1-27 とある世界線の話
2021/09/02 加筆修正しました。すんごい短いです。
ぼんやりと、目を開ければそこに、土煙の上がる場所を眺めていた。
鉄臭さが鼻腔を刺激して苦しいと、そう思った。
青紫の髪をなびかせた青年が小さく息を吐き出した。
「ネロキスク、平気ですか」
黒い髪と蒼い瞳の青年に声を掛けられ、ネロキスクと呼ばれた青年は小さく頷いた。
「問題ない。それより、死徒列強にこれだけ協力してもらっておいてこれじゃ示しがつかん」
「そんなの奴らの仕事不足でしょう。ロルディアは仕方ないとして、クーヴレンティとかマジで役立たないですし。大体18人もいらないって、12にまで減らしていいだろ、覚えるのも面倒ですよ、まったく」
「人間に協力してる奴らの方が弱いって知ってるか」
「チッ……」
黒い髪の青年は舌打ちして、静かに息を吐いた。
「とっととはぐれ共の討伐終わらせましょう」
「ああ」
「ヴォルフガングはすぐ戻ってきますよ」
「ん」
本来3人連れであるらしい彼らは、各々の武器に手を掛け、魔力を丁寧に編み上げて防御と速度の補助に回す。
「ビアンカルヴ」
「……改まってなんです?」
「……遠い世界で、夢を見ている気がするんだ」
ビアンカルヴ、と呼ばれた黒髪の青年は小さく舌打ちする。
「それでお前今日気が散ってんですか」
「すまん」
「……はー、良いぜ、別に。どうせ収束点はお前なんでしょ?」
「いや」
「?」
「……あいつらなら……もしかしたら、と思える」
「……ここ以上の回答を引き当てた、と?」
「さあ」
ビアンカルヴは身の丈以上の大剣を。ネロキスクはハルバードの斧部分を強調したものを。
それぞれ担いで戦場を抜ける。
ビアンカルヴは、その黒い髪をなびかせて、ネロキスクと言葉を交わしながら大剣を振り回した。
「上位の連中がとうとう気付いた」
「あらら。オレら以外の上位の連中って言うと……漸くネイヴァスが動きましたか」
「起点の奴も馬鹿だ。俺を女に変えた時点でやめるべきだったのに」
「うわー、女になったんですかー、白かったものがますます白くなって窓辺に立ってるのがやっとなんじゃないですかー?」
ビアンカルヴはすぐに真顔に戻り、大剣を振るって目の前に現れた皮膚の無い、赤身ゾンビとネロキスクが呼んでいるモノを切り捨てた。
「でもそれなら最高に安全じゃないですか。ということは俺の本体もそっちに向かったかな」
「かもしれんな。――さて」
2人は目の前に広がった赤身ゾンビの群れを見て嗤う。
「この世界よりもよくなりますようにと、神々に祈ってみようか」
「どうせなら盛大に一撃ぶちかましましょうかね」
2人は笑ったまま赤身ゾンビが近付いてくるのを待ち、手を上空へと向けた。
「終わらない絶望ごと焼き尽くせ」
「次の世界では笑い合おう」
言葉を紡ぎ出す2人、ネロキスクの髪が青紫から銀髪に変わる。
「この空間に終焉を」
「次の空間の礎を」
ラズベリルの瞳と海色の瞳には強い光が宿ったまま。
「「【神々の黄昏】」」
世界が閃光に包まれる。世界の終わりを願う祝詞が紡がれ、ビアンカルヴとネロキスクは舞うように歌い、笑みを浮かべて。
「……もう、この世界正直上手く繋げないですよね」
「はは、そうだな、もう限界だ!」
そうだ、この世界はもう先が続いていない。続ける必要がなくなった。
世界樹の負担になる前に、この枝葉は切り落とされねばならない、その役目を担うのは、世界の終焉の狼煙を上げる者でなくてはならない。
もしも他の世界で会えるのならば、またきっと初めましてだ。
彼らはきっとまた仲良くなるだろう。
世界にさようならを。ネロキスクはまだやらなければいけないことがあるとは言うけれど、なら先にオレは行っておきますねとビアンカルヴは言った。
どんな世界でもヴォルフガングは残したままだけれど、きっと彼も付いてくる。彼はなんといっても強いから。
2人はそんな会話を、音無く交わして、閃光に包まれた。
願わくは、次こそ本当の終焉となりますように。
とある世界の幕引き




