


「カヴフラムが言っていた……さっきの神子たちは、神子にしては、魔力量が少なかった」

「何故そう思うんだ?」

「……俺の生まれた村で、近所にいた神子……白い髪と肌の女の子だった。その子はもっと魔力が多かった」


神子でなくとも白髪になる例はある。個人差では、と言おうとしたカミーリャを遮るようにエドワードが問いかけた。


「今日の子たちの何倍くらいだ。瞳の色は?」

「……3倍はあったかと。目は青かった」

「何年前の話だ」

「10年は、前です」

「4歳前後で10歳前後の神子の魔力量の3倍。しかも肌も白くて青い瞳。確実にその子は神子だね」


神子にも基準があるのかとカミーリャは納得した。カミーリャは自身の魔力量は少ない。キョウシロウという名からわかりやすくはあるが、イミットの血統をおそらく汲んでいるものと考えられるものの、父親は元々平民出身なのだから当然である。加護が存在するとはいえ、通常の魔力量などは遺伝しやすいのだから。


「生まれつき以外に神子になる方法があるの?」

「……無くは、無いです」


タウアは一体何を知っているというのだろうか。カミーリャは驚いてタウアを見つめる。タウアはそんなカミーリャの視線に気付いて少し視線を下げた。


「加護持ちはあくまでも、加護を与えられた存在、です。シヴァの加護は多くの神子を生んだ、なら加護さえつけられれば神子になる」


その方法なんて知らないけれど、そういう事が一応はできる、とタウアが言う。もしかするとその現場を見てきたのかもしれない、とカミーリャは思った。

それ以上の質問を思いつかなかったのか、はたまた頭の整理のためか、マーレが呟いた。


「じゃあ、魔力が少ないのになんであの神子たちは神子として扱われているんでしょう。シヴァの加護による魔法って魔力馬鹿食いのはずよね?」

「おそらく、扱わなきゃならない理由があるんだろう。それに、センテリディクス教会と言ったら、世界樹の加護を受けている土地の教会だ。……リガルディア組なら何か知っている可能性もある。いったん彼らに話してみるのも手だと思う」

「そうね、なんだか私と彼らで持っている情報がちょっと違うような感じもするし」


エドワードとマーレの情報交換会になってしまったが、最終的には今回は付いてこなかったリガルディア組の話を聞いてからということになった。ブライアンはエドワードとマーレの言葉を整理して自分の理解を持たねばこの後アレスとアテナにどやされる未来が見えたので、馬車の隅で思考に沈んだ。


そこから5人の会話はなかった。それぞれ思うところはあったのだろう。

窓の外に見える景色は、のどかで、青空は高い。自分たちの心の中を表わす様子などこれっぽっちもない。


物語の登場人物の心情に合わせて天候が変わるなんて嘘だ。きっと世界はもっと残酷なまでに人間に興味などないのだから。



「――報告は以上です、プラム、カル、ロキ」

「……そうか」


寮へ戻ってきた5人はひとまずプラムの権限でサロン棟の一室を開放し、プラムとカル、ロキに報告した。アレス、アテナは話を横で聞いていただけだが、小さく舌打ちしていたので何かしらの情報を掴んでいたということだろう。


「……荒唐無稽、と否定できるわけもなかったなぁ」


ロキは小さく呟いて、息を吐いた。


「……何か御存知なのですか?」

「うーん、何というか……命懸けの強襲の果てに警告として受け取ったもの、かな。伏線染みたものはいろいろとあったよ。少し考え合わせて思考を飛躍させれば答えが出る」


マーレの問いに曖昧に答え、ロキは紙にさらさらとメモを書き始める。いつの間にかロキが手にしていた万年筆で書かれた美しい字は手本通りで読みやすいことこの上ない。


「前々から考えていたからね、でも話を聞いて考えはまとまった。仮説の部分が多いから確定とはいかないけれども」


ロキはそう言いつつきっちりとまとめ上げたらしい考えを皆の前に出して見せた。


「教会は人工的に神子を作っているね。ほぼ確定で良いだろうさ。タウア、見たか見ていないか、イエスかノーで答えて」

「……ロキ、アンタの加護は強いのか?」

「……ああ」

「……なら、答えはノーだ」

「そうか」


ロキはタウアの言葉にそれ以上言及しなかった。訳が分からないプラムは首を傾げたが、マーレも目を見開いて驚く。


「まあ、この辺についてはたぶん事情を知っている人はわかってるからそちらにあたってみようと思うけれど……とにかく、これ以上の深入りは身を滅ぼすだろうね。これ以上深入りするつもりならば、相応に覚悟がいるぞ」


一旦ロキが全員に視線を向ける。離れるか、離れないか、覚悟を決めたなら、この場に残れと。


「……やっぱり、というのと、今更、って感じですね」


離れた者はいなかった。マーレはロキからの先の言葉をバッサリと切り捨てて身を乗り出す。


「それで、やっぱり人工的に作ってるんですね。どこ主導になるんですか。教皇派ではなさそうですが。やっぱり話通り枢機卿派で良いんでしょうか」

「枢機卿派だろうなぁ。ループを止めようとしているのはそこのようだし、教皇派は数が少ないみたいだし。枢機卿派には狂人が多いと聞くよ」


正しくは、アーノルドからの返信の手紙に書かれていた暗号めいたものを解読したらそういうことになりそうだという話なだけだが。

不名誉極まりないなとカミーリャがぼやけば、小さくソルが言った。


「仕方がないわ。本当に頭のいかれた狂人の集団もいるんだもの」


ソルはそれ以上語らなかったものの、これはロキたちがリガルディアにいた頃に襲撃してきた一行の調査を進めた結果わかった結果等を込みで考えた話である。


アーノルドが捕虜にした者に話を聞いたが「話が通じん」と頭を抱えるレベルで話が通じなかったらしいのである。ジークフリートたちも手を焼いていると連絡があっているらしく、カルが苦笑を零していた。


「神子を人工的に作るなんて……」

御御子(おんみこ)は無理だが、神子なら何とかなるものだ。何せただシヴァの権能を一部貸し与えられているだけなのだからな」


プラムの言葉にカルが答え、シヴァに祈ればできないことはないんじゃないかな、とロキが返す。そんな、と小さくプラムは眉根にしわを寄せた。初めて知ることが多かったせいだろう。ブライアンは馬車の中でタウアがした話とロキの話が全く同じになっていることに寒気を覚えた。


「うーん……もっと情報収集精進します…」

「プラム、君は王族用だけではなく、自分だけの隠密部隊を作って情報を仕入れるべきだな」

「ロキにもいるんですか?」

「俺は精霊に聞く」

「このチート」


プラムはテーブルに突っ伏した。ロキは得手不得手があるとはいえ基本的に全ての属性を扱うことができる。どの精霊に聞いても情報が得られるのだ。

プラムも全属性と呼ばれるとはいえ、ロキほど範囲が広くない。もともとプラムは植物精霊に相性が偏っている。


「うー、精霊魔法頑張ろう」

「適正闇ベースと適正植物ベースじゃ圧倒的に不利だけどな」

「うるさーいやるったらやるんですぅー!」


プラムの中にほんの少しある罪悪感をロキは刺激しないでいる。ロキがプラムを弄るせいかもしれない。


「とりあえず、少しそれぞれで神子について調べる……?」

「首を突っ込むと碌なことにならんぞ」

「大事なことなので2回言います?」


ロキには分かっていて皆には分からないことが多いので聞くしかないが、ロキがここまで警告を口にするのは珍しい。いっそのことしっかり話してほしいのでプラムがふざけてみると、あのなあ、と少し呆れたようにロキが言う。


「この件、列強が1枚噛んでいるんだよ。……おそらくアルティだろうな」

「アルティって、『不朽の(アンデッド・)探究者(サーチャー)』? なんでまた」

「あいつはもともと上位者だ。シヴァの加護を引きずり下ろし、付与しやすくしているのはあいつだろう」

「はあ!? そんなチートありかよ!?」


慌てて口をつぐんだアレス、つい口を出してしまったようである。アテナに脛を蹴られて悶絶した。


「ああそうだ、ロキ、教会との取引にあなたの名前借りることになりそうよ」

「構わないよ。借りを返せそうでこちらとしても好都合だし。ついでに恩を売って大叔母様の手助けになればベストかな」

「とりあえず教皇猊下とトリスタン様の救出が優先かしらね」


プラムが締めくくる。結晶時計を見ると、もうそろそろ授業の時間であることを示す黄色に染まっていた。


「では、今回はここまで。いろいろと聞きたいことが渋滞してるから、また後で会いましょう。解散!」

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